StudyMed医師国家試験

鉛は空気じゃなくて水?―大気・水質・土壌で整理する環境基準の対象物質

第108回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第8問

大気汚染に係る環境基準の対象物質はどれか。

  1. a.鉛
  2. b.カドミウム
  3. c.二酸化硫黄
  4. d.アルキル水銀化合物
  5. e.ポリビニルアルコール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生から、大気汚染に係る環境基準の対象物質を問う問題だ。ポイントは、環境基準が「大気」「水質」「土壌」「騒音」の分野ごとに別々に定められていて、物質ごとにどの分野に属するかを整理できているかどうか。まず、環境基準とは何か説明できるかな。
医学生医学生
工場などから出してよい量の上限、つまり規制値のことでしょうか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。環境基準は環境基本法に基づいて政府が定める、人の健康を守り生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい」基準で、行政が目指す目標値なんだ。個々の工場に課す排出基準とは別物で、排出基準は大気汚染防止法や水質汚濁防止法などで定められている。
医学生医学生
目標値と規制値を区別するんですね。社会医学の講義で聞いたはずなのに、混ざっていました。
ドクタードクター
では本題。大気汚染の環境基準で、昔から定められている基本の物質を挙げてみよう。
医学生医学生
二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化窒素……あと光化学オキシダントでしょうか。
ドクタードクター
いいね。それに浮遊粒子状物質(SPM)を加えた5つが基本セットだ。さらに後から、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンの4物質、ダイオキシン類、そして微小粒子状物質(PM2.5)が加わっている。だから選択肢の中では二酸化硫黄が正解になる。
医学生医学生
二酸化硫黄といえば四日市ぜんそくですね。CBTの公害病の問題でよく出てきました。
ドクタードクター
その通り。石炭や重油など硫黄分を含む燃料を燃やすと発生し、気道を刺激して慢性気管支炎や喘息様の症状を起こす。現在は排煙脱硫装置や燃料の低硫黄化が進み、ほぼすべての測定局で環境基準を達成しているんだ。では、鉛はどうだろう。
医学生医学生
排気ガスに含まれていた有鉛ガソリンのイメージがあるので、大気の基準に入っていそうな気がします。
ドクタードクター
引っかかりやすいところだね。米国の大気環境基準には鉛が入っているけれど、日本の大気の環境基準には含まれない。日本では鉛は水質汚濁に係る環境基準の健康項目や、土壌汚染に係る環境基準の対象として扱われている。
医学生医学生
カドミウムはイタイイタイ病の原因なので、水や土壌のほうですね。
ドクタードクター
正解。神通川流域で鉱山排水に含まれたカドミウムが水田の土壌や作物を汚染し、腎尿細管障害と骨軟化症を起こした。だから水質と土壌の環境基準の対象だ。アルキル水銀も同じく水質の健康項目で、基準は「検出されないこと」と厳しく定められている。
医学生医学生
アルキル水銀の一つがメチル水銀で、水俣病の原因でしたね。神経内科の実習で、求心性視野狭窄や運動失調の話を聞きました。
ドクタードクター
よく結びつけられたね。感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害が代表的な症状だ。最後のポリビニルアルコールは、合成繊維や接着剤の原料になる水溶性の樹脂で、どの分野の環境基準にも入っていない。いわば明らかな外れの選択肢だね。
医学生医学生
重金属は水と土、ガスや粒子は空気、と分けて覚えると整理しやすいです。
ドクタードクター
その覚え方は実用的だ。ただし例外もあって、トリクロロエチレンやベンゼンは大気と水質の両方に基準があるし、ダイオキシン類も大気・水質・土壌のそれぞれに基準がある。発展として、達成状況も押さえておこう。二酸化硫黄や一酸化炭素はほぼ全局で達成している一方、光化学オキシダントは達成率がきわめて低い状態が続いている。PM2.5は近年改善して達成率が大きく上がった。
医学生医学生
光化学オキシダントは今も課題なんですね。夏に光化学スモッグ注意報が出ると、外来で目や喉の刺激を訴える患者さんが増えそうです。
ドクタードクター
そうだね。大気汚染は呼吸器疾患や循環器疾患の増悪因子にもなるから、喘息やCOPDの患者さんには注意報の情報を活用して外出を控えるよう助言することもある。環境基準の知識は、試験のためだけでなく患者指導にもつながるんだ。

まとめ

環境基準は環境基本法に基づく行政上の目標値であり、排出規制値とは区別されます。大気汚染に係る環境基準の対象は、二酸化硫黄・一酸化炭素・浮遊粒子状物質・二酸化窒素・光化学オキシダントの基本5物質に加え、ベンゼンなど4物質、ダイオキシン類、PM2.5であり、四日市ぜんそくの主因である二酸化硫黄が代表例です。一方、鉛・カドミウム・アルキル水銀などの重金属は、水質汚濁(健康項目)や土壌汚染の環境基準の対象であり、イタイイタイ病や水俣病と結びつけて整理すると覚えやすくなります。日本の大気環境基準に鉛が含まれない点や、光化学オキシダントの達成率が今も低い点は頻出の注意点です。物質と分野、公害病を対応させて理解しておくことは、公衆衛生の得点源となるだけでなく、呼吸器疾患患者への生活指導にも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

