StudyMed医師国家試験

なぜ魚から?―生物濃縮で読み解くメチル水銀と曝露経路

第119回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第13問

主要な曝露源が魚介類摂取であるのはどれか。

  1. a.鉛
  2. b.カドミウム
  3. c.メチル水銀
  4. d.塩化ビニルモノマー
  5. e.テトラクロロエチレン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、有害物質が「どの経路で体に入ってくるか」を問う公衆衛生の問題だ。物質名を覚えているだけでは解けなくて、その物質がどこで使われ、環境中でどうふるまうかを結びつけるのがポイントになる。魚介類が曝露源になるのはどんな物質か、まずは考えてみよう。
医学生医学生
魚に関係するといえば水俣病なので、メチル水銀がすぐ浮かびます。でも、カドミウムもイタイイタイ病で川が汚染されたと習ったので、少し迷います。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。どちらも「水の汚染」から始まった公害だけど、人の口に入った経路が違うんだ。カドミウムは鉱山から川に流れ、その水が水田を汚染した。住民は汚染された米や飲料水を長く摂取して発症したんだよ。
医学生医学生
川そのものより、田んぼと米が主な経路だったんですね。
ドクタードクター
そう。実際、現在でも一般の日本人のカドミウム摂取源で最も大きいのは米などの穀類や野菜だ。イカやタコ、貝の内臓にも比較的多いけれど、主要な経路とまではいえない。腎近位尿細管障害と骨軟化症が特徴で、閉経後の多産の女性に多かったことも押さえておこう。
医学生医学生
では、メチル水銀が魚に集まるのはなぜでしょうか。
ドクタードクター
キーワードは生物濃縮だ。メチル水銀は分解・排泄されにくく、蛋白のSH基と結合しやすいので、生物の体内にとどまる。プランクトンから小魚、大型魚へと食物連鎖を上がるたびに濃度が上がり、マグロ、カジキ、キンメダイのような大型の捕食魚や一部の鯨類で特に高くなる。一般の人のメチル水銀曝露は、ほぼすべてが魚介類の摂取によるものなんだ。
医学生医学生
衛生学の講義で、無機水銀が水底の微生物でメチル化されるという話も聞きました。
ドクタードクター
その通り。工場排水に含まれるものだけでなく、自然界の無機水銀もメチル化されて魚に取り込まれる。水俣病では化学工場のアセトアルデヒド製造工程で生じたメチル水銀が流出し、汚染魚介類を食べ続けた住民が発症した。症状は四肢末端優位の感覚障害、小脳失調、求心性視野狭窄、難聴、構音障害で、Hunter-Russell症候群と呼ばれる。
医学生医学生
残りの鉛、塩化ビニルモノマー、テトラクロロエチレンは、作業現場で吸い込むイメージがあります。
ドクタードクター
まさにそれが共通点。鉛は蓄電池製造や精錬、はんだ付けなどで粉じんやヒュームを吸入して起こる。一般環境では古い塗料片や鉛製の給水管が問題で、小児が口に入れることもある。ヘム合成阻害による貧血、鉛疝痛、橈骨神経麻痺による下垂手が有名だね。
医学生医学生
塩化ビニルモノマーは、CBTの過去問で肝血管肉腫とセットで出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。塩ビ樹脂の原料で、重合工程での吸入曝露により肝血管肉腫、指先の骨が溶ける末端骨溶解症、Raynaud現象などを起こす。テトラクロロエチレンはドライクリーニングや金属の脱脂洗浄に使う揮発性の溶剤で、作業中の吸入が主。工場跡地から地下水を汚染して井戸水経由で曝露した例はあるけれど、揮発しやすく魚に濃縮される物質ではない。
医学生医学生
整理すると、魚ならメチル水銀、米ならカドミウム、作業場の吸入なら鉛や有機溶剤、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、生物濃縮はメチル水銀だけでなくPCB、ダイオキシン類、DDTなどの残留性有機汚染物質でも起こることを覚えておこう。どれも分解されにくく、脂溶性が高いという共通点がある。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦さんにマグロの食べ方を説明している場面がありました。あれもメチル水銀の話でしょうか。
ドクタードクター
そうだよ。メチル水銀は消化管からほぼ完全に吸収され、血液脳関門と胎盤を通過する。水俣病でも、母親の摂取によって胎児が障害される胎児性水俣病が起きた。だから厚生労働省はキンメダイ、メカジキ、クロマグロなどについて妊婦向けの摂取量の目安を示している。ただし魚は良質な蛋白質やn-3系脂肪酸の供給源だから、「魚を控えて」ではなく「種類と量に気をつけてバランスよく」と伝えるのが大切だ。
医学生医学生
水銀でも、体温計の金属水銀は吸入で振戦や歯肉炎、無機水銀は腎障害と、形態によって違うんでしたね。
ドクタードクター
その通り。同じ水銀でも、形態によって吸収経路も標的臓器も変わる。物質名と曝露経路、標的臓器をセットで整理しておくと、公衆衛生の問題にも臨床の問診にも強くなるよ。

