下痢2日で傾眠に―「つまんだ皮膚が戻らない」脱水の身体所見を読み解く
第99回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。2日前から発熱と下痢とが続くため,救急車で来院した。今朝から排尿は1回だけである。意識は傾眠。身長170cm,体重50kg。体温37.8℃。脈拍120/分,整。血圧110/86mmHg。尿所見:浸透圧500mOsm/L(基準50~1,300),蛋白1+,糖(-),ケトン体3+。血液所見:赤血球470万,Hb 15.6g/dL,Ht 46%,白血球10,000。血液生化学所見:尿素窒素50mg/dL,クレアチニン2.0mg/dL,AST 32U/L,ALT 18U/L,Na 147mEq/L,K 5.0mEq/L。CRP 2.0mg/dL。 この患者でみられるのはどれか。
- a.奇脈
- b.腹水
- c.下腿浮腫
- d.皮膚緊張低下
- e.坐位での頸静脈拍動
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生まとめ
発熱と下痢が続き、頻脈、脈圧の狭小化、尿量減少、Ht上昇、BUN/Cr比20以上、濃縮尿を認める場合は、細胞外液量の減少による脱水と腎前性急性腎障害を考えます。尿ケトン体陽性でも尿糖陰性なら、糖尿病性ケトアシドーシスではなく摂取不足による飢餓性ケトーシスと解釈できます。脱水の身体所見は皮膚緊張(ツルゴール)低下、口腔粘膜・腋窩の乾燥、頸静脈の虚脱などで、下腿浮腫、腹水、坐位での頸静脈拍動は細胞外液過剰や静脈圧上昇を示す逆の所見、奇脈は心タンポナーデなどの所見です。治療の基本は細胞外液補充液による循環血漿量の回復です。体液が「足りない」のか「余っている」のかを身体所見と検査値から見極める力は、輸液管理をはじめ日常診療のあらゆる場面で求められます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳男性。2日間続く発熱と下痢で救急搬送。今朝からの排尿は1回のみ(尿量減少)で、意識は傾眠である。 ・身長170cm、体重50kg(BMI約17.3)とやせ型。 ・脈拍120/分の頻脈、血圧110/86mmHgで脈圧は24mmHgと狭い(1回拍出量の減少を示唆する)。 ・尿:浸透圧500mOsm/L と濃縮尿、ケトン体3+、糖(-)。 ・血液:Hb 15.6g/dL、Ht 46%とやや高値で血液濃縮を示す。 ・BUN 50mg/dL、Cr 2.0mg/dL で、BUN/Cr比は25と20を超える。Na 147mEq/Lと軽度高値、K 5.0mEq/L。 ・白血球10,000、CRP 2.0mg/dL と軽度の炎症反応。
病態の考え方
感染性腸炎などによる発熱と下痢が続き、水分と電解質が失われた一方で、十分な経口摂取ができずに脱水(体液量減少)に陥った状態である。 ・頻脈、脈圧の狭小化、尿量減少、Htの上昇は、循環血漿量の減少を示す。 ・BUN/Cr比の上昇(20以上)と尿の濃縮は、腎血流の低下による腎前性急性腎障害を示す。腎前性ではADH(抗利尿ホルモン)の作用で水が再吸収され、尿は濃縮される。 ・尿ケトン体陽性で尿糖陰性・高血糖を示す所見がないことから、糖尿病性ケトアシドーシスではなく、食事摂取不足による飢餓性ケトーシスと考えられる。 ・Naは147mEq/Lと基準上限(おおむね145)をわずかに超える程度で、水とNaがともに失われる等張性脱水に近く、やや水欠乏の要素が加わった状態とみられる。 ・意識障害は、脱水による脳循環の低下、腎機能障害、発熱などが重なったものと解釈でき、経過からは脳血管障害よりも全身状態の悪化によるものと考えられる。
設問の考え方
問われているのは、この脱水(細胞外液量の減少)で認められる身体所見である。細胞外液が減れば、皮膚の張り(ツルゴール)の低下、口腔粘膜・腋窩の乾燥、頸静脈の虚脱、起立性低血圧などがみられる。逆に、浮腫、腹水、頸静脈怒張といった細胞外液の過剰や静脈圧上昇を示す所見はみられない。
選択肢考察
- ×a. 奇脈
奇脈とは、吸気時に収縮期血圧が10mmHgを超えて低下する現象である。正常でも吸気時に数mmHg低下するが、心膜腔の圧が高く心臓の拡張が制限されると、吸気で右室に血液が多く流入した分だけ心室中隔が左室側へ押され、左室の充満と拍出が大きく減る。代表的な原因は心タンポナーデで、収縮性心膜炎、重症の気管支喘息発作、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、緊張性気胸などでもみられる。脱水の所見ではない。
