StudyMed医師国家試験

「鼠径部から下」が教える損傷の高さ―デルマトームで読み解く脊髄損傷レベル

第119回医師国家試験 E問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第20問

鼠径部レベル以下の全感覚消失の脊髄損傷レベルはどれか。

  1. a.第4頸髄
  2. b.第5胸髄
  3. c.第10胸髄
  4. d.第1腰髄
  5. e.脊髄円錐部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、感覚が消えている範囲から脊髄のどの髄節が傷ついているかを逆算する問題だ。カギになるのはデルマトーム、つまり1本の脊髄神経が担当する皮膚の帯状の領域。感覚消失の「上端」がどこかに注目してみよう。
医学生医学生
神経解剖の講義で、体に縞模様が描かれたデルマトームの図を覚えさせられました。でも全部はなかなか覚えきれなくて。
ドクタードクター
全部を丸暗記する必要はないよ。まず原理から確認しよう。脊髄が横断的に完全損傷されると、損傷した髄節より下から入ってくる感覚情報は脳に届かなくなる。だから損傷髄節に対応するデルマトームから下の全感覚、つまり触覚も痛覚も温度覚も位置覚もまとめて消えるんだ。
医学生医学生
ということは、感覚が消えている範囲の一番上を見れば、損傷の高さがわかるということですね。
ドクタードクター
その通り。そこで体幹の目印となるデルマトームを押さえておこう。乳頭がT4、剣状突起がT6、臍がT10、そして鼠径部がL1。この4つはセットで覚えておくと、ほとんどの問題に対応できる。
医学生医学生
鼠径部はL1なので、今回の答えは第1腰髄ですね。T12と迷いそうですが。
ドクタードクター
鼠径靱帯付近はT12からL1にまたがるけれど、「鼠径部」といえばL1と覚えておけばいい。L1が完全に損傷されると鼠径部から下の全感覚が消え、運動面では股関節屈曲を担う腸腰筋以下の下肢筋が麻痺し、膀胱直腸障害も伴う。では、ほかの選択肢がなぜ合わないかも確認しよう。第10胸髄はどうかな。
医学生医学生
T10は臍なので、臍から下の感覚が消えるはずです。鼠径部より上の下腹部まで障害されるので合いません。
ドクタードクター
正解。第5胸髄なら乳頭のすぐ下から感覚が消えて対麻痺になる。ちなみにT6より高位の損傷では、損傷部以下の刺激、たとえば膀胱の充満などで発作性の高血圧と徐脈が起こる自律神経過反射に注意が必要なんだ。
医学生医学生
第4頸髄だと、もっと上から感覚がなくなって四肢麻痺ですよね。救急科の実習で、頸髄損傷の患者さんが人工呼吸器につながれていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。C4のデルマトームは鎖骨から肩の上部あたり。そして横隔膜を動かす横隔神経はC3からC5から出るから、C4の高位損傷では呼吸障害を伴い、人工呼吸管理が必要になることが多い。「C3、4、5 keeps the diaphragm alive」という覚え方もあるよ。
医学生医学生
脊髄円錐部は脊髄の一番下なので、そこが壊れたら下肢全体の感覚がなくなりそうに思えるのですが。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。脊髄円錐には主に仙髄の下部、S3からS5と尾髄が含まれる。ここが障害されると、肛門周囲や会陰部の感覚が消える鞍状感覚消失、いわゆるサドル麻痺と、膀胱直腸障害や性機能障害が目立つ。一方で下肢の運動や感覚は比較的保たれることが多いから、鼠径部以下全体の消失にはならないんだ。
医学生医学生
円錐は「脊髄の最下端」であって、「下肢全部を担当する場所」ではないんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。もう一つ大事な注意点がある。この問題で問われているのは脊髄の髄節の高さで、背骨、つまり椎骨の高さではない。脊髄は脊柱管より短く、成人では第1〜2腰椎の高さで終わる。だから下位の髄節ほど同じ番号の椎骨より上にずれていて、第1腰髄はおよそ第11〜12胸椎の高さにあるんだ。
医学生医学生
画像で骨折しているのが胸腰椎移行部でも、障害される髄節は腰髄や仙髄になりうるということですね。それより下の脊柱管には馬尾が走っている、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく結びつけられたね。円錐の障害は脊髄そのものの障害なので症状が左右対称になりやすく、早期から膀胱直腸障害が目立つ。馬尾症候群は神経根の束の障害だから、下肢の痛みや左右非対称の運動・感覚障害、腱反射低下といった末梢神経障害の性質をとる。臨床では、どこに病変があるかで症状の出方が変わることを意識してほしい。
医学生医学生
感覚障害の上端からデルマトームで髄節を決めて、さらに椎骨の高さとのずれも考える、という2段階で整理します。
ドクタードクター
それが実際の脊髄損傷の評価にもつながる考え方だ。国際的な評価基準では、感覚と運動が正常に保たれている最も下の髄節を神経学的損傷高位と定義する。救急や整形外科の現場では、損傷高位によって呼吸管理やリハビリの目標が大きく変わるから、デルマトームの知識は単なる暗記事項ではなく、患者さんの予後を見通すための道具なんだよ。

