つま先立ちができない28歳―SLR陽性と底屈筋力低下が示すL5/S1椎間板ヘルニア
第120回医師国家試験 A問題 第49問
国試問題にチャレンジ
A 28-year-old man visited the emergency department with severe low back pain and right leg pain, which started two days ago. The patient has no recent history of trauma. Straight leg raising test was positive on the right side. Neurological examination revealed marked motor weakness of his right ankle plantar flexion. What is the most likely diagnosis?
- a.Ankylosing spondylitis
- b.Lumbar disc herniation
- c.Spinal canal stenosis
- d.Spondylosis deformans
- e.Vertebral fracture
対話形式の解説
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ドクターまとめ
若年者に外傷なく急性発症した腰痛と片側の下肢放散痛があり、SLRテスト陽性であれば、神経根を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアをまず考えます。足関節底屈力低下・アキレス腱反射低下・足外側〜足底の感覚障害はS1神経根障害を示し、後外側型ヘルニアは1つ下の神経根を圧迫するためL5/S1ヘルニアが疑われます。強直性脊椎炎は運動で軽快する慢性の炎症性腰背部痛、脊柱管狭窄症は中高年の間欠跛行、変形性脊椎症は中年以降の慢性腰痛、椎体骨折は外傷や骨粗鬆症が背景となる点で鑑別できます。多くは保存療法で軽快しますが、高度の筋力低下や膀胱直腸障害は手術を検討するサインです。神経根ごとの運動・感覚・反射の対応を押さえておくことは、英語問題でも実臨床でも高位診断の確かな武器になります。
解答・解説
正解はbです
問題文の訳
28歳の男性。2日前から始まった強い腰痛と右下肢痛のため救急外来を受診した。最近の外傷歴はない。下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)は右側で陽性であった。神経学的診察で右足関節の底屈筋力に著明な低下を認めた。最も考えられる診断はどれか。
所見の整理
・28歳の若年男性:活動性が高く、椎間板の変性が始まる20〜40歳代は腰椎椎間板ヘルニアの好発年齢である。一方、脊柱管狭窄症や変形性脊椎症、骨粗鬆症性骨折が多い中高年ではない。 ・2日前からの急性発症の強い腰痛と片側(右)下肢痛:腰痛に加えて下肢に放散する痛み(坐骨神経痛)がある。 ・外傷歴なし:外傷による骨折は考えにくい。 ・右SLRテスト陽性:仰臥位で膝を伸ばしたまま下肢を挙上すると、坐骨神経とそれを構成するL4〜S1(特にL5・S1)神経根が引き伸ばされる。神経根がヘルニアなどで圧迫・刺激されていると、下肢後面への放散痛が誘発される(通常30〜70°の範囲で陽性となるものを有意とする)。 ・右足関節底屈筋力の著明な低下:足関節の底屈は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)が担い、主にS1神経根(脛骨神経)に支配される。S1神経根障害を示す。
診断へのプロセス
若年者に急性発症した腰痛と片側の下肢放散痛があり、SLRテスト陽性という神経根の伸張刺激症状、さらにS1神経根の運動障害(下腿三頭筋の筋力低下)を伴っている。外傷歴はなく、年齢から変性疾患も考えにくい。以上より、S1神経根を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアが最も考えられる。腰椎の後外側型ヘルニアは、その椎間の1つ下の神経根を圧迫するのが一般的であり、S1神経根障害はL5/S1椎間板ヘルニアで生じることが多い。確定にはMRIで椎間板の突出と神経根の圧迫を確認する。 なお、本例のように著明な筋力低下(麻痺)を伴う場合や、膀胱直腸障害などの馬尾症状がある場合は、保存療法にこだわらず手術を検討すべき状態である。
選択肢考察
- ×a. Ankylosing spondylitis
強直性脊椎炎は、仙腸関節炎と脊椎の付着部炎を主体とする体軸性脊椎関節炎の一つで、若年男性に多くHLA-B27との関連が強い。症状は40歳未満で緩徐に始まる3か月以上持続する炎症性腰背部痛で、安静で悪化し運動で軽快する、夜間〜早朝に強い、朝のこわばりを伴うといった特徴をもつ。急性発症の片側下肢放散痛、SLRテスト陽性、神経根支配に一致した筋力低下といった神経根症状は典型的ではなく、本例とは合致しない。
