StudyMed医師国家試験

温暖化で蚊が北上する―地球環境問題と健康影響を「因果の道筋」で結ぶ

第120回医師国家試験 C問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第5問

地球環境の変化により懸念されているのはどれか。

  1. a.気候変動によるデング熱の増加
  2. b.海洋汚染によるクレチン症の増加
  3. c.酸性雨による抗酸菌感染症の増加
  4. d.オゾン層の破壊による呼吸器疾患の増加
  5. e.森林面積の減少によるアレルギー疾患の増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、地球環境問題とそれによって懸念される健康影響の組み合わせを問う問題だ。ポイントは、それぞれの環境変化が「どんな機序で」人の健康に影響するのかを一本の道筋でつなげられるかどうか。なんとなく関係がありそうな言葉に惑わされないことが大切だよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染、森林減少と一通り習いましたが、健康影響まではあいまいです。
ドクタードクター
そこを整理するのが今日の目標だ。まず温暖化・気候変動から考えよう。気温が上がると、感染症の世界では何が起こると思う?
医学生医学生
蚊のような虫が増える、というイメージがあります。
ドクタードクター
その通り。蚊などの媒介動物、いわゆるベクターの生息域が高緯度や高地へ広がり、活動できる期間も長くなる。さらに気温が高いと蚊の体内でウイルスが増えるスピードも速くなる。だから、デング熱などの蚊媒介感染症の流行地域拡大は、国際的にも主要な懸念事項とされているんだ。これが正解だね。
医学生医学生
デング熱って熱帯の病気だと思っていましたが、日本でも関係あるんですか。
ドクタードクター
大いにある。2014年に、海外渡航歴のない人の国内感染例が約70年ぶりに多数報告された。東京都の公園周辺を中心とした流行で、媒介したのはヒトスジシマカだ。この蚊は日本に広く分布していて、分布の北限は温暖化とともに北上し、東北地方にまで達しているんだよ。
医学生医学生
感染症の授業でニュースとして紹介されたのを思い出しました。輸入例を起点に国内で広がりうるということですね。
ドクタードクター
そう。国際的な人の移動の増加も拍車をかけている。デング熱は感染症法の四類感染症で、診断したら直ちに届け出る。では他の組み合わせを見ていこう。海洋汚染とクレチン症はどうかな。
医学生医学生
海の汚染物質が甲状腺に影響するのかな、と一瞬思いました。
ドクタードクター
そう思わせるのが出題の狙いだね。クレチン症は先天性甲状腺機能低下症で、原因は甲状腺の形成異常やホルモン合成障害、世界的には妊婦のヨウ素欠乏が重要だ。海洋汚染との関連は知られていない。海洋汚染で問題になるのは、メチル水銀の生物濃縮による水俣病のような健康被害や、マイクロプラスチックだよ。
医学生医学生
水俣病なら衛生学で必ず出てきます。生物濃縮がキーワードですね。酸性雨と抗酸菌感染症は、名前の「酸」でつなげただけに見えます。
ドクタードクター
鋭いね。酸性雨は化石燃料の燃焼で出る硫黄酸化物や窒素酸化物が雨に溶けてpH5.6以下になったもので、主な影響は森林の枯死、湖沼の酸性化、土壌の劣化、建造物の腐食といった生態系や構造物への被害だ。結核や非結核性抗酸菌症との因果関係は確立されていない。
医学生医学生
オゾン層の破壊と呼吸器疾患は、光化学スモッグのオゾンと混同しそうです。
ドクタードクター
まさにそこが引っかけ。成層圏のオゾン層は紫外線、特にUV-Bを吸収している。破壊されると地表に届く紫外線が増えて、皮膚癌や白内障、免疫機能の低下が懸念されるんだ。一方、呼吸器を刺激するのは地表付近で生じる光化学オキシダントで、これはまったく別の大気汚染問題だよ。
医学生医学生
上空のオゾンは「減ると困る」、地表のオゾンは「増えると困る」と覚えます。森林減少とアレルギー疾患はどうですか。
ドクタードクター
森林減少で懸念されるのは、二酸化炭素吸収量の低下による温暖化の加速、生物多様性の喪失、土壌流出や洪水、そして野生動物と人との接触機会が増えることによる人獣共通感染症、つまり新興感染症の出現だ。アレルギー疾患の増加は、都市化や衛生環境の変化、大気汚染、生活様式の変化などとの関連が指摘されていて、森林減少との因果関係は確立されていない。
医学生医学生
環境問題ごとに「何が増えて、体のどこに効くか」を順にたどれば、無理な組み合わせを見抜けますね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床の視点も加えておこう。温暖化の健康影響は感染症だけではない。熱中症や熱関連死亡の増加、豪雨・洪水などの災害による健康被害、食料生産への影響による栄養不良も含まれる。夏の救急外来では、高齢者の熱中症が年々大きな問題になっているね。
医学生医学生
発熱患者を診るときも、渡航歴だけでなく国内での蚊刺されの有無を聞く意味があるということですね。
ドクタードクター
そう、それが2014年の教訓だ。地球規模の変化は、目の前の患者の問診にもつながっている。オゾン層については、1987年採択のモントリオール議定書でフロン類が規制され、回復傾向にあることも押さえておこう。

