StudyMed医師国家試験

父から息子へ―家系図の1本の線がX連鎖を消し去る

第119回医師国家試験 C問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第22問

家系図を以下に示す。  この遺伝形式で発症する単一遺伝子病はどれか。

第119回 C問題 第22問の問題画像
  1. a.口蓋裂
  2. b.血友病A
  3. c.Hunter症候群
  4. d.フェニルケトン尿症
  5. e.神経線維腫症1型〈von Recklinghausen病〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は家系図から遺伝形式を読み取り、その形式で発症する単一遺伝子病を選ぶ問題だ。家系図問題は、世代を飛ばしているか、罹患者の性別に偏りがあるか、父から息子への伝達があるか、という順番でチェックすると迷わない。まずは全体を眺めて、どんな印象を受けるかな。
医学生医学生
どの世代にも罹患者がいて、男性も女性も罹患しています。世代を飛ばしていないので顕性遺伝っぽいと思いました。
ドクタードクター
いい第一印象だね。顕性遺伝では片方の対立遺伝子に変異があれば発症するから、罹患者の親のどちらかも罹患していることが多く、縦にずっと続いていく。逆に潜性遺伝は保因者の両親から突然罹患者が出るので、世代を飛ばしてきょうだいに横並びで現れやすいんだ。
医学生医学生
でも顕性だとして、常染色体なのかX連鎖なのかはどう区別すればいいでしょうか。X連鎖顕性も男女両方に出ますよね。
ドクタードクター
そこが決め手になるポイントだ。第1世代の罹患した父から、第2世代の息子に病気が伝わっているよね。父は息子にY染色体しか渡さないから、X染色体上の遺伝子が父から息子へ伝わることはありえない。つまり父から息子への伝達が1つでもあれば、X連鎖遺伝は潜性・顕性ともに否定できるんだ。
医学生医学生
なるほど、父から息子への1本の線でX連鎖が消えるんですね。ミトコンドリア遺伝も母系遺伝なので、父から伝わっている時点で否定できますか。
ドクタードクター
その通り。さらに、罹患者と非罹患者の夫婦から生まれた子を数えると、全体でちょうど半分くらいが罹患している。これは常染色体顕性遺伝で期待される1/2の分離比に合う。もし常染色体潜性だとしたら、外から嫁いできた配偶者が毎回保因者でなければならず、血族婚もないこの家系ではまず考えにくい。
医学生医学生
ということは常染色体顕性遺伝で、選択肢の中では神経線維腫症1型、von Recklinghausen病ですね。
ドクタードクター
正解。神経線維腫症1型は17番染色体長腕にあるNF1遺伝子の異常による常染色体顕性遺伝の疾患だ。NF1がコードするニューロフィブロミンはRasの働きを抑える腫瘍抑制因子で、その機能が失われると増殖のブレーキが外れて腫瘍ができやすくなる。カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、腋窩や鼠径部の雀卵斑様色素斑、虹彩のLisch結節などが特徴だよ。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、背中にたくさんのカフェオレ斑と柔らかい結節がある患者さんを見せてもらいました。ほかの選択肢も遺伝形式で切っていけばいいですか。
ドクタードクター
そうだね。まず血友病AとHunter症候群はどうかな。
医学生医学生
血友病Aは第Ⅷ因子の異常でX連鎖潜性、Hunter症候群もムコ多糖症の中で唯一X連鎖潜性でした。どちらも父から息子への伝達がある時点で合わないですね。
ドクタードクター
完璧。血友病AはAPTT延長・PT正常、関節内出血の反復がポイント。Hunter症候群はイズロン酸-2-スルファターゼの欠損で、Hurler症候群と違って角膜混濁がみられにくいことも国試の頻出事項だ。フェニルケトン尿症は?
医学生医学生
フェニルアラニン水酸化酵素の欠損で、新生児マススクリーニングの対象ですよね。酵素欠損症なので常染色体潜性遺伝だと思います。
ドクタードクター
そう、酵素欠損症の多くは常染色体潜性遺伝をとる。両親は通常非罹患の保因者で、世代を飛ばして出てくるから本家系とは合わない。最後に口蓋裂はどうだろう。
医学生医学生
口蓋裂は家族で出ることもあると聞いた気がするので、遺伝病のイメージがありました。
ドクタードクター
家族集積はあるけれど、多くは複数の遺伝要因と母体の喫煙や薬剤などの環境要因が重なる多因子遺伝の疾患なんだ。症候群の一部として生じる場合を除けば、明確なメンデル遺伝形式はとらないから、単一遺伝子病という問いの条件からまず外れる。
医学生医学生
家系図で形式を決めて、各疾患の遺伝形式と照らし合わせる二段構えですね。顕性遺伝の疾患って、NF1以外にも覚えておくべきものはありますか。
ドクタードクター
結節性硬化症、Marfan症候群、Huntington病、家族性大腸腺腫症、筋強直性ジストロフィー、軟骨無形成症、成人型の多発性嚢胞腎、家族性高コレステロール血症あたりはセットで押さえておこう。臨床で注意したいのは、顕性遺伝でも家系図がきれいに出るとは限らないことだ。NF1は浸透率がほぼ100%と高い一方、同じ家系でも症状の重さに大きな幅があるし、約半数は両親に異常のない新生突然変異による孤発例なんだ。
医学生医学生
家族歴がないからといってNF1を否定してはいけない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。そして診断がついたら、罹患者の子は性別に関係なく1/2の確率で罹患することを踏まえて、遺伝カウンセリングにつなげることが大切だ。家系図を正しく読めることは、試験のためだけでなく、患者さんや家族に正確な情報を伝えるための基本スキルなんだよ。

