StudyMed医師国家試験

死斑が「鮮やかな赤」なら要注意―自室で見つかった心停止から外因死を見抜く

第111回医師国家試験 G問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第5問

高齢者が自室内において心停止状態で発見された。  外因死を最も強く示唆するのはどれか。

  1. a.吐血
  2. b.尿失禁
  3. c.瞳孔不同
  4. d.角膜混濁
  5. e.鮮紅色の皮膚

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は法医学の問題だ。自宅で心停止状態の高齢者が見つかったとき、病気による死、つまり内因死なのか、外部からの作用による外因死なのかを見分ける手がかりを問うている。着眼点は「その所見が外因死に特異的かどうか」だ。
医学生医学生
法医学の講義で、外因死には外傷、中毒、窒息、溺水、凍死などが含まれると習いました。
ドクタードクター
その通り。外因死やその疑いがある死は異状死として扱われ、警察への届出や検視・解剖につながる。だから現場での見落としは許されないんだ。さて、選択肢を眺めてどう感じた?
医学生医学生
吐血は何かを飲んだ可能性もあるので、外因っぽいかなと最初は思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。確かに腐食性物質の服毒で吐血することはある。でも高齢者で吐血といえば、胃・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃癌といった消化管出血のほうがずっと一般的だ。つまり内因死でよくみられる所見で、外因死に特異的とはいえない。
医学生医学生
尿失禁はどうでしょう。縊死でみられると聞いた気がします。
ドクタードクター
縊死でもみられるけれど、尿失禁は死の直前の意識消失やけいれん、死戦期の括約筋の弛緩で、死因を問わず起こり得るんだ。心筋梗塞や脳卒中で亡くなった方でも普通にみられるから、判断材料にはならない。
医学生医学生
瞳孔不同は頭部外傷を連想させますが……。
ドクタードクター
頭蓋内血腫でも起こるね。ただ瞳孔不同は脳ヘルニアで動眼神経が圧迫されたサインで、高齢者では脳出血や脳梗塞など内因によるもののほうが多い。それに死後は瞳孔の大きさ自体が変化し得るから、死体での評価には限界があるんだ。
医学生医学生
角膜混濁は死体現象の一つでしたよね。
ドクタードクター
そう、早期死体現象だ。角膜が乾燥・変性して濁るもので、死因にかかわらずすべての死体に生じる。程度は死後経過時間の推定に使うけれど、開眼か閉眼か、温度環境でも進み方が変わる。いずれにせよ死因の推定には役立たない。
医学生医学生
そうなると残るのは鮮紅色の皮膚ですね。でもなぜ赤いと外因なんでしょうか。
ドクタードクター
ここが本題だ。通常の死斑は、血中の酸素が消費されて還元ヘモグロビンが増えるため暗赤紫色になる。それが鮮やかな紅色になるのは特殊な状況に限られる。代表が一酸化炭素中毒で、一酸化炭素は酸素の200倍以上の親和性でヘモグロビンに結合し、鮮紅色の一酸化炭素ヘモグロビンをつくるんだ。
医学生医学生
ほかにも鮮紅色になる原因はありますか。
ドクタードクター
シアン中毒では細胞が酸素を利用できず、静脈血の酸素飽和度が高いまま保たれるので鮮紅色になる。凍死・低体温でも、低温で酸素がヘモグロビンから離れにくくなるため同様の色調になる。どれも外部からの作用による死だから、外因死を最も強く示唆するわけだ。
医学生医学生
高齢者の自室なら、閉め切った部屋での暖房器具の不完全燃焼や、寒い部屋での低体温症が現実的ですね。
ドクタードクター
まさにそういう想定だね。ちなみに死斑の色はほかにも手がかりになる。メトヘモグロビン血症を起こす亜硝酸塩などの中毒では褐色からチョコレート色、硫化水素中毒では緑色調、大量出血による失血死では死斑そのものが乏しくなる。
医学生医学生
救急科の実習で、一酸化炭素中毒の患者さんのSpO2が正常に出ていて驚いたのを思い出しました。
ドクタードクター
大事な経験だね。パルスオキシメータは一酸化炭素ヘモグロビンを酸素化ヘモグロビンと区別できないから、見かけ上SpO2が正常になる。疑ったら血液ガスでCO-Hb濃度を測ることが必要だ。最後に制度面も押さえておこう。医師法第21条により、死体を検案して異状を認めたときは24時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない。
医学生医学生
所見から外因を疑う目と、届出の義務がセットになっているんですね。
ドクタードクター
その通り。死亡確認は医師にしかできない仕事だからこそ、皮膚の色ひとつにも注意を払ってほしい。

まとめ

自宅で発見された心停止の高齢者で、皮膚や死斑が鮮紅色を呈する場合は、一酸化炭素中毒、シアン中毒、凍死・低体温といった外因死を強く疑います。通常の死斑は還元ヘモグロビンにより暗赤紫色であり、一酸化炭素ヘモグロビンの形成や酸素利用障害、低温による酸素解離の低下が鮮紅色の原因となります。一方、吐血・尿失禁・瞳孔不同は内因死でもよくみられ、角膜混濁は全ての死体に生じる早期死体現象で死後経過時間の推定に用いるものです。外因死の疑いがあれば異状死として医師法第21条に基づき24時間以内に警察へ届け出る必要があり、死体所見を正しく読む力は臨床医にとっても欠かせない素養です。

