StudyMed医師国家試験

糖尿病患者の蛋白尿、本当に糖尿病腎症?―血尿先行と扁桃腫大が示すIgA腎症

第119回医師国家試験 A問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第21問

38歳の女性。尿検査の異常を指摘され来院した。3年前に2型糖尿病と診断され,自宅近くの医療機関にて内服治療中である。糖尿病網膜症はない。2年前に尿潜血陽性を指摘された。3か月前から尿蛋白も認め,精査のため紹介受診した。身長152cm,体重76kg。血圧124/70mmHg。口蓋扁桃に腫大を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。下腿に圧痕性浮腫を認めない。尿所見:蛋白2+,潜血2+,尿蛋白/Cr比1.8g/gCr,尿沈渣に赤血球20~29/HPF。血液所見:赤血球383万,Hb 11.6g/dL,Ht 36%,白血球7,300,血小板25万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.0g/dL,AST 24U/L,ALT 30U/L,LD 155U/L(基準124~222),γ-GT 20U/L(基準9~32),尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,尿酸5.7mg/dL,血糖98mg/dL,HbA1c 6.1%(基準4.9~6.0),総コレステロール170mg/dL,トリグリセリド97mg/dL,Na 142mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 107 mEq/L。免疫血清学所見:CRP 0.1mg/dL,抗核抗体陰性,血清補体値(CH50)35 U/mL(基準30~40)。腎生検のPAS染色標本を下に示す。  最も考えられる疾患はどれか。

