StudyMed医師国家試験

冷蔵庫の前で前屈みになった瞬間―高齢女性の急な腰痛に潜む「骨の脆さ」

第120回医師国家試験 E問題 第45問(連問)

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第45問

連問の共通文

次の文を読み,45,46の問いに答えよ。 82歳の女性。腰痛を主訴に救急外来を受診した。 現病歴:2年前から腰痛はあったが,生活に支障はなかった。昨日スーパーから買ってきたものを冷蔵庫に詰めるため前屈みになった際に腰痛が増悪した。夜間睡眠中には腰痛はなかった。今朝,起床時にベッドから起き上がる際は腰痛のため時間がかかり,洗顔も困難であった。腰痛による体動困難のため,家族が付き添って救急外来を受診した。 既往歴:48歳時に胃癌で胃切除。71歳時から高血圧で自宅近くの診療所に通院中である。6か月前から膝痛のため鎮痛薬を処方され頓用で使用している。グルココルチコイドの使用歴はない。 生活歴:喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:母が大腿骨近位部骨折で手術歴がある。 現症:車椅子に乗って診察室に入室。意識は清明。身長158cm(20歳台から身長低下4cm),体重52kg(直近6か月で体重に変化はない)。体温36.7℃。脈拍76/分,整。血圧は上肢106/80 mmHg,下肢114/84mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。排尿障害はなく,肉眼的な血尿は認めないとのことだった。背部正中の胸腰椎移行部に叩打痛を認める。四肢の筋力は保たれており,腱反射に異常を認めない。