解答・解説

正解はeです

自宅で心停止状態の高齢者が見つかった場面で、病気による死(内因死)ではなく、外部からの作用による死(外因死)を最も強く疑わせる所見を選ぶ問題である。

内因死と外因死

内因死は心筋梗塞、脳出血、消化管出血など体の内部の病気による死である。外因死は外傷、中毒、窒息、溺水、熱中症・凍死などの環境要因、火災など、体の外からの作用が原因となる死を指す。外因死やその疑いがある死は異状死として扱われ、警察への届出や検視・解剖につながるため、現場で手がかりを見落とさないことが重要である。

考え方

選択肢の多くは、内因死でも外因死でも起こり得る所見、あるいは死後に誰にでも生じる変化である。「外因死に特異的か」という観点で絞り込むと、皮膚(とくに死斑)が鮮紅色を呈する所見が残る。通常の死斑は、血中酸素が消費されて還元ヘモグロビンが増えるため暗赤紫色を呈する。これが鮮やかな紅色になるのは、一酸化炭素中毒(一酸化炭素ヘモグロビンの色)、シアン中毒、凍死・低体温などの特殊な状況に限られ、いずれも外因が関与する。高齢者の自室という設定では、不完全燃焼を起こした暖房器具による一酸化炭素中毒や、寒冷環境での低体温症が現実的な想定となる。

選択肢考察

  1. ×a.  吐血

    吐血は胃・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃癌など消化管からの出血でよくみられ、病死(内因死)を示唆する所見である。腐食性物質の服毒などの外因で起こることもあるが、外因死に特異的とはいえない。

  2. ×b.  尿失禁

    尿失禁は死の直前の意識消失やけいれん、急激な血圧低下、死戦期の括約筋の弛緩などで、死因を問わず起こり得る。縊死などの外因死でみられることもあるが、心疾患や脳卒中による死亡でも普通にみられるため、外因死の判断材料にはならない。

  3. ×c.  瞳孔不同

    瞳孔不同(左右の瞳孔径の差)は、脳出血・脳梗塞などで頭蓋内圧が上昇し、脳ヘルニアにより動眼神経が圧迫されたときにみられる。頭部外傷による頭蓋内血腫でも起こるが、高齢者では脳血管障害などの内因によるものの方が多く、外因死を強く示唆するとはいえない。また死後は瞳孔の大きさが変化し得るため、死体での評価には限界がある。

  4. ×d.  角膜混濁

    角膜混濁は死後に角膜が乾燥・変性して濁ってくる早期死体現象であり、死因にかかわらずすべての死体に生じる。混濁の程度は死後経過時間(死亡推定時刻)の推定に用いられる(一般に死後半日ほどで軽度、1~2日で高度となる。ただし開眼・閉眼や温度環境で進行速度は変わる)が、死因の推定には役立たない。

  5. ○e.  鮮紅色の皮膚

    通常の死斑は暗赤紫色であるが、皮膚や死斑が鮮紅色を呈する場合は特定の外因が疑われる。代表は一酸化炭素中毒で、一酸化炭素がヘモグロビンに酸素の200倍以上の親和性で結合して鮮紅色の一酸化炭素ヘモグロビン〈CO-Hb〉を形成するためである。そのほか、細胞での酸素利用が阻害されて静脈血の酸素飽和度が高く保たれるシアン中毒、低温で酸素がヘモグロビンから離れにくくなる凍死・低体温(死体が冷所に置かれた場合も同様の色調となる)でもみられる。いずれも外部からの作用による死であり、外因死を最も強く示唆する。

死体現象の整理

・早期死体現象:体温低下(死冷)、死斑、死後硬直、角膜混濁、皮膚・粘膜の乾燥など。主に死後経過時間の推定に用いる。 ・晩期死体現象:腐敗、自家融解、白骨化、ミイラ化、死蝋化など。

死斑の色と死因

・通常:暗赤紫色(還元ヘモグロビンによる)。 ・鮮紅色:一酸化炭素中毒、シアン中毒、凍死・低体温(冷所保存の死体)。 ・褐色~チョコレート色:メトヘモグロビン血症を起こす中毒(亜硝酸塩、塩素酸塩など)。 ・緑色調:硫化水素中毒(硫化ヘモグロビン)。 ・死斑が乏しい:大量出血による失血死、高度の貧血。

一酸化炭素中毒

・原因:不完全燃焼した暖房器具・湯沸かし器、火災、練炭など。冬季の閉め切った室内で起こりやすく、高齢者の自宅でも起こり得る。 ・生体では頭痛、悪心、意識障害などを呈し、パルスオキシメータは一酸化炭素ヘモグロビンを酸素化ヘモグロビンと区別できないため、SpO2が見かけ上正常となる点に注意する。

異状死の届出

・医師法第21条により、医師は死体を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。外因死やその疑いがある死はこれに該当する。

POINT

・鮮紅色の皮膚・死斑は一酸化炭素中毒、シアン中毒、凍死・低体温を示唆し、外因死を強く疑う根拠となる。 ・吐血、尿失禁、瞳孔不同は内因死でもよくみられ、外因死に特異的ではない。 ・角膜混濁は全例に生じる早期死体現象で、死後経過時間の推定に用いる(死因推定には役立たない)。 ・外因死の疑いがあれば異状死として24時間以内に警察へ届け出る(医師法第21条)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。