生後1か月の発熱は「待たない」―哺乳不良と不機嫌が告げる重症細菌感染症
第107回医師国家試験 H問題 第24問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。発熱を主訴に来院した。2日前から38℃の発熱があり,母乳の飲みが悪く,一日中機嫌が悪いため受診した。咳嗽と鼻汁とを認めない。同胞はおらず,両親と患児の3人で生活している。両親に発熱と感冒症状とを認めない。体温38.7℃。心拍数128/分。呼吸数30/分。SpO2 96%(room air)。咽頭に発赤を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮疹を認めない。血液所見:赤血球420万,Hb 13.5 g/dL,Ht 40%,白血球19,300(桿状核好中球15%,分葉核好中球65%,好酸球1%,好塩基球1%,単球1%,リンパ球17%),血小板40万。CRP 5.2 mg/dL。 親への説明として適切なのはどれか。
- a.「外来で点滴をしましょう」
- b.「入院して検査や治療を行いましょう」
- c.「解熱薬を使用しながら経過をみましょう」
- d.「外来で経口抗菌薬による治療を開始しましょう」
- e.「お薬は使わずに外来で明日まで経過をみましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生後3か月未満の乳児の発熱は、免疫機能が未熟で感染が全身に波及しやすく、所見が乏しいため、重症細菌感染症を常に念頭に置いて対応します。哺乳不良や不機嫌は全身状態不良を示す重要なサインであり、感染巣不明の発熱に左方移動を伴う白血球増加やCRP上昇が加われば、尿路感染症、菌血症・敗血症、細菌性髄膜炎を考えます。対応は入院のうえ、血液・尿・髄液の検査と培養を行い、検体採取後ただちに経静脈的に抗菌薬を開始することで、外来での点滴のみ、解熱薬、経口抗菌薬、無治療での経過観察はいずれも不適切です。乳児早期の髄膜炎は髄膜刺激症状に乏しく、尿は清潔な方法で採取するといった実践的な注意点も重要です。月齢と全身状態から重症度を見積もる考え方は、小児救急の現場で子どもの命を守るための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・年齢:生後1か月。生後3か月未満の乳児の発熱(38.0℃以上)は、重症細菌感染症の可能性を常に考えなければならない特別な状況である。 ・症状:2日前からの38℃台の発熱、哺乳不良、終日の不機嫌。哺乳不良と不機嫌は、この月齢の乳児における全身状態不良(ill-appearing)を示すサインとして重要である。 ・咳嗽・鼻汁なし、咽頭発赤なし、同胞なし、両親にも発熱・感冒症状なし:かぜなどのウイルス性上気道炎を示唆する所見や、家族内の感染源がない。 ・バイタルサイン:体温38.7℃。心拍数128/分、呼吸数30/分、SpO2 96%は乳児としておおむね正常範囲で、現時点で呼吸・循環は保たれている。 ・身体所見:心音・呼吸音正常、腹部所見正常、皮疹なし。身体診察では明らかな感染巣(フォーカス)が見当たらない。 ・血液検査:白血球19,300/μLと増加し、好中球が約80%(桿状核好中球15%)を占める。桿状核球(幼若な好中球)の増加は核の左方移動と呼ばれ、細菌感染を示唆する。CRP 5.2 mg/dLと炎症反応も明らかに上昇している。
診断へのプロセス
感冒症状がなく、身体診察で感染巣が特定できない発熱であり、好中球優位の白血球増加(左方移動を伴う)とCRP上昇から、重症細菌感染症を強く疑う。この月齢で鑑別すべき代表は、尿路感染症(腎盂腎炎を含む;この月齢の重症細菌感染症で最も頻度が高い)、菌血症・敗血症、細菌性髄膜炎である。起炎菌としては大腸菌、B群レンサ球菌(GBS)などが重要である。乳児早期の髄膜炎では大泉門膨隆や項部硬直といった典型的な所見がはっきりしないことが多く、「哺乳不良」「不機嫌」だけが手がかりになることもある。
設問への考え方
生後早期の乳児は免疫機能が未熟で、細菌感染が急速に敗血症や髄膜炎へと進行し、短時間で状態が悪化しうる。そのため、入院のうえで血液培養、尿検査・尿培養(カテーテル採尿など清潔な方法で採取)、髄液検査を行って感染巣と起炎菌の特定を試み、培養検体の採取後ただちに経静脈的に抗菌薬を開始する(経験的治療)のが標準的な対応である。外来での経過観察や経口薬での治療は適さない。