- ○b. Lumbar disc herniation
腰椎椎間板ヘルニアは、変性した椎間板の線維輪が断裂し、内部の髄核などが脊柱管内(多くは後外側)に突出して神経根を圧迫する疾患で、20〜40歳代の男性に多い。重量物の挙上や前かがみ動作を契機に急性発症することが多く、腰痛と片側の下肢放散痛(坐骨神経痛)、SLRテスト陽性、圧迫された神経根の支配域の筋力低下・感覚障害・反射低下を示す。本例の若年男性、急性発症、外傷歴なし、右SLRテスト陽性、S1神経根障害を示す右足関節底屈筋力低下はすべてこれに合致し、L5/S1椎間板ヘルニアによる右S1神経根障害が考えられる。
- ×c. Spinal canal stenosis
腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う椎間板の膨隆、黄色靱帯の肥厚、椎間関節の肥大、変性すべりなどにより脊柱管や椎間孔が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患で、50歳以上の中高年に多い。特徴は神経性間欠跛行(歩くと下肢のしびれ・痛みが出て、前かがみで休むと軽快する)であり、馬尾型では両下肢・会陰部のしびれや膀胱直腸障害を伴う。SLRテストは陰性のことが多い。28歳で急性発症し、SLRテスト陽性の本例とは合わない。
- ×d. Spondylosis deformans
変形性脊椎症(変形性腰椎症)は、加齢や長年の負荷による椎間板変性、椎間腔の狭小化、椎体辺縁の骨棘形成を特徴とする変性疾患で、主に中年期以降にみられ、慢性の腰痛の原因となる。骨棘による神経根の圧迫で下肢症状を生じることもあるが、28歳の若年者に急性発症する強い腰下肢痛とSLRテスト陽性、著明な筋力低下という経過は典型的ではない。
- ×e. Vertebral fracture
椎体骨折は、若年者では転落や交通事故などの高エネルギー外傷で生じ、高齢者では骨粗鬆症を背景に軽微な外力でも起こる(脆弱性骨折)。本例は外傷歴がなく、28歳と若年で骨粗鬆症の危険も低い。また、悪性腫瘍の骨転移による病的骨折を疑う既往や全身症状も示されていない。SLRテスト陽性と片側の神経根症状も椎体骨折よりヘルニアを示唆するため、考えにくい。
腰仙部神経根障害の高位診断
・L4神経根(主にL3/L4ヘルニア):運動は大腿四頭筋(膝伸展)、前脛骨筋(足関節背屈)の一部。感覚は下腿内側。膝蓋腱反射低下。 ・L5神経根(主にL4/L5ヘルニア):運動は長母趾伸筋(母趾背屈)、前脛骨筋。感覚は下腿外側〜足背。腱反射には明らかな変化が出にくい。踵歩行が困難になる。 ・S1神経根(主にL5/S1ヘルニア):運動は下腿三頭筋(足関節底屈)、長母趾屈筋。感覚は足部外側〜足底。アキレス腱反射低下。つま先立ち歩行が困難になる。 ※後外側型ヘルニアは1つ下位の神経根を、椎間孔内・椎間孔外(外側)ヘルニアは同じ高位の神経根を圧迫する。
神経根の伸張テスト
・SLRテスト(Lasègue徴候):L5・S1神経根(坐骨神経)の刺激症状を評価する。 ・大腿神経伸展テスト(FNST):腹臥位で膝を屈曲し股関節を伸展させる。L2〜L4神経根(大腿神経)の刺激症状を評価し、上位腰椎のヘルニアで陽性となる。
腰椎椎間板ヘルニアの診断と治療
・診断:画像検査はMRIが第一選択で、椎間板の突出と神経根圧迫の位置を確認する。症状・神経所見と画像所見の高位が一致することが重要である。 ・自然経過:突出したヘルニアは、特に大きく脱出したものほどマクロファージにより吸収されて自然に縮小しやすい。 ・保存療法:安静、薬物療法(NSAIDsなど)、硬膜外ブロック・神経根ブロックなど。多くは保存療法で軽快する。 ・手術適応:膀胱直腸障害を伴う馬尾障害(緊急手術の適応)、進行する・高度な筋力低下、十分な保存療法でも改善しない疼痛など。術式はヘルニア摘出術(後方からの摘出、内視鏡下手術など)。椎間板内酵素注入療法も選択肢となる。
若年者の急性腰痛でのレッドフラッグ
発熱(化膿性脊椎炎)、悪性腫瘍の既往、外傷、体重減少、安静時痛、進行性の神経脱落症状、膀胱直腸障害などがあれば、重篤な疾患を念頭に早急に精査する。
POINT
・若年男性+急性の腰痛と片側下肢放散痛+SLRテスト陽性 → 腰椎椎間板ヘルニア。 ・足関節底屈力低下・アキレス腱反射低下・足外側〜足底の感覚障害 → S1神経根障害(L5/S1ヘルニア)。 ・母趾背屈力低下・下腿外側〜足背の感覚障害 → L5神経根障害(L4/L5ヘルニア)。 ・脊柱管狭窄症は中高年の間欠跛行、強直性脊椎炎は若年男性の炎症性腰背部痛(運動で軽快)が鍵。 ・膀胱直腸障害や高度の筋力低下は手術適応を考える。
