StudyMed医師国家試験

「どこが圧迫されたか」で症候が決まる―脊椎疾患の組合せ問題を障害部位から解きほぐす

第99回医師国家試験 E問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第54問

組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.頸椎椎間板ヘルニア ―― 間欠性跛行
  2. b.頸椎後縦靱帯骨化症 ―― 膝蓋腱反射の亢進
  3. c.強直性脊椎炎 ―― 腰椎可動域の低下
  4. d.腰椎椎間板ヘルニア ―― アキレス腱反射の減弱
  5. e.腰部脊柱管狭窄症 ―― 下肢や陰部のしびれ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な脊椎疾患とその症候の組合せから誤りを探す問題だ。丸暗記で臨むと迷いやすいけれど、「どの高さで、脊髄・神経根・馬尾のどれが圧迫されるか」を整理すれば、出てくる症状は自然に予測できる。まずはその土台から確認しよう。
医学生医学生
脊髄が圧迫されると上位運動ニューロン障害、神経根なら下位運動ニューロン障害、という分け方でしょうか。
ドクタードクター
その通り。脊髄が圧迫されると、障害高位より下で腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射、痙性歩行が出る。一方、神経根が圧迫されると、その神経根の支配領域に痛みやしびれ、筋力低下、そして腱反射の低下が起こる。では腰椎のレベルでは何が走っているかな。
医学生医学生
神経解剖の講義で習いました。成人の脊髄はだいたい第1〜2腰椎の高さで終わるので、その下は馬尾ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから腰部の脊柱管が狭くなると、脊髄ではなく馬尾や神経根が圧迫される。この視点で各組合せを見ていこう。まず頸椎後縦靱帯骨化症と膝蓋腱反射の亢進はどうだろう。
医学生医学生
後縦靱帯が骨化して前方から頸髄を圧迫するので、下肢は上位運動ニューロン障害になって反射は亢進するはずです。正しい組合せだと思います。
ドクタードクター
正解。後縦靱帯骨化症は東アジア人の中年以降の男性に多く、頸椎に好発する。膝蓋腱反射やアキレス腱反射の亢進、痙性歩行が典型だ。もともと脊柱管が狭いので、転倒などの軽い外傷でも脊髄損傷が重くなりやすい点も臨床では大事だよ。
医学生医学生
腰椎椎間板ヘルニアでアキレス腱反射が減弱するのは、神経根が圧迫されるからですね。
ドクタードクター
そう。腰椎椎間板ヘルニアはL4/5とL5/S1に多く、よくある後外側型ではその椎間の下位の神経根が障害される。L5/S1ならS1神経根で、S1はアキレス腱反射の反射弓をつくるから、反射が低下〜消失する。つま先立ちがしにくくなったり、足の外側から足底にしびれが出たりもする。
医学生医学生
整形外科の臨床実習で、L3/4だと膝蓋腱反射が落ちると教わりました。
ドクタードクター
そのとおり、L4神経根の障害だね。L4/5のヘルニアでL5神経根が障害されると母趾の背屈力が落ちるけれど、腱反射は比較的保たれる。このセットはよく問われるから整理しておこう。次に腰部脊柱管狭窄症と下肢や陰部のしびれはどうかな。
医学生医学生
陰部まで、というのが少し意外です。下肢だけかと思っていました。
ドクタードクター
そこが馬尾の特徴なんだ。馬尾には会陰部や膀胱・直腸を支配する仙髄由来の神経も含まれるから、馬尾型の脊柱管狭窄症では両下肢や会陰部のしびれ、膀胱直腸障害が出ることがある。だからこの組合せは正しい。そしてこの疾患の代表的な症状が神経性間欠性跛行だ。
医学生医学生
あれ、そうすると頸椎椎間板ヘルニアと間欠性跛行の組合せが怪しくなりますね。
ドクタードクター
いいところに気づいた。間欠性跛行は「歩くと下肢が痛くなったりしびれたりして歩けなくなり、休むとまた歩ける」という症状で、腰部脊柱管狭窄症による神経性と、閉塞性動脈硬化症などによる血管性が二大原因だ。頸椎椎間板ヘルニアは、神経根を圧迫すれば片側の上肢の放散痛やしびれ、頸髄を圧迫すれば両手のしびれや巧緻運動障害、痙性歩行を起こす。歩行障害が出るとしても「ぎこちない、ふらつく」痙性歩行であって、典型的な間欠性跛行ではない。これが誤りの組合せで、正解だ。
医学生医学生
残りの強直性脊椎炎と腰椎可動域の低下は、リウマチ膠原病の講義で出てきたSchober試験ですね。
ドクタードクター
その通り。強直性脊椎炎は仙腸関節炎と脊椎の付着部炎を主体とする疾患で、若年男性に多くHLA-B27との関連が強い。靱帯付着部の炎症と骨化が進むと椎体同士が骨でつながり、X線で竹様脊椎になって腰椎の動きが失われる。Schober試験で前屈時の腰の皮膚の伸びを測り、可動域低下を評価する。胸郭の拡張制限やぶどう膜炎の合併も特徴だから、正しい組合せだ。
医学生医学生
結局、脊髄なら反射亢進、神経根なら反射低下、馬尾なら会陰部症状と間欠性跛行、と部位から考えればいいんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だ。最後に臨床での注意点を補足しよう。間欠性跛行を診たら、神経性か血管性かを必ず鑑別する。神経性は腰を反らすと脊柱管がさらに狭くなるので、立ち止まるだけでは回復しにくく、前かがみや座ると楽になる。自転車なら長く乗れる、という話もよく聞く。血管性は姿勢に関係なく立ち止まるだけで軽快し、足背動脈の拍動が弱く、ABIが0.9以下に低下する。
医学生医学生
OSCEの練習で足背動脈の触診をしましたが、腰痛の患者さんでも脈を触る意味があるんですね。
ドクタードクター
そう、腰の病気だと決めつけずに脈を触ることが見逃しを防ぐ。もう一つ、馬尾型の脊柱管狭窄症で膀胱直腸障害が出てきた場合は保存療法が効きにくく、手術を検討する重要なサインになる。症候から障害部位を推定し、障害部位から次の一手を考える、という流れを身につけておこう。

