その物質、本当にその環境問題の犯人?―酸性雨からオゾン層まで「原因物質」の正しい組合せ
第108回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
環境問題とその原因物質の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.酸性雨 ―― 六価クロム
- b.生物濃縮 ―― メチル水銀
- c.大気汚染 ―― パラコート
- d.飲料水汚染 ―― ヒ素
- e.オゾン層破壊 ―― トルエン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
環境問題と原因物質の組合せでは、酸性雨はSOx・NOx、生物濃縮はメチル水銀・PCB・DDT・ダイオキシン類、飲料水汚染はヒ素など、オゾン層破壊はフロン・ハロンが代表で、本問ではメチル水銀と生物濃縮、ヒ素と飲料水汚染の組合せが正しいです。六価クロムは土壌汚染や職業性肺癌・鼻中隔穿孔、パラコートは経口中毒による肺線維症、トルエンは有機溶剤中毒で知られますが、組み合わされた環境問題の主因ではありません。毒性で有名な物質と環境問題の主犯を区別することが正答のカギです。四大公害病の原因物質や生物濃縮を起こしやすい物質の性質もあわせて整理しておくと、問診で職業歴や生活環境を聞く意義が理解でき、環境由来の健康障害に気づく力につながります。
解答・解説
正解はb, dです
地球規模・地域規模の環境問題と、その原因となる物質の組合せを問う問題である。 解き方としては、各環境問題の「代表的な原因物質」を思い出し、選択肢に挙げられた物質がそれに該当するかを確認すればよい。主な対応は次のとおりである。 ・酸性雨:化石燃料の燃焼で生じる硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx) ・生物濃縮:分解・排泄されにくく脂溶性の高い物質(メチル水銀、PCB、DDT、ダイオキシン類など) ・大気汚染:二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、微小粒子状物質(PM2.5)、光化学オキシダントなど ・飲料水汚染:ヒ素、鉛、硝酸態窒素、病原微生物など ・オゾン層破壊:フロン(クロロフルオロカーボン)、ハロンなど塩素・臭素を含む化合物 これに照らすと、メチル水銀と生物濃縮、ヒ素と飲料水汚染の組合せが正しい。六価クロム、パラコート、トルエンはいずれも人体への毒性で知られる物質であるが、選択肢で組み合わされた環境問題の主因ではない。
選択肢考察
- ×a. 酸性雨 ―― 六価クロム
誤り。酸性雨は、石炭・石油などの化石燃料の燃焼で排出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が大気中で硫酸や硝酸に変化し、雨に溶け込んでpHが概ね5.6未満となったものである。森林の枯死、湖沼の酸性化、建造物の腐食などを引き起こす。六価クロムはメッキや皮革なめし、顔料などに用いられてきた強い酸化力をもつ化合物で、工場跡地の土壌汚染や地下水汚染、職業曝露による皮膚潰瘍、鼻中隔穿孔、肺癌の原因として問題となる。酸性雨の原因物質ではない。
- ○b. 生物濃縮 ―― メチル水銀
正しい。生物濃縮とは、環境中の物質が食物連鎖を通じて生物の体内に取り込まれ、上位の捕食者ほど高濃度に蓄積していく現象である。脂溶性が高く、生体内で分解・排泄されにくい物質で起こりやすい。メチル水銀はこの性質をもち、プランクトン→小魚→大型魚と濃縮される。水俣病(熊本県水俣湾)と新潟水俣病(阿賀野川流域)は、アセトアルデヒド製造工程で無機水銀触媒から副生したメチル水銀が排水とともに流出し、汚染された魚介類を住民が摂取して発症した。症状は感覚障害(四肢末梢優位)、小脳性運動失調、求心性視野狭窄、難聴、構音障害などで、胎盤を通過して胎児性水俣病も起こした。現在も妊婦にはマグロ・キンメダイなど一部の魚の摂取量に関する注意が示されている。
- ×c. 大気汚染 ―― パラコート
誤り。パラコートは非選択性の除草剤(農薬)で、体内で活性酸素を大量に発生させ組織を障害する。中毒の多くは自殺企図や誤飲による経口摂取で、特に肺に取り込まれやすいため、進行性の肺線維症を来し致死率が高い。散布時に吸入する危険はあるが、局所的なものにとどまり、社会問題としての大気汚染の原因物質には当たらない。大気汚染の原因物質としては、二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、PM2.5、光化学オキシダントなどがあり、環境基本法に基づく環境基準が定められている。
- ○d. 飲料水汚染 ―― ヒ素
正しい。ヒ素は地殻中に広く存在し、地質に由来して地下水に溶け出すことがある。バングラデシュやインドなどでは井戸水のヒ素汚染による大規模な慢性ヒ素中毒が問題となっている。慢性中毒では皮膚の色素沈着・色素脱失、手掌・足底の角化症、末梢神経障害、皮膚癌・肺癌・膀胱癌などがみられる。日本でも宮崎県土呂久や島根県笹ヶ谷の鉱山周辺で慢性ヒ素中毒が発生し、公害病として認定された。水道法に基づく水質基準ではヒ素およびその化合物は0.01 mg/L以下と定められており、これはWHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドライン値と同じである。
- ×e. オゾン層破壊 ―― トルエン
誤り。成層圏のオゾン層を破壊するのは、フロン(クロロフルオロカーボン:CFC)やハロンなど、塩素や臭素を含む安定な化合物である。これらは成層圏で紫外線により分解されて塩素原子などを放出し、それが触媒的にオゾンを分解する。オゾン層が薄くなると地表に届く有害紫外線(UV-B)が増え、皮膚癌や白内障が増加する。トルエンは塗料・接着剤などに用いられる有機溶剤(揮発性有機化合物:VOC)で、吸入による中枢神経障害(急性の麻酔作用、慢性の小脳失調や認知障害など)が問題となる。VOCとして光化学オキシダントの生成に関わるが、オゾン層破壊物質ではない。
日本の四大公害病
・水俣病(熊本・鹿児島):メチル水銀 ・新潟水俣病(阿賀野川流域):メチル水銀 ・イタイイタイ病(富山県神通川流域):カドミウム。腎尿細管障害と骨軟化症を来す ・四日市ぜんそく(三重県):硫黄酸化物を主とする大気汚染
地球環境問題と原因物質
・地球温暖化:二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類などの温室効果ガス ・オゾン層破壊:フロン、ハロンなど(モントリオール議定書で規制) ・酸性雨:SOx、NOx ・海洋プラスチック汚染:マイクロプラスチックなど
生物濃縮を起こしやすい物質の特徴
脂溶性が高い、化学的に安定で分解されにくい、体外へ排泄されにくい、という性質をもつ。メチル水銀のほか、PCB(ポリ塩化ビフェニル:カネミ油症の原因)、DDTなどの有機塩素系農薬、ダイオキシン類が代表である。
浮遊粒子状物質とPM2.5
浮遊粒子状物質(SPM)は粒径10μm以下の粒子、微小粒子状物質(PM2.5)は粒径2.5μm以下の粒子で、PM2.5は肺の奥まで到達し呼吸器・循環器疾患のリスクを高める。越境汚染も問題となっている。
POINT
・酸性雨の原因はSOx・NOx ・生物濃縮の代表はメチル水銀、PCB、DDT、ダイオキシン類(脂溶性・難分解性) ・ヒ素は地下水・井戸水汚染の代表的物質で、水道水質基準は0.01 mg/L以下 ・オゾン層破壊の原因はフロン・ハロン ・六価クロムは土壌汚染・職業性肺癌、パラコートは経口中毒による肺線維症、トルエンは有機溶剤中毒で知られる