第119回 A問題 第21問の問題画像
  1. a.IgA腎症
  2. b.糖尿病腎症
  3. c.急性間質性腎炎
  4. d.巣状分節性糸球体腎炎
  5. e.膜性増殖性糸球体腎炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糖尿病のある人の尿異常をどう読み解くかという問題だ。糖尿病という背景に引っ張られず、「血尿と蛋白尿のどちらが先か」「糖尿病の重さ」「補体」「腎生検の像」を一つずつ確認していこう。まず、この患者さんの蛋白尿を見て最初に何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
糖尿病の人の蛋白尿なので、やっぱり糖尿病腎症が頭に浮かびます。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも、糖尿病腎症らしいかどうかを確かめる必要がある。糖尿病腎症は長年の高血糖を経て、微量アルブミン尿から顕性蛋白尿へと進むのが典型で、網膜症を合併していることが多い。この方はどうだろう。
医学生医学生
罹病期間は3年と短くて、網膜症もなく、HbA1cも良好です。それに、蛋白尿より2年も前から血尿が出ています。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。糖尿病腎症では血尿が目立つことは少ない。罹病期間が短い、網膜症がない、糸球体性血尿が目立つ、という場合は糖尿病腎症以外の腎疾患の合併を疑って腎生検を考慮する。今回まさにその状況で生検が行われたわけだ。
医学生医学生
腎臓内科を臨床実習で回ったとき、糖尿病の患者さんでも血尿があると生検することがあると聞いて意外でした。
ドクタードクター
まさにそういう場面だね。次は補体を見てみよう。CH50は基準範囲内、抗核抗体も陰性。ここから何が言える?
医学生医学生
低補体になる腎炎、たとえば溶連菌感染後急性糸球体腎炎やループス腎炎は考えにくいということですね。
ドクタードクター
その通り。膜性増殖性糸球体腎炎やクリオグロブリン血症性腎炎も低補体を示すことが多いから、同じく外れやすい。そして身体所見で口蓋扁桃の腫大がある。慢性扁桃炎の存在を示唆していて、ここにピンとくる疾患があるはずだ。
医学生医学生
扁桃炎と血尿の組み合わせ……IgA腎症でしょうか。
ドクタードクター
正解。腎生検のPAS染色では、糸球体のメサンギウム領域が拡大し、メサンギウム細胞が増えている。係蹄壁の肥厚や二重化、結節性病変、分節性の硬化、間質の炎症細胞浸潤はめだたない。いわゆるメサンギウム増殖性糸球体腎炎の像で、血尿先行、扁桃腫大、補体正常と合わせてIgA腎症が最も考えられる。
医学生医学生
でも、IgAの沈着を見ていないのに診断していいんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。確定には蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA優位の沈着を証明する必要がある。今回は免疫染色が提示されていないから、臨床像と光顕像から最も考えられるものを選ぶ、という立場だね。では、ほかの選択肢も確認しよう。糖尿病腎症の組織はどうだった?
医学生医学生
病理の講義でKimmelstiel-Wilson結節を習いました。基底膜も厚くなるんでしたよね。
ドクタードクター
そう。糖尿病腎症でもメサンギウム領域は拡大するけれど、主体は基質の増加で、しばしば結節状になる。メサンギウム細胞の増殖は乏しいんだ。1つのメサンギウム領域に細胞核が4個以上あれば細胞増殖と判断するのが一般的で、そこが区別のポイントになる。
医学生医学生
急性間質性腎炎は、名前の通り間質が主役ですよね。
ドクタードクター
その通り。薬剤や感染を契機に急性腎障害で発症することが多く、尿細管間質にリンパ球や好酸球が浸潤して、糸球体病変は乏しい。2年以上の慢性経過で腎機能も正常、生検でも糸球体病変が主体の今回とは合わない。
医学生医学生
巣状分節性というのは、FSGSのことと考えればいいですか。
ドクタードクター
厳密には「一部の糸球体の、一部の係蹄」に限局した病変分布を表す言葉だけれど、代表的な疾患として巣状分節性糸球体硬化症と比べてみよう。FSGSは多くがネフローゼ症候群で発症し、分節性の硬化を認める。今回はネフローゼに該当せず、分節性の硬化もなく、メサンギウムにびまん性の増殖があるから否定的だ。膜性増殖性糸球体腎炎は、メサンギウム増殖に加えて係蹄壁の肥厚、PAM染色での基底膜二重化、分葉化が特徴で、低補体を伴うことが多い。補体正常で係蹄壁の変化もない今回は否定的だね。
医学生医学生
IgA腎症は良性の病気というイメージがあったんですが、治療が必要なんですか。
ドクタードクター
そこは誤解しやすい点だ。日本の成人の慢性糸球体腎炎で最も多く、自然寛解は少なくて、未治療では20年で3〜4割程度が末期腎不全に至るとされる。蛋白尿の量や腎機能、高血圧、組織所見が予後に関わる。この方は尿蛋白が0.5g/gCr以上あるから治療適応を検討する段階で、RA系阻害薬、副腎皮質ステロイド、日本で広く行われている扁桃摘出術とステロイドパルスの併用などが選択肢になる。近年はSGLT2阻害薬も使われているよ。
医学生医学生
上気道炎のあとに肉眼的血尿が出るのも特徴でしたよね。溶連菌感染後の腎炎とは時期が違うと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。IgA腎症は上気道炎の直後、1〜3日以内に肉眼的血尿が出ることがあり、溶連菌感染後急性糸球体腎炎は1〜2週間の潜伏期をおく。CBTでも国試でも狙われやすい対比だ。病態としては、糖鎖異常IgA1とそれに対する自己抗体が免疫複合体をつくってメサンギウムに沈着する多段階仮説で説明され、扁桃などの粘膜免疫の関与が考えられている。
医学生医学生
糖尿病があっても、合わない所見を一つずつ拾っていけば別の病気が見えてくるんですね。
ドクタードクター
その通り。背景疾患で思考を止めないことが、腎臓に限らず臨床推論の基本だよ。

まとめ

慢性の顕微鏡的血尿が先行し、のちに蛋白尿が加わり、扁桃腫大と補体正常を伴う場合はIgA腎症を考え、腎生検の光顕でメサンギウム細胞増殖と基質拡大を認めれば強く示唆され、確定は蛍光抗体法でのメサンギウムへのIgA沈着によります。糖尿病患者の蛋白尿でも、罹病期間が短い、網膜症がない、糸球体性血尿が目立つといった場合は糖尿病腎症以外の腎疾患を疑い、腎生検を考慮します。糖尿病腎症は基質増加や結節性病変が主体で細胞増殖は乏しく、膜性増殖性糸球体腎炎は係蹄壁肥厚・基底膜二重化と低補体が手がかりです。IgA腎症は日本の成人で最多の慢性糸球体腎炎で決して予後良好とは限らず、RA系阻害薬や扁摘パルスなどの治療を検討する必要があります。背景疾患に引きずられず、合わない所見から別の診断を拾い上げる姿勢は、臨床推論全般に通じる大切な力です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・38歳女性。2年前から尿潜血陽性が続き、3か月前から尿蛋白も加わった。血尿が蛋白尿に先行して長く持続している点が重要である。 ・2型糖尿病は罹病3年と短く、糖尿病網膜症はなく、HbA1c 6.1%・血糖98mg/dLと血糖コントロールは良好である。 ・身長152cm、体重76kgでBMIは約33と肥満がある。血圧は124/70mmHgで正常。 ・口蓋扁桃の腫大がある(慢性扁桃炎の存在を示唆する)。 ・尿:蛋白2+、潜血2+、尿蛋白/クレアチニン(Cr)比1.8g/gCr、沈渣で赤血球20〜29/HPF(high power field:強拡大1視野)。糸球体性血尿と中等度の蛋白尿である。 ・血清アルブミン4.0g/dL、浮腫なし、尿蛋白3.5g/日未満であり、ネフローゼ症候群には該当しない。 ・尿素窒素16mg/dL、クレアチニン0.6mg/dLで腎機能は保たれている。 ・抗核抗体陰性、CH50(血清補体価)は基準範囲内、CRPも陰性。 ・腎生検PAS(periodic acid-Schiff)染色:糸球体のメサンギウム領域が拡大し、メサンギウム細胞が増えている(メサンギウム増殖性病変)。係蹄壁(毛細血管壁)の肥厚・二重化、結節性病変、分節性硬化、間質への炎症細胞浸潤はめだたない。