まとめ

家系図問題では、世代を飛ばすか、罹患者の性別に偏りがあるか、父から息子への伝達があるかを順に確認します。各世代に男女とも罹患者がいて、罹患した父から息子へ伝わり、罹患者の子の約半数が罹患していれば、X連鎖遺伝とミトコンドリア遺伝が否定され、常染色体顕性遺伝と判断できます。選択肢では神経線維腫症1型(NF1遺伝子、17番染色体)が該当し、血友病AとHunter症候群はX連鎖潜性、フェニルケトン尿症は常染色体潜性、口蓋裂は多因子遺伝です。NF1は表現度の幅が大きく約半数が新生突然変異であるため、家族歴がなくても否定できない点も重要です。遺伝形式の読み取りと代表疾患の対応は、国試の頻出事項であると同時に、遺伝カウンセリングなど臨床での説明の土台になります。

解答・解説

正解はeです

家系図の読み取り

・第1世代:罹患男性と非罹患女性の夫婦。 ・第2世代:この夫婦から下りる同胞線(きょうだいを結ぶ横線)に縦線でつながる子は、罹患女性(娘)、罹患男性(息子)、非罹患男性(息子)の3人である。左端の非罹患男性は罹患女性と横の婚姻線で結ばれた配偶者(家系外から嫁いだ婚入者)であり、第1世代の子ではない。 ・第3世代:第2世代の罹患女性とその配偶者(非罹患男性)の子は、非罹患男性、非罹患女性、罹患男性の3人。 ・罹患者と非罹患者の夫婦から生まれた子は、第2世代で3人中2人、第3世代で3人中1人が罹患しており、合計6人中3人が罹患している。

遺伝形式の絞り込み

① 各世代に罹患者がいる(世代を飛ばさない縦の伝達):顕性(優性)遺伝を強く示唆する。 ② 男女とも罹患している:Y連鎖遺伝は否定される。 ③ 罹患した父から息子へ伝達している(第1世代の父→第2世代の息子):父は息子に Y染色体しか渡さないため、X連鎖遺伝(潜性・顕性とも)では起こり得ない。これで X連鎖遺伝は否定される。また、ミトコンドリア遺伝は母系遺伝であり、父から子への伝達がある時点で否定される。 ④ 罹患者と非罹患者の夫婦から、罹患した子と罹患していない子が合計でちょうど半々(6人中3人)生まれている:常染色体顕性遺伝で期待される分離比(1/2)に合う。 ⑤ 常染色体潜性遺伝であれば、各世代で罹患者が出るには外部から嫁いできた非罹患の配偶者が毎回保因者でなければならず、血族婚もないこの家系では可能性が極めて低い。 したがって、この家系は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとる。

正解への道筋

選択肢のうち、常染色体顕性遺伝を示す単一遺伝子病は神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)である。したがって正解は e である。

選択肢考察

  1. ×a.  口蓋裂

    口蓋裂は胎生期に左右の口蓋突起が正中で癒合しないために生じる先天異常で、口唇裂や顎裂を伴うことも多い。哺乳障害、開鼻声などの構音障害、滲出性中耳炎、上顎(中顔面)の成長障害などが問題となる。口唇裂・口蓋裂は日本人で約500人に1人程度と頻度の高い先天異常である。多くは複数の遺伝要因と環境要因(母体の喫煙・薬剤など)が重なって発症する多因子遺伝の疾患であり、単一遺伝子病ではない。症候群の一部として生じる場合を除き、明確なメンデル遺伝形式はとらない。

  2. ×b.  血友病A

    血友病Aは X染色体上の第Ⅷ因子遺伝子(F8)の異常による凝固因子欠乏症で、X連鎖潜性(劣性)遺伝をとる。患者はほぼ男性で、関節内出血や筋肉内出血を繰り返し、検査では APTT が延長し PT は正常である。X連鎖遺伝では罹患した父から息子へ伝わることはないので、父から息子への伝達がある本家系とは合わない。

