StudyMed医師国家試験

その痰、本当に肺から来た?―扁平上皮細胞が告げる「唾液だらけ」の検体

第119回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第21問

喀痰検体で質が低いのはどれか。

  1. a.うがいをした後に採取した検体
  2. b.喀痰の膿性部分が入っている検体
  3. c.食塩水吸入で誘発して採取した検体
  4. d.Gram染色の鏡検で白血球が多い検体
  5. e.Gram染色の鏡検で上皮細胞が多い検体

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、喀痰検体の「質」を見極める問題だ。喀痰検査の目的は、肺炎などの下気道感染症の原因菌を探すこと。ところが痰は口の中を通って出てくるから、どうしても唾液や口腔内の常在菌が混ざってしまう。どの選択肢が「下気道の成分が多い」ことを示し、どれが「口の中の成分が多い」ことを示すのか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
質のよい痰というのは、肺の炎症部位から来たものがたくさん含まれている痰、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。下気道由来の成分、つまり炎症で集まった好中球や原因菌が多く、口腔由来の成分である唾液や扁平上皮細胞が少ないほど良質な検体なんだ。唾液が多いと、α溶血性レンサ球菌やナイセリア属といった口腔内常在菌が目立って、本当の原因菌を見誤ってしまう。
医学生医学生
うがいをしてから採取すると、痰が薄まってしまって質が下がる気がしたのですが。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実は逆なんだ。採取前にうがいや歯磨きをすると、口の中の常在菌や食べかすが洗い流されて、痰が口を通るときの汚染を減らせる。だから推奨される手順だよ。ただし消毒薬入りのうがい薬は原因菌の発育に影響しうるので、水で行うのが一般的だね。
医学生医学生
なるほど、薄まるのではなく、汚染を減らすための工夫なんですね。膿性部分が入っている検体は、黄色や緑色の部分ということですよね。
ドクタードクター
そう。膿性部分には炎症部位に集まった好中球と原因菌が多く含まれている。肉眼的な評価法であるMiller & Jones分類でも、膿性部分の割合が多いほど良質と判定するんだ。透明でさらさらした唾液のような部分ではなく、膿性部分を選んで検査に出すのが基本だよ。
医学生医学生
食塩水を吸入して出した痰は、無理に出させたものなので本来の痰とは違うような気もします。
ドクタードクター
これも正当な手技なんだ。自力で痰を出しにくい患者さんには、ネブライザーで3%前後の高張食塩水を吸入してもらう。浸透圧で気道内に水分が引き込まれて分泌物が増え、粘りも下がるから、下気道の分泌物を出しやすくなる。誘発喀痰と呼ばれていて、結核の診断で自然な痰が得られないときにもよく使われるよ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、結核疑いの患者さんに陰圧室で吸入してもらっているのを見ました。あれが誘発喀痰だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。では顕微鏡での評価に移ろう。Gram染色で白血球が多い検体と、上皮細胞が多い検体、それぞれ何を意味するかな。
医学生医学生
微生物学の実習でGram染色をしたとき、好中球がたくさん見えた記憶があります。白血球が多いのは炎症部位から来ている証拠なので、良い検体だと思います。
ドクタードクター
正解。そして上皮細胞が多い検体のほうが質が低い、つまり今回の答えだ。喀痰のGram染色で多数見える上皮細胞は、口腔粘膜から剥がれ落ちた扁平上皮細胞。これが多いということは唾液がたくさん混ざっている証拠で、見えている菌も口腔内常在菌を反映している可能性が高いんだ。
医学生医学生
上皮細胞といっても、気管支の上皮ではなく口の中の扁平上皮なんですね。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。この顕微鏡的評価を体系化したのがGeckler分類だ。低倍率100倍の1視野あたりで、扁平上皮細胞が25個を超える1〜3群は唾液の混入が多く検査に不適とされ、再採取が勧められる。一方、白血球が25個を超えて扁平上皮細胞が少ない4群・5群が良質な検体とされるよ。
医学生医学生
肉眼ではMiller & Jones分類、顕微鏡ではGeckler分類で評価する、と整理しておきます。
ドクタードクター
いい整理だね。臨床での注意点もまとめておこう。採取はできるだけ抗菌薬を投与する前に行うこと。抗菌薬が入ると原因菌が見えにくくなるからね。それから採取後は速やかに検査室へ提出すること。室温で放置すると常在菌が増える一方、肺炎球菌などは死滅しやすいんだ。
医学生医学生
せっかく良い痰が採れても、放置したら台無しになってしまうんですね。
ドクタードクター
そういうこと。そして良質な検体のGram染色で、好中球が菌を取り込んでいる貪食像が見えれば、その菌が原因菌である可能性が高い。検体の質を見極める目は、適切な抗菌薬選択の第一歩なんだよ。