最も考えられる疾患はどれか。

  1. a.膵癌
  2. b.腎盂腎炎
  3. c.尿管結石
  4. d.脊椎圧迫骨折
  5. e.腹部大動脈瘤破裂

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢女性の急性腰痛から原因疾患を絞り込む問題だ。腰痛は整形外科の病気だけでなく、内臓や血管の病気でも起こる。だから「痛みがどう始まり、どんなときに強くなるか」と「危険なサインがあるかどうか」の2つに注目して読み解いていこう。まず、痛みの性状から何がわかるかな。
医学生医学生
夜寝ているときは痛くなくて、起き上がるときや洗顔で痛むんですよね。動くと痛いというのは運動器っぽい気がします。
ドクタードクター
いい着眼点だ。安静で軽くなり、体を動かすと強くなる「動作時痛」は、骨や関節など運動器由来の痛みの典型なんだ。逆に、夜間や安静時にもずっと続く痛みは、骨転移などの腫瘍や化膿性脊椎炎のような感染を疑う危険信号、いわゆるred flagになる。
医学生医学生
整形外科の講義でred flagsは何度も出てきました。今回は夜間痛がないのでひとまず安心材料ですね。
ドクタードクター
そうだね。次に発症のきっかけ。前屈みになっただけで痛みが悪化している。前屈は椎体の前の部分に圧縮の力をかける動作で、骨が脆くなっていれば転倒などの明らかな外傷がなくても椎体がつぶれてしまう。これを脆弱性骨折と呼ぶ。
医学生医学生
でも前屈みくらいで本当に骨が折れるものなんですか。転んだわけでもないのに。
ドクタードクター
そこが骨粗鬆症の怖いところなんだ。くしゃみや重い物の持ち上げでも椎体骨折は起こるし、実は3分の2ほどは痛みが乏しく気づかれない「いつの間にか骨折」だと言われている。この患者さんにも骨粗鬆症を疑わせる手がかりがいくつもあるよ。
医学生医学生
若い頃から身長が4cm縮んでいるのは、すでに椎体がつぶれているサインでしょうか。それと、お母さんの大腿骨近位部骨折も危険因子だったと思います。
ドクタードクター
その通り。4cm以上の身長低下は既存の椎体骨折を疑う目安で、親の大腿骨近位部骨折歴は骨折リスクを高める因子として知られている。もう一つ、胃切除の既往も見逃せない。胃切除後はカルシウムやビタミンDの吸収が落ちて骨量が減りやすいんだ。
医学生医学生
胃癌の既往と聞くと、骨転移による病的骨折も気になってしまいます。
ドクタードクター
鋭いね。それは念頭に置くべきだ。ただ、手術から30年以上経っていて、体重減少も安静時痛もない。可能性は低いと考えていい。そして決め手になるのが身体所見で、背部正中の胸腰椎移行部に叩打痛がある。ここは動きの小さい胸椎と動きの大きい腰椎の境目で、応力が集中するから椎体骨折の最好発部位なんだ。
医学生医学生
なるほど。神経所見が正常なので、脊髄や馬尾の障害は伴っていないということですね。だとすると、脊椎圧迫骨折が一番考えやすいです。
ドクタードクター
正解。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。まず膵癌。膵臓は後腹膜臓器だから、進行すると背部痛を起こすことがある。
医学生医学生
ただその痛みは体動と関係なく続くし、体重減少や黄疸、糖尿病の新規発症を伴うことが多いんですよね。今回は体重も変わっていません。
ドクタードクター
その通り。次に腎盂腎炎と尿管結石。どちらも腰背部痛の原因になる尿路疾患だね。
医学生医学生
腎盂腎炎なら高熱と肋骨脊柱角の叩打痛、尿管結石なら突然の疝痛と血尿ですよね。泌尿器科の実習で、結石の患者さんは痛くてじっとしていられない様子でした。
ドクタードクター
よく観察していたね。今回は発熱も血尿も排尿症状もなく、叩打痛も左右の肋骨脊柱角ではなく背骨の真ん中だ。痛みも動いたときだけ。どちらも否定的だね。最後に腹部大動脈瘤破裂。高血圧のある高齢者では常に頭に置くべき、見逃すと命に関わる疾患だ。
医学生医学生
破裂ならショックになって、お腹に拍動する腫瘤を触れるはずですよね。今回はバイタルが安定していて、お腹も平坦で軟らかいので違うと思います。
ドクタードクター
その通り。まず致命的な疾患を除外し、そのうえで運動器疾患を考える、という順番が大事なんだ。発展として、椎体骨折は骨片が脊柱管に突き出して後から下肢麻痺が出たり、骨がくっつかず偽関節になったりすることがあるから、神経症状が今なくても経過観察が欠かせない。
医学生医学生
救急で痛み止めを出して終わり、ではなく、その後の骨粗鬆症治療までつなげるのが大事ということですね。
ドクタードクター
まさにそう。一つ椎体骨折があると次の骨折のリスクがぐっと上がる。だから鎮痛やコルセット、早期離床とあわせて、再骨折を防ぐための骨粗鬆症の薬物治療を始めることが重要なんだ。

まとめ

高齢女性が前屈みなどの軽微な外力を契機に腰痛を発症し、体動時に強く痛み安静で軽快する場合は、骨粗鬆症を基盤とした脊椎圧迫骨折を第一に考えます。胸腰椎移行部は椎体骨折の最好発部位で、同部の正中の叩打痛は重要な所見です。身長低下4cm以上、親の大腿骨近位部骨折歴、胃切除後などは骨粗鬆症の危険因子として評価します。一方で、発熱(腎盂腎炎)、疝痛・血尿(尿管結石)、ショックや拍動性腫瘤(腹部大動脈瘤破裂)、体重減少や持続痛(悪性腫瘍)といったred flagsがないことを確認し、内臓・血管由来の腰痛を除外する必要があります。致命的な疾患を除外したうえで運動器疾患を考える手順は、救急外来で高齢者の腰痛を診る際の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・患者背景: 82歳の女性。閉経後の高齢女性であり、骨粗鬆症の最も典型的な好発層である。 ・発症様式: 2年来の軽い慢性腰痛があったが、昨日、買い物の品を冷蔵庫に入れようと前屈みになった動作を契機に腰痛が急に悪化した。前屈は椎体の前方部分に圧縮力をかける動作であり、転倒などの明らかな外傷がなくても、骨が脆くなっていれば椎体がつぶれうる(軽微な外力による脆弱性骨折)。 ・痛みの性状: 夜間の安静臥床中には痛まず、起き上がり・洗顔など体を動かしたときに強く痛む。安静で軽快し体動で増悪する「動作時痛」は、骨・関節など運動器に由来する痛みの特徴である。逆に、夜間安静時にも持続する痛みは腫瘍(骨転移など)や感染(化膿性脊椎炎など)を疑う危険信号(red flag)であるが、本例ではみられない。 ・骨粗鬆症の危険因子: 20歳台と比べて身長が4cm低下している(既存の椎体骨折が潜在している可能性を示す所見)、母親に大腿骨近位部骨折の既往がある(親の大腿骨近位部骨折歴は骨折リスクを高める因子)、48歳時の胃切除(胃切除後はカルシウムやビタミンDの吸収が低下し、骨量が減少しやすい)。グルココルチコイドの使用歴はなく、続発性のステロイド性骨粗鬆症は考えにくい。 ・身体所見: 背部正中の胸腰椎移行部(おおむね第11胸椎〜第2腰椎)に叩打痛がある。胸腰椎移行部は可動性の小さい胸椎と可動性の大きい腰椎の境目で応力が集中し、骨粗鬆症性椎体骨折の最好発部位である。四肢筋力と腱反射は正常で、脊髄・馬尾・神経根の障害を示す神経脱落症状はない。 ・否定的な所見: 体温36.7℃で発熱なし、バイタルサインは安定(脈拍76/分、血圧106/80mmHg、ショックの徴候なし)、腹部は平坦・軟で腫瘤や臓器腫大を触れない、排尿障害や肉眼的血尿なし、直近6か月の体重減少なし。下肢血圧は114/84mmHgで、上肢との比(足関節上腕血圧比ABIに相当)は約1.08と正常範囲である。

