めやにの中の「赤い顆粒」―1つの細胞が結膜炎の原因を語る
第99回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
20歳の男性。1週前からの両眼の充血と眼脂とを訴えて来院した。眼脂の塗抹Giemsa染色標本を別に示す。 診断はどれか。

- a.アレルギー性結膜炎
- b.ウイルス性結膜炎
- c.クラミジア結膜炎
- d.細菌性結膜炎
- e.真菌性結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
結膜炎は症状だけでは原因を絞りにくく、眼脂や結膜擦過物の塗抹標本でどの細胞が主体かを見ることが重要な手がかりになります。2分葉核と橙赤色の粗大顆粒をもつ好酸球はⅠ型アレルギーの反応部位に集まる細胞で、健常結膜にはほとんどみられないため、その検出はアレルギー性結膜炎を強く示唆します。ウイルス性では単核球、細菌性では好中球と細菌、クラミジアでは上皮細胞内の封入体(Prowazek小体)、真菌性では菌糸や菌体が手がかりとなります。アレルギー性結膜炎の最も特徴的な症状はかゆみで、治療は抗原回避と抗アレルギー点眼薬が基本、ステロイド点眼を使う際は眼圧上昇に注意します。「細胞の種類から病態を推定する」考え方は、結膜炎に限らず炎症性疾患の診断全般に応用できる重要な視点です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
20歳の男性で、1週間前から両眼に充血と眼脂(めやに)がある。症状だけでは結膜炎であることはわかっても、原因(アレルギー、ウイルス、クラミジア、細菌、真菌)までは絞り込めない。そこで鍵となるのが眼脂の塗抹標本(Giemsa染色)である。
標本の読み方
標本には、核が2つの葉に分かれた(2分葉核の)細胞が見られ、その細胞質は赤橙色に染まる粗大な顆粒で満たされている。これは好酸球の特徴である。好中球は3〜5分葉の核と目立たない細かい顆粒をもち、リンパ球は小型の円形核と乏しい細胞質をもつので区別できる。細菌、真菌の菌糸、細胞内の封入体も見られない。
診断に至る考え方
結膜炎の原因推定では、眼脂や結膜擦過物の中にどの種類の細胞が多いかが重要な手がかりになる。好酸球はⅠ型アレルギー反応(IgEを介する即時型反応)の遅発相で組織に集まってくる細胞であり、健常な結膜にはほとんど存在しない。したがって結膜の塗抹標本で好酸球が1つでも確認されれば、アレルギー性の結膜疾患が強く示唆される。以上より本症例はアレルギー性結膜炎と診断する。
選択肢考察
- ○a. アレルギー性結膜炎
標本中の細胞は2分葉核と赤く染まる粗大な好酸性顆粒をもち、好酸球と判断できる。好酸球はⅠ型アレルギーの反応部位に浸潤する細胞であり、正常な結膜にはほぼみられないため、その検出はアレルギー性結膜疾患の診断根拠になる。臨床的には眼のかゆみが最も特徴的な症状で、眼脂は水様〜粘液性のことが多い。診断の補助として、血清総IgEや抗原特異的IgE抗体の測定、涙液中総IgEの簡易検査なども用いられる。
- ×b. ウイルス性結膜炎
アデノウイルスによる流行性角結膜炎などが代表である。眼脂は漿液性〜線維素性で、塗抹標本ではリンパ球などの単核球が主体となる。耳前リンパ節の腫脹・圧痛を伴うことが多く、瞼結膜の濾胞形成もみられる。好酸球が主体となる本標本とは合わない。確定にはアデノウイルス抗原の迅速検査が用いられる。
- ×c. クラミジア結膜炎
Chlamydia trachomatisによる成人の封入体結膜炎は性感染症として感染することが多く、多量の粘液膿性眼脂と、下眼瞼円蓋部の癒合傾向を示す大型の濾胞が特徴である。結膜擦過物のGiemsa染色で上皮細胞の細胞質内に封入体(Prowazek小体)を認めることが診断の手がかりとなる。本標本では封入体は認めず、好酸球が目立つため該当しない。
- ×d. 細菌性結膜炎
黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などによるもので、膿性の眼脂が多く充血も強い。塗抹標本では好中球が主体に浸潤し、Gram染色やGiemsa染色で細菌そのもの(多くは好中球に貪食された像も含む)を確認できる。本標本では細菌も好中球優位の像もみられない。
- ×e. 真菌性結膜炎
真菌感染は結膜炎単独よりも角膜炎(角膜真菌症)として問題になることが多く、植物による外傷やステロイド点眼の長期使用が誘因となる。塗抹標本ではKOH(水酸化カリウム)処理にパーカーインクを加える方法などで菌糸や酵母様の菌体を確認する。本標本には菌糸・菌体はなく、該当しない。
結膜炎の原因と塗抹標本でみられる主な細胞
・アレルギー性:好酸球(Ⅰ型アレルギー) ・ウイルス性:リンパ球などの単核球 ・細菌性:好中球+細菌 ・クラミジア:好中球とリンパ球の混在+上皮細胞内の封入体(Prowazek小体) ・真菌性:菌糸・菌体(KOH法など)
アレルギー性結膜疾患の分類
・アレルギー性結膜炎:季節性(花粉症など)と通年性(ハウスダスト・ダニなど)に分けられる。増殖性変化を伴わない。 ・アトピー性角結膜炎:アトピー性皮膚炎を伴う患者に生じる慢性の角結膜炎。 ・春季カタル:学童期の男児に多く、上眼瞼結膜の巨大乳頭(石垣状乳頭)や輪部の堤防状隆起(Trantas斑を伴うこともある)、角膜のシールド潰瘍などをきたす重症型。 ・巨大乳頭結膜炎:コンタクトレンズや義眼、手術縫合糸などの機械的刺激が関与する。
アレルギー性結膜炎の治療
抗原回避(花粉対策、清掃など)を基本とし、抗アレルギー点眼薬(ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬)が第一選択となる。重症例ではステロイド点眼を追加するが、眼圧上昇(ステロイド緑内障)や感染症に注意が必要である。春季カタルやアトピー性角結膜炎の重症例では免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)が用いられる。
好酸球の見分け方
好酸球は直径12〜17μm程度で、核は通常2分葉(眼鏡のような形)、細胞質は酸性色素(エオジン)に染まる橙赤色の大きく均一な顆粒で満たされる。顆粒には主要塩基性タンパク(MBP)などの組織傷害性タンパクが含まれる。
POINT
・結膜の塗抹標本で好酸球を認めればアレルギー性結膜疾患を考える(健常結膜には好酸球はほとんどいない)。 ・好酸球:2分葉核+橙赤色の粗大顆粒。 ・ウイルス性は単核球、細菌性は好中球+細菌、クラミジアは上皮細胞内封入体(Prowazek小体)、真菌は菌糸。 ・アレルギー性結膜炎の最も特徴的な症状はかゆみ。
