尻もち一つで動けない―ステロイドが脆くした背骨の圧迫骨折
第119回医師国家試験 C問題 第54問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。腰背部痛を主訴に来院した。本日,起床時に転倒し尻もちをついた後から,腰背部の痛みのため体動困難となったため受診した。40歳時から関節リウマチでメトトレキサートとグルココルチコイドを内服している。意識は清明。身長152cm,体重46kg。体温36.7℃。脈拍80/分,整。血圧144/88mmHg。呼吸数16/分。両下肢に感覚障害や運動障害を認めない。背部正中に叩打痛を認める。 最も考えられる疾患はどれか。
- a.尿管結石
- b.強直性脊椎炎
- c.脊椎圧迫骨折
- d.腰部脊柱管狭窄症
- e.腰椎椎間板ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
高齢女性がグルココルチコイドを長期内服していると、骨形成の抑制や骨吸収の亢進などによってステロイド性骨粗鬆症が起こり、尻もちのような軽微な外力でも脊椎圧迫骨折(椎体骨折)を生じます。受傷直後からの体動困難と棘突起の叩打痛が典型的で、好発部位は胸腰椎移行部であり、下肢の神経症状を伴う場合は骨片が脊柱管内に突出する破裂骨折を疑います。尿管結石は片側の肋骨脊柱角の痛みと血尿、強直性脊椎炎は若年男性の慢性炎症性腰痛、脊柱管狭窄症やヘルニアは下肢の神経症状が特徴で、鑑別に役立ちます。診断にはエックス線に加えてMRIが新鮮骨折の検出に有用で、治療は保存療法が基本ですが、再骨折予防のための骨粗鬆症治療が欠かせません。ステロイドを使う患者では骨折前から骨の健康を管理するという視点が、日常診療で重要になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・68歳の女性:閉経後の高齢女性であり、骨粗鬆症の好発層である。 ・起床時に転倒して尻もちをついた直後から腰背部痛が出現し、体動困難:立った高さからの転倒という軽微な外力を契機とした急性発症である。尻もち(殿部からの着地)では脊椎に体軸方向の圧迫力がかかる。 ・40歳時から関節リウマチで、メトトレキサート(MTX)とグルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)を長期内服:グルココルチコイドの長期使用は続発性骨粗鬆症の最大の原因であり、関節リウマチ自体も炎症性サイトカインや活動性低下によって骨量減少をきたす。 ・身長152cm、体重46kg(BMI 約19.9):やせ型で、骨折リスクがやや高い体格である。 ・バイタルサインは発熱なく安定(血圧はやや高めだが疼痛の影響も考えられる)。 ・両下肢に感覚障害・運動障害なし:脊髄・馬尾・神経根の圧迫を示す所見はない。 ・背部正中の叩打痛:棘突起の叩打で痛みが誘発されることは、椎体そのものの病変(骨折、感染、腫瘍など)を示唆する。
診断へのプロセス
ステロイド性骨粗鬆症が強く疑われる高齢女性が、尻もちという軽微な外傷を契機に急激な腰背部痛と体動困難をきたし、脊椎の正中に叩打痛があり、神経症状はない。これは骨脆弱性を背景とした脆弱性骨折、すなわち脊椎圧迫骨折(椎体骨折)の典型像である。好発部位は胸腰椎移行部(第11胸椎〜第2腰椎)である。 鑑別としては、発熱がないことから化膿性脊椎炎は考えにくく、外傷の明確な契機があることから転移性脊椎腫瘍による病的骨折の可能性も低い(ただし高齢者では念頭に置く)。また、神経症状がないことで脊柱管内への骨片突出を伴う破裂骨折の可能性も現時点では低いと判断できる。 確定には脊椎エックス線(側面像で椎体の楔状変形や扁平化)を行うが、受傷直後は変形がはっきりしないことがあり、MRI(新鮮骨折はT1強調像で低信号、STIR像で高信号)が新鮮骨折の検出や陳旧性骨折との区別に有用である。
選択肢考察
- ×a. 尿管結石
尿管結石は、結石が尿管に嵌頓して尿路が閉塞し腎盂内圧が上昇することで、片側の側腹部〜背部の激痛(疝痛発作)をきたす。痛みは脊椎の正中ではなく肋骨脊柱角(CVA)付近の片側にあり、CVA叩打痛を示す。下腹部・鼠径部への放散痛、血尿、悪心・嘔吐を伴うことが多く、じっとしていられずのたうち回るのが特徴で、体動で痛みが増悪して動けなくなる本例とは対照的である。転倒を契機に発症し正中に叩打痛がある本例には合わない。
- ×b. 強直性脊椎炎