まとめ

地球環境問題の健康影響は、環境変化から疾患に至る機序を一本の道筋でつなげて理解することが重要です。気候変動(温暖化)は媒介蚊の生息域拡大や活動期間の延長を通じてデング熱などの蚊媒介感染症の流行域を広げ、日本でも2014年にヒトスジシマカを介した国内流行が約70年ぶりに起こりました。オゾン層の破壊は紫外線(UV-B)増加による皮膚癌・白内障、酸性雨は森林・湖沼・建造物への被害、海洋汚染はメチル水銀の生物濃縮など、森林減少は温暖化の加速や人獣共通感染症の出現が代表的な懸念です。クレチン症の環境要因はヨウ素欠乏、呼吸器刺激は地表の光化学オキシダントであり、似た言葉による誤った組み合わせに注意が必要です。温暖化に伴う熱中症や国内での蚊媒介感染症は臨床現場でも身近な問題であり、問診や診療にも生きる知識です。

解答・解説

正解はaです

問われていること

地球環境問題(地球温暖化・気候変動、オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染、森林減少など)は、それぞれ特有の経路で人の健康に影響を及ぼす。本問では、各環境問題と、それによって懸念される健康影響の組み合わせが正しいかを判断する。

考え方

各選択肢について「その環境変化が、どのような機序でその疾患を増やすのか」を考える。 ・気候変動(温暖化)→ 蚊などの媒介動物(ベクター)の生息域拡大・活動期間延長 → 蚊媒介感染症の増加、という因果の流れは明確で、国際的にも主要な懸念事項とされている。 ・一方、クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)、抗酸菌感染症、呼吸器疾患、アレルギー疾患は、それぞれの環境問題との間に確立した因果関係がない。 各環境問題で懸念される代表的な健康影響を正しく対応づけて覚えておくことが、正解を導く鍵である。

選択肢考察

  1. ○a.  気候変動によるデング熱の増加

    デング熱はデングウイルスによる感染症で、ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。気温上昇や降雨パターンの変化により、これらの蚊の生息域が高緯度・高標高の地域へ広がり、活動期間も長くなるため、流行地域の拡大が懸念されている。日本でも2014年に、海外渡航歴のない人の国内感染例が約70年ぶりに多数報告された(東京都の公園周辺を中心とする流行で、ヒトスジシマカが媒介した)。ヒトスジシマカの分布北限は温暖化とともに北上しており、東北地方まで達している。

