StudyMed医師国家試験

歩くと痛む脚、しゃがむと消える痛み―間欠性跛行は「血管」と「神経」の両面から攻める

第107回医師国家試験 I問題 第77問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第77問

75歳の男性。歩行時の右下肢痛を主訴に来院した。安静時に痛みはなく,約50 m歩行すると右大腿から下腿にかけて痛みが発生する。立ち止まると痛みが軽減し,しゃがむと消失する。右下肢に浮腫を認めない。  診断に有用なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.頭部CT
  2. b.腰椎MRI
  3. c.四肢の血圧測定
  4. d.腹部超音波検査
  5. e.下肢静脈超音波検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、歩くと下肢が痛くなり、休むと治まる「間欠性跛行」の原因をどう調べるかという問題だ。着目したいのは、痛みがどうすると軽くなるか、という点。ここに原因を見分けるヒントが隠れている。
医学生医学生
間欠性跛行といえば、まず閉塞性動脈硬化症を思い浮かべます。
ドクタードクター
いいね。今は末梢動脈疾患、PADと呼ぶことが多い。下肢の動脈が動脈硬化で狭くなり、歩いて筋肉の酸素需要が増えると血流が追いつかず、筋が虚血になって痛む。これが血管性間欠性跛行だ。でも、間欠性跛行の原因はもう1つ大事なものがある。
医学生医学生
腰部脊柱管狭窄症ですね。整形外科の講義で、神経性間欠性跛行として習いました。
ドクタードクター
その通り。立ったり歩いたりして腰が反ると脊柱管がさらに狭くなり、馬尾や神経根が圧迫されて痛みやしびれが出る。前かがみやしゃがみ込みで腰を曲げると脊柱管が広がって楽になる。今回の「しゃがむと消失する」という点は、まさに神経性を示唆するね。
医学生医学生
それなら腰椎MRIだけで十分な気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。「立ち止まると軽減する」のは血管性でもみられる特徴で、血管性は姿勢に関係なく立ち止まるだけで治まる。しかも75歳なら動脈硬化性疾患も十分ありうるし、高齢者では2つが合併していることも少なくない。問診だけでは一方に絞り切れないから、両方を評価する検査が必要になる。
医学生医学生
血管性を調べるのが四肢の血圧測定、つまりABIですね。
ドクタードクター
そう。足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値で、正常は1.00〜1.40。0.90以下なら下肢動脈の狭窄・閉塞を疑い、PADの診断根拠になる。外来で非侵襲的に測れて、左右差から患側も評価できるのが強みだ。
医学生医学生
神経性の評価に腰椎MRIを使うのは、骨だけでなく軟部組織も見えるからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。椎間板の膨隆や黄色靱帯の肥厚、椎間関節の変形で脊柱管や椎間孔が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫されている様子を描出できる。腰部脊柱管狭窄症の画像診断で第一に選ばれる検査だ。では残りの選択肢も確認しよう。頭部CTはどうかな。
医学生医学生
脳梗塞なら麻痺や言語障害が出るはずですが、歩くと痛んで休むと治まるという症状は脳の病気らしくないですね。
ドクタードクター
そうだね。原因は下肢の動脈か腰椎部の神経にあるから、頭部の検査は役に立たない。腹部超音波検査はどうだろう。
医学生医学生
腹部大動脈瘤は見えると思いますが、下肢の動脈の狭窄や脊柱管までは評価できなさそうです。
ドクタードクター
正解。腹部からでは、間欠性跛行の原因となる部位は評価できない。最後に下肢静脈超音波検査だ。
医学生医学生
深部静脈血栓症の検査ですよね。脚が腫れていないし、安静で痛みが消えるので、静脈の病気は考えにくいと思います。
ドクタードクター
その通り。深部静脈血栓症なら腫脹や浮腫を伴い、痛みも安静で持続しやすい。ただ、下肢の「動脈」の超音波なら有用だから、動脈と静脈を取り違えないように注意しよう。
医学生医学生
しゃがむと楽になるのは神経性、立ち止まるだけで楽になるのは血管性、でも決め手に欠けるなら両方調べる、という考え方ですね。
ドクタードクター
よくまとまっている。ほかにも鑑別のコツがある。自転車こぎは前かがみの姿勢になるので、神経性では症状が出にくいが、血管性では脚を使うので痛みが出る。足背動脈や後脛骨動脈の拍動が弱いのも血管性を示唆する所見だ。
医学生医学生
臨床実習で、PADの患者さんの足背動脈を触れにくかったのを覚えています。ABIが高すぎる場合もあるんですか。
ドクタードクター
糖尿病や透析の患者さんでは動脈壁が高度に石灰化し、カフで圧迫しても血管がつぶれにくいので、ABIが1.40を超えて見かけ上高くなることがある。その場合は足趾上腕血圧比などで評価する。PADは心筋梗塞や脳卒中を合併しやすい全身の動脈硬化の一部だから、見つけたら危険因子の管理も含めて全身を診る意識が大切だよ。