まとめ

魚介類が主要な曝露源となるのは、分解・排泄されにくく食物連鎖を通じて生物濃縮されるメチル水銀であり、マグロやキンメダイなど大型の捕食魚に高濃度で蓄積します。水俣病はメチル水銀に汚染された魚介類の摂取で生じ、感覚障害、小脳失調、求心性視野狭窄などのHunter-Russell症候群を示し、胎盤を通過するため胎児性水俣病も起こりました。これに対し、カドミウムは汚染米や飲料水が主な経路(イタイイタイ病)で、鉛、塩化ビニルモノマー、テトラクロロエチレンは主に職業性の吸入曝露が問題となります。妊婦には魚を避けさせるのではなく、種類と量に配慮した摂取を指導することが重要です。物質ごとに「使われ方・曝露経路・標的臓器」をセットで理解することが、公害の歴史の理解と現在の健康指導の両方につながります。

解答・解説

正解はcです

環境中の有害物質がどの経路で人体に入るかは、物質の性質と使われ方で決まる。魚介類を介する曝露が問題になるのは、水中に放出された物質が分解されにくく、脂溶性や生体成分との結合性が高いために生物の体内にとどまり、食物連鎖を通じて濃度が上がっていく(生物濃縮)物質である。 水銀は、工場排水に含まれていたり、自然界の無機水銀が水底の微生物によってメチル化されたりしてメチル水銀となる。メチル水銀は体外へ排泄されにくく、プランクトン→小魚→大型魚と食物連鎖をたどるごとに濃縮され、マグロ・カジキ・キンメダイなどの大型の捕食魚や一部の鯨類で特に高濃度となる。一般の人にとってのメチル水銀曝露は、ほぼすべてが魚介類の摂取によるものである。 他の選択肢は、職業性の吸入曝露(鉛、塩化ビニルモノマー、テトラクロロエチレン)や、汚染された農作物・飲料水(カドミウム)が主な経路として重要な物質であり、魚介類が主要な曝露源とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  鉛

    主要な曝露源は魚介類ではない。職業性の鉛中毒は、蓄電池製造、金属精錬、はんだ付け、鉛を含む塗料の除去作業などで発生する粉じんやヒュームの吸入によって起こる。一般環境では、古い塗料のはがれ片やほこり・土壌、鉛製の給水管を通った水道水などが曝露源となり、小児が誤って口に入れることも問題となる。症状として貧血(ヘム合成の阻害による)、腹部の疝痛(鉛疝痛)、末梢神経障害(橈骨神経麻痺による下垂手)、小児の発達障害などがみられる。

  2. ×b.  カドミウム

    主要な曝露源は魚介類ではない。一般の日本人のカドミウム摂取源として最も大きいのは米などの穀類や野菜である。イタイイタイ病(富山県神通川流域)は、鉱山から排出されたカドミウムが河川水や水田土壌を汚染し、汚染された米や飲料水を長期間摂取したことで発生した。腎近位尿細管障害(尿中β2-ミクログロブリン増加などを伴うFanconi症候群)と骨軟化症・骨粗鬆症を特徴とし、閉経後の多産の女性に多かった。イカやタコ、貝類の内臓にも比較的多く含まれるが、主要な曝露経路とはいえない。職業曝露では吸入による肺障害が問題となる。