選択肢考察
- ×a. 「外来で点滴をしましょう」
発熱は2日間で、脱水を示す記載もなく、輸液による水分補給だけを目的に外来で対応すべき状況ではない。問題は脱水ではなく重症細菌感染症の疑いであり、培養検査による原因検索、経静脈的抗菌薬治療、急変に備えた継続的な観察が必要である。外来での点滴のみで帰宅させる対応は不十分であり不適切である。
- ○b. 「入院して検査や治療を行いましょう」
生後1か月の発熱で、哺乳不良・不機嫌という全身状態不良のサインがあり、左方移動を伴う白血球増加とCRP上昇から重症細菌感染症(尿路感染症、菌血症・敗血症、細菌性髄膜炎など)が疑われる。入院のうえで血液・尿・髄液の培養を含む検査で感染巣を検索し、経静脈的に抗菌薬を開始し、状態を慎重に観察する必要があるため、最も適切な説明である。
- ×c. 「解熱薬を使用しながら経過をみましょう」
解熱薬は熱を下げる対症療法にすぎず、背景にある細菌感染症を治療しない。重症細菌感染症が疑われる乳児で原因検索と治療を行わずに様子をみるのは危険である。また、解熱によって全身状態の変化が分かりにくくなるおそれもある。対症療法にとどめてよい状況ではなく不適切である。
- ×d. 「外来で経口抗菌薬による治療を開始しましょう」
培養検査を行わずに抗菌薬を開始すると起炎菌の同定が困難になる。また、菌血症や髄膜炎の可能性がある乳児では、確実で速やかな効果を得るため、抗菌薬は経静脈的に十分量を投与する必要がある。哺乳不良があり内服が確実に行えるとも限らない。外来での経口抗菌薬治療は不適切である。
- ×e. 「お薬は使わずに外来で明日まで経過をみましょう」
生後早期の乳児の細菌感染症は、数時間の単位で敗血症性ショックや髄膜炎へと進行しうる。重症細菌感染症を疑う所見がそろっている状況で、検査も治療もせずに翌日まで待つことは、治療の遅れにより重篤な転帰や後遺症を招く危険があるため不適切である。
乳児早期の発熱の考え方
生後3か月未満の乳児では、38.0℃以上の発熱を重く受け止める。この時期の乳児は免疫機能が未熟で、感染が局所にとどまりにくく、全身へ波及しやすい。母体から胎盤を通じて移行したIgG抗体により一部のウイルス感染症からはある程度守られているが、細菌感染症に対する防御は十分ではない。一方で、症状や身体所見が乏しく、感染巣が分かりにくいことが多い。
重症細菌感染症(SBI)を疑う手がかり
・全身状態:哺乳不良、不機嫌、活気がない(ぐったりしている)、あやしても笑わないなど ・バイタルサイン:頻脈、頻呼吸、末梢冷感・毛細血管再充満時間の延長、低体温 ・検査:白血球数の増加(あるいは著明な減少)、核の左方移動、CRPやプロカルシトニンの上昇、尿検査での膿尿・細菌尿 これらを組み合わせて重症度を評価する。月齢が低いほど、また全身状態が不良であるほど、入院のうえで精査・治療を行う方針とする。
乳児早期の主な重症細菌感染症と起炎菌
・尿路感染症:最も頻度が高い。主に大腸菌。発熱以外の症状に乏しいことが多く、清潔な方法で採取した尿での検査・培養が必須である。 ・菌血症・敗血症:大腸菌、B群レンサ球菌など。 ・細菌性髄膜炎:B群レンサ球菌、大腸菌など(リステリアも古典的な起炎菌として挙げられる)。項部硬直などの髄膜刺激症状が出にくく、大泉門膨隆、けいれん、哺乳不良、不機嫌が手がかりとなる。
入院後の標準的な対応
血液培養、尿検査・尿培養、髄液検査(細胞数・糖・蛋白・培養)などを行い、検体採取後は結果を待たずに、想定される起炎菌をカバーする抗菌薬を経静脈的に開始する。培養結果と臨床経過に応じて抗菌薬を調整する。
POINT
・生後3か月未満の乳児の発熱は重症細菌感染症を念頭に置く。 ・哺乳不良・不機嫌は乳児の全身状態不良を示す重要なサイン。 ・感冒症状がなく感染巣不明の発熱で、左方移動を伴う白血球増加とCRP上昇があれば、尿路感染症・菌血症・髄膜炎を考える。 ・対応は入院のうえ、血液・尿・髄液の培養を採取し、経静脈的抗菌薬を開始する。 ・外来での経過観察、解熱薬のみ、経口抗菌薬での治療は不適切。