診断へのプロセス

高齢者の急性腰痛では、見逃すと致命的になる疾患(腹部大動脈瘤破裂・解離、悪性腫瘍の骨転移、感染症、尿路疾患など腰痛を呈する内臓疾患)を除外しつつ、運動器疾患を考える。本例では、発熱・血尿・排尿症状・腹部所見・ショック徴候・体重減少がいずれもなく、内臓や血管に由来する腰痛を示唆する所見に乏しい。一方で、軽微な外力を契機とした発症、動作時に限られる痛み、胸腰椎移行部の限局した叩打痛、骨粗鬆症の危険因子の集積(高齢女性、身長低下、家族歴、胃切除後)がそろっており、骨粗鬆症を基盤とした脊椎(椎体)圧迫骨折が最も考えられる。なお、胃癌の既往から骨転移による病的骨折も念頭には置くが、手術から30年以上経過しており、体重減少や安静時・夜間痛がないことから可能性は低い。

選択肢考察

  1. ×a.  膵癌

    膵臓は後腹膜臓器であり、膵癌、とくに膵体尾部癌は進行すると腹腔神経叢への浸潤により持続的な背部痛・腰痛を生じることがある。しかしその痛みは体動と関係なく持続し、夜間や臥位で増悪することも多く、体重減少・食欲不振・黄疸・新たな糖尿病の発症などを伴うことが多い。本例は痛みが前屈動作を契機に急に悪化し、夜間安静時には痛まない動作時痛であり、体重変化もなく腹部所見も正常であるため、膵癌は考えにくい。

  2. ×b.  腎盂腎炎

    腎盂腎炎は腎実質・腎盂の細菌感染症で、悪寒を伴う高熱、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛を特徴とし、膀胱炎症状(頻尿・排尿時痛・残尿感)を伴うことが多い。本例は体温36.7℃で発熱がなく、排尿障害もない。また叩打痛の部位は左右の肋骨脊柱角ではなく背部正中の脊椎上であり、痛みも体動に伴うものであるため、腎盂腎炎は否定的である。

  3. ×c.  尿管結石

    尿管結石は、結石による尿管の閉塞で腎盂内圧が急上昇し、片側の側腹部〜腰背部に突然の激しい疝痛(差し込むような間欠的な痛み)を生じる。痛みは体位や安静で軽快せず、じっとしていられないのが特徴であり、血尿(肉眼的または顕微鏡的)、悪心・嘔吐、鼠径部・外陰部への放散痛を伴うことが多い。本例は動作時にのみ痛み、夜間安静時には無痛で、肉眼的血尿や排尿症状もないため、尿管結石は考えにくい。

