StudyMed医師国家試験

改築後、自宅でだけ目がチカチカする―シックハウス症候群の原因は「化学物質」と「カビ・ダニ」

第115回医師国家試験 F問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第59問

 52歳の男性。目がチカチカすることを主訴に来院した。2か月前から特に自宅にいると症状が出現し,頭痛とめまいも伴っている。眼の瘙痒感はみられない。5か月前に自宅を改築した。眼球結膜に軽度の充血を認める。他の身体診察に異常所見は認めない。  本患者の症状の原因として考えられるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.カビ
  2. b.ダニ
  3. c.紫外線
  4. d.浮遊粒子状物質
  5. e.揮発性有機化合物

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、症状が「どこで」「いつから」出ているかに注目して、原因となる環境因子を考える問題だ。眼の刺激感や頭痛・めまいそのものは非特異的だけれど、症状が出る場所と、その前に起きた生活環境の変化がとても大きなヒントになる。まずは何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
目が赤くてチカチカするので、最初はアレルギー性結膜炎かと思いました。
ドクタードクター
自然な発想だね。ただ、アレルギー性結膜炎ならかゆみが前面に出ることが多い。今回はかゆみがない、とわざわざ書かれている。そして症状は特に自宅にいるときに出て、その数か月前に家を改築している。この「場所依存性」と「先行する住環境の変化」をつなげると、何が浮かぶ?
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったシックハウス症候群ですか。
ドクタードクター
その通り。住宅の高気密化や新しい建材・内装材の使用によって室内空気が汚染され、そこに住む人に健康障害が起きる状態の総称だ。眼・鼻・のどの刺激感、頭痛、めまい、倦怠感など症状は多彩で、その建物を離れると軽くなるのが特徴なんだ。
医学生医学生
単一の病名というより、状況を含めた症候群なんですね。では原因としては何を選べばいいでしょうか。
ドクタードクター
大きく2つに分けて考えるとわかりやすい。1つは建材や接着剤、塗料、家具から放散される化学物質、もう1つはカビやダニといった生物学的因子だ。まず化学物質の代表が揮発性有機化合物、いわゆるVOCだね。
医学生医学生
ホルムアルデヒドやトルエンですよね。CBTの勉強で「新築の家の臭い」と結びつけて覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だ。常温で揮発して空気中に出てくる有機化合物の総称で、改築・新築直後ほど濃度が高くなりやすい。今回の経過にいちばんよく合う原因と言っていい。
医学生医学生
カビやダニも入るのは少し意外でした。アレルギーの原因というイメージが強くて。
ドクタードクター
そこがこの問題のポイントだね。改築で気密性が高まると換気が不足し、湿度が上がって結露しやすくなる。するとカビやダニが繁殖しやすい。カビの胞子やカビが出す揮発性物質、ダニの虫体や糞などのアレルゲンが室内空気を汚して、症状の原因になりうるんだ。だからシックハウス症候群の原因として、化学物質とあわせて生物学的因子も含めて考える。
医学生医学生
なるほど、改築は化学物質を増やすだけでなく、カビやダニが増える環境もつくるわけですね。では紫外線はどうですか。目の充血は起こしそうですが。
ドクタードクター
紫外線は確かに角結膜炎を起こす。雪眼炎や溶接作業での電気性眼炎が有名だね。ただ主な曝露は屋外の強い日光や溶接光で、曝露後数時間で強い眼痛や流涙が出るのが典型だ。自宅にいるときにだけ症状が出るという今回の経過は説明できない。
医学生医学生
浮遊粒子状物質も、空気が汚れているという意味では当てはまりそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。浮遊粒子状物質は大気中に浮かぶ粒径10μm以下の粒子で、工場や自動車の排出ガスなどに由来する屋外の大気汚染物質として環境基準が定められている。家の改築とも、自宅でだけ症状が出ることとも結びつかないから、今回は原因として考えにくい。
医学生医学生
「屋内に限局した、改築と関連する因子」という軸で選べば、揮発性有機化合物とカビとダニの3つになるということですね。
ドクタードクター
その通り。では制度と対策も押さえておこう。厚生労働省はホルムアルデヒドなど13物質について室内濃度指針値を定めている。また2003年の建築基準法改正で、ホルムアルデヒドを放散する建材の使用制限、防蟻剤のクロルピリホスの使用禁止、居室への機械換気設備、いわゆる24時間換気の設置が義務化された。
医学生医学生
個人でできる対策はやはり換気ですか。
ドクタードクター
そう、換気が基本で、加えて除湿・結露防止、こまめな清掃がカビやダニ対策にもなる。臨床では、問診で「どこで症状が出るか」「最近引っ越しや改築をしたか」を聞くことが診断の糸口になる。関連して、大量の化学物質に曝露した後、ごく微量でも多彩な症状が出るようになる化学物質過敏症という状態もある。こちらは場所を問わず症状が出る点で区別されるよ。
医学生医学生
臨床実習の医療面接でも、生活環境の変化は意識して聞くようにします。
ドクタードクター
ぜひそうしてほしい。身体所見が乏しい訴えほど、環境と時間軸の問診が力を発揮するんだ。