まとめ

歩行で下肢痛が出現し休むと軽快する間欠性跛行の二大原因は、末梢動脈疾患による血管性と、腰部脊柱管狭窄症による神経性です。前かがみやしゃがみ込みで軽快するのは神経性、姿勢に関係なく立ち止まるだけで軽快するのは血管性の特徴ですが、高齢者では両者が合併することも多く、問診だけでは絞り切れません。そのため、四肢の血圧測定によるABI(0.90以下でPADを疑う)と、腰椎MRIによる脊柱管狭窄の評価を組み合わせて鑑別します。頭部CTや腹部超音波、下肢静脈超音波は間欠性跛行の原因部位を評価できません。症状の軽快パターンから病態を推測し、必要な検査を過不足なく選ぶ姿勢は、外来診療での鑑別診断の基本となります。

解答・解説

正解はb, cです

所見の整理

・75歳男性の右下肢痛 ・安静時には痛みがなく、約50 m歩くと右大腿〜下腿に痛みが出る。 ・立ち止まると痛みが軽くなり、しゃがむと消える。 ・右下肢に浮腫はない。

診断へのプロセス

一定距離を歩くと下肢に痛みやしびれが出て歩けなくなり、休むと再び歩けるようになる症状を間欠性跛行という。間欠性跛行を起こす代表的な疾患は2つある。 ・血管性間欠性跛行:下肢の動脈が動脈硬化で狭窄・閉塞する末梢動脈疾患(PAD。かつては閉塞性動脈硬化症 ASO と呼ばれることが多かった)。歩行で筋肉の酸素需要が増すのに血流が追いつかず、筋の虚血で痛みが出る。姿勢に関係なく、立ち止まるだけで速やかに軽快する。 ・神経性間欠性跛行:腰部脊柱管狭窄症。立位・歩行で腰椎が伸展(後屈)すると脊柱管がさらに狭くなり、馬尾や神経根が圧迫されて痛みやしびれが出る。前かがみやしゃがみ込みなど腰椎を屈曲(前屈)させると脊柱管が広がって症状が軽快する。単に立ち止まるだけでは改善しにくいのが特徴である。 本症例では「しゃがむと消失する」という点が神経性を示唆するが、「立ち止まると軽減する」点は血管性でもみられ、75歳という年齢からは動脈硬化性疾患も十分ありうる。高齢者ではこの2疾患が合併していることも少なくない。問診だけで一方に絞り込むことはできないため、両方を評価する検査が必要となる。

設問の考え方

血管性の評価には四肢の血圧を測定して足関節上腕血圧比(ABI)を求め、神経性の評価には腰椎MRIで脊柱管の狭窄を確認する。この2つが間欠性跛行の鑑別に有用な検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部CT

    誤り。頭部CTは脳出血・脳梗塞・頭部外傷など頭蓋内病変の評価に用いる。本症例の症状は歩行で誘発される一側下肢の痛みで、安静時には消失し、麻痺や感覚障害、言語障害などの脳の障害を示す所見はない。間欠性跛行の原因は下肢動脈か腰椎部の神経にあり、頭部の検査は診断に役立たない。

  2. ○b.  腰椎MRI

    正しい。「しゃがむと消失する」という姿勢で変化する症状は腰部脊柱管狭窄症による神経性間欠性跛行を示唆する。腰椎MRIは骨だけでなく椎間板・黄色靱帯・馬尾・神経根などの軟部組織を描出でき、椎間板の膨隆、黄色靱帯の肥厚、椎間関節の変形などによる脊柱管や椎間孔の狭窄と神経の圧迫を評価できる。腰部脊柱管狭窄症の画像診断として第一に選ばれる検査である。