  2. ×b.  海洋汚染によるクレチン症の増加

    クレチン症は先天性甲状腺機能低下症であり、胎児期・新生児期の甲状腺ホルモン不足によって知能障害や発育障害をきたす。原因は甲状腺の形成異常やホルモン合成障害などのほか、世界的には妊婦のヨウ素欠乏(地方病性クレチン症)が重要である。海洋汚染との関連は知られていない。海洋汚染で問題となるのは、メチル水銀の生物濃縮による水俣病のような健康被害や、マイクロプラスチックによる生態系への影響などである。

  3. ×c.  酸性雨による抗酸菌感染症の増加

    酸性雨は、化石燃料の燃焼で生じる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が雨に溶け込み、pH5.6以下となったものである。主な影響は森林の枯死、湖沼の酸性化による魚類の減少、土壌の劣化、建造物の腐食など生態系や構造物に対するものである。結核や非結核性抗酸菌症などの抗酸菌感染症と酸性雨の因果関係は確立されていない。

  4. ×d.  オゾン層の破壊による呼吸器疾患の増加

    成層圏のオゾン層は、太陽からの有害な紫外線(特にUV-B)を吸収している。フロンなどによってオゾン層が破壊されると地表に届く紫外線量が増え、皮膚癌(特に非黒色腫皮膚癌)、白内障、免疫機能の低下などが懸念される。呼吸器疾患との直接的な関連はない。なお、呼吸器への刺激が問題となるのは地表付近で発生する光化学オキシダント(光化学スモッグの主成分のオゾン)であり、これは成層圏のオゾン層破壊とは別の大気汚染問題である。

  5. ×e.  森林面積の減少によるアレルギー疾患の増加

    森林減少で懸念されるのは、二酸化炭素吸収量の低下による温暖化の加速、生物多様性の喪失、土壌流出や洪水、そして野生動物と人との接触機会の増加による人獣共通感染症(新興感染症)の出現などである。アレルギー疾患の増加は、都市化や衛生環境の変化(衛生仮説)、大気汚染、生活様式の変化などとの関連が指摘されており、森林面積の減少との因果関係は確立されていない。

主な地球環境問題と健康影響

・地球温暖化・気候変動: 熱中症・熱関連死亡の増加、蚊媒介感染症(デング熱、マラリア、チクングニア熱、ジカウイルス感染症など)の流行域拡大、水系・食品媒介感染症の増加、豪雨・洪水など自然災害による健康被害、食料生産への影響による栄養不良。 ・オゾン層の破壊: 地表へのUV-B増加 → 皮膚癌、白内障、免疫抑制。原因物質はフロン類など。1987年採択のモントリオール議定書で規制され、オゾン層は回復傾向にある。 ・酸性雨: SOx・NOxが原因。森林・湖沼・土壌・建造物への被害が中心。 ・海洋汚染: 重金属(メチル水銀など)や有害化学物質の生物濃縮、油汚染、プラスチックごみ・マイクロプラスチック。 ・森林減少(熱帯林の減少): 温暖化の加速、生物多様性の喪失、人獣共通感染症の出現リスク。 ・砂漠化: 食料不足、黄砂など。

温暖化と感染症

・媒介蚊の分布拡大に加え、気温上昇は蚊の体内でのウイルス増殖を速め、感染伝播の効率も高める。 ・日本ではデング熱を媒介しうるヒトスジシマカが広く分布しており、輸入例を起点とした国内流行が起こりうる。デング熱は感染症法の四類感染症で、診断した医師は直ちに届け出る。 ・国際的な人の移動の増加も、輸入感染症の増加に拍車をかけている。

POINT

・気候変動(温暖化)→ 媒介蚊の生息域拡大 → デング熱などの蚊媒介感染症の増加。2014年に日本で約70年ぶりの国内感染が発生。 ・オゾン層の破壊 → 紫外線(UV-B)増加 → 皮膚癌・白内障。 ・酸性雨 → 森林・湖沼・建造物への被害。 ・森林減少 → 温暖化加速、生物多様性喪失、人獣共通感染症。 ・クレチン症の環境要因はヨウ素欠乏であり、海洋汚染ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。