血液の源流をたどる―造血幹細胞は「最初から骨髄」にいたわけではない
第108回医師国家試験 B問題 第7問
国試問題にチャレンジ
ヒト造血幹細胞について誤っているのはどれか。
- a.多分化能を有する。
- b.自己複製能を有する。
- c.胎生期初期は骨髄に存在する。
- d.細胞表面抗原はCD34陽性である。
- e.G-CSFの投与により末梢血中に増加する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
造血幹細胞は、すべての血球系統へ分化できる多分化能と、分裂後も幹細胞性を保つ自己複製能を併せ持つ細胞で、ヒトではCD34陽性が代表的なマーカーです。胎生期の造血の場は卵黄嚢(胎生3週ごろ)→AGM領域→肝臓(脾臓)→骨髄と移り変わり、骨髄が主座となるのは胎生後期であるため、胎生期初期に骨髄に存在するという記述は誤りです。G-CSFの投与で幹細胞は骨髄ニッチから末梢血へ動員され、アフェレーシスで採取して末梢血幹細胞移植に用いられ、移植片のCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標となります。骨髄線維症などで骨髄造血が障害されると胎生期の造血部位である肝臓・脾臓で髄外造血が起こることもあり、発生の知識は病態理解に直結します。幹細胞の基本的性質を押さえることは、造血幹細胞移植をはじめとする血液診療を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)の基本的な性質を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、記述内容が事実と異なる選択肢を一つ選ぶ。 確認すべき要点は次の4つである。 1) 幹細胞の定義:「多分化能」と「自己複製能」を併せ持つ細胞である。 2) 造血の場の変遷:胎生期の造血は卵黄嚢から始まり、AGM領域、肝臓(および脾臓)を経て、最終的に骨髄へ移る。骨髄が造血の主座になるのは胎生中期以降である。 3) 表面マーカー:ヒト造血幹細胞はCD34陽性で、臨床ではCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標として使われる。 4) 動員(mobilization):G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与で幹細胞が骨髄から末梢血に出てくるため、これを採取して末梢血幹細胞移植に利用する。 このうち造血の場の変遷に関する知識と合わない記述が誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. 多分化能を有する。
記述は正しい。造血幹細胞は、赤血球・顆粒球・単球・巨核球(血小板)などの骨髄系と、T細胞・B細胞・NK細胞などのリンパ系の、すべての血球系統に分化できる。この「複数系統へ分化できる能力」が多分化能であり、自己複製能と並んで幹細胞であるための必須条件である。骨髄移植で患者の造血系全体が置き換わるのはこの性質による。
- ×b. 自己複製能を有する。
記述は正しい。造血幹細胞は分裂した後も、少なくとも一方の娘細胞が幹細胞としての性質(未分化性と多分化能)を保つ。これを自己複製能という。この能力によって幹細胞のプールは生涯にわたって枯渇せず、一生血球を作り続けることができる。多分化能だけで自己複製能がない細胞は前駆細胞(progenitor)とよばれ、幹細胞とは区別される。
- ○c. 胎生期初期は骨髄に存在する。
記述が誤っているため、これが正解である。胎生期初期には骨髄はまだ形成されておらず、造血は胎生3週ごろに卵黄嚢の血島で始まる(主に原始赤血球をつくる一次造血)。続いて胎児本体のAGM(aorta-gonad-mesonephros:大動脈・生殖腺・中腎)領域で成体型の造血幹細胞が生じ、これが胎児肝臓へ移って胎生中期の主な造血の場となる(脾臓も一時的に関与する)。骨髄での造血はその後に始まり、胎生後期に主座が骨髄へ移って出生後は骨髄が唯一の正常造血部位となる。したがって「胎生期初期に骨髄に存在する」は誤りである。
- ×d. 細胞表面抗原はCD34陽性である。
記述は正しい。CD34は造血幹細胞や未熟な前駆細胞に発現する細胞表面の糖タンパクで、分化が進むと発現が失われる。臨床では、移植片に含まれるCD34陽性細胞数をフローサイトメトリーで測定して、幹細胞量の目安にしている。なお、より厳密にはヒト造血幹細胞はCD34陽性・CD38陰性・各系統マーカー陰性(Lin陰性)の分画に濃縮される。
- ×e. G-CSFの投与により末梢血中に増加する。
記述は正しい。定常状態では造血幹細胞は骨髄内の微小環境(ニッチ)に、CXCL12(SDF-1)とその受容体CXCR4などの相互作用によってつなぎとめられており、末梢血中にはごく少数しかいない。G-CSFを投与すると骨髄内で好中球系細胞が増え、放出されるプロテアーゼなどによってこの係留が弱まり、幹細胞が末梢血中へ多数出てくる(動員)。これをアフェレーシス(成分採血)で集めて移植するのが末梢血幹細胞移植である。動員が不十分な場合には、CXCR4拮抗薬のプレリキサホルが併用される。
造血の場の変遷
・卵黄嚢(胎生3週ごろ〜):血島で原始赤血球を中心とする一次造血が行われる。 ・AGM領域(胎生4〜5週ごろ):胎児本体で成体型(二次造血)の造血幹細胞が最初に生じる部位とされる。 ・肝臓(胎生6週ごろ〜):胎生中期の造血の中心。脾臓も一時的に造血に関与する。 ・骨髄(胎生後期〜出生後):胎生後期に造血の主座となり、出生後は骨髄のみで正常造血が行われる。 ・成人では造血は主に体幹骨(椎骨、胸骨、肋骨、骨盤など)の赤色髄で行われ、四肢の長管骨は加齢とともに脂肪髄に置き換わる。骨髄線維症などで骨髄造血が障害されると、胎生期の造血部位である肝臓や脾臓で造血が再開することがあり(髄外造血)、肝脾腫の原因となる。
造血幹細胞の性質
・多分化能と自己複製能を併せ持つ。 ・通常は大部分が細胞周期の休止期(G0期)にとどまり、必要に応じて増殖・分化する。 ・ヒトではCD34陽性、CD38陰性、Lin陰性の分画に含まれる。
造血幹細胞移植の種類
・骨髄移植:全身麻酔下に腸骨から骨髄液を採取する。 ・末梢血幹細胞移植:G-CSF(必要に応じてプレリキサホル)で動員した幹細胞をアフェレーシスで採取する。自家移植と同種移植の両方で広く用いられる。 ・臍帯血移植:臍帯血中の幹細胞を用いる。HLA不適合をある程度許容できるが、細胞数が少なく生着に時間がかかりやすい。
POINT
・幹細胞の条件は「多分化能」と「自己複製能」の両方をもつこと。 ・胎生期の造血の場は、卵黄嚢 → AGM領域 → 肝臓(脾臓)→ 骨髄の順に移る。胎生期初期に骨髄造血はない。 ・ヒト造血幹細胞のマーカーはCD34陽性。移植ではCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標になる。 ・G-CSFで幹細胞を末梢血へ動員し、末梢血幹細胞移植に用いる。
