StudyMed医師国家試験

男性だけに現れる理由―球脊髄性筋萎縮症で整理する神経筋疾患の遺伝形式

第120回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第6問

X染色体連鎖性遺伝形式を呈する疾患はどれか。

  1. a.Huntington病
  2. b.脊髄性筋萎縮症
  3. c.球脊髄性筋萎縮症
  4. d.筋強直性ジストロフィー
  5. e.福山型先天性筋ジストロフィー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は代表的な神経筋疾患の遺伝形式を問う問題だ。どれも名前はよく知っている疾患だけど、遺伝形式を正確に言えるかがポイントになる。原因遺伝子がどの染色体にあるか、どんな変異なのか、とセットで整理していこう。
医学生医学生
X連鎖と聞くと、真っ先にDuchenne型筋ジストロフィーが浮かびます。でも選択肢にはないですね。
ドクタードクター
そう、だからこそ一歩踏み込んだ知識が試されている。まず遺伝形式の基本を確認しよう。X連鎖潜性遺伝は、原因遺伝子がX染色体上にあって、X染色体を1本しか持たない男性に発症が集中する。女性は保因者になることが多く、父から息子へは伝わらない。
医学生医学生
父は息子にY染色体を渡すから、ですよね。遺伝医学の講義で家系図を何枚も描かされました。
ドクタードクター
その家系図の練習がまさに役立つところだ。では選択肢を見ていこう。Huntington病はどうかな。
医学生医学生
舞踏運動と尾状核の萎縮の病気で、CAGリピートが伸びるんでしたよね。常染色体顕性だったと思います。
ドクタードクター
正解。第4染色体のHTT遺伝子のCAGリピート伸長で起こる常染色体顕性遺伝だ。CAGはグルタミンをコードするから、伸びたポリグルタミン鎖をもつ異常蛋白が線条体を障害する。世代を経るほど発症が早く重くなる表現促進現象があり、特に父親由来で目立つ。
医学生医学生
脊髄性筋萎縮症と球脊髄性筋萎縮症は名前がそっくりで、正直いつも混乱します。
ドクタードクター
多くの人がつまずくところだね。脊髄性筋萎縮症、SMAは第5染色体のSMN1遺伝子の欠失や変異による常染色体潜性遺伝だ。脊髄前角の運動ニューロンが変性して、乳児期から筋力低下をきたすI型から成人型のIV型まである。よく似たSMN2遺伝子のコピー数が多いほど軽症になる傾向があるんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、ヌシネルセンの髄腔内投与を受けている赤ちゃんを見ました。SMN2のスプライシングを変える薬でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。経口薬のリスジプラムや、SMN1を補う遺伝子治療もあって、早く治療するほど効果が高いから新生児スクリーニングも進んでいる。一方、球脊髄性筋萎縮症、SBMAはKennedy病とも呼ばれ、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長で起こる。これが今回の正解、X連鎖潜性遺伝だ。
医学生医学生
アンドロゲン受容体ということは、症状にも男性ホルモンが関係するんですか。
ドクタードクター
鋭いね。変異したアンドロゲン受容体はテストステロンと結合すると核内に移行して凝集し、脳幹の運動神経核や脊髄前角細胞を障害すると考えられている。だから発症には男性ホルモンが必要で、成人男性にのみ発症し、女性は変異をホモで持っていても無症状かごく軽症にとどまる。
医学生医学生
X連鎖であることに加えて、ホルモン依存性という二重の理由で男性に限られるんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。症状は構音障害や嚥下障害などの球麻痺、四肢近位筋優位の筋力低下と筋萎縮、舌の萎縮と線維束性収縮、手指の振戦。さらに受容体機能の低下を反映して、女性化乳房や精巣萎縮といった軽いアンドロゲン不全症状を伴うのが特徴だ。血清CKが高めになることも多い。
医学生医学生
残りの2つ、筋強直性ジストロフィーと福山型先天性筋ジストロフィーはどうでしょう。
ドクタードクター
筋強直性ジストロフィーは成人で最も多い遺伝性筋疾患で、常染色体顕性遺伝。1型はDMPK遺伝子の3'非翻訳領域のCTGリピート伸長で、異常なRNAがスプライシング調節を妨げるRNA病だ。筋強直、斧様顔貌、前頭部脱毛、白内障、心伝導障害、耐糖能異常など多彩な症状が出て、母親由来で重症の先天型が生じやすい。福山型先天性筋ジストロフィーは日本人に特有の常染色体潜性遺伝で、フクチン遺伝子へのレトロトランスポゾン挿入という創始者変異が大多数を占める。筋力低下に加えて、多小脳回などの脳奇形や眼合併症を伴うよ。
医学生医学生
整理すると、HuntingtonとMyotonicが顕性、SMAと福山型が潜性、SBMAがX連鎖ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床的な話をすると、SBMAは男性ホルモンが発症に必要という性質を逆手にとって、LH-RHアナログのリュープロレリンでテストステロン分泌を抑える治療が承認されている。病態の理解が治療に直結した好例だね。また、耐糖能異常や脂質異常症、Brugada症候群を合併することがあるので、神経症状だけでなく全身を診る姿勢が大切だ。
医学生医学生
女性化乳房のある中年男性が嚥下しにくいと訴えたら、SBMAを思い浮かべられるようにしておきます。
ドクタードクター
いいね。X連鎖の神経筋疾患としてはDuchenne型・Becker型筋ジストロフィーや副腎白質ジストロフィーもあわせて覚えておこう。

