男性だけに現れる理由―球脊髄性筋萎縮症で整理する神経筋疾患の遺伝形式
第120回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
X染色体連鎖性遺伝形式を呈する疾患はどれか。
- a.Huntington病
- b.脊髄性筋萎縮症
- c.球脊髄性筋萎縮症
- d.筋強直性ジストロフィー
- e.福山型先天性筋ジストロフィー
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長によるX連鎖潜性遺伝のポリグルタミン病で、発症に男性ホルモンを要するため成人男性にのみ発症します。球麻痺、近位筋優位の筋力低下、舌の線維束性収縮に加え、女性化乳房や精巣萎縮などのアンドロゲン不全症状を伴うのが特徴です。一方、Huntington病と筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性遺伝、脊髄性筋萎縮症(SMN1)と福山型先天性筋ジストロフィー(フクチン)は常染色体潜性遺伝です。SBMAではリュープロレリンによるテストステロン抑制、SMAではヌシネルセンや遺伝子治療など、病態理解に基づく治療が実用化されています。遺伝形式を原因遺伝子・変異様式とセットで整理しておくことは、遺伝カウンセリングや家族歴の解釈にも直結する重要な知識です。
解答・解説
正解はcです
本問は、代表的な神経筋疾患の遺伝形式を問う問題である。
遺伝形式の整理
・常染色体顕性(優性)遺伝:1対の常染色体の片方に変異があれば発症する。男女とも同じ確率で発症し、患者の子は1/2の確率で変異を受け継ぐ。 ・常染色体潜性(劣性)遺伝:両方の常染色体に変異がそろって初めて発症する。両親はともに保因者であることが多く、その子は1/4の確率で発症する。 ・X連鎖潜性(劣性)遺伝:原因遺伝子がX染色体上にあり、X染色体を1本しか持たない男性に発症が集中する。女性は保因者となることが多い。父から息子へは伝わらない(父は息子にY染色体を渡すため)。
考え方
選択肢の疾患はいずれも神経・筋の遺伝性疾患であり、原因遺伝子と遺伝子変異の様式(リピート伸長など)とあわせて遺伝形式を覚えておく必要がある。このうちX染色体上に原因遺伝子があるのは、アンドロゲン受容体遺伝子の異常による球脊髄性筋萎縮症のみである。成人男性にのみ発症し、女性化乳房などアンドロゲン作用の低下を示すことは、X連鎖性であることと、原因がアンドロゲン受容体にあることを反映している。
選択肢考察
- ×a. Huntington病
Huntington病は常染色体顕性(優性)遺伝である。第4染色体短腕(4p16.3)にあるHTT(huntingtin)遺伝子内のCAGリピートの異常伸長によって生じる。CAGリピートはアミノ酸のグルタミンをコードするため、伸長したポリグルタミン鎖をもつ異常蛋白が神経細胞、特に線条体(尾状核など)を障害する。リピート数が40以上ではほぼ全例が発症する。世代を経るにつれてリピート数が増え、発症年齢の若年化や重症化がみられる表現促進現象があり、特に父親から受け継いだ場合に目立つ。舞踏運動、認知機能障害、精神症状が三大症状で、画像では尾状核の萎縮がみられる。
- ×b. 脊髄性筋萎縮症
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は常染色体潜性(劣性)遺伝である。第5染色体長腕(5q13)にあるSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子の欠失や変異により、脊髄前角の運動ニューロンが変性して筋力低下・筋萎縮をきたす。近くにあるよく似た遺伝子SMN2も少量の機能的SMN蛋白を作るため、SMN2のコピー数が多いほど軽症になる傾向がある。発症年齢と到達運動機能により、I型(重症型・急性乳児型)、II型(中間型・慢性乳児型)、III型(軽症型・慢性型)、IV型(成人型)に分類される。
- ○c. 球脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy:SBMA、Kennedy病)はX連鎖潜性(劣性)遺伝である。X染色体長腕(Xq12)にあるアンドロゲン受容体遺伝子内のCAGリピートの異常伸長によって生じるポリグルタミン病の一つである。変異したアンドロゲン受容体が男性ホルモン(テストステロン)と結合すると細胞の核内に移行して凝集し、下位運動ニューロン(脳幹の運動神経核と脊髄前角細胞)を障害すると考えられている。このため発症には男性ホルモンが必要であり、成人男性にのみ発症し、女性は変異をホモ接合で持っていても無症状かごく軽い症状にとどまる。症状は、構音障害・嚥下障害などの球麻痺症状、四肢近位筋優位の筋力低下と筋萎縮、舌の萎縮と線維束性収縮、手指の振戦など。アンドロゲン受容体の機能低下を反映して、女性化乳房、精巣萎縮、女性様の皮膚変化などの軽いアンドロゲン不全症状も伴う。検査では血清CKが高値となることが多く、耐糖能異常、脂質異常症、軽度の肝機能異常、Brugada症候群を合併することがある。
