塗っても治らない指の間の赤み―ステロイド無効が告げる「カビ」の可能性と最初の一手
第99回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。指間の皮疹を主訴に来院した。関節リウマチで3年前から内服薬治療を受けている。最近,指間に痒みのある皮疹を生じ,市販の副腎皮質ステロイドを塗布したが,無効であった。指間部の写真を別に示す。 まず行う検査はどれか。

- a.細菌培養
- b.皮膚生検
- c.外用薬の貼布試験
- d.KOH法による直接鏡検
- e.内服薬のリンパ球刺激試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
手の指間に生じた痒みのある紅斑・びらんで、ステロイド外用が無効な場合は、湿疹ではなく皮膚真菌症、特にカンジダ性指間びらん症を疑います。免疫抑制薬やステロイドの使用、水仕事、手指の変形による蒸れはカンジダ症のリスク因子です。皮膚真菌症を疑ったときに最初に行うのは、簡便・迅速・非侵襲的なKOH法による直接鏡検で、カンジダでは酵母形胞子と仮性菌糸、白癬では隔壁のある分岐菌糸がみられます。パッチテストは接触皮膚炎、DLSTは薬疹、皮膚生検は腫瘍や深在性真菌症の検査として位置づけを整理しておきましょう。治療はステロイド外用を中止し、患部を乾燥させて抗真菌薬を外用することで、「効かない湿疹はまず鏡検」という姿勢は日常診療での見逃しを防ぐ基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳女性。指間に痒みを伴う皮疹が出現した。 ・関節リウマチで3年前から内服治療中である。関節リウマチの治療薬(メトトレキサートなどの抗リウマチ薬、副腎皮質ステロイド、生物学的製剤・JAK阻害薬など)は免疫を抑える作用をもつため、日和見感染を起こしやすい状態にある。また、手指の変形があると指間が密着して蒸れやすく、家事などの水仕事も誘因となる。 ・市販のステロイド外用薬を塗っても改善しなかった。 ・写真では、指間に紅斑とびらんがあり、辺縁に鱗屑を伴う。
診断の考え方
指間に生じる痒みのある紅斑・びらんで、ステロイド外用が無効(むしろ悪化しうる)という経過は、湿疹・皮膚炎よりも真菌感染症を強く疑わせる。ステロイドは局所の免疫を抑えるため、真菌症に塗ると病変が拡大したり、所見が変化して診断しにくくなったりする。手の指間、特に中指と薬指の間(第3指間)に好発し、白く浸軟(ふやけた状態)した皮膚がはがれてびらんとなり、周囲に紅斑と薄い鱗屑を伴うのが、カンジダ性指間びらん症の典型像である。免疫抑制状態もカンジダ症のリスク因子であり、本例はカンジダ性指間びらん症が最も考えやすい。
まず行う検査
皮膚真菌症を疑ったとき最初に行うのは、病変部の鱗屑やびらん辺縁の皮膚を採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で角質を溶かして顕微鏡で観察する直接鏡検である。外来で数分〜数十分で結果が得られ、菌要素を確認できれば診断が確定する。
選択肢考察
- ×a. 細菌培養
細菌培養は、膿痂疹(とびひ)や蜂窩織炎、膿瘍など細菌感染症が疑われるときに原因菌と薬剤感受性を調べる検査である。本例は痒みを伴う指間の紅斑・びらんでステロイド無効という経過から真菌症が疑われ、細菌感染を第一に考える状況ではない。真菌の培養(サブロー寒天培地などを用いる真菌培養)は菌種の同定に有用だが、結果が出るまで日数がかかるため、最初に行うのは直接鏡検である。
- ×b. 皮膚生検
皮膚生検は、皮膚の一部を切り取って病理組織学的に調べる侵襲的な検査であり、腫瘍性病変の鑑別、深在性皮膚真菌症(スポロトリコーシス、クロモミコーシスなど真皮以下に及ぶもの)の診断、原因不明の難治性皮疹の精査などで行う。カンジダ性指間びらん症は角層・表皮の浅い部位の感染症で、非侵襲的な直接鏡検で診断できるため、最初に行う検査ではない。