まとめ

球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長によるX連鎖潜性遺伝のポリグルタミン病で、発症に男性ホルモンを要するため成人男性にのみ発症します。球麻痺、近位筋優位の筋力低下、舌の線維束性収縮に加え、女性化乳房や精巣萎縮などのアンドロゲン不全症状を伴うのが特徴です。一方、Huntington病と筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性遺伝、脊髄性筋萎縮症(SMN1)と福山型先天性筋ジストロフィー(フクチン)は常染色体潜性遺伝です。SBMAではリュープロレリンによるテストステロン抑制、SMAではヌシネルセンや遺伝子治療など、病態理解に基づく治療が実用化されています。遺伝形式を原因遺伝子・変異様式とセットで整理しておくことは、遺伝カウンセリングや家族歴の解釈にも直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はcです

本問は、代表的な神経筋疾患の遺伝形式を問う問題である。

遺伝形式の整理

・常染色体顕性(優性)遺伝:1対の常染色体の片方に変異があれば発症する。男女とも同じ確率で発症し、患者の子は1/2の確率で変異を受け継ぐ。 ・常染色体潜性(劣性)遺伝:両方の常染色体に変異がそろって初めて発症する。両親はともに保因者であることが多く、その子は1/4の確率で発症する。 ・X連鎖潜性(劣性)遺伝:原因遺伝子がX染色体上にあり、X染色体を1本しか持たない男性に発症が集中する。女性は保因者となることが多い。父から息子へは伝わらない(父は息子にY染色体を渡すため)。

考え方

選択肢の疾患はいずれも神経・筋の遺伝性疾患であり、原因遺伝子と遺伝子変異の様式(リピート伸長など)とあわせて遺伝形式を覚えておく必要がある。このうちX染色体上に原因遺伝子があるのは、アンドロゲン受容体遺伝子の異常による球脊髄性筋萎縮症のみである。成人男性にのみ発症し、女性化乳房などアンドロゲン作用の低下を示すことは、X連鎖性であることと、原因がアンドロゲン受容体にあることを反映している。

選択肢考察

  1. ×a.  Huntington病

    Huntington病は常染色体顕性(優性)遺伝である。第4染色体短腕(4p16.3)にあるHTT(huntingtin)遺伝子内のCAGリピートの異常伸長によって生じる。CAGリピートはアミノ酸のグルタミンをコードするため、伸長したポリグルタミン鎖をもつ異常蛋白が神経細胞、特に線条体(尾状核など)を障害する。リピート数が40以上ではほぼ全例が発症する。世代を経るにつれてリピート数が増え、発症年齢の若年化や重症化がみられる表現促進現象があり、特に父親から受け継いだ場合に目立つ。舞踏運動、認知機能障害、精神症状が三大症状で、画像では尾状核の萎縮がみられる。

  2. ×b.  脊髄性筋萎縮症

    脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は常染色体潜性(劣性)遺伝である。第5染色体長腕(5q13)にあるSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子の欠失や変異により、脊髄前角の運動ニューロンが変性して筋力低下・筋萎縮をきたす。近くにあるよく似た遺伝子SMN2も少量の機能的SMN蛋白を作るため、SMN2のコピー数が多いほど軽症になる傾向がある。発症年齢と到達運動機能により、I型(重症型・急性乳児型)、II型(中間型・慢性乳児型)、III型(軽症型・慢性型)、IV型(成人型)に分類される。

  3. ○c.  球脊髄性筋萎縮症

    球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy:SBMA、Kennedy病)はX連鎖潜性(劣性)遺伝である。X染色体長腕(Xq12)にあるアンドロゲン受容体遺伝子内のCAGリピートの異常伸長によって生じるポリグルタミン病の一つである。変異したアンドロゲン受容体が男性ホルモン(テストステロン)と結合すると細胞の核内に移行して凝集し、下位運動ニューロン(脳幹の運動神経核と脊髄前角細胞)を障害すると考えられている。このため発症には男性ホルモンが必要であり、成人男性にのみ発症し、女性は変異をホモ接合で持っていても無症状かごく軽い症状にとどまる。症状は、構音障害・嚥下障害などの球麻痺症状、四肢近位筋優位の筋力低下と筋萎縮、舌の萎縮と線維束性収縮、手指の振戦など。アンドロゲン受容体の機能低下を反映して、女性化乳房、精巣萎縮、女性様の皮膚変化などの軽いアンドロゲン不全症状も伴う。検査では血清CKが高値となることが多く、耐糖能異常、脂質異常症、軽度の肝機能異常、Brugada症候群を合併することがある。

