椎体の後ろに伸びる白い帯―手のしびれと足のもつれから読み解く後縦靱帯骨化症
第107回医師国家試験 H問題 第25問
国試問題にチャレンジ
61歳の男性。両手のしびれ感を主訴に来院した。半年前から両手指のしびれ感を自覚していた。徐々に食事動作や書字動作がしにくくなり,歩行時の足のもつれも生じるようになったため受診した。上肢の巧緻性の低下と下肢腱反射の亢進とを認める。頸椎単純エックス線写真を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.変形性脊椎症
- b.強直性脊椎炎
- c.黄色靱帯骨化症
- d.後縦靱帯骨化症
- e.椎間板ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両手のしびれと手指の巧緻運動障害に、下肢腱反射亢進や歩行障害といった錐体路徴候が加わる場合は、頸髄が圧迫される頸髄症を考えます。頸椎単純エックス線側面像で椎体後縁に沿って縦に連続する帯状の骨化陰影を認めれば、後縦靱帯骨化症と診断でき、本症は中高年男性・日本人に多く頸椎に好発します。黄色靱帯骨化症は脊髄を後方から圧迫して下位胸椎に好発し、頸椎症の骨棘は椎間板高位に限局、椎間板ヘルニアは単純写真に写らずMRIで診断、強直性脊椎炎は若年男性の仙腸関節炎と竹様脊柱が特徴です。骨化の評価にはCT、脊髄の評価にはMRIを用い、進行例では手術を検討するとともに、軽微な外傷による頸髄損傷に注意が必要です。症状から病変部位を推定し、画像で圧迫の原因と方向を確かめる思考の流れは、脊椎・脊髄疾患全般の診断の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・61歳男性、半年の経過で緩徐に進行する両手指のしびれ ・食事や書字がしにくい:上肢の巧緻運動障害(ボタン掛け・箸使いなど細かい手の動きの障害) ・歩行時に足がもつれる:痙性歩行の始まりを示唆 ・下肢腱反射の亢進:上位運動ニューロン(錐体路)障害の徴候
病変部位の推定
両手のしびれだけであれば、手根管症候群などの末梢神経障害や、神経根症(神経根の圧迫による片側・髄節性の症状)も候補になる。しかし本例では症状が両側性で、さらに下肢の腱反射亢進と歩行障害という「下肢の錐体路徴候」を伴っている。上肢の症状と下肢の錐体路徴候が同時にみられることから、病変は頸髄(頸部の脊髄そのもの)にあると考えられ、頸髄が慢性的に圧迫される「頸部脊髄症(頸髄症)」の臨床像である。手の巧緻運動障害は頸髄症に特徴的な症状で、「myelopathy hand(ミエロパシー・ハンド)」とも呼ばれる。
画像所見
頸椎単純エックス線側面像では、椎体後縁に沿ってC2からC5付近まで縦に連続する帯状の骨化陰影がみられる。これは脊柱管の前壁、すなわち椎体の後面を縦に走る後縦靱帯が骨化したものであり、脊柱管を前方から狭めて頸髄を圧迫している。
結論
緩徐進行性の頸髄症症状と、椎体後縁に沿う連続性の骨化像から、後縦靱帯骨化症(OPLL:ossification of the posterior longitudinal ligament)による頸髄症と診断できる。鑑別では「骨化・変化が脊柱管の前方か後方か」「単純エックス線写真で何が見えるか」を意識して選択肢を検討するとよい。
選択肢考察
- ×a. 変形性脊椎症
加齢による椎間板の変性と、それに伴う椎体辺縁の骨棘形成・椎間腔の狭小化を主体とする疾患である(頸椎では頸椎症と呼ばれる)。骨棘が椎間孔を狭めれば神経根症(上肢の片側性のしびれ・痛み)を、脊柱管を狭めれば頸椎症性脊髄症を生じうるため、症状だけでは本例と区別しきれない。しかし頸椎症の骨棘は椎間板の高さに限局して生じる突出であり、本例のように複数椎体にわたって椎体後縁を縦に連続する骨化像は説明できない。画像所見から否定される。
- ×b. 強直性脊椎炎