  4. ○d.  脊椎圧迫骨折

    骨粗鬆症を背景とする椎体骨折は、転倒だけでなく前屈み・重い物の持ち上げ・くしゃみなどの軽微な外力でも生じる。本例は高齢女性で、前屈動作を契機に腰痛が急に悪化し、寝返りや起き上がりなどの体動時に強い痛みを生じる一方、安静臥床では痛まないという典型的な経過をとっている。さらに骨折の好発部位である胸腰椎移行部の正中に叩打痛があり、身長低下4cm、母親の大腿骨近位部骨折、胃切除後という骨粗鬆症の危険因子がそろう。神経脱落症状はなく、神経障害を伴わない骨粗鬆症性の脊椎圧迫骨折が最も考えられる。

  5. ×e.  腹部大動脈瘤破裂

    腹部大動脈瘤破裂は、突然の激しい腹痛・腰背部痛に加えて、出血による低血圧・頻脈などのショック症状と、腹部の拍動性腫瘤を呈する致死的疾患であり、高齢の高血圧患者では常に鑑別に挙げるべきである。本例は高血圧の既往はあるものの、脈拍76/分・血圧106/80mmHgで循環動態は安定し、腹部は平坦・軟で拍動性腫瘤も触れない。痛みも体動時に限られ安静時にはないため、腹部大動脈瘤破裂は否定的である。

骨粗鬆症性椎体骨折の概要

・骨粗鬆症は骨強度(骨密度と骨質)の低下により骨折しやすくなる疾患で、閉経後の女性に多い。代表的な脆弱性骨折は椎体骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折である。 ・椎体骨折は最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折で、胸腰椎移行部(第11胸椎〜第2腰椎)と中位胸椎に好発する。 ・明らかな外傷がなくても生じ、約3分の2は痛みの乏しい「いつの間にか骨折」として気づかれない。多発すると身長低下や脊柱後弯(円背)をきたし、逆流性食道炎や呼吸機能低下の原因にもなる。 ・症状が出る場合は、起き上がり・寝返り・立ち上がりなど体動時の強い腰背部痛が典型で、安静臥位では軽くなる。 ・一部は骨折部が癒合せず偽関節(遷延治癒)となったり、椎体後壁の骨片が脊柱管内に突出して遅発性の下肢麻痺をきたすことがあり、経過観察が必要である。

骨粗鬆症・骨折の主な危険因子

高齢、女性(閉経)、低骨密度、既存の脆弱性骨折、低体重(低BMI)、喫煙、過度の飲酒、グルココルチコイド使用、親の大腿骨近位部骨折歴、関節リウマチ、運動不足、カルシウム・ビタミンD不足、転倒リスクなど。胃切除後、甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、糖尿病、慢性腎臓病なども続発性骨粗鬆症の原因となる。若年時(20〜25歳頃)と比べて4cm以上の身長低下は椎体骨折を疑う目安とされる。

高齢者の腰痛で注意すべき危険信号(red flags)

発熱、安静時・夜間の痛み、原因不明の体重減少、悪性腫瘍の既往、ステロイド使用や免疫抑制状態、進行する神経脱落症状や膀胱直腸障害、ショックバイタル・拍動性腹部腫瘤などがあれば、骨転移、化膿性脊椎炎、大動脈瘤破裂・解離などの重篤な疾患を積極的に検索する。

POINT

・高齢女性が軽微な外力(前屈み・持ち上げ)を契機に腰痛を発症し、体動時に痛み安静で軽快する場合は、骨粗鬆症性の脊椎圧迫骨折を第一に考える。 ・胸腰椎移行部(Th11〜L2)が椎体骨折の最好発部位であり、同部位の棘突起叩打痛は重要な身体所見である。 ・身長低下(4cm以上)、親の大腿骨近位部骨折歴、胃切除後などは骨粗鬆症の危険因子である。 ・発熱(腎盂腎炎)、血尿・疝痛(尿管結石)、ショック・拍動性腫瘤(大動脈瘤破裂)、体重減少・持続痛(悪性腫瘍)がないことを確認して内臓由来の腰痛を除外する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。