  3. ○c.  メチル水銀

    正しい。メチル水銀は生物濃縮により魚介類、とくに食物連鎖の上位にある大型魚に高濃度で蓄積し、一般の人の主要な曝露源は魚介類の摂取である。水俣病(熊本県水俣湾周辺、新潟県阿賀野川流域)は、化学工場のアセトアルデヒド製造工程で生じたメチル水銀が排水とともに流出し、汚染された魚介類を住民が食べ続けたことで発生した。中枢神経が障害され、感覚障害(四肢末端優位)、小脳失調、求心性視野狭窄、難聴、構音障害などを示す(Hunter-Russell症候群)。胎盤を通過するため、母親の摂取によって胎児が障害される胎児性水俣病も生じた。

  4. ×d.  塩化ビニルモノマー

    主要な曝露源は魚介類ではない。塩化ビニルモノマーはポリ塩化ビニル(塩ビ樹脂)の原料となる揮発性の物質で、重合工程などでの作業者の吸入曝露が問題となる。長期曝露により肝血管肉腫、指先の骨が溶ける末端骨溶解症、Raynaud現象、肝障害などを起こす。ヒトに対する発癌物質に分類されている。

  5. ×e.  テトラクロロエチレン

    主要な曝露源は魚介類ではない。テトラクロロエチレンはドライクリーニングや金属部品の脱脂洗浄に使われる揮発性有機塩素系溶剤で、作業環境での吸入曝露が主である。工場跡地などから地下水を汚染した事例があり、汚染された井戸水の飲用も曝露経路となる。中枢神経抑制(めまい、意識障害)、肝・腎障害を起こし、発癌性も指摘されている。水環境では揮発しやすく、魚介類に濃縮されて問題となる物質ではない。

生物濃縮

環境中の物質が生物の体内に取り込まれ、環境中よりも高い濃度で蓄積すること。分解・排泄されにくく、脂溶性が高いか生体成分(蛋白のSH基など)と結合しやすい物質で起こりやすい。食物連鎖を上がるごとに濃度が高まるため、上位の捕食者ほど高濃度となる。代表例はメチル水銀のほか、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシン類、DDTなどの残留性有機汚染物質である。

メチル水銀と妊婦

メチル水銀は胎盤を通過し、発達中の胎児の神経系に影響しやすい。このため厚生労働省は妊婦(妊娠している可能性のある女性を含む)向けに、キンメダイ・メカジキ・クロマグロ・メバチなどメチル水銀を比較的多く含む魚の摂取量の目安を示している。一方で魚は良質な蛋白質やn-3系脂肪酸の供給源であり、魚を食べること自体を控える必要はなく、種類と量に注意してバランスよく摂取するよう指導される。

水銀の形態による違い

・金属水銀(水銀蒸気): 体温計などに用いられ、主に吸入で吸収される。振戦、歯肉炎、精神症状(易刺激性など)を起こす。 ・無機水銀: 主に腎障害を起こす。 ・有機水銀(メチル水銀): 消化管からほぼ完全に吸収され、血液脳関門と胎盤を通過して中枢神経を障害する。

四大公害病の整理

・水俣病(熊本)・新潟水俣病: メチル水銀、汚染魚介類の摂取 ・イタイイタイ病(富山): カドミウム、汚染された米・飲料水の摂取 ・四日市ぜんそく(三重): 硫黄酸化物などの大気汚染物質の吸入

POINT

・メチル水銀は生物濃縮により大型魚に高濃度で蓄積し、一般の人の主な曝露源は魚介類である(水俣病)。 ・カドミウムの主な摂取源は米などの農作物・飲料水である(イタイイタイ病)。 ・鉛、塩化ビニルモノマー、テトラクロロエチレンは主に職業性の吸入曝露が問題となる。 ・塩化ビニルモノマーは肝血管肉腫、テトラクロロエチレンはドライクリーニング溶剤・地下水汚染と結び付けて覚える。 ・メチル水銀は胎盤を通過するため、妊婦には魚の種類と摂取量に関する注意が示されている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。