HLA-B27との関連が強い脊椎関節炎の代表疾患で、10〜30歳代の男性に好発し、仙腸関節炎と炎症性腰背部痛(安静で悪化し運動で軽快する)で始まることが多い。進行すると靱帯付着部の骨化により椎体同士が架橋され、エックス線写真で竹様脊柱(bamboo spine)を呈する。本例は61歳発症で腰背部痛や仙腸関節の症状がなく、画像も椎体後縁の骨化のみで竹様脊柱の所見ではない。また強直性脊椎炎自体が脊髄圧迫による頸髄症を来すことは通常ない(ただし強直した脊椎は軽微な外傷で骨折し、脊髄損傷を起こしやすい点には注意)。
- ×c. 黄色靱帯骨化症
黄色靱帯は椎弓同士を結ぶ靱帯で、脊柱管の後壁を構成する。これが骨化すると脊髄を後方から圧迫する。好発部位は下位胸椎(特に胸腰椎移行部)であり、下肢のしびれ・歩行障害など胸髄症の症状を呈し、上肢症状は通常みられない。本例では骨化が椎体後縁、すなわち脊柱管の前方にあり、椎弓側(後方)の骨化ではないため合致しない。
- ○d. 後縦靱帯骨化症
後縦靱帯は椎体後面を縦に連続して走る靱帯であり、その骨化は単純エックス線側面像で椎体後縁に沿った帯状の骨化陰影として描出される。本例の画像ではC2からC5付近まで連続する骨化がみられ、脊柱管を前方から狭窄している。これにより頸髄が圧迫され、両手のしびれ、手指の巧緻運動障害、下肢腱反射亢進、歩行障害という頸髄症の症状が緩徐に進行したと説明できる。中高年男性・頸椎好発という疫学にも合致する。
- ×e. 椎間板ヘルニア
変性した椎間板の髄核が線維輪を破って突出し、神経根や脊髄を圧迫する疾患である。頸椎椎間板ヘルニアでも頸髄症を生じうるが、比較的急性に発症することが多い。また椎間板は軟部組織であるため単純エックス線写真には写らず、所見は椎間腔の狭小化程度にとどまる。診断にはMRIが必要である。本例のように単純エックス線写真で明瞭な骨化像を示すことはないため否定的である。
後縦靱帯骨化症(OPLL)の概要
・後縦靱帯が異所性に骨化し、脊柱管が狭窄して脊髄や神経根を圧迫する疾患。指定難病である。 ・中年以降(50歳前後から)の男性に多く、日本人を含む東アジア人に頻度が高い。好発部位は頸椎で、胸椎にも生じる。 ・遺伝的素因のほか、糖尿病や肥満との関連が知られる。びまん性特発性骨増殖症(DISH:全身の脊椎靱帯に骨化が広がる状態)や黄色靱帯骨化症を合併することがある。
骨化の形態分類(頸椎)
連続型(複数椎体にわたり連続)、分節型(椎体ごとに分断)、混合型(連続型と分節型の混在)、その他(椎間板高位に限局する型など)に分けられる。本例は連続型に相当する。
症状
骨化があっても無症状のことは少なくない。脊髄圧迫が進むと、手指のしびれ・巧緻運動障害、痙性歩行、腱反射亢進や病的反射(Hoffmann反射、Babinski徴候など)、進行例では膀胱直腸障害を来す。転倒などの軽微な外傷を契機に、骨傷のない頸髄損傷(中心性頸髄損傷など)を起こして急に症状が悪化することがある。
検査
・単純エックス線側面像:椎体後縁の骨化陰影。脊柱管前後径に対する骨化の厚さの割合(占拠率)で狭窄の程度を評価する。 ・CT:骨化の形態・範囲・厚さの評価に最も優れる。 ・MRI:脊髄の圧迫の程度や、脊髄内の信号変化(T2強調像での高信号)を評価する。
治療
・軽症例:頸椎の過度な後屈を避ける生活指導、頸椎カラーによる安静、薬物療法などの保存療法。 ・脊髄症状が進行する例・日常生活に支障がある例:手術。後方からの椎弓形成術(脊柱管拡大術)、前方からの骨化巣切除・摘出と固定術などが、骨化の大きさや頸椎の配列に応じて選択される。
脊柱管内の靱帯と圧迫の方向
・前方から圧迫:後縦靱帯骨化症、椎間板ヘルニア、頸椎症の椎体後方骨棘 ・後方から圧迫:黄色靱帯骨化症、黄色靱帯の肥厚
POINT
・両手のしびれ+手指の巧緻運動障害+下肢腱反射亢進・歩行障害 → 頸髄症を考える。 ・頸椎単純エックス線側面像で椎体後縁に沿う帯状の骨化陰影 → 後縦靱帯骨化症。 ・後縦靱帯骨化症は中高年男性・日本人に多く、頸椎に好発する。骨化の評価はCT、脊髄の評価はMRI。 ・黄色靱帯骨化症は脊髄を後方から圧迫し、下位胸椎に好発する。 ・椎間板ヘルニアは単純エックス線写真では描出されず、MRIで診断する。
