StudyMed医師国家試験

「検査を受けたい」その前に―21トリソミーの子をもつ妊婦と遺伝カウンセリング

第108回医師国家試験 E問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第54問

36歳の1回経妊1回経産婦。妊娠13週。第1子が21 trisomyであったことから,妊娠中の第2子の検査を希望して来院した。現時点で母体,胎児ともに妊娠継続に問題はない。  まず行うべき対応はどれか。

  1. a.羊水検査
  2. b.絨毛検査
  3. c.両親の染色体検査
  4. d.遺伝カウンセリング
  5. e.母体血清マーカー検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、出生前検査を希望して来院した妊婦さんに、最初に何をすべきかを問う問題だ。選択肢には実際の検査がいくつも並んでいるけれど、注目してほしいのは「まず行うべき」という言葉。どの検査がよいかではなく、検査の前に何が必要かを考えてみよう。
医学生医学生
妊娠13週なら絨毛検査がちょうどできる時期なので、それを選びたくなりました。
ドクタードクター
時期の知識がしっかりしているね。確かに絨毛検査は妊娠10〜14週ごろに行うから、時期としては可能だ。でも絨毛検査は侵襲的な検査で流産のリスクがあるし、結果によっては妊娠を続けるかどうかという、とても重い判断につながる。その判断を本人や夫婦が十分理解しないまま進めてよいだろうか。
医学生医学生
確かに……本人が希望しているとはいえ、どんな検査があってどんなリスクがあるのか知ったうえで選んでもらう必要がありますね。
ドクタードクター
その通り。だから正解は遺伝カウンセリングだ。遺伝カウンセリングは、医学的な評価に基づく正確な情報を提供して、本人が自分の意思で選択・決定できるように支援する診療行為なんだ。出生前検査の前に行うのが原則だよ。
医学生医学生
遺伝医学の講義で「非指示的」という言葉を習いました。特定の選択に誘導しない、ということでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。非指示性、自己決定の尊重、プライバシーへの配慮、心理的な支援がカウンセリングの柱だ。今回なら、第1子の染色体核型を確認して再発リスクを評価し、検査の種類・時期・精度・リスク、陽性だった場合の選択肢、さらにDown症候群のお子さんの生活や支援体制まで情報提供する。
医学生医学生
第1子の核型を確認する、というのはどういう意味があるんですか。
ドクタードクター
21トリソミーには型があるんだ。約95%は標準型で、主に卵子ができるときの減数分裂で染色体がうまく分かれない「不分離」が原因。この場合、両親の染色体はほとんど正常で、次の子の再発リスクは約1%か母体年齢相応のリスクの高いほうが目安とされる。一方、約3〜4%を占める転座型では、両親のどちらかが均衡型転座の保因者のことがある。
医学生医学生
だから両親の染色体検査は、転座型だったときに意味がある検査なんですね。最初からやるものではない、と。
ドクタードクター
そういうこと。まず第1子の核型を確認して、転座型なら両親の検査を検討する。それもカウンセリングの中で必要性を説明してから行うんだ。ちなみに母親が保因者なら再発リスクは10%前後、父親なら数%とされ、21番同士のロバートソン転座保因者では生まれる子はほぼ全例が21トリソミーになる。
医学生医学生
羊水検査はどうでしょう。確定的検査として一番有名なイメージがあります。
ドクタードクター
羊水検査は妊娠15週以降、だいたい15〜18週に行う確定的検査だから、13週の今はまだ早い。それに経腹的に穿刺する侵襲的な検査で、流産のリスクは0.3%程度とされている。やるにしてもカウンセリングを経て同意を得てからだね。
医学生医学生
母体血清マーカー検査なら採血だけなので、負担は少なそうですが。
ドクタードクター
負担は少ないけれど、あくまで確率を示す非確定的検査で、診断は確定できない。時期も15〜18週ごろだ。結果の解釈には丁寧な説明が要るし、今回のように第1子が21トリソミーで36歳という、もともと確率が高い方では有用性も限られる。どの検査も「カウンセリングの後」という位置づけは同じなんだ。
医学生医学生
整理すると、非確定的検査が母体血清マーカー、NIPT、コンバインド検査で、確定的検査が絨毛検査と羊水検査ですね。
ドクタードクター
その通り。NIPTは母体血中の胎児由来、正確には胎盤由来のcell-free DNAを調べる検査で、妊娠10週ごろから可能、21トリソミーに対する精度も高い。それでも陽性なら確定には侵襲的検査が必要だ。コンバインド検査は11〜13週ごろに超音波の胎児後頸部浮腫の計測と血清マーカーを組み合わせる。絨毛検査では胎盤にだけ異常がある胎盤限局性モザイクで解釈が難しくなることもある。
医学生医学生
臨床実習で産婦人科を回ったとき、出生前検査の外来に遺伝の専門の先生が同席していて、すごく時間をかけて話していたのが印象的でした。
ドクタードクター
それだけ大切な場面なんだ。国内では、2021年に厚生労働省の専門委員会が、妊婦さんが正しい情報に基づいて判断できるよう、情報提供と遺伝カウンセリングを含む相談支援体制を整える方向に考え方を見直している。検査を勧めるのではなく、情報を届けて本人が決める、という基本は変わらない。検査の知識と同じくらい、その前の対話が大事だと覚えておこう。