まとめ

改築や新築の後に、その住宅にいるときだけ眼・鼻・のどの刺激感、頭痛、めまいなどが出る場合はシックハウス症候群を考えます。原因はホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性有機化合物に代表される化学物質と、高気密・換気不足・高湿度で増えるカビやダニなどの生物学的因子に大別されます。紫外線や浮遊粒子状物質は主に屋外で曝露する因子であり、自宅でのみ症状が出るという場所依存性を説明できません。対策の基本は換気・除湿・清掃で、2003年の建築基準法改正では建材の規制や24時間換気設備の設置義務化が行われました。症状の出る場所と生活環境の変化を問診で確認する姿勢は、環境要因による健康障害を見抜くうえで欠かせない視点です。

解答・解説

正解はa, b, eです

所見の整理

・52歳男性。主訴は「目がチカチカする」という眼の刺激感で、眼球結膜に軽度の充血がある。 ・頭痛とめまいを伴う。 ・症状は2か月前から出現し、とくに自宅にいるときに強い。 ・5か月前に自宅を改築している。 ・眼の瘙痒感(かゆみ)はなく、その他の身体所見に異常はない。

診断へのプロセス

眼の刺激症状・結膜充血という粘膜刺激症状に、頭痛・めまいといった非特異的な全身(神経)症状が加わっている。身体所見は乏しく、器質的な眼疾患や神経疾患を示す所見はない。最も重要な手がかりは「特定の場所(自宅)で症状が出る」という場所依存性と、「住宅の改築」という生活環境の変化が先行していることである。かゆみがないことは、花粉などによる典型的なアレルギー性結膜炎を積極的には疑わせない。 これらを合わせると、住宅の室内空気汚染によって粘膜刺激症状や頭痛・めまいなどが生じるシックハウス症候群が最も考えやすい。改築後3か月ほどで発症している点も、新しい建材・内装材から化学物質が放散され、また気密性が高まり換気が不十分になる経過と矛盾しない。

設問の考え方

問われているのは「本患者の症状の原因として考えられるもの」であり、すなわちシックハウス症候群の原因となる室内環境因子を選べばよい。シックハウス症候群の原因は大きく、(1)建材・接着剤・塗料・家具などから放散される化学物質(ホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性有機化合物)と、(2)カビ・ダニなどの生物学的因子に分けられる。一方、屋外で曝露する因子や、屋内に限局しない大気汚染因子は、自宅でのみ症状が強まるという経過を説明しにくいため除外する。

選択肢考察

  1. ○a.  カビ

    カビ(真菌)はシックハウス症候群の原因となる生物学的因子の一つである。改築により住宅の気密性が高まると換気が不足し、湿度が上がって結露が生じやすくなり、カビが繁殖しやすい環境になる。カビの胞子や、カビが産生する揮発性物質(微生物由来揮発性有機化合物)が粘膜刺激症状や頭痛の原因となりうる。対策として、こまめな換気、除湿、結露対策、清掃が挙げられる。