  4. ×d.  筋強直性ジストロフィー

    筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性(優性)遺伝であり、成人で最も多い遺伝性筋疾患である。大部分を占める1型は、第19染色体長腕(19q13.3)にあるDMPK(dystrophia myotonica protein kinase)遺伝子の3'非翻訳領域のCTGリピート伸長によって生じる。2型は第3染色体長腕にあるCNBP遺伝子のイントロン内のCCTGリピート伸長による。いずれも蛋白をコードしない部分の変異であり、リピートを含む異常なRNAが核内に蓄積し、スプライシング(RNAの編集)を調節する蛋白の働きを妨げることで、さまざまな遺伝子の異常スプライシングが起こり、多臓器に症状が出る(RNA病)。症状は筋強直(ミオトニア:握った手がすぐ開けないなど)、斧様顔貌、前頭部脱毛、白内障、心伝導障害、耐糖能異常、性腺機能低下など多彩である。1型では表現促進現象があり、母親から受け継いだ場合に重症の先天型が生じやすい。

  5. ×e.  福山型先天性筋ジストロフィー

    福山型先天性筋ジストロフィーは常染色体潜性(劣性)遺伝である。日本人に特有の疾患で、わが国ではDuchenne型に次いで2番目に多い小児期の筋ジストロフィーである。第9染色体長腕(9q31)にあるフクチン(fukutin)遺伝子に、約3 kbのレトロトランスポゾン(ゲノム内を移動するDNA配列)が挿入された変異が日本人患者の大多数に認められる(創始者効果)。フクチンはα-ジストログリカンの糖鎖修飾に関わり、その異常により、生下時からの重度の筋力低下(筋ジストロフィー)、神経細胞の遊走障害による脳奇形(滑脳症様の多小脳回など)と知的障害、高頻度の眼合併症を特徴とする。

主な神経筋疾患と遺伝形式

・X連鎖潜性遺伝:球脊髄性筋萎縮症、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー(ジストロフィン遺伝子)、Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(エメリン遺伝子によるもの)、副腎白質ジストロフィーなど。 ・常染色体顕性遺伝:Huntington病、筋強直性ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脊髄小脳変性症の多く(SCA1、SCA2、SCA3〈Machado-Joseph病〉、SCA6、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症〈DRPLA〉など)。 ・常染色体潜性遺伝:脊髄性筋萎縮症、福山型先天性筋ジストロフィー、Friedreich運動失調症、Wilson病など。

リピート病(反復配列伸長病)

ゲノム上の短い配列の繰り返しが異常に長くなることで発症する疾患群。 ・CAGリピート(ポリグルタミン病):Huntington病、球脊髄性筋萎縮症、SCA1・2・3・6、DRPLAなど。 ・CTGリピート:筋強直性ジストロフィー1型。 ・CGGリピート:脆弱X症候群(X連鎖)。 ・GAAリピート:Friedreich運動失調症。 多くは世代を経るとリピートが伸びやすく、表現促進現象(若年化・重症化)を示す。

治療の進歩

・脊髄性筋萎縮症:SMN2のスプライシングを修飾して機能的SMN蛋白を増やすアンチセンス核酸ヌシネルセン(髄腔内投与)や経口薬リスジプラム、アデノ随伴ウイルス9型ベクターでSMN1遺伝子を補うオナセムノゲン アベパルボベク(遺伝子治療)が使われている。早期治療ほど効果が高いため、新生児スクリーニングの取り組みも進んでいる。 ・球脊髄性筋萎縮症:発症に男性ホルモンが必要であることから、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アナログのリュープロレリンによりテストステロン分泌を抑える治療が承認されている。 ・Huntington病、筋強直性ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー:根本治療は確立しておらず、核酸医薬などの臨床試験が進められている。

POINT

・球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)はX連鎖潜性遺伝。アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長で、成人男性のみ発症し、女性化乳房を伴う。 ・Huntington病、筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性遺伝。 ・脊髄性筋萎縮症(SMN1)、福山型先天性筋ジストロフィー(フクチン)は常染色体潜性遺伝。 ・X連鎖潜性遺伝の神経筋疾患としてDuchenne型・Becker型筋ジストロフィーもあわせて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。