ステロイドが効かない若年ネフローゼ―「巣状・分節性」の硬化が告げる厳しい腎予後
第99回医師国家試験 H問題 第20問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。3日前から,顔面と下腿とに浮腫があり来院した。尿所見:蛋白4+,潜血(-)。血液生化学所見:アルブミン2.2g/dL,クレアチニン1.2mg/dL。腎生検PAS染色標本を別に示す。 この疾患について正しいのはどれか。

- a.尿沈渣異常を認めることは少ない。
- b.尿蛋白の選択性は高い。
- c.補体の低下を認めることが多い。
- d.ステロイド投与によって尿蛋白は減少しやすい。
- e.腎機能の予後は悪い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
若年者に急速に発症したネフローゼ症候群では、微小変化型ネフローゼ症候群と巣状分節性糸球体硬化症の鑑別が重要で、腎生検で一部の糸球体の一部分に硬化病変を認めれば後者と診断します。巣状分節性糸球体硬化症は、係蹄の構造的破綻を反映して蛋白尿の選択性が低く、血尿を伴うこともあり、補体は通常正常です。ステロイド抵抗性を示すことが多い難治性ネフローゼ症候群の代表であり、寛解が得られないと5〜10年で末期腎不全に至る例が多いなど、腎予後は不良です。一方、微小変化型は高選択性蛋白尿でステロイドによく反応し、腎予後良好であるという対比で整理すると理解が深まります。生検での病変の見逃しや移植腎での再発といった臨床上の注意点も、治療方針を考えるうえで押さえておきたい知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・28歳の若年男性。3日前からの顔面・下腿浮腫と、比較的急な発症である。 ・尿蛋白4+、潜血陰性。 ・血清アルブミン2.2g/dL と低アルブミン血症(ネフローゼ症候群の診断基準は3.0g/dL 以下)。 ・クレアチニン1.2mg/dL と、若年男性としては正常上限からやや高めである。
診断へのプロセス
1)高度の蛋白尿と低アルブミン血症、浮腫がそろっており、ネフローゼ症候群と考えられる(成人の診断基準は尿蛋白3.5g/日以上の持続と血清アルブミン3.0g/dL 以下が必須条件で、浮腫や脂質異常症は参考所見)。 2)若年者で急速に浮腫が出現する一次性ネフローゼ症候群としては、微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)と巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)が主な鑑別となる。中高年であれば膜性腎症も考える。 3)MCNS は光学顕微鏡で糸球体にほとんど異常がみられないのに対し、FSGS では一部の糸球体(巣状)の、さらにその一部の係蹄(分節性)に硬化病変がみられる。本例の腎生検PAS染色(多糖類や基底膜・メサンギウム基質を赤紫色に染める染色)では糸球体の一部に分節性の硬化像を認め、FSGS と診断される。
設問の考え方
FSGS の臨床的特徴を、MCNS と対比して理解しているかが問われている。FSGS は「ステロイドが効きにくく、蛋白尿が持続し、腎機能が徐々に低下する」予後不良の疾患である点が要点となる。
選択肢考察
- ×a. 尿沈渣異常を認めることは少ない。
誤り。FSGS では尿沈渣に異常を認めることが少なくない。顕微鏡的血尿は約半数前後にみられ、硝子円柱・顆粒円柱などの円柱や脂肪円柱(卵円形脂肪体)も出現する。尿沈渣がほぼ正常(血尿もまれ)であることが多いのは、むしろ微小変化型ネフローゼ症候群の特徴である。本例では潜血陰性だが、これは疾患一般の特徴を否定するものではない。
- ×b. 尿蛋白の選択性は高い。
誤り。FSGS では糸球体係蹄に構造的な破綻(硬化・癒着)が生じるため、アルブミンのような小さい蛋白だけでなくIgG のような大きな蛋白も漏れ出し、選択性は低い。選択指数(selectivity index:IgG クリアランス÷トランスフェリンクリアランス)は0.2を超えることが多い。選択性が高い(0.2以下、特に0.1以下)のはMCNS の特徴で、ステロイド反応性の良さを予測する指標とされる。