まとめ

喀痰検体は、下気道由来の成分である好中球や膿性部分が多く、口腔由来の成分である唾液や扁平上皮細胞が少ないほど良質です。Gram染色で扁平上皮細胞が多い検体は唾液の混入が多いことを示し、Geckler分類で1〜3群にあたる不適切な検体として再採取が勧められます。一方、採取前のうがい、膿性部分の選択、高張食塩水吸入による誘発喀痰は、いずれも良質な検体を得るための工夫であり、白血球が多い検体は炎症部位由来の良質な検体です。肉眼的にはMiller & Jones分類、顕微鏡的にはGeckler分類で評価し、抗菌薬投与前の採取と速やかな提出も重要です。検体の質を正しく判断することは、原因菌の推定と適切な抗菌薬選択の土台となります。

解答・解説

正解はeです

喀痰検査(細菌塗抹・培養)の目的は、肺炎や気管支炎などの下気道感染症の原因菌を推定・同定することである。ところが喀痰は口腔・咽頭を通って体外に出るため、必ず口腔内の常在菌や唾液が多少なりとも混ざる。唾液成分が多い検体では、本来の原因菌よりも口腔内常在菌(α溶血性レンサ球菌、ナイセリア属など)が目立ち、Gram染色や培養の結果を誤って解釈する原因になる。 したがって「質の良い喀痰」とは、下気道由来の成分(炎症で集まった好中球や原因菌)を多く含み、口腔由来の成分(唾液、扁平上皮細胞)が少ない検体のことである。 検体の質は、採取時の工夫(うがい・歯磨きで口腔内の菌を減らす、膿性部分を選ぶ、喀出困難なら高張食塩水吸入で誘発する)と、採取後の評価(肉眼的評価であるMiller & Jones分類、顕微鏡的評価であるGeckler分類)の二つの面から考えるとよい。 本問では、どの選択肢が「口腔由来成分の混入が多い」ことを意味するかを考えればよい。Gram染色で扁平上皮細胞が多数見えるということは、口腔粘膜から剥がれた細胞、すなわち唾液が多く混ざっていることを示しており、質の低い検体と判断される。

選択肢考察

  1. ×a.  うがいをした後に採取した検体

    採取前にうがい(可能なら歯磨きも)を行うと、口腔内に付着している常在菌や食物残渣が洗い流され、喀痰が口腔を通過する際の汚染(コンタミネーション)を減らせる。これは良質な検体を得るための推奨手順であり、質が低い検体にはあたらない。なお、うがいは水道水や水で行い、消毒薬入りのうがい薬は原因菌の発育に影響しうるため避けるのが一般的である。

  2. ×b.  喀痰の膿性部分が入っている検体

    膿性部分(黄色〜緑色の部分)は、下気道の炎症部位に集まった好中球と原因菌を多く含む。透明でさらさらした唾液様の部分ではなく膿性部分を検査に回すことが望ましい。肉眼的評価であるMiller & Jones分類でも、膿性部分の割合が大きいほど(P1→P3)良質と判定される。したがって質の高い検体である。