診断へのプロセス

1. 慢性に持続する血尿+蛋白尿で、沈渣に赤血球が多数みられることから、慢性の糸球体腎炎を考える。 2. 糖尿病患者の蛋白尿ではまず糖尿病腎症(現在は糖尿病性腎症と表記されることが多く、より広く糖尿病関連腎臓病(DKD)という概念も用いられる)を想起する。しかし罹病期間が短い、網膜症がない、血糖管理が良好、血尿が先行し目立つという点はいずれも糖尿病腎症に典型的ではなく、別の糸球体疾患の合併を疑って腎生検を行う状況である。 3. 補体正常・抗核抗体陰性から、低補体を呈する疾患(溶連菌感染後急性糸球体腎炎、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎など)は考えにくい。 4. 扁桃腫大(扁桃炎)を伴い、腎生検でメサンギウム増殖性糸球体腎炎の像を示すことから、IgA腎症が最も考えられる。確定には蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA優位の沈着を証明する必要があるが、本問では免疫染色は提示されておらず、臨床像と光顕像から判断する。

設問への考え方

糖尿病という背景に引きずられず、「血尿先行」「扁桃炎」「補体正常」「メサンギウム増殖」という組み合わせからIgA腎症を選ぶ問題である。

選択肢考察

  1. ○a.  IgA腎症

    持続する顕微鏡的血尿に遅れて蛋白尿が出現した経過、口蓋扁桃の腫大(扁桃炎は血尿増悪の契機や病態への関与が知られる)、補体正常、腎生検でのメサンギウム基質拡大とメサンギウム細胞増殖という所見はIgA腎症に典型的である。好発は若年〜壮年で、日本では成人の慢性糸球体腎炎の中で最も多い。免疫染色の提示はないが、臨床像と光顕像から最も考えられる。尿蛋白が0.5g/gCr以上あるため治療(RA系阻害薬、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術+ステロイドパルス療法など)の適応を検討する段階である。

  2. ×b.  糖尿病腎症

    糖尿病腎症は通常、長期の高血糖を経て微量アルブミン尿から顕性蛋白尿へと進行し、糖尿病網膜症を合併することが多い。本例は罹病3年と短く、網膜症がなく、血糖管理も良好である。また糖尿病腎症では血尿が目立つことは少なく、本例のように血尿が蛋白尿に先行する経過は合わない。組織学的にも、糖尿病腎症ではメサンギウム基質のびまん性増加や結節性病変(Kimmelstiel-Wilson結節)、糸球体基底膜の肥厚がみられるが、メサンギウム細胞の増殖は乏しい。なお、アルブミン尿が乏しいまま腎機能が低下する糖尿病患者も存在するため鑑別は必要であり、だからこそ腎生検が行われたが、組織像はこれを支持しない。

  3. ×c.  急性間質性腎炎

    急性間質性腎炎は薬剤(抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬など)や感染を契機に急性腎障害で発症することが多く、病理では尿細管間質へのリンパ球・好酸球などの炎症細胞浸潤と間質の浮腫が主体で、糸球体病変は乏しい。本例は2年以上の慢性経過で腎機能は正常、生検像も糸球体のメサンギウム増殖が主体で間質の炎症細胞浸潤はめだたず、合致しない。