  3. ○c.  四肢の血圧測定

    正しい。上肢と下肢(足関節)の収縮期血圧を測定し、足関節収縮期血圧を上腕収縮期血圧で割った足関節上腕血圧比(ABI)を求める。健常者では足関節の血圧は上腕と同等かやや高く、ABIは1.00〜1.40が正常である。0.90以下であれば下肢動脈の狭窄・閉塞があると判断し、末梢動脈疾患(PAD)の診断根拠となる。非侵襲的で外来で簡便に行えるため、血管性間欠性跛行のスクリーニングに最も有用である。左右差をみることで患側の評価もできる。

  4. ×d.  腹部超音波検査

    誤り。腹部超音波検査は肝・胆・膵・腎などの腹部臓器や腹部大動脈瘤の評価に用いられるが、腹部からの観察では下肢の動脈の狭窄や腰部脊柱管の狭窄を評価することはできない。間欠性跛行の鑑別にまず行う検査ではない。

  5. ×e.  下肢静脈超音波検査

    誤り。下肢静脈超音波検査は深部静脈血栓症(DVT)や下肢静脈瘤の診断に用いる。DVTでは患側下肢の腫脹・浮腫・疼痛・発赤などがみられ、症状は安静でも持続する。本症例は浮腫がなく、歩行で出現し休むと消える典型的な間欠性跛行であり、静脈疾患は考えにくい。なお、動脈の評価であれば下肢動脈の超音波検査は有用だが、本選択肢は静脈の検査である。

血管性と神経性の間欠性跛行の比較

・原因:血管性=末梢動脈疾患(PAD)による下肢の筋虚血/神経性=腰部脊柱管狭窄症による馬尾・神経根の圧迫 ・症状の部位:血管性=狭窄部より末梢の筋肉(ふくらはぎに多い)のだるさ・痛み/神経性=殿部から下肢の痛み・しびれ(神経の支配に沿う) ・軽快の仕方:血管性=立ち止まるだけで軽快(姿勢に無関係)/神経性=前かがみ・しゃがみ込み・座位で軽快、立ち止まるだけでは改善しにくい ・自転車こぎ:血管性=症状が出る(下肢の運動負荷のため)/神経性=前かがみ姿勢のため症状が出にくい ・足背動脈・後脛骨動脈の拍動:血管性=減弱・消失/神経性=正常 ・ABI:血管性=0.90以下/神経性=正常 ・危険因子:血管性=喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病など/神経性=加齢による脊椎の変性

ABI(足関節上腕血圧比)の解釈

・1.00〜1.40:正常 ・0.91〜0.99:境界域 ・0.90以下:PADを疑う(下肢動脈の狭窄・閉塞) ・1.40を超える:動脈壁の高度石灰化(糖尿病、透析患者など)でカフ圧迫によって血管がつぶれにくく、見かけ上高値となる。この場合は足趾上腕血圧比(TBI)などで評価する。

PADの重症度(Fontaine分類)

I度:無症状(冷感・しびれ)/II度:間欠性跛行/III度:安静時疼痛/IV度:潰瘍・壊死

腰部脊柱管狭窄症

加齢に伴う椎間板の膨隆、黄色靱帯の肥厚、椎間関節の変性、すべり症などにより脊柱管が狭くなる疾患である。L4/5高位に多い。馬尾型では両下肢のしびれや膀胱直腸障害、神経根型では片側の下肢痛がみられる。治療は保存療法(薬物療法、リハビリテーション、ブロック注射など)が基本で、歩行障害や膀胱直腸障害が強い場合は手術(除圧術、固定術)を行う。

POINT

・間欠性跛行の二大原因は、末梢動脈疾患(血管性)と腰部脊柱管狭窄症(神経性)である。 ・前かがみやしゃがみ込みで軽快するのは神経性、立ち止まるだけで軽快するのは血管性の特徴である。 ・鑑別には、血管性の評価として四肢の血圧測定によるABI、神経性の評価として腰椎MRIを行う。 ・ABIは0.90以下でPADを疑う(正常1.00〜1.40)。 ・高齢者では両者の合併もあるため、両方を評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。