フロンが増えると何が増える?―オゾン層・紫外線・皮膚癌をつなぐ一本の線
第111回医師国家試験 G問題 第6問
国試問題にチャレンジ
大気中のフロンの増加に関連すると考えられているのはどれか。
- a.緑内障の増加
- b.肺気腫の増加
- c.皮膚癌の増加
- d.コレラの分布域拡大
- e.温帯地域の低体温症の増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
フロンは成層圏で紫外線により分解されて塩素原子を放出し、オゾン層を破壊します。その結果、地表に届く中波長紫外線(UV-B)が増え、DNA損傷を介して基底細胞癌・有棘細胞癌・悪性黒色腫などの皮膚癌や、白内障の増加が懸念されています。紫外線で増える眼疾患は緑内障ではなく白内障であること、感染症の分布域拡大や熱中症の増加は主に地球温暖化と結びつく事象であることを区別して覚えることが重要です。ウィーン条約とモントリオール議定書によるオゾン層保護、代替フロンを対象としたキガリ改正まで押さえておくと、環境問題と健康を因果の流れで理解する力が身につきます。
解答・解説
正解はcです
地球環境問題のうち、フロンによるオゾン層破壊とその健康影響を問う問題である。
フロンとオゾン層
フロン(クロロフルオロカーボン〈CFC〉などの、炭素にフッ素や塩素が結合した化合物の総称)は、化学的に安定で毒性が低く、冷蔵庫・エアコンの冷媒、スプレーの噴射剤、電子部品の洗浄剤、断熱材の発泡剤などに広く使われてきた。地上では分解されにくいため、そのまま成層圏まで上昇し、そこで強い紫外線を受けて分解されて塩素原子を放出する。この塩素原子が触媒のように働いてオゾン(O3)を次々に分解するため、成層圏のオゾン層が薄くなり、南極上空などではオゾンホールが生じる。
健康影響へのつながり
オゾン層は太陽光に含まれる有害な紫外線、とくに中波長紫外線〈UV-B〉を吸収して地表に届く量を減らしている。オゾン層が破壊されると地表に到達するUV-Bが増加し、皮膚ではDNA損傷を介して皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫)が、眼では白内障が増えると考えられている。さらに紫外線による免疫抑制も懸念されている。 したがって、「フロン増加→オゾン層破壊→紫外線(UV-B)増加→皮膚癌・白内障の増加」という因果の流れを押さえれば正解を導ける。他の選択肢は、大気汚染や地球温暖化など別の環境問題と結びつく事象である。
選択肢考察
- ×a. 緑内障の増加
紫外線曝露の増加で増えると考えられている眼疾患は、水晶体のたんぱく質が変性して濁る白内障であり、緑内障ではない。緑内障は眼圧上昇などにより視神経が障害される疾患で、紫外線との関連は確立していない。白内障と取り違えさせるひっかけの選択肢である。
- ×b. 肺気腫の増加
肺気腫(慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の一病型で、肺胞壁が破壊されて気腔が拡大した状態)の最大の原因は喫煙であり、ほかに大気汚染物質(粒子状物質、二酸化窒素など)や職業性の粉じん・化学物質曝露が関与する。フロンによるオゾン層破壊とは関係しない。
- ○c. 皮膚癌の増加
フロンが成層圏のオゾン層を破壊すると、オゾン層で吸収されていたUV-Bが地表に多く届くようになる。UV-Bは皮膚細胞のDNAに直接損傷(ピリミジン二量体の形成など)を与え、修復しきれない損傷が蓄積すると発癌につながる。そのため基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫などの皮膚癌の増加が懸念されている。
- ×d. コレラの分布域拡大
コレラ菌は温かい水域で増殖しやすいため、コレラの流行地域の拡大は主に地球温暖化(海水温の上昇、洪水などの異常気象)と結びつけて論じられる。マラリアやデング熱など媒介動物による感染症の拡大も同様である。フロン類には温室効果もあるが、本問で問われるフロン増加の代表的な健康影響はオゾン層破壊を介した紫外線障害であり、コレラの分布域拡大はこれに該当しない。
- ×e. 温帯地域の低体温症の増加
地球規模の環境変化で温帯地域に予想されるのは、温暖化に伴う熱中症などの暑熱による健康障害の増加である。低体温症の増加はフロン増加とも温暖化とも結びつかない。
紫外線の分類
・UV-A(約315~400 nm):オゾン層でほとんど吸収されず地表に届く。皮膚の深くまで達し、光老化(しわ・たるみ)や色素沈着に関与する。 ・UV-B(約280~315 nm):大部分がオゾン層で吸収される。日焼け(サンバーン)、皮膚癌、白内障の主因。オゾン層破壊で地表到達量が増える。 ・UV-C(約100~280 nm):オゾン層と大気でほぼ完全に吸収され、地表には届かない。
主な地球環境問題と健康影響
・オゾン層破壊(原因:フロン、ハロン、臭化メチルなど)→紫外線増加→皮膚癌、白内障、免疫機能低下。 ・地球温暖化(原因:二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類などの温室効果ガス)→熱中症増加、感染症(マラリア、デング熱、コレラなど)の分布域拡大、異常気象による災害。 ・酸性雨(原因:硫黄酸化物、窒素酸化物)→森林・湖沼の生態系被害。
国際的な取り組み
・オゾン層保護のためのウィーン条約(1985年)。 ・オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(1987年):特定フロンなどの生産・消費を段階的に削減・全廃。 ・オゾン層を破壊しない代替フロン(ハイドロフルオロカーボン〈HFC〉)も強力な温室効果ガスであることから、2016年のキガリ改正で削減対象に加えられた。 ・日本ではオゾン層保護法、フロン排出抑制法などにより規制されている。
POINT
・フロン増加→成層圏オゾン層破壊→地表のUV-B増加→皮膚癌・白内障の増加。 ・紫外線で増える眼疾患は「白内障」であり、緑内障ではない。 ・感染症の分布域拡大や熱中症の増加は主に地球温暖化と結びつける。 ・オゾン層保護の国際的枠組みはウィーン条約(1985年)とモントリオール議定書(1987年)。