- ×c. 外用薬の貼布試験
貼布試験(パッチテスト)は、疑わしい物質を皮膚に48時間貼付して反応を観察し、アレルギー性接触皮膚炎の原因物質を特定する検査である。外用薬による接触皮膚炎で、塗布後に皮疹が悪化・拡大する場合には考慮するが、本例は外用薬で悪化したのではなく「無効」であった経過であり、まず感染症の有無を確認すべきである。
- ○d. KOH法による直接鏡検
病変の辺縁の鱗屑やびらん周囲の浸軟した角層を採取し、KOH溶液を滴下して角質を溶かしたうえで顕微鏡で観察する。カンジダでは、円形〜卵円形の酵母形の胞子(分芽胞子)と、細長く連なった仮性菌糸が観察される(白癬では隔壁をもつ分岐した菌糸がみられ、形態で区別できる)。簡便・迅速・安価・非侵襲的で、外来ですぐに確定診断が得られるため、皮膚真菌症を疑ったときに最初に行う検査である。なお、ステロイドや抗真菌薬をすでに塗っている部位では菌が検出されにくくなることがあるため、陰性でも臨床的に疑わしければ再検や外用中止後の検査を検討する。
- ×e. 内服薬のリンパ球刺激試験
薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は、患者のリンパ球を被疑薬とともに培養し、その増殖反応から薬剤に対するアレルギー(感作)の有無を調べる検査で、薬疹や薬剤性肝障害・薬剤性肺炎などの原因薬の推定に用いる。本例の皮疹は指間に限局しており、全身性に皮疹が出る薬疹の分布とは合わない。3年間内服を続けている薬が今になって原因となる可能性も低く、まず行う検査ではない。
皮膚カンジダ症
カンジダ(主にCandida albicans)は口腔・消化管・腟・皮膚の常在菌であり、局所の湿潤・浸軟、免疫低下などの条件がそろうと病原性を発揮する日和見感染菌である。 ・誘因:高温多湿、水仕事、肥満、糖尿病、免疫抑制薬・副腎皮質ステロイドの使用(全身・外用とも)、抗菌薬の長期使用、高齢、おむつ使用など。 ・主な病型: カンジダ性指間びらん症:手の第3指間に好発。白く浸軟した皮膚、びらん、周囲の紅斑。水仕事の多い人に多い。 カンジダ性間擦疹:乳房下、腋窩、鼠径部など皮膚が擦れ合う部位の紅斑・びらんで、周囲に小膿疱や紅斑が散在する(衛星病変)のが特徴。 乳児寄生菌性紅斑:おむつ部に生じ、おむつ皮膚炎との鑑別が必要。 カンジダ性爪囲爪炎:爪の周囲の発赤・腫脹。 口腔カンジダ症(鵞口瘡):口腔粘膜の白苔。
白癬との違い
足の趾間では白癬(足白癬)が最も多く、手の指間ではカンジダが多い。いずれもKOH直接鏡検で診断するが、白癬は隔壁のある分岐菌糸、カンジダは酵母形の胞子と仮性菌糸がみられる。カンジダ症の病変では衛星病変を伴いやすい。
治療
局所を清潔・乾燥に保ち、イミダゾール系(ケトコナゾール、ルリコナゾールなど)などの抗真菌薬を外用する。びらん面には刺激の少ない軟膏やクリームを選ぶ。ステロイド外用は中止する。広範囲・難治例では抗真菌薬の内服も検討する。なお、テルビナフィンなど一部の抗真菌薬は白癬に比べてカンジダへの効果が弱いことがあるため、薬剤選択に注意する。
ステロイド外用無効の皮疹をみたら
湿疹と思って治療しても改善しない皮疹では、真菌症(白癬・カンジダ)、疥癬、細菌感染症、接触皮膚炎(外用薬自体による)、腫瘍性疾患(乳房外Paget病、Bowen病など)を考える。感染症が疑われれば、まずKOH直接鏡検で真菌の有無を確認する。
POINT
・指間の痒みのある紅斑・びらん+ステロイド外用無効 → 皮膚真菌症(手指間ならカンジダ性指間びらん症)を疑う。 ・免疫抑制薬・ステロイド使用、水仕事、糖尿病はカンジダ症のリスク因子。 ・皮膚真菌症を疑ったら、まずKOH法による直接鏡検(カンジダ:酵母形胞子と仮性菌糸、白癬:隔壁のある分岐菌糸)。 ・パッチテスト → 接触皮膚炎、DLST → 薬疹、皮膚生検 → 腫瘍や深在性真菌症。 ・治療は患部の乾燥と抗真菌薬外用。ステロイド外用は悪化させるので中止する。