まとめ

出生前検査を希望する妊婦に対しては、特定の検査を実施する前に、まず遺伝カウンセリングを行うのが原則です。カウンセリングでは非指示的な立場から、第1子の核型に基づく再発リスク、各検査の時期・精度・リスク、陽性時の選択肢や支援体制などを提供し、本人や夫婦の自己決定を支えます。21トリソミーの約95%は不分離による標準型で両親の核型は通常正常ですが、転座型では親が均衡型転座保因者のことがあり、その場合に両親の染色体検査が意味をもちます。検査時期は絨毛検査が妊娠10〜14週、羊水検査が15週以降、母体血清マーカー検査が15〜18週、NIPTが10週ごろからで、非確定的検査が陽性なら確定には侵襲的検査が必要です。検査の知識に加えて、結果が重い意思決定につながることを踏まえた支援の姿勢を理解することは、周産期医療に携わるうえで欠かせません。

解答・解説

正解はdです

状況の整理

36歳、妊娠13週の経産婦で、第1子が21トリソミー(Down症候群)であったため、今回の胎児について検査を希望して受診した。母体・胎児ともに現時点で問題はない。問われているのは出生前検査(胎児の染色体異常などを妊娠中に調べる検査)を希望する妊婦に対して、最初に何をすべきかである。

考え方

出生前検査には、非確定的検査(母体血清マーカー検査、NIPT〔母体血を用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査〕、超音波マーカーなど)と、確定的検査(絨毛検査、羊水検査)がある。それぞれ実施時期、精度、流産などのリスクが異なり、さらに結果によっては妊娠継続の判断という重い意思決定につながる。 そのため、どの検査を受けるか、あるいは受けないかを本人(夫婦)が十分に理解したうえで自ら選べるよう、検査の前に遺伝カウンセリングを行うのが原則である。カウンセリングでは、第1子の染色体核型(標準型トリソミーか転座型か)を確認して今回の再発リスクを評価し、各検査の内容・時期・精度・リスク、結果が陽性だった場合の選択肢、Down症候群の子どもの生活や支援体制などを情報提供する。 本例では妊婦がすでに検査を希望しているが、いきなり特定の検査を実施するのではなく、まず遺伝カウンセリングを行い、その後に本人の意思に基づいて検査を選択・実施する流れとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  羊水検査

    羊水検査は、羊水中の胎児由来細胞を用いて染色体を調べる確定的検査で、通常妊娠15週以降(15~18週ごろ)に行う。妊娠13週の現時点では時期が早い。また経腹的に穿刺する侵襲的検査で、流産などのリスク(約0.3%程度とされる)を伴うため、実施する場合も遺伝カウンセリングを経てインフォームド・コンセントを得てからとなる。

  2. ×b.  絨毛検査

    絨毛検査は胎盤の絨毛組織を採取して染色体を調べる確定的検査で、妊娠10~14週ごろに行うため、時期としては実施可能である。しかし侵襲的検査であり、羊水検査と同等かやや高い流産リスクがあるほか、胎盤にのみ染色体異常が存在する胎盤限局性モザイクにより結果の解釈が難しい場合もある。遺伝カウンセリングを行わずに最初に実施するものではない。

