妊娠31週、短くなった頸管―「時間を稼ぐ」と「肺を育てる」の二本柱
第115回医師国家試験 F問題 第58問
国試問題にチャレンジ
28歳の経産婦(2妊1産)。妊娠31週0日,下腹部痛と性器出血を主訴に来院した。前回の妊娠は,妊娠32週0日で経腟分娩した。身長154cm,体重46kg(非妊時40kg)。体温36.6℃,脈拍72/分,整。胎位は頭位で推定胎児体重は2,000g。子宮に圧痛を認めない。腟鏡診にて腟内に少量の血液付着を認めるが,持続的な出血や羊水流出を認めない。経腟超音波断層法検査所見(A)及び胎児心拍数陣痛図(B)を下に示す。 適切な対応はどれか。2つ選べ。

- a.抗菌薬投与
- b.緊急帝王切開
- c.子宮頸管縫縮術
- d.子宮収縮抑制剤投与
- e.副腎皮質ステロイド投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
妊娠22週以降37週未満で規則的な子宮収縮と子宮頸管の短縮・開大を認める状態が切迫早産で、早産既往は重要なリスク因子です。下腹部痛と性器出血を伴う場合は、子宮圧痛や胎児心拍数陣痛図の所見から常位胎盤早期剝離を、経腟超音波から前置胎盤を必ず鑑別します。胎児の状態が良好で感染徴候がなければ、子宮収縮抑制薬で分娩を遅らせつつ、34週未満ではベタメタゾンを母体に投与して呼吸窮迫症候群や脳室内出血などを予防するのが管理の柱です。未破水例への抗菌薬のルーチン投与、妊娠後期で収縮を伴う症例への頸管縫縮術、胎児機能不全のない状況での緊急帝王切開はいずれも適応になりません。「時間を稼ぐ」と「肺を育てる」をセットで理解することは、早産管理全体の考え方と母体搬送の判断の土台になります。
解答・解説
正解はd, eです
症例の整理
・28歳、2妊1産。前回は妊娠32週0日で経腟分娩しており、早産の既往がある。早産既往は次回妊娠の早産の最も重要なリスク因子の一つである。 ・妊娠31週0日、下腹部痛と性器出血で来院した。 ・体温36.6℃、脈拍72/分:母体の発熱・頻脈はない。 ・頭位、推定胎児体重2,000g:31週としておおむね標準的な発育である。 ・子宮の圧痛なし。腟内に少量の血液付着はあるが持続的な出血はなく、羊水流出もない(破水はしていない)。 ・経腟超音波(A):子宮頸管長が13mmと著明に短縮し、内子宮口が羊膜腔側から楔状に開いている(funneling)。妊娠中期以降の頸管長はおおむね30mm以上が目安で、25mm未満を短縮とみなすため、本例は高度の短縮である。 ・胎児心拍数陣痛図(B):胎児心拍数基線は140〜150bpm程度で正常範囲、基線細変動も保たれ、一過性頻脈を認める。一過性徐脈はなく、胎児の状態は良好(reassuring)である。一方、陣痛曲線では数分おきに規則的な子宮収縮がみられる。
診断のプロセス
妊娠中期〜後期の下腹部痛と性器出血では、切迫早産、常位胎盤早期剝離、前置胎盤を鑑別する。 ・前置胎盤:経腟超音波で内子宮口付近に胎盤がなく否定的である。 ・常位胎盤早期剝離:子宮の圧痛・板状硬がなく、出血は少量で、胎児心拍数陣痛図に遅発一過性徐脈や基線細変動の減少などの胎児機能不全の所見がないことから、現時点では否定的である。ただし初期の早剝は切迫早産と区別がつきにくいため、慎重な経過観察が必要である。 ・切迫早産:妊娠22週以降37週未満で、規則的な子宮収縮と頸管の短縮・開大を認めることから、これに該当する。 さらに、発熱・母体頻脈・子宮圧痛がないため臨床的絨毛膜羊膜炎は考えにくく、破水もない。
設問の考え方
妊娠31週で胎児・母体ともに急いで娩出させる理由はない。管理の基本は、子宮収縮抑制薬で分娩をできるだけ遅らせつつ、1週間以内に早産となる可能性が高いため、母体に副腎皮質ステロイドを投与して胎児の肺成熟などを促すことである。子宮収縮抑制薬で少なくともステロイドの効果が現れるまでの時間(投与完了から24〜48時間程度)を稼ぐ、という組み合わせが重要である。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
適切ではない。未破水の切迫早産に対して抗菌薬をルーチンに投与しても、妊娠期間の延長や新生児予後の改善は示されておらず、推奨されない。抗菌薬の投与が考慮されるのは、前期破水(特に早産期の前期破水で感染予防と妊娠期間延長を目的とする場合)、絨毛膜羊膜炎が疑われる場合、GBS(B群溶血性レンサ球菌)陽性または不明のまま分娩が進行する場合などである。本例は破水がなく、発熱や子宮圧痛などの感染徴候もない。
- ×b. 緊急帝王切開