まとめ

脊椎疾患の症候は、脊髄・神経根・馬尾のどれが圧迫されるかで整理できます。頸椎後縦靱帯骨化症のように頸髄が圧迫されると下肢の腱反射亢進や痙性歩行が、腰椎椎間板ヘルニアのように神経根が圧迫されるとその支配領域の腱反射低下(L5/S1ヘルニアならS1神経根障害でアキレス腱反射減弱)が生じます。成人の脊髄は第1〜2腰椎の高さで終わるため、腰部脊柱管狭窄症では馬尾が圧迫され、下肢・会陰部のしびれや神経性間欠性跛行が特徴となり、強直性脊椎炎では竹様脊椎に至る腰椎可動域制限がみられます。間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症(神経性)と閉塞性動脈硬化症(血管性)で生じる症状で、頸椎椎間板ヘルニアの典型的症候ではないため、この組合せが誤りです。障害部位から症候を予測する考え方は、神経所見の解釈や間欠性跛行の鑑別など日常診療の基本につながります。

解答・解説

正解はaです

本問は、代表的な脊椎疾患とそれに特徴的な症候の組合せから、誤っているものを選ぶ問題である。正しく判断するには、「どの高位で、脊髄・神経根・馬尾のどれが障害されるか」を整理し、そこから生じる症候を予測できることが重要である。

障害部位と症候の対応

・脊髄(上位運動ニューロン)の圧迫:障害高位より下の腱反射亢進、病的反射(Babinski徴候など)陽性、痙性歩行、手指の巧緻運動障害、膀胱直腸障害。頸椎後縦靱帯骨化症や頸椎症性脊髄症が代表例である。 ・神経根(下位運動ニューロン)の圧迫:その神経根が支配する領域の疼痛・しびれ、筋力低下、腱反射の低下~消失。腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛などが代表例である。 ・馬尾の圧迫:腰椎部では脊髄はすでに終わり(成人では概ね第1~2腰椎の高さ)、脊柱管内には馬尾が走行する。馬尾が圧迫されると、下肢・会陰部のしびれ、歩行で増悪し休息で軽快する神経性間欠性跛行、膀胱直腸障害などを生じる。腰部脊柱管狭窄症が代表例である。