まとめ

脊髄が横断的に完全損傷されると、損傷髄節に対応するデルマトームから下の全感覚が消失するため、感覚消失範囲の上端から損傷髄節を推定できます。体幹の目印は乳頭=T4、剣状突起=T6、臍=T10、鼠径部=L1で、鼠径部以下の全感覚消失は第1腰髄の損傷を示します。C4の高位損傷では横隔神経の障害による呼吸障害、T6以上の損傷では自律神経過反射に注意が必要で、脊髄円錐部の障害では下肢よりも鞍状感覚消失と膀胱直腸障害が主体となります。また、脊髄は成人では第1〜2腰椎の高さで終わるため、髄節の高さと椎骨の高さは一致しない点も重要です。デルマトームの理解は、損傷高位の診断だけでなく、呼吸管理やリハビリ目標の設定といった臨床判断の基盤になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

感覚障害の範囲(上端の高さ)から、脊髄のどの髄節が損傷されているかを推定する問題である。

考え方

一本の脊髄神経(後根)が感覚を担当する皮膚の帯状の領域を皮膚分節(デルマトーム)という。脊髄が横断的に完全損傷されると、損傷された髄節以下から入る感覚の情報はすべて脳へ届かなくなるため、損傷髄節に対応するデルマトームから下の全感覚(触覚・痛覚・温度覚・位置覚など)が消失する。したがって、感覚が消失している範囲の上端がどのデルマトームに当たるかを知れば、損傷の高さがわかる。 体幹から下肢にかけての目印となるデルマトームは次のとおりである。 ・T4:乳頭の高さ ・T6:剣状突起の高さ ・T10:臍の高さ ・T12〜L1:鼠径靱帯付近(L1が鼠径部) 本問は「鼠径部レベル以下」の感覚消失であるから、L1(第1腰髄)の損傷と判断できる。

注意点

ここで問われているのは脊椎(骨)の高さではなく、脊髄の髄節の高さである。脊髄は成人では第1〜2腰椎の高さで終わる(脊髄円錐)ため、下位の髄節ほど同じ番号の椎骨より上に位置する。第1腰髄はおよそ第11〜12胸椎の高さにある。

選択肢考察

  1. ×a.  第4頸髄

    C4のデルマトームは鎖骨から肩の上部にかけての領域である。C4髄節での完全損傷では、鎖骨付近から下の全感覚が消失し、四肢麻痺となる。横隔膜を支配する横隔神経はC3〜C5から出るため、C4の高位損傷では呼吸障害を伴い、人工呼吸管理を要することが多い。鼠径部以下に限局した感覚消失とはならない。

  2. ×b.  第5胸髄

    T5のデルマトームは乳頭(T4)のすぐ下の前胸部である。T5髄節の完全損傷では乳頭のやや下から下方の全感覚が消失し、対麻痺となる。T6より高位の損傷では、自律神経過反射(損傷部以下の刺激による発作性の高血圧と徐脈)を起こしうる点も重要である。鼠径部よりずっと高い位置から感覚が消失する。