- ×b. 腹水
腹水は腹腔内に液体が異常に貯留した状態で、肝硬変(門脈圧亢進と低アルブミン血症)、ネフローゼ症候群(低アルブミン血症)、右心不全・収縮性心膜炎、癌性腹膜炎、結核性腹膜炎などで生じる。いずれも細胞外液が過剰、または間質・腹腔に移動した状態であり、細胞外液そのものが減少している脱水ではみられない。
- ×c. 下腿浮腫
浮腫は間質に細胞外液が過剰に貯留した状態である。下腿浮腫は重力の影響を受けやすい部位に現れ、右心不全などの心原性浮腫、腎不全やネフローゼ症候群、肝硬変、深部静脈血栓症、薬剤(Ca拮抗薬など)が原因となる。本例は細胞外液が減少した脱水状態であり、浮腫は生じない。
- ○d. 皮膚緊張低下
皮膚緊張(ツルゴール)は、皮膚をつまんで離したときに元に戻る速さで評価する。間質の水分が保たれていれば皮膚はすぐに戻るが、細胞外液が減少するとゆっくり戻る(テント状に残る)。本例は下痢による水・電解質の喪失と摂取不足によって細胞外液量が減少しており、頻脈、尿量減少、Htの上昇、BUN/Cr比の上昇と矛盾なく、皮膚緊張の低下が予想される。なお高齢者では皮膚の弾力自体が低下しているため、手背より前胸部(胸骨上)や前額部で評価するほうがよく、口腔粘膜や腋窩の乾燥も合わせて判断する。
- ×e. 坐位での頸静脈拍動
健常者では、坐位(上体を起こした状態)で頸静脈の拍動はほとんど見えない。坐位でも頸静脈拍動や怒張が見えるのは中心静脈圧が上昇しているためで、右心不全、うっ血性心不全、心タンポナーデ、収縮性心膜炎、輸液過剰、上大静脈症候群などでみられる。脱水では中心静脈圧が低下しているため、むしろ仰臥位でも頸静脈は虚脱して見えにくくなる。
脱水の分類
脱水は、失われる水とNaの比率によって3つに分けられる。 ・等張性脱水:水とNaが同じ割合で失われる。血清Naはほぼ正常。下痢、嘔吐、出血、熱傷などで起こり、臨床で最も多い。 ・高張性脱水(水欠乏性脱水):水の喪失がNaより多い。血清Naは上昇(145mEq/L超)。飲水困難な高齢者、発汗過多、尿崩症、浸透圧利尿などで起こる。細胞内から細胞外へ水が移動するため、循環は比較的保たれる一方、口渇が強く、細胞内脱水による意識障害などの中枢神経症状が出やすい。 ・低張性脱水(Na欠乏性脱水):Naの喪失が水より多い。血清Naは低下。脱水時に水だけを補給した場合、利尿薬、副腎不全などで起こる。細胞外液量の減少が目立ち、口渇は乏しく、循環不全(頻脈・低血圧)や皮膚緊張の低下が強く出やすい。
細胞外液量減少(体液量減少)の所見
・身体所見:頻脈、低血圧、起立性低血圧(臥位から立位で収縮期血圧が20mmHg以上低下、または脈拍が30/分以上増加)、脈圧の狭小化、皮膚緊張低下、口腔粘膜・舌・腋窩の乾燥、毛細血管再充満時間(CRT)の延長、頸静脈の虚脱、体重減少、尿量減少 ・検査所見:Ht・Hb・総蛋白の上昇(血液濃縮)、BUN/Cr比の上昇(20以上)、尿浸透圧の上昇、尿中Na濃度の低下(20mEq/L未満)、ナトリウム排泄分画(FENa)1%未満
腎前性急性腎障害と腎性急性腎障害の鑑別
腎前性では尿浸透圧 500mOsm/kg以上、尿中Na 20mEq/L未満、FENa 1%未満、BUN/Cr比 20以上となりやすい。急性尿細管壊死など腎性では、尿細管の再吸収能が落ちるため尿浸透圧は350mOsm/kg以下、尿中Na 40mEq/L以上、FENa 2%以上となる。本例の尿浸透圧500mOsm/Lは腎前性に合致する。
治療
細胞外液補充液(生理食塩水、乳酸リンゲル液など)で循環血漿量を回復させ、尿量と腎機能の改善を確認しながら、維持輸液や電解質補正に移行する。原因となった腸炎の評価(便培養など)も行う。
POINT
・脱水(細胞外液減少)の身体所見:皮膚緊張(ツルゴール)低下、口腔粘膜・腋窩の乾燥、頻脈、低血圧・起立性低血圧、頸静脈虚脱、尿量減少。 ・検査:Ht上昇(血液濃縮)、BUN/Cr比20以上、尿浸透圧上昇 → 腎前性急性腎障害。 ・尿ケトン体陽性・尿糖陰性 → 摂取不足による飢餓性ケトーシス。 ・浮腫・腹水・坐位での頸静脈拍動は細胞外液過剰や静脈圧上昇の所見で、脱水では逆になる。 ・奇脈(吸気時に収縮期血圧が10mmHgを超えて低下)→ 心タンポナーデ、収縮性心膜炎、重症喘息。