  4. ×d.  巣状分節性糸球体腎炎

    巣状分節性の病変とは、一部の糸球体(巣状)の一部の係蹄(分節性)に限局した病変を指す。この名称で問われる代表的疾患である巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、多くがネフローゼ症候群で発症し、一部の糸球体に分節性の硬化(係蹄の虚脱・ボウマン嚢との癒着など)を認める。本例はネフローゼ症候群に該当せず、生検像でも分節性の硬化や巣状の壊死・半月体はみられず、メサンギウム領域にびまん性の増殖性変化を認めるため合致しない。

  5. ×e.  膜性増殖性糸球体腎炎

    膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、メサンギウム細胞の増殖に加えて、メサンギウムの係蹄壁への入り込み(mesangial interposition)による係蹄壁の肥厚、PAM染色での基底膜の二重化、糸球体の分葉化を特徴とする。多くは補体の活性化により低補体血症を伴い、ネフローゼ症候群を呈することも多い。本例はCH50が基準範囲内で、生検像に係蹄壁の肥厚や分葉化はみられないため否定的である。

IgA腎症の概要

・糸球体メサンギウム領域にIgA(主にIgA1)が優位に沈着する慢性糸球体腎炎で、日本の成人の慢性糸球体腎炎で最多である。 ・病態は「多段階仮説(multi-hit仮説)」で説明される。ヒンジ部の糖鎖が不完全な糖鎖異常IgA1(Gd-IgA1)が増え、それに対する自己抗体と免疫複合体を形成し、メサンギウムに沈着して炎症を起こす。扁桃などの粘膜免疫の異常が関与すると考えられている。 ・臨床像:健診での顕微鏡的血尿・蛋白尿で見つかることが多い。上気道炎(扁桃炎)の直後(1〜3日以内)に肉眼的血尿を呈することがある(溶連菌感染後急性糸球体腎炎は感染後1〜2週間の潜伏期をおく点で異なる)。 ・検査:血清補体は正常。血清IgAは約半数で高値(315mg/dL以上が目安とされる)。 ・病理:光顕でメサンギウム細胞増殖・基質拡大、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA(しばしばC3を伴う)の顆粒状沈着、電顕でメサンギウム領域への高電子密度沈着物。確定診断は腎生検による。 ・予後:自然寛解は少なく、未治療では20年で3〜4割程度が末期腎不全に至るとされる。蛋白尿の量、腎機能、高血圧、組織所見(Oxford分類のMEST-C)が予後因子となる。 ・治療:RA系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)による降圧と蛋白尿減少、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術+ステロイドパルス療法(日本で広く行われる)、近年はSGLT2阻害薬も用いられる。

メサンギウム増殖の判定

1つのメサンギウム領域に4個以上のメサンギウム細胞核がみられる場合にメサンギウム細胞増殖と判断するのが一般的である。糖尿病腎症でもメサンギウム領域は拡大するが、主体は基質の増加(しばしば結節状)であり、細胞増殖は乏しい。

血清補体による糸球体疾患の整理

・低補体:溶連菌感染後急性糸球体腎炎、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症、感染性心内膜炎に伴う腎炎、コレステロール塞栓症など ・補体正常:IgA腎症、IgA血管炎、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症、ANCA関連血管炎、抗GBM病など

糖尿病患者で糖尿病腎症以外の腎疾患(NDRD)を疑う所見

糖尿病罹病期間が短い、網膜症がない、糸球体性血尿が目立つ、急激な蛋白尿の増加や腎機能低下がある、などの場合は他の腎疾患の合併を疑い、腎生検を考慮する。

POINT

・慢性の顕微鏡的血尿が先行し、のちに蛋白尿が加わる+扁桃炎+補体正常 → IgA腎症を考える。 ・腎生検の光顕ではメサンギウム細胞増殖・基質拡大、確定は蛍光抗体法でのメサンギウムへのIgA沈着。 ・糖尿病患者でも、罹病期間が短い・網膜症なし・血尿が目立つ場合は糖尿病腎症以外の腎疾患を疑う。 ・糖尿病腎症の組織:結節性病変(Kimmelstiel-Wilson結節)、基底膜肥厚。メサンギウム細胞増殖は乏しい。 ・低補体を示す糸球体腎炎(急性糸球体腎炎、ループス腎炎、MPGN)との鑑別に補体値が有用。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。