  2. ○b.  ダニ

    ダニ(とくにチリダニ類)の虫体や糞などのアレルゲンも、シックハウス症候群の原因となる室内の生物学的因子である。ダニは高温多湿の環境で増えやすく、気密性が高く換気が不十分な住宅では繁殖しやすい。カビと同様、換気・除湿や寝具・カーペットの清掃によって曝露を減らすことが対策となる。

  3. ×c.  紫外線

    紫外線は角結膜炎(雪眼炎・電気性眼炎など)を起こし、眼痛や充血の原因となるが、主な曝露は屋外の強い日光や溶接光などである。屋内、それも自宅にいるときに症状が出るという本症例の経過は、紫外線では説明できない。また紫外線による角膜障害は曝露後数時間で強い眼痛・流涙をきたすのが典型であり、本症例の臨床像とも合わない。

  4. ×d.  浮遊粒子状物質

    浮遊粒子状物質(SPM:suspended particulate matter)は大気中に浮遊する粒径10μm以下の粒子で、大気汚染に係る環境基準が定められている屋外の大気汚染物質である。工場や自動車の排出ガスなどに由来し、気道に沈着して呼吸器疾患などとの関連が指摘されている。屋外の大気汚染因子であり、自宅にいるときにだけ症状が強まる経過や、自宅の改築との時間的関連を説明できないため、本症例の原因としては考えにくい。

  5. ○e.  揮発性有機化合物

    揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds)は、常温で揮発して空気中に放散される有機化合物の総称で、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどが代表例である。建材、合板、接着剤、塗料、壁紙、家具などから放散され、シックハウス症候群の最も代表的な原因である。新築・改築直後の住宅で濃度が高くなりやすく、眼・鼻・咽頭の刺激症状、頭痛、めまい、倦怠感などを生じる。本症例は改築後に自宅でのみ症状が出ており、最も疑わしい原因である。改築した部屋の十分な換気が対策の基本となる。

シックハウス症候群とは

住宅の高気密化や新しい建材・内装材の使用などにより室内空気が汚染され、そこに居住する人に生じる健康障害の総称である。単一の疾患名ではなく、症状は多彩で個人差が大きい。 ・主な症状:眼・鼻・咽頭の刺激感(チカチカする、ヒリヒリする)、結膜充血、頭痛、めまい、倦怠感、吐き気、皮膚の発疹やかゆみなど。 ・特徴:特定の建物・部屋にいると症状が出現・増悪し、そこを離れると軽快する。

原因

・化学物質:ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンなどの揮発性有機化合物。建材、接着剤、塗料、防虫剤、家具などから放散される。 ・生物学的因子:カビ、ダニ、細菌など。高湿度・換気不足で増える。 ・その他:暖房器具の燃焼による汚染物質、たばこ煙なども室内空気を汚染する。

対策と制度

・厚生労働省は、ホルムアルデヒドなど13物質について室内濃度指針値を定めている。 ・2003年の建築基準法改正により、ホルムアルデヒドを放散する建材の使用制限、防蟻剤のクロルピリホスの使用禁止、居室への機械換気設備(いわゆる24時間換気)の設置義務化が行われた。 ・個人レベルでは換気、除湿・結露防止、清掃が基本となる。

関連:化学物質過敏症

一度大量の化学物質に曝露した後、ごく微量の化学物質でも多彩な症状が出るようになる状態を化学物質過敏症と呼ぶ。シックハウス症候群を契機に生じることもあり、場所を問わず症状が出る点で区別される。

POINT

・改築・新築後に「その住宅にいると」眼や鼻の刺激症状、頭痛、めまいが出る → シックハウス症候群。 ・原因は揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)とカビ・ダニなどの生物学的因子。 ・紫外線や浮遊粒子状物質は屋外由来の因子であり、場所依存性を説明できない。 ・対策の基本は換気。建築基準法で24時間換気設備の設置が義務付けられている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。