  3. ×c.  第10胸髄

    T10のデルマトームは臍の高さである。T10髄節の完全損傷では臍の高さから下の全感覚が消失する。鼠径部より上の下腹部にも感覚障害が及ぶため、本問の所見とは合わない。

  4. ○d.  第1腰髄

    L1のデルマトームは鼠径部(鼠径靱帯付近から大腿前面の最上部)である。L1髄節が完全に損傷されると、L1以下のすべての後根から入る感覚情報が遮断され、鼠径部から下の全感覚が消失する。運動面では、股関節屈曲(腸腰筋、主にL1〜L3)以下の下肢筋が麻痺し、膀胱直腸障害も伴う。よって本問の所見に合致する。

  5. ×e.  脊髄円錐部

    脊髄円錐は脊髄の最下端で、主に仙髄下部(S3〜S5)と尾髄を含み、第1〜2腰椎の高さに位置する。この部位の障害(脊髄円錐症候群)では、S3〜S5のデルマトームである肛門周囲・会陰部の感覚が消失する(鞍状感覚消失、サドル麻痺)とともに、膀胱直腸障害や性機能障害が目立つ。下肢の運動・感覚は比較的保たれることが多く、鼠径部以下全体の感覚消失とはならない。

覚えておきたいデルマトーム

・C2:後頭部 ・C3:頸部 ・C4:鎖骨〜肩上部 ・C6:母指 ・C7:中指 ・C8:小指 ・T4:乳頭 ・T6:剣状突起 ・T10:臍 ・L1:鼠径部 ・L3:膝の前面 ・L4:下腿内側〜母趾側の足内側 ・L5:下腿外側〜足背〜母趾 ・S1:足の外側縁・足底・踵 ・S2:大腿後面 ・S3〜S5:肛門周囲・会陰(サドル領域)

脊髄髄節と脊椎の位置関係

頸椎は7個だが頸髄の髄節はC1〜C8の8つあるため、C1〜C7神経根は同じ番号の椎骨の上の椎間孔から、C8神経根は第7頸椎と第1胸椎の間から出る。胸神経以下は同じ番号の椎骨の下の椎間孔から出る。 また脊髄は脊柱管より短く、成人では第1〜2腰椎の高さで終わる。そのため下位の髄節ほど対応する椎骨より上方にずれ、腰髄・仙髄は胸椎下部〜第1腰椎の高さに集まっている。それより下の脊柱管内には馬尾(腰仙髄から出た神経根の束)が走る。

腰椎椎間板ヘルニアと障害神経根

腰椎では、後外側型の椎間板ヘルニアは通常、その椎間板の高さを通過して一つ下の椎間孔から出る神経根を圧迫する。例えばL4/5椎間板ヘルニアではL5神経根、L5/S1ではS1神経根が障害される。外側型(椎間孔内・外)のヘルニアでは同じ高さの椎間孔から出る神経根(L4/5ならL4)が障害される。

脊髄円錐症候群と馬尾症候群

・脊髄円錐症候群:脊髄そのものの障害。鞍状感覚消失と膀胱直腸障害が早期から目立ち、症状は左右対称になりやすい。 ・馬尾症候群:神経根の束の障害。下肢の疼痛や左右非対称の運動・感覚障害を伴い、末梢神経障害の性質をとる(腱反射低下)。

神経学的損傷高位の定義

脊髄損傷の国際評価基準(ISNCSCI、いわゆるASIA分類)では、感覚・運動が正常に保たれている最も下の髄節を神経学的損傷高位と定義する。臨床問題で「〜以下の感覚消失」とある場合は、その上端のデルマトームに対応する髄節が障害されていると読み取ればよい。

POINT

・鼠径部=L1、臍=T10、剣状突起=T6、乳頭=T4はセットで覚える。 ・脊髄横断性の完全損傷では、損傷髄節のデルマトーム以下の全感覚が消失する。 ・脊髄円錐部の障害では鞍状感覚消失と膀胱直腸障害が主体で、下肢症状は乏しい。 ・髄節の高さと椎骨の高さは一致しない(脊髄は第1〜2腰椎で終わる)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。