  3. ×c.  Hunter症候群

    Hunter症候群(ムコ多糖症Ⅱ型)は、X染色体上の IDS 遺伝子の異常によりライソゾーム酵素イズロン酸-2-スルファターゼが欠損し、デルマタン硫酸やヘパラン硫酸などのムコ多糖(グリコサミノグリカン)が全身に蓄積する疾患である。粗な顔貌、肝脾腫、関節拘縮、骨変形、精神運動発達の遅れなどを呈する。ムコ多糖症の中で唯一 X連鎖潜性遺伝をとる型で、患者はほぼ男性である。Hurler症候群(Ⅰ型)と異なり角膜混濁がみられにくい。X連鎖遺伝のため本家系とは合わない。

  4. ×d.  フェニルケトン尿症

    フェニルケトン尿症はフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠損・活性低下により、フェニルアラニンをチロシンへ変換できない先天代謝異常症である。血中フェニルアラニンが上昇し、尿中にフェニルピルビン酸などが排泄される。未治療では知的障害、けいれん、メラニン合成低下による色白・赤毛、ネズミ尿様の体臭などを生じるため、新生児マススクリーニングの対象疾患となっており、早期からのフェニルアラニン制限食で発症を予防できる。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝であり、通常は両親とも非罹患の保因者で、世代を飛ばして出現するため本家系とは合わない。

  5. ○e.  神経線維腫症1型〈von Recklinghausen病〉

    神経線維腫症1型は、17番染色体長腕(17q11.2)にある NF1 遺伝子の異常による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。NF1 遺伝子がコードするニューロフィブロミンは Ras の働きを抑える腫瘍抑制因子であり、その機能喪失により細胞増殖の抑制がはずれて腫瘍が生じやすくなる。カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、虹彩の Lisch 結節、視神経膠腫、骨病変(脊柱側弯など)を特徴とする。浸透率はほぼ100%と高いが、同じ家系内でも症状の重さには大きな幅がある。約半数は両親に異常のない新生突然変異による孤発例である。男女とも罹患し、罹患者の子は1/2の確率で罹患するという本家系の特徴に合致する。

単一遺伝子病の遺伝形式の特徴

1.常染色体顕性(優性)遺伝 ・片方の対立遺伝子の変異(ヘテロ接合)で発症する。 ・男女とも同じように罹患し、男女どちらからも子へ伝わる(父から息子への伝達もある)。 ・罹患者(ヘテロ接合)と非罹患者の子は、性別によらず1/2の確率で罹患する。 ・通常、各世代に罹患者が出る。ただし浸透率の低下や表現度の差、新生突然変異により例外がある。 ・例:神経線維腫症1型、結節性硬化症、Marfan症候群、Huntington病、家族性大腸腺腫症、筋強直性ジストロフィー、軟骨無形成症、多発性嚢胞腎(成人型)、家族性高コレステロール血症など。 2.常染色体潜性(劣性)遺伝 ・両方の対立遺伝子に変異がある(ホモ接合または複合ヘテロ接合)ときに発症する。 ・両親は多くの場合非罹患の保因者で、保因者同士の子は1/4の確率で罹患し、1/2の確率で保因者となる。 ・同胞(きょうだい)に罹患者がみられ、親や子の世代には出にくい(水平の分布)。 ・まれな疾患ほど血族婚との関連が強い。 ・顕性遺伝の疾患に比べ症状が比較的均一で、発症が早い傾向がある。酵素欠損症の多くがこの形式をとる。 ・例:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、Gaucher病、Wilson病、嚢胞性線維症、脊髄性筋萎縮症、Hurler症候群など。 3.X連鎖潜性(劣性)遺伝 ・患者はほぼ男性(X染色体を1本しかもたない半接合体のため、変異があれば発症する)。 ・保因者の女性の息子は1/2で罹患し、娘は1/2で保因者となる。 ・罹患男性の息子には伝わらず(男性から男性への伝達がない)、娘は全員保因者となる。 ・例:血友病A・B、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、Hunter症候群、Fabry病、G6PD欠損症、Lesch-Nyhan症候群など。

家系図を読むときの手順

① 世代を飛ばしているか(飛ばす→潜性、飛ばさない→顕性を考える) ② 罹患者の性別に偏りがあるか(男性に偏る→X連鎖潜性) ③ 父から息子への伝達があるか(あれば X連鎖は否定) ④ 罹患した母の子が全員罹患し、父からは伝わらないか(そうであればミトコンドリア遺伝)

POINT

・父から息子への伝達があれば X連鎖遺伝は否定される。 ・世代を飛ばさず、男女とも罹患し、罹患者の子の約半数が罹患→常染色体顕性遺伝。 ・神経線維腫症1型は常染色体顕性遺伝(NF1 遺伝子、17番染色体)で、約半数は新生突然変異。 ・血友病A・Hunter症候群は X連鎖潜性、フェニルケトン尿症は常染色体潜性、口蓋裂は多因子遺伝。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。