- ×c. 補体の低下を認めることが多い。
誤り。FSGS は免疫複合体の沈着による補体活性化を主体とする疾患ではなく、血清補体価(CH50、C3、C4)は通常正常である。低補体血症をきたす糸球体疾患としては、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎(C3腎症を含む)、ループス腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎、感染性心内膜炎に伴う腎炎などが代表的である。
- ×d. ステロイド投与によって尿蛋白は減少しやすい。
誤り。FSGS はステロイド抵抗性を示すことが多い難治性ネフローゼ症候群の代表で、ステロイド単独での完全寛解率は20〜50%程度にとどまる。抵抗例ではシクロスポリンなどの免疫抑制薬の併用、LDL アフェレシス、小児難治例ではリツキシマブなどが検討される。ステロイドで速やかに(多くは数週以内に)蛋白尿が消失するのはMCNS の特徴である(ただしMCNS は再発が多い)。
- ○e. 腎機能の予後は悪い。
正しい。FSGS は硬化病変が徐々に他の糸球体へ広がり、蛋白尿も持続しやすいため、一次性ネフローゼ症候群の中で腎予後が最も悪い疾患の一つである。特にステロイド抵抗性で高度の蛋白尿が持続する例では、5〜10年の経過で末期腎不全に至る例が多い。治療により寛解が得られた例の予後は比較的良好であり、寛解の有無が予後を大きく左右する。また腎移植後に移植腎で再発しやすいことも知られている。
一次性ネフローゼ症候群の主な病型の比較
・微小変化型(MCNS):小児に最多、若年成人にも多い。急激に発症。光顕でほぼ正常、電顕で足突起の消失。蛋白尿の選択性が高い。血尿はまれ。ステロイドによく反応するが再発しやすい。腎予後は良好。 ・巣状分節性糸球体硬化症(FSGS):小児〜成人。光顕で巣状・分節性の硬化病変。選択性は低い。血尿を伴うことがある。ステロイド抵抗性が多く、腎予後不良。高血圧や腎機能低下を伴うことも多い。 ・膜性腎症:中高年に多く、成人ネフローゼ症候群で最多。緩徐に発症。糸球体基底膜上皮下への免疫複合体沈着(スパイク形成)。抗PLA2R抗体が関連。悪性腫瘍・薬剤・感染症・SLE などによる二次性にも注意する。約3割は自然寛解する。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:低補体血症を伴い、血尿・腎機能低下をきたしやすい。
FSGS の分類
・一次性(特発性):血中の液性因子(透過性因子)の関与が想定され、移植腎での再発が多い。 ・遺伝性:ネフリン(NPHS1)、ポドシン(NPHS2)など足細胞関連遺伝子の変異。ステロイドは効きにくい。 ・二次性:ネフロン数減少(片腎、低出生体重、逆流性腎症)、肥満、HIV感染、ヘロイン、薬剤など。糸球体過剰濾過による足細胞障害が背景となる。 組織学的にはColumbia分類(collapsing variant、tip variant、cellular variant、perihilar variant、NOS)があり、collapsing variant は予後が特に悪く、tip variant は比較的ステロイドに反応しやすいとされる。
病理の要点
FSGS の病変は皮髄境界部(傍髄質)の糸球体から生じやすく、腎生検で採取された糸球体数が少ないと病変を見逃し、MCNS と誤診されることがある。ステロイド抵抗性のMCNS とされた例に後からFSGS が判明することがあるのはこのためである。電子顕微鏡ではびまん性の足突起消失を認める。
POINT
・若年者の急速発症のネフローゼ症候群では、MCNS とFSGS を鑑別する。 ・FSGS:光顕で巣状・分節性の硬化、選択性の低い蛋白尿、血尿を伴うことがある、補体は正常、ステロイド抵抗性が多い、腎予後不良(5〜10年で末期腎不全に至る例が多い)、移植腎で再発しやすい。 ・MCNS:高選択性蛋白尿、血尿まれ、ステロイド反応性良好だが再発が多い、腎予後良好。 ・低補体を伴う腎炎:溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎など。
