蛇口・川・排水口―「どの水を測るか」で決まる3つの水の基準
第118回医師国家試験 C問題 第56問
国試問題にチャレンジ
近隣住民から水道水の臭いについて保健所に相談があった。①水道水の検査結果を調査したところ臭いに関する項目は基準値内であった。この水道の水源である②河川の検査では,生物化学的酸素要求量〈BOD〉値が高値であった。その河川の上流には食品工場がある。 下線部①,②の検査基準の組合せで正しいのはどれか。
- a.①環境基準 ②排水基準
- b.①許容基準 ②環境基準
- c.①許容基準 ②排水基準
- d.①水質基準 ②環境基準
- e.①水質基準 ②排水基準
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
水に関する基準は、測定対象の水によって使い分けます。水道水は水道法に基づく「水質基準」で評価し、健康項目に加えて臭気や味、色度などの性状項目も含まれます。河川・湖沼・海域などの公共用水域は環境基本法に基づく「環境基準」で評価され、これは罰則を伴わない行政上の目標値で、BODなどの生活環境項目が含まれます。工場・事業場の排出水には水質汚濁防止法に基づく罰則付きの「排水基準」が適用されるため、上流に工場があっても河川水そのものの検査なら環境基準となります。BODは河川、CODは湖沼・海域の有機汚濁指標であることも合わせ、「どこの水を測るか」で基準を整理することが、地域の水環境問題に対応する公衆衛生の基本となります。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・住民から水道水の臭いについて保健所に相談があった。 ・①:水道水(蛇口から出る飲用水)の検査結果を確認し、臭いに関する項目は基準値内であった。 ・②:その水道の水源である河川を検査したところ、BOD(biochemical oxygen demand:生物化学的酸素要求量)が高値であった。 ・河川の上流には食品工場がある。食品工場の排水は有機物を多く含み、河川のBODを上昇させる原因となりうる。
考え方
水に関する基準は「何を測っているのか(どの水か)」と「どの法律に基づくか」で区別する。 ・飲用に供する水道水そのもの → 水道法に基づく「水質基準」 ・河川・湖沼・海域などの公共用水域の水 → 環境基本法に基づく「水質汚濁に係る環境基準」 ・工場・事業場から公共用水域へ出される排水 → 水質汚濁防止法に基づく「排水基準」 下線部①は水道水の検査であるから水質基準、下線部②は河川(公共用水域)そのものの検査であるから環境基準で評価される。工場の排水口で採取した水であれば排水基準の対象となるが、②はあくまで河川水の検査である点がポイントである。 なお、本例の臭いの原因としては、上流からの有機物負荷により河川が富栄養化・汚濁し、それが浄水処理で除ききれない臭気につながっている可能性が考えられる。水道水が水質基準を満たしていても、水源の環境基準の達成状況や排水規制の遵守状況を確認することが対策につながる。
選択肢考察
- ×a. ①環境基準 ②排水基準
①の水道水は飲用水として水道法の水質基準で判定するもので、環境基準の対象ではない。②の河川水は公共用水域の水であり環境基準で評価する。排水基準は工場・事業場の排出水に適用されるもので、河川水そのものには適用されない。①②ともに誤りである。
- ×b. ①許容基準 ②環境基準
②の環境基準は正しいが、①が誤り。許容基準(許容濃度など)は、作業環境における化学物質の許容濃度や食品中の残留物質の基準など、「健康影響が生じないと考えられる許容範囲」を示す一般的な用語であり、水道水の適否を判定する法的基準は水道法の水質基準である。
- ×c. ①許容基準 ②排水基準
①の水道水は水質基準で評価し、許容基準ではない。②の河川水は環境基準で評価し、排水基準は工場排水に対する規制値である。①②ともに誤りである。
- ○d. ①水質基準 ②環境基準
①の水道水は、水道法に基づく水質基準によって飲用に適するかが判定される。水質基準には健康に関連する項目に加え、臭気や味、色度、かび臭物質など、水道水が有すべき性状に関する項目も含まれており、臭いの評価もこの基準で行う。②の河川水は公共用水域の水であり、環境基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準(生活環境の保全に関する項目としてBODなど)で評価される。両者の組合せとして正しい。
- ×e. ①水質基準 ②排水基準
①の水質基準は正しいが、②が誤り。排水基準は水質汚濁防止法に基づき、工場・事業場が公共用水域へ排出する水に対して定められた許容限度である。本問の②は工場の排水ではなく河川そのものの検査であるため、環境基準で評価する。上流の食品工場の排水を調べる段階になれば排水基準が問題となる。
水に関する3つの基準
・水質基準(水道法):水道水が満たすべき基準。健康に関連する項目(一般細菌、大腸菌、重金属、消毒副生成物など)と、水道水が有すべき性状に関連する項目(臭気、味、色度、濁度、かび臭物質など)から構成される。大腸菌は「検出されないこと」とされる。水道事業者には定期的な水質検査が義務づけられている。なお、2024年4月から水道行政は厚生労働省から国土交通省・環境省へ移管され、水質基準の策定は環境省が担っている。 ・環境基準(環境基本法):人の健康を保護し生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい基準(行政上の目標)」。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められている。水質汚濁に係る環境基準は、全公共用水域に一律に適用される「人の健康の保護に関する項目」(カドミウム、鉛など)と、水域の利用目的に応じて類型ごとに定める「生活環境の保全に関する項目」(BOD、COD、溶存酸素量、浮遊物質量、大腸菌数など)からなる。目標値であり、直接の罰則はない。 ・排水基準(水質汚濁防止法):環境基準の達成を目指して、工場・事業場などの発生源から公共用水域へ排出される水を規制する基準。違反には改善命令や罰則がある。
有機汚濁の指標
・BOD(生物化学的酸素要求量):水中の有機物が微生物によって分解される際に消費される酸素量。値が大きいほど有機物汚濁が強い。主に河川の指標として用いる。 ・COD(化学的酸素要求量):有機物を酸化剤で化学的に酸化する際に消費される酸化剤量を酸素量に換算したもの。湖沼・海域の指標として用いる。 ・DO(溶存酸素量):水に溶けている酸素量。有機汚濁が進むと微生物の酸素消費により低下する。
許容基準との違い
許容濃度・許容基準は、労働衛生(作業環境中の化学物質濃度の目安)、食品中の残留農薬など、分野ごとに「健康影響がないとみなせる限度」を示す用語として使われるもので、水道水や河川水の評価に用いる法定基準ではない。
POINT
・水道水 → 水道法の「水質基準」。 ・河川・湖沼・海域(公共用水域) → 環境基本法の「環境基準」(行政上の目標値)。 ・工場・事業場の排水 → 水質汚濁防止法の「排水基準」(規制値、罰則あり)。 ・BODは河川、CODは湖沼・海域の有機汚濁の指標。