  3. ×c.  両親の染色体検査

    21トリソミーの約95%は、配偶子形成時の染色体不分離による標準型で、両親の染色体は正常であることがほとんどである。一方、約3~4%を占める転座型では、両親のいずれかが均衡型転座の保因者である場合があり、そのときは両親の染色体検査が再発リスクの評価に役立つ。したがって、まず第1子の核型を確認し、転座型であった場合などに検討する検査であり、これも遺伝カウンセリングの中で必要性を説明したうえで行う。最初に行う対応ではない。

  4. ○d.  遺伝カウンセリング

    遺伝カウンセリングは、遺伝性疾患の患者やその可能性のある人・家族に対し、医学的な評価に基づく正確な情報を提供し、本人が自らの意思で選択・決定できるよう支援する診療行為である。出生前検査は結果によって妊娠継続の判断にかかわるため、検査の種類・時期・精度・リスク、第1子の核型に応じた再発リスク、陽性時の選択肢などを理解したうえで検査を受けるかどうかを決める必要がある。いずれの検査に進むにせよ、その前に最初に行うべき対応である。

  5. ×e.  母体血清マーカー検査

    母体血清マーカー検査は、母体血中のAFP、hCG、非抱合型エストリオール、インヒビンAなどを測定して21トリソミーなどの確率を算出する非確定的検査で、通常妊娠15~18週ごろに行う。確率を示すだけで診断は確定できず、結果の解釈には十分な説明が必要である。本例のように第1子が21トリソミーで年齢も36歳と、もともと確率が高い妊婦では有用性も限られる。いずれにしても遺伝カウンセリングの前に最初に行う検査ではない。

21トリソミー(Down症候群)の核型と再発リスク

・標準型(約95%):主に卵子形成時の減数分裂での不分離による。母体年齢とともに頻度が上昇する。次子の再発リスクは約1%、または母体年齢相応のリスクのいずれか高い方が目安とされる。 ・転座型(約3~4%):21番染色体が他の染色体(14番など)とロバートソン転座したもの。約半数は新生突然変異だが、残りは親が均衡型転座保因者である。保因者が母親の場合は再発リスクが10%前後、父親の場合は数%とされ、21番同士のロバートソン転座保因者では生児はほぼ全例が21トリソミーとなる。 ・モザイク型(約1~2%)。

主な出生前検査

非確定的検査(陽性でも確定診断にはならず、確定には侵襲的検査が必要) ・NIPT:母体血中の胎児(胎盤)由来cell-free DNAを解析する。妊娠10週ごろから可能で、21トリソミーに対する感度・特異度が高い。 ・母体血清マーカー検査(クアトロテスト等):妊娠15~18週ごろ。 ・コンバインド検査:妊娠11~13週ごろ。超音波での胎児後頸部浮腫(NT)計測と母体血清マーカーを組み合わせる。 確定的検査 ・絨毛検査:妊娠10~14週ごろ。 ・羊水検査:妊娠15週以降(15~18週ごろ)。

出生前検査をめぐる国内の考え方

1999年の厚生科学審議会の見解では、母体血清マーカー検査について医師から積極的に知らせる必要はなく勧めるべきでないとされた。その後、NIPTの普及などを受けて2021年に厚生労働省の専門委員会が考え方を見直し、妊婦が出生前検査について正しい情報に基づいて判断できるよう、適切な情報提供と遺伝カウンセリングを含む相談支援体制を整えることが求められるようになった。検査を勧めるのではなく、情報を提供したうえで受けるかどうかを本人が決めるという基本は変わらない。

遺伝カウンセリングの原則

非指示的(特定の選択を誘導しない)であること、本人・家族の自己決定を尊重すること、プライバシーへの配慮、心理的支援を含むこと、などが重視される。

POINT

・出生前検査を希望する妊婦に対しては、どの検査よりも先に遺伝カウンセリングを行う。 ・絨毛検査は妊娠10~14週、羊水検査は15週以降、母体血清マーカー検査は15~18週、NIPTは10週ごろから。 ・21トリソミーの約95%は標準型(両親の核型は通常正常)。転座型の場合に両親の染色体検査が意味をもつ。 ・遺伝カウンセリングは非指示的に行い、自己決定を支援する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。