お辞儀で見える背中のねじれ―思春期特発性側弯症は前屈テストで見抜く
第120回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
思春期特発性側弯症で正しいのはどれか。
- a.Café au lait斑を伴う。
- b.小学校入学前に検診を行う。
- c.下肢伸展挙上テストが陽性になる。
- d.前方引き出しテストが陽性になる。
- e.前屈位で背部の高さの左右差がみられる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
思春期特発性側弯症は10歳以降に発症する原因不明の構築性側弯で、女子に多く右凸胸椎カーブが典型であり、Cobb角10度以上で診断します。椎体の回旋に伴う肋骨隆起・腰部隆起は前屈位で背部の高さの左右差として明瞭になり、Adams前屈テストは学校検診におけるスクリーニングの要です。通常は痛みや神経症状を伴わないため、疼痛・神経症状・左凸カーブ・カフェオレ斑などがあれば症候性側弯を疑って原因検索を行います。下肢伸展挙上テストは腰椎椎間板ヘルニア、前方引き出しテストは靱帯損傷の検査であり、本症とは無関係です。治療はCobb角とRisser分類による成長の残り具合から経過観察・装具療法・手術を選ぶため、思春期の検診で早期に見つけることが将来の変形や呼吸障害を防ぐことにつながります。
解答・解説
正解はeです
脊柱側弯症は、脊柱が前額面(正面から見た面)で側方に弯曲し、多くは椎体の回旋(ねじれ)を伴う変形である。立位の脊柱全長X線正面像で、弯曲の上端と下端の椎体がなす角度(Cobb角)が10度以上のものを側弯症と定義する。 原因が明らかでない特発性側弯症が全体の大部分(約7〜8割)を占め、そのうち10歳以降に発症する思春期特発性側弯症(adolescent idiopathic scoliosis:AIS)が最も多い。女子に多く、右凸の胸椎カーブが典型である。思春期の急速な身長増加期に進行しやすく、自覚症状(痛み・神経症状)に乏しいため、学校検診での早期発見が重要となる。 本問は、AISの診察所見・検診・鑑別に関する知識を問う。AISの身体所見の核心は「椎体の回旋」にある。椎体が回旋すると、付着する肋骨も一緒にねじれて後方へ突出する。この突出は立位では目立ちにくいが、前屈位(お辞儀の姿勢)をとらせると、背部の高さの左右差(肋骨隆起・腰部隆起)として明瞭になる。これがAISのスクリーニングで最も重要な所見である。他の選択肢は、別の疾患の皮膚所見や、腰椎・膝関節の疾患に対する検査であり、AISとは関係しない。
選択肢考察
- ×a. Café au lait斑を伴う。
誤り。カフェオレ斑(ミルクコーヒー色の色素斑)は神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)の代表的な皮膚所見である。神経線維腫症1型には側弯症が高率に合併し、急峻で短い弯曲を示し進行しやすいのが特徴である。この場合は原因疾患のある症候性側弯症に分類され、特発性側弯症ではない。側弯症の診察時にカフェオレ斑を認めたら、特発性ではなく症候性を疑う手がかりとなる。
- ×b. 小学校入学前に検診を行う。
誤り。側弯症の検診は、学校保健安全法に基づく定期健康診断の一部として、在学中の児童・生徒に毎学年行われる。2016年度からは運動器検診として、前屈テストを含む脊柱の評価が明確に位置づけられた。AISは10歳以降の思春期に発症・進行するため、とくに小学校高学年から中学生の時期の検診が重要であり、小学校入学前の検診で対象とする疾患ではない。
- ×c. 下肢伸展挙上テストが陽性になる。
誤り。下肢伸展挙上テスト(straight leg raising test:SLRテスト)は、仰臥位で膝を伸ばしたまま下肢を挙上し、坐骨神経に沿った放散痛が誘発されるかをみる検査である。L4/5、L5/S1など下位腰椎の椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫・刺激を評価するもので、AISでは通常陽性にならない。AISは原則として痛みや神経症状を伴わず、これらがある場合は脊髄腫瘍や脊髄空洞症などによる症候性側弯症を疑う。
- ×d. 前方引き出しテストが陽性になる。
誤り。前方引き出しテスト(anterior drawer test)は関節の前方不安定性をみる検査である。膝関節では、膝を約90度屈曲させて脛骨を前方へ引き出し、前十字靱帯損傷の有無を評価する。足関節では前距腓靱帯損傷の評価に用いられる。いずれも靱帯損傷の検査であり、脊柱変形であるAISとは無関係である。
- ○e. 前屈位で背部の高さの左右差がみられる。
正しい。側弯症では椎体が凸側へ回旋し、それに伴って胸椎部では凸側の肋骨が後方へ突出する(肋骨隆起:rib hump)。腰椎部では横突起とその周囲の筋が後方へ押し出される(腰部隆起:lumbar hump)。両膝を伸ばしたまま上体を前屈させて後方から背部を観察すると、この左右差が明らかとなる(Adams前屈テスト)。立位での両肩の高さの差、肩甲骨の高さや突出の差、ウエストライン(腰の脇のくびれ)の左右非対称とあわせて評価し、学校検診のスクリーニングの中心となる所見である。
側弯症の分類
・機能性側弯:脚長差、疼痛による逃避姿勢などによる一時的な弯曲。椎体の回旋を伴わず、原因を除くと消失する。 ・構築性側弯:椎体の回旋を伴う真の側弯。特発性(乳幼児期・学童期・思春期)、先天性(半椎、癒合椎など椎体の形成異常)、神経・筋原性(脳性麻痺、筋ジストロフィー、脊髄空洞症など)、神経線維腫症1型、Marfan症候群などの間葉系疾患に伴うものがある。
AISの評価
・立位脊柱全長X線正面像でCobb角を測定する。 ・骨成熟度は、腸骨稜の骨端核(骨化の進み具合)でRisser分類(grade 0〜5)として評価する。Risser gradeが低い(骨成熟が未熟で成長の余地が大きい)ほど、またCobb角が大きいほど、進行のリスクが高い。初経前の女子も進行しやすい。
AISの治療方針(目安)
・Cobb角25度未満:経過観察(定期的なX線評価)。 ・Cobb角25〜45度で成長が残っている(Risser 0〜2程度):装具療法。進行の防止が目的で、弯曲を治す治療ではない。 ・Cobb角45〜50度以上:手術療法(脊椎固定術)による矯正と進行防止。高度の胸椎側弯は成人以降も進行し、拘束性換気障害の原因となりうる。
鑑別の手がかり(症候性側弯を疑う所見)
疼痛、神経症状、左凸胸椎カーブ、急速な進行、男児、カフェオレ斑や皮下腫瘤、関節の過伸展・高身長(Marfan症候群)など。これらがあればMRIなどで原因検索を行う。
POINT
・AISは10歳以降に発症し、女子に多く、右凸胸椎カーブが典型。成長期に進行しやすく、通常は痛みを伴わない。 ・スクリーニングの要は前屈テスト(Adams前屈テスト)での肋骨隆起・腰部隆起の左右差。立位での肩・肩甲骨・ウエストラインの非対称も確認する。 ・診断はCobb角10度以上。進行予測にはCobb角とRisser分類を用いる。 ・治療の目安:25〜45度で成長残存例は装具、45〜50度以上は手術。 ・カフェオレ斑は神経線維腫症1型で、症候性側弯症を示唆する。 ・SLRテストは腰椎椎間板ヘルニア、前方引き出しテストは前十字靱帯損傷(膝)・前距腓靱帯損傷(足関節)の検査。