  3. ×c.  食塩水吸入で誘発して採取した検体

    自力で喀痰を出しにくい患者では、ネブライザーで食塩水(通常は3%前後の高張食塩水)を吸入させて喀痰を誘発する方法(誘発喀痰)がとられる。高張液の浸透圧により気道内へ水分が引き込まれて分泌物が増え、粘稠度も下がるため、下気道の分泌物を喀出しやすくなる。下気道由来の検体を得るための正当な手技であり、質が低い検体とはいえない。結核の診断で自然喀痰が得られない場合にもよく用いられる。

  4. ×d.  Gram染色の鏡検で白血球が多い検体

    白血球(主に好中球)は、下気道の感染・炎症部位に動員された細胞であり、それが多いことは検体が炎症部位由来であることを示す。顕微鏡的評価であるGeckler分類では、低倍率(100倍)1視野あたり白血球が25個を超え、扁平上皮細胞が少ない検体(4群・5群)が良質とされる。よって質の高い検体である。

  5. ○e.  Gram染色の鏡検で上皮細胞が多い検体

    喀痰のGram染色で多数みられる上皮細胞は、口腔粘膜から剥がれ落ちた扁平上皮細胞である。これが多いということは唾液が多く混入していることを意味し、検出される細菌も口腔内常在菌を反映している可能性が高い。Geckler分類では、低倍率1視野あたり扁平上皮細胞が25個を超える検体(1〜3群)は唾液成分が多く検査に不適とされ、再採取が勧められる。したがって質が低い検体であり、これが正解である。

喀痰採取の手順と注意点

・採取前に歯磨き・うがいを行い、口腔内常在菌の混入を減らす。 ・できるだけ起床直後など喀痰の多い時間帯に、深い咳とともに喀出させる。 ・唾液ではなく膿性部分を滅菌容器に採る。 ・喀出が難しい場合は、高張食塩水のネブライザー吸入による誘発喀痰を行う。 ・可能な限り抗菌薬投与前に採取し、採取後は速やかに検査室へ提出する(室温放置で常在菌が増え、肺炎球菌などは死滅しやすい)。

Miller & Jones分類(肉眼的評価)

M1:唾液、完全な粘性痰 M2:粘性痰の中に少量の膿性痰を含む P1:膿性部分が全体の1/3以下 P2:膿性部分が全体の1/3〜2/3 P3:膿性部分が全体の2/3以上 膿性部分の割合が大きいほど良質と判断する。

Geckler分類(顕微鏡的評価、低倍率100倍・1視野あたり)

1群:扁平上皮細胞 >25、白血球 <10 2群:扁平上皮細胞 >25、白血球 10〜25 3群:扁平上皮細胞 >25、白血球 >25 4群:扁平上皮細胞 10〜25、白血球 >25 5群:扁平上皮細胞 <10、白血球 >25 6群:扁平上皮細胞 <25、白血球 <25 1〜3群は唾液の混入が多く不適切な検体とされ、4・5群が良質な検体として培養に適する。6群は経気管吸引など口腔を経由しない方法で採取した検体や、好中球減少患者の検体などで評価の対象となる。

補足

良質な検体のGram染色で、好中球が菌を貪食している像(貪食像)がみられれば、その菌が原因菌である可能性が高い。

POINT

・喀痰検体の質は「下気道成分(好中球・膿性部分)が多く、口腔成分(唾液・扁平上皮細胞)が少ない」ほど良い。 ・扁平上皮細胞が多い=唾液混入が多い=質が低い(Geckler分類1〜3群)。 ・白血球が多く扁平上皮細胞が少ない検体(Geckler分類4・5群)が良質。 ・肉眼的にはMiller & Jones分類で膿性部分が多いほど良質。 ・うがい後の採取、膿性部分の選択、高張食塩水による誘発は、いずれも良質な検体を得る工夫である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。