- ×d. 筋強直性ジストロフィー
筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性(優性)遺伝であり、成人で最も多い遺伝性筋疾患である。大部分を占める1型は、第19染色体長腕(19q13.3)にあるDMPK(dystrophia myotonica protein kinase)遺伝子の3'非翻訳領域のCTGリピート伸長によって生じる。2型は第3染色体長腕にあるCNBP遺伝子のイントロン内のCCTGリピート伸長による。いずれも蛋白をコードしない部分の変異であり、リピートを含む異常なRNAが核内に蓄積し、スプライシング(RNAの編集)を調節する蛋白の働きを妨げることで、さまざまな遺伝子の異常スプライシングが起こり、多臓器に症状が出る(RNA病)。症状は筋強直(ミオトニア:握った手がすぐ開けないなど)、斧様顔貌、前頭部脱毛、白内障、心伝導障害、耐糖能異常、性腺機能低下など多彩である。1型では表現促進現象があり、母親から受け継いだ場合に重症の先天型が生じやすい。
- ×e. 福山型先天性筋ジストロフィー
福山型先天性筋ジストロフィーは常染色体潜性(劣性)遺伝である。日本人に特有の疾患で、わが国ではDuchenne型に次いで2番目に多い小児期の筋ジストロフィーである。第9染色体長腕(9q31)にあるフクチン(fukutin)遺伝子に、約3 kbのレトロトランスポゾン(ゲノム内を移動するDNA配列)が挿入された変異が日本人患者の大多数に認められる(創始者効果)。フクチンはα-ジストログリカンの糖鎖修飾に関わり、その異常により、生下時からの重度の筋力低下(筋ジストロフィー)、神経細胞の遊走障害による脳奇形(滑脳症様の多小脳回など)と知的障害、高頻度の眼合併症を特徴とする。
主な神経筋疾患と遺伝形式
・X連鎖潜性遺伝:球脊髄性筋萎縮症、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー(ジストロフィン遺伝子)、Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(エメリン遺伝子によるもの)、副腎白質ジストロフィーなど。 ・常染色体顕性遺伝:Huntington病、筋強直性ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脊髄小脳変性症の多く(SCA1、SCA2、SCA3〈Machado-Joseph病〉、SCA6、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症〈DRPLA〉など)。 ・常染色体潜性遺伝:脊髄性筋萎縮症、福山型先天性筋ジストロフィー、Friedreich運動失調症、Wilson病など。
リピート病(反復配列伸長病)
ゲノム上の短い配列の繰り返しが異常に長くなることで発症する疾患群。 ・CAGリピート(ポリグルタミン病):Huntington病、球脊髄性筋萎縮症、SCA1・2・3・6、DRPLAなど。 ・CTGリピート:筋強直性ジストロフィー1型。 ・CGGリピート:脆弱X症候群(X連鎖)。 ・GAAリピート:Friedreich運動失調症。 多くは世代を経るとリピートが伸びやすく、表現促進現象(若年化・重症化)を示す。
治療の進歩
・脊髄性筋萎縮症:SMN2のスプライシングを修飾して機能的SMN蛋白を増やすアンチセンス核酸ヌシネルセン(髄腔内投与)や経口薬リスジプラム、アデノ随伴ウイルス9型ベクターでSMN1遺伝子を補うオナセムノゲン アベパルボベク(遺伝子治療)が使われている。早期治療ほど効果が高いため、新生児スクリーニングの取り組みも進んでいる。 ・球脊髄性筋萎縮症:発症に男性ホルモンが必要であることから、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アナログのリュープロレリンによりテストステロン分泌を抑える治療が承認されている。 ・Huntington病、筋強直性ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー:根本治療は確立しておらず、核酸医薬などの臨床試験が進められている。
POINT
・球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)はX連鎖潜性遺伝。アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長で、成人男性のみ発症し、女性化乳房を伴う。 ・Huntington病、筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性遺伝。 ・脊髄性筋萎縮症(SMN1)、福山型先天性筋ジストロフィー(フクチン)は常染色体潜性遺伝。 ・X連鎖潜性遺伝の神経筋疾患としてDuchenne型・Becker型筋ジストロフィーもあわせて覚える。
