広がる輪と枝分かれする糸―頸部の環状紅斑をKOH鏡検で見抜く
第111回医師国家試験 E問題 第47問
国試問題にチャレンジ
22歳の男性。頸部の皮疹を主訴に来院した。3か月前に頸部に痒みを伴う皮疹が出現し,次第に拡大した。病変部から鱗屑を採取し,苛性カリ〈KOH〉直接鏡検法で観察した。頸部の写真(A)を別に示す。 別に示す標本(B)のうち,この患者のものと考えられるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
中心治癒傾向を示しながら遠心性に拡大する、鱗屑を伴う環状紅斑は体部白癬を疑い、病変辺縁の鱗屑をKOH直接鏡検して、隔壁をもち分岐する細長い菌糸を確認することで診断します。カンジダは短い仮性菌糸とブドウの房状に集簇する円形胞子、黒色分芽菌症は褐色で厚壁の硬化細胞、毛包虫やヒゼンダニは虫体として観察されるため、標本の形態から病原体を区別できます。皮膚カンジダ症は間擦部、疥癬は夜間の痒みと疥癬トンネルといった臨床像の違いも鑑別の手がかりです。治療は抗真菌薬の外用が基本で、鏡検は治療前に行い、湿疹と誤ってステロイドを外用すると異型白癬として悪化する点に注意が必要です。皮疹の形と鏡検所見を結びつける力は、外来でありふれた皮膚疾患を確実に診断するための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
22歳の男性で、3か月前に頸部に痒みを伴う皮疹が出現し、徐々に拡大している。頸部の写真(A)では、後頸部から側頸部にかけて大きな環状(弧状)の紅斑がみられる。辺縁は堤防状にやや隆起して紅色が強く、鱗屑を伴い、中心部は色調が薄くなっている。このように中心治癒傾向を示しながら遠心性に拡大する環状紅斑は、体部白癬(いわゆる「たむし」)の典型像である。病変は頸部の有毛部外の皮膚にあり、頭髪部(頭皮)の病変ではないため、頭部白癬ではなく体部白癬と考える。
鑑別
環状の紅斑を来す疾患として、貨幣状湿疹、環状紅斑(遠心性環状紅斑など)、皮膚カンジダ症、癜風、疥癬などが挙がる。湿疹では辺縁が明瞭な環状を呈することは少なく、皮膚カンジダ症は間擦部(陰股部、腋窩など湿潤しやすい部位)に好発し、病巣周囲に小さな衛星病変を伴いやすい。確定には、鱗屑を採取して苛性カリ(KOH)で角質を溶かし、顕微鏡で病原体を直接確認する(KOH直接鏡検法)。とくに病変の辺縁部の鱗屑から菌が検出されやすい。
設問の考え方
体部白癬の原因は皮膚糸状菌(白癬菌:Trichophyton rubrum など)である。皮膚糸状菌は角質内で菌糸の形で増殖するため、KOH標本では隔壁を持ち枝分かれする細長い菌糸(分節胞子の連なりとしてみえることもある)が観察される。標本の中で、このような細長く分岐する菌糸を示すものが本例の所見となる。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。比較的短い仮性菌糸の周囲に、小型で円形の酵母様胞子(分芽胞子)がブドウの房のように集簇している。カンジダの所見であり、皮膚カンジダ症などでみられる。カンジダ症は陰股部・腋窩・乳房下など湿潤した間擦部に好発し、本例の頸部の環状紅斑とは臨床像が合わない。
- ○b. ②
正しい。細長く、ところどころで分岐し、隔壁(節)をもつ菌糸が網目状に伸びている。皮膚糸状菌(白癬菌)の典型的なKOH鏡検所見であり、中心治癒傾向を伴って遠心性に拡大する環状紅斑という本例の臨床像(体部白癬)と一致する。
- ×c. ③
誤り。細長い体の前方に短い脚をもつ虫体で、毛包虫(ニキビダニ、Demodex)である。毛包や皮脂腺に寄生し、顔面の酒皶様皮膚炎(毛包虫性ざ瘡)などに関与する。菌糸はみられず、本例の所見ではない。
- ×d. ④
誤り。褐色で厚い壁をもち、縦横に隔壁で区切られた球形の細胞(硬化細胞、sclerotic cell)が集まっている。黒色真菌の組織内形態であり、黒色分芽菌症(クロモミコーシス)の診断的所見である。黒色真菌感染症は外傷部位から菌が侵入し、主に四肢などに疣状の結節や局面を形成するもので、本例の環状紅斑とは異なる。
- ×e. ⑤
誤り。卵円形の体に短い脚をもつダニの虫体で、ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)である。疥癬では夜間に強い痒みを伴い、指間・手関節屈側・陰部などに丘疹や疥癬トンネルを形成する。本例の臨床像とは合わない。
白癬(皮膚糸状菌症)の病型
皮膚糸状菌が角質(皮膚の角層、毛、爪)に感染して起こる。主な原因菌はTrichophyton rubrum、T. interdigitale(旧T. mentagrophytesの一部)などである。感染部位により次のように分類される。 ・頭部白癬(しらくも):頭皮・毛髪。小児に多い。 ・体部白癬(ぜにたむし):躯幹・四肢・頸部など。中心治癒傾向のある環状紅斑。 ・股部白癬(いんきんたむし):陰股部。 ・足白癬(みずむし):趾間型、小水疱型、角質増殖型がある。最も頻度が高い。 ・爪白癬:爪の混濁・肥厚。 ・ケルスス禿瘡:頭部白癬が深在化し、膿瘍や脱毛を来すもの。 近年は格闘技(柔道・レスリングなど)を通じて流行するTrichophyton tonsuransによる頭部・体部白癬も知られ、頸部や顔面など接触しやすい部位に生じやすい。
KOH直接鏡検法
病変部(白癬では辺縁の鱗屑、水疱では疱膜)を採取し、KOH溶液で角質を溶かして顕微鏡で観察する簡便で迅速な検査である。抗真菌薬の外用中は菌が見つかりにくくなるため、治療開始前に検査することが重要である。 ・皮膚糸状菌:隔壁をもち分岐する長い菌糸、分節胞子。 ・カンジダ:仮性菌糸と、集簇する円形〜卵円形の分芽胞子。 ・マラセチア(癜風):短く太い菌糸と球形胞子が混在する(スパゲッティ・アンド・ミートボール様)。 ・黒色真菌(黒色分芽菌症):褐色で厚壁の硬化細胞。 ・疥癬:ヒゼンダニの虫体や虫卵。
体部白癬の治療
イミダゾール系、アリルアミン系(テルビナフィン)などの抗真菌薬の外用が基本で、皮疹が消えた後も一定期間外用を続ける。広範囲や難治例、頭部白癬・爪白癬では内服抗真菌薬を用いる。白癬にステロイド外用薬を誤って使用すると、症状が修飾され拡大・難治化する(異型白癬)ので注意する。
POINT
・中心治癒傾向を伴い遠心性に拡大する、鱗屑を伴う環状紅斑は体部白癬を疑う。 ・KOH直接鏡検で隔壁をもち分岐する細長い菌糸を確認すれば白癬と診断できる。鱗屑は病変辺縁から採取する。 ・カンジダは仮性菌糸と集簇する胞子、黒色真菌は褐色の硬化細胞、毛包虫・ヒゼンダニは虫体として観察される。 ・白癬を湿疹と誤ってステロイドを外用すると異型白癬となり悪化する。