適切ではない。緊急帝王切開は、胎児機能不全、常位胎盤早期剝離、重症の絨毛膜羊膜炎など、直ちに児を娩出しなければ母児に危険が及ぶ場合に行う。本例は胎児心拍数陣痛図で胎児の状態が良好で、早剝や感染を疑う所見もない。妊娠31週での娩出は新生児に早産の合併症(呼吸窮迫症候群、脳室内出血、壊死性腸炎など)のリスクを負わせるため、可能な限り妊娠を継続させるべきである。
- ×c. 子宮頸管縫縮術
適切ではない。子宮頸管縫縮術(シロッカー法、マクドナルド法)は、頸管無力症に対する予防的手術、あるいは妊娠中期(おおむね26週未満)に頸管短縮が見つかった症例などに行われる。本例はすでに妊娠31週で、規則的な子宮収縮と性器出血を伴っており、この状態で手術を行うと子宮収縮の誘発、破水、感染を招くおそれがある。児も体外生活が十分可能な段階に達しており、縫縮術の適応はない。
- ○d. 子宮収縮抑制剤投与
適切である。規則的な子宮収縮と頸管短縮を伴う切迫早産であり、子宮収縮を抑えて分娩を遅らせることが目標となる。わが国ではβ2刺激薬のリトドリン塩酸塩の点滴静注、硫酸マグネシウムの点滴静注が用いられる。子宮収縮抑制薬の最大の意義は、母体搬送やステロイド投与の効果発現のための時間(48時間程度)を確保することにある。長期投与の有効性は確立しておらず、リトドリンでは頻脈・動悸、肺水腫、低カリウム血症、高血糖、顆粒球減少など、硫酸マグネシウムでは高マグネシウム血症(腱反射消失、呼吸抑制)に注意する。
- ○e. 副腎皮質ステロイド投与
適切である。妊娠22週以降34週未満で1週間以内に早産となる可能性が高い場合には、母体に副腎皮質ステロイドを投与する(antenatal corticosteroid)。標準的にはベタメタゾン12mgを24時間ごとに2回筋肉内投与する。ステロイドは胎盤を通過して胎児の肺サーファクタント産生を促し、新生児呼吸窮迫症候群を減らすとともに、脳室内出血、壊死性腸炎、新生児死亡も減少させる。効果は投与開始後24時間ほどで現れ、2回目投与から約1週間持続するとされる。
切迫早産とは
妊娠22週0日から36週6日までに、規則的な子宮収縮と子宮頸管の開大・短縮がみられ、早産に至る危険性が高い状態をいう。症状は下腹部痛・腹部緊満感、腰痛、少量の性器出血(いわゆる産徴)、帯下の増加などである。
早産の主なリスク因子
早産の既往、頸管長の短縮、子宮頸部円錐切除術後、多胎妊娠、細菌性腟症・絨毛膜羊膜炎などの感染、子宮奇形・子宮筋腫、喫煙、やせなど。妊娠中期の経腟超音波で頸管長を測定し、短縮やfunnelingの有無を評価することは早産リスクの予測に有用である。また腟分泌物中の癌胎児性フィブロネクチン検査は、陰性であれば短期間に早産となる可能性が低いことの指標になる。
切迫早産の管理の要点
・安静と子宮収縮抑制薬:リトドリン塩酸塩、硫酸マグネシウム。 ・胎児肺成熟の促進:妊娠34週未満で1週間以内の早産が予想されればベタメタゾンを投与する。 ・胎児脳保護:妊娠32週未満の早産が差し迫っている場合、児の脳性麻痺を減らす目的で母体に硫酸マグネシウムを投与することがある。 ・NICUのある施設への母体搬送:早産児の管理が可能な周産期母子医療センターでの分娩が望ましい。 ・感染の評価:絨毛膜羊膜炎(母体発熱、母体頻脈、子宮圧痛、悪臭のある帯下、胎児頻脈、白血球増加など)が明らかな場合は、子宮収縮抑制により妊娠を継続させることがかえって母児に不利益となるため、抗菌薬投与とともに分娩を考慮する。
性器出血を伴う妊娠後半の鑑別
・常位胎盤早期剝離:持続する下腹部痛、子宮の圧痛・板状硬、胎児機能不全(遅発一過性徐脈、基線細変動の減少)、DICを伴いやすい。外出血の量は重症度と相関しないことがある。 ・前置胎盤:無痛性の性器出血が特徴で、経腟超音波で内子宮口を覆う胎盤を確認する。内診は大出血を誘発しうるため避ける。 ・切迫早産:規則的な子宮収縮と頸管の短縮・開大、少量の出血。
POINT
・切迫早産(22週以降37週未満、規則的子宮収縮+頸管短縮・開大)では、子宮収縮抑制薬で分娩を遅らせ、34週未満ならベタメタゾンで胎児肺成熟を促す。 ・ベタメタゾン12mgを24時間ごとに2回筋注。呼吸窮迫症候群、脳室内出血、壊死性腸炎、新生児死亡を減らす。 ・未破水・感染徴候なしの切迫早産に抗菌薬のルーチン投与は行わない。 ・子宮頸管縫縮術は妊娠中期の頸管無力症・頸管短縮が対象で、子宮収縮・出血を伴う妊娠後期の切迫早産には行わない。 ・胎児機能不全・早剝・絨毛膜羊膜炎がなければ、緊急帝王切開ではなく妊娠継続を図る。 ・下腹部痛+性器出血では常位胎盤早期剝離を必ず鑑別し、胎児心拍数陣痛図で胎児の状態を確認する。