考え方

間欠性跛行は「歩くと下肢の痛みやしびれが出て歩けなくなり、休むと再び歩ける」症状で、腰部脊柱管狭窄症(神経性)と閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患(血管性)が二大原因である。頸椎椎間板ヘルニアは頸部の神経根や頸髄を圧迫して上肢症状や脊髄症を起こす疾患であり、間欠性跛行を特徴とする疾患ではない。これが誤りの組合せである。

選択肢考察

  1. ○a.  頸椎椎間板ヘルニア ―― 間欠性跛行

    組合せが誤りであり、本問の正解である。頸椎椎間板ヘルニアでは、脱出した椎間板が神経根を圧迫すると一側上肢への放散痛・しびれ・筋力低下(神経根症)を、頸髄を圧迫すると両手のしびれや巧緻運動障害、下肢の腱反射亢進を伴う痙性歩行、膀胱直腸障害(脊髄症)を生じる。下肢の症状は歩行が「ぎこちない」「ふらつく」といった痙性歩行として現れ、歩行と休息で症状が出没する間欠性跛行は典型的ではない。間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症による馬尾・神経根の圧迫(神経性)や、閉塞性動脈硬化症などの下肢の血流障害(血管性)でみられる症状である。

  2. ×b.  頸椎後縦靱帯骨化症 ―― 膝蓋腱反射の亢進

    組合せは正しい。後縦靱帯骨化症(OPLL)は、椎体の後面を縦走する後縦靱帯が骨化・肥厚し、脊柱管を前方から狭めて脊髄を圧迫する疾患で、頸椎に好発する。本邦を含む東アジア人に多く、中年以降の男性に多い。頸髄が圧迫されると、障害高位より下位の上位運動ニューロン障害として、膝蓋腱反射やアキレス腱反射の亢進、Babinski徴候陽性、痙性歩行がみられる。軽微な外傷(転倒など)で脊髄損傷が重症化しやすい点にも注意が必要である。

  3. ×c.  強直性脊椎炎 ―― 腰椎可動域の低下

    組合せは正しい。強直性脊椎炎は、仙腸関節炎と脊椎の付着部炎を主体とする慢性炎症性疾患で、若年男性に多く、HLA-B27との関連が強い。脊椎の靱帯付着部の炎症と骨化が進むと、椎体間が骨性に連結して脊椎の可動性が失われる(X線で竹様脊椎〈bamboo spine〉)。早期から腰椎の運動制限が現れ、Schober試験(前屈時の腰椎部皮膚の伸び)で可動域低下を評価する。改訂New York診断基準にも、腰椎の前後屈・側屈の可動域制限が臨床項目として含まれている。胸郭の拡張制限も特徴である。

  4. ×d.  腰椎椎間板ヘルニア ―― アキレス腱反射の減弱

    組合せは正しい。腰椎椎間板ヘルニアは第4/5腰椎間(L4/5)と第5腰椎/第1仙椎間(L5/S1)に好発する。通常の後外側型のヘルニアでは、その椎間の下位の神経根が圧迫されるため、L5/S1ヘルニアではS1神経根が障害される。S1神経根はアキレス腱反射の反射弓を構成するため、その障害によりアキレス腱反射が低下~消失する。そのほかS1障害では足底・足部外側の感覚障害、下腿三頭筋の筋力低下(つま先立ち困難)がみられる。なお、L3/4ヘルニア(L4神経根障害)では膝蓋腱反射が低下し、L4/5ヘルニア(L5神経根障害)では母趾背屈力が低下するが腱反射は比較的保たれる。

  5. ×e.  腰部脊柱管狭窄症 ―― 下肢や陰部のしびれ

    組合せは正しい。腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う椎間板の膨隆、椎間関節の肥厚、黄色靱帯の肥厚、変性すべりなどにより腰部の脊柱管が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患である。高齢者に多い。馬