環境基準とは、環境基本法(1993年)第16条に基づいて政府が定める「人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」であり、行政が目標とする値である(個々の工場などに課す排出規制値とは異なる)。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音の4分野について定められている。 大気汚染に係る環境基準の対象は、次のように整理して覚える。 ・古くからの基本5物質:二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)、光化学オキシダント ・有害大気汚染物質:ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン ・ダイオキシン類 ・微小粒子状物質(PM2.5) 一方、鉛・カドミウム・アルキル水銀などの重金属は、主に水質汚濁や土壌汚染に係る環境基準の項目である。選択肢のうち大気の環境基準に含まれるものを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  鉛

    大気汚染に係る環境基準の対象ではない。鉛およびその化合物は、水質汚濁に係る環境基準の「人の健康の保護に関する環境基準」(健康項目)の一つで、基準値は0.01 mg/L以下である。土壌汚染に係る環境基準の対象でもあり、水質汚濁防止法の排水基準や下水道法の排除基準も設けられている。なお米国では鉛が大気環境基準に含まれるが、日本の大気の環境基準には含まれない点に注意する。

  2. ×b.  カドミウム

    大気汚染に係る環境基準の対象ではない。カドミウムおよびその化合物は水質汚濁に係る環境基準の健康項目(0.003 mg/L以下)であり、土壌汚染に係る環境基準の対象でもある。富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病の原因物質で、腎尿細管障害と骨軟化症をきたす。水質汚濁防止法・下水道法でも排出の基準がある。

  3. ○c.  二酸化硫黄

    大気汚染に係る環境基準の対象物質である。二酸化硫黄は主に石炭・重油など硫黄分を含む化石燃料の燃焼で発生し、気道を刺激して慢性気管支炎や喘息様症状を起こす。四日市ぜんそくの主な原因物質として知られる。環境基準は「1時間値の1日平均値が0.04 ppm以下であり、かつ、1時間値が0.1 ppm以下であること」と定められている。排煙脱硫装置の普及や燃料の低硫黄化により、現在ではほぼすべての測定局で環境基準を達成している。

  4. ×d.  アルキル水銀化合物

    大気汚染に係る環境基準の対象ではない。アルキル水銀は水質汚濁に係る環境基準の健康項目で、基準は「検出されないこと」とされている(総水銀は0.0005 mg/L以下)。土壌汚染に係る環境基準の対象でもあり、水質汚濁防止法・下水道法にも基準がある。アルキル水銀の一つであるメチル水銀は水俣病・新潟水俣病の原因物質で、中枢神経障害(感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害など)を起こす。

  5. ×e.  ポリビニルアルコール

    大気汚染に係る環境基準の対象ではなく、ほかの分野の環境基準の項目でもない。ポリビニルアルコール(PVA)は水溶性の合成樹脂で、合成繊維(ビニロン)やフィルム、接着剤・糊の原料、塩化ビニル樹脂を重合する際の安定剤などとして広く使われている。本問では明らかに無関係な物質として置かれている。

大気汚染に係る環境基準(主なもの)

・二酸化硫黄:1時間値の1日平均値が0.04 ppm以下、かつ1時間値が0.1 ppm以下 ・一酸化炭素:1時間値の1日平均値が10 ppm以下、かつ1時間値の8時間平均値が20 ppm以下 ・浮遊粒子状物質(SPM、粒径10 μm以下):1時間値の1日平均値が0.10 mg/m3以下、かつ1時間値が0.20 mg/m3以下 ・二酸化窒素:1時間値の1日平均値が0.04〜0.06 ppmのゾーン内またはそれ以下 ・光化学オキシダント:1時間値が0.06 ppm以下 ・微小粒子状物質(PM2.5、粒径2.5 μm以下):1年平均値が15 μg/m3以下、かつ1日平均値が35 μg/m3以下 ・ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン:いずれも1年平均値で基準が設定されている ・ダイオキシン類:1年平均値が0.6 pg-TEQ/m3以下

達成状況の概略

二酸化硫黄、一酸化炭素はほぼ全局で達成している。一方、光化学オキシダントは達成率がきわめて低い状態が続いている。PM2.5は近年改善し、達成率が大きく向上している。

水質汚濁に係る環境基準の区分

・人の健康の保護に関する環境基準(健康項目):カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、アルキル水銀、PCB、トリクロロエチレン、ベンゼンなど。全公共用水域に一律に適用される。 ・生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目):pH、BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質量)、DO(溶存酸素量)、大腸菌数、全窒素、全リンなど。水域の利用目的に応じた類型ごとに設定される。

公害病との対応

・四日市ぜんそく:二酸化硫黄など(大気汚染) ・水俣病・新潟水俣病:メチル水銀(水質汚濁) ・イタイイタイ病:カドミウム(水質汚濁・土壌汚染)

POINT

・大気汚染に係る環境基準の基本5物質は「二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、二酸化窒素、光化学オキシダント」。 ・これに加えて、ベンゼン等4物質、ダイオキシン類、PM2.5にも大気の環境基準がある。 ・鉛、カドミウム、アルキル水銀などの重金属は、水質汚濁(健康項目)・土壌汚染の環境基準の対象である。 ・環境基準は行政上の目標値であり、排出規制値とは異なる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。