強直性脊椎炎は、仙腸関節炎と脊椎の付着部炎を主体とする脊椎関節炎の一つで、HLA-B27との関連が強い。10〜30歳代の若年男性に好発し、数か月以上続く慢性の炎症性腰背部痛(安静で悪化し運動で改善、朝のこわばりを伴う)が特徴である。高齢女性に外傷を契機として急性発症した本例とは、年齢・性別・経過のいずれも合致しない。
- ○c. 脊椎圧迫骨折
高齢女性で長期のグルココルチコイド内服歴があり、骨粗鬆症による骨脆弱性が強く疑われる。尻もちという軽微な外力で、脊椎に体軸方向の圧迫力が加わり椎体が潰れたと考えられる。受傷直後からの腰背部痛と体動困難(寝返りや起き上がりで増悪する痛み)、背部正中(棘突起)の叩打痛はいずれも脊椎圧迫骨折に典型的である。下肢の神経症状がないことは、骨片が脊柱管内に突出していない(破裂骨折でない)ことを示唆し、矛盾しない。
- ×d. 腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う椎間板の膨隆、椎間関節の肥厚、黄色靱帯の肥厚などで脊柱管が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患である。高齢者に多いが、主症状は間欠性跛行(歩行で下肢のしびれ・痛みが出現し、前かがみや座位での休息で改善)や下肢の感覚障害であり、経過は慢性である。外傷を契機に急性発症し、下肢に神経症状がない本例とは合わない。
- ×e. 腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の髄核が線維輪を破って後方に突出し、神経根を圧迫する疾患である。20〜40歳代の比較的若い男性に多く、腰痛に加えて片側の下肢への放散痛(坐骨神経痛)、下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)陽性、障害神経根に一致した感覚障害・筋力低下・腱反射低下を伴うのが典型である。本例は高齢で、下肢の神経症状がなく、正中の叩打痛が主体であるため考えにくい。
骨粗鬆症性椎体骨折(脊椎圧迫骨折)
・骨粗鬆症による脆弱性骨折の中で最も頻度が高い。尻もち、重い物を持ち上げる、くしゃみなどの軽微な外力でも生じ、明らかな外傷なく起こる例も多い。 ・好発部位は胸腰椎移行部(Th11〜L2)。 ・痛みを自覚しない「いつの間にか骨折」も多く、身長低下(2〜4cm以上)や円背(脊柱後弯)で気づかれることもある。 ・症状:体動時(寝返り、起き上がり)に強い腰背部痛、棘突起の叩打痛。 ・画像:エックス線側面像で椎体の楔状変形・扁平化。早期や軽微な骨折はMRIで検出しやすい。 ・治療:多くは保存療法(安静・鎮痛、コルセットなどの外固定、早期離床とリハビリテーション)。疼痛が遷延する場合などには経皮的椎体形成術(BKP:balloon kyphoplasty)が行われる。椎体圧潰が進み、遅発性に神経症状をきたす(偽関節など)ことがあるので経過観察が必要である。 ・再骨折予防:骨粗鬆症の薬物療法(ビスホスホネート、デノスマブ、テリパラチドなど)を開始する。既存の椎体骨折は次の骨折の強い危険因子である。
ステロイド性骨粗鬆症
・グルココルチコイドは骨芽細胞の機能を抑制して骨形成を低下させ、さらに骨吸収を亢進させ、腸管からのカルシウム吸収も低下させる。 ・骨密度の低下だけでなく骨質も悪化するため、骨密度が比較的保たれていても骨折しやすい。 ・プレドニゾロン換算で1日7.5mg以上の使用、高齢、低骨密度、既存骨折などがリスクとなり、ガイドラインでは長期使用予定者に対し骨折リスクを評価して早期からビスホスホネートなどによる予防的治療を行うことが推奨されている。 ・関節リウマチ自体も、炎症や活動性低下を介して骨粗鬆症の危険因子となる。
腰背部痛の鑑別で注意すべき危険信号(レッドフラッグ)
発熱(化膿性脊椎炎)、がんの既往や体重減少(転移性脊椎腫瘍)、ステロイド使用や高齢(骨粗鬆症性骨折)、膀胱直腸障害や進行性の神経症状(馬尾症候群)、腹部拍動性腫瘤や血圧低下(腹部大動脈瘤破裂)などがある。
POINT
・高齢女性+ステロイド長期使用+軽微な外傷(尻もち)+急性腰背部痛・体動困難+棘突起叩打痛 → 骨粗鬆症性の脊椎圧迫骨折。 ・好発部位は胸腰椎移行部(Th11〜L2)。 ・神経症状を伴うときは破裂骨折(骨片の脊柱管内突出)を疑う。 ・新鮮骨折の診断にはMRIが有用。治療は保存療法(外固定・早期離床)が基本で、骨粗鬆症治療で再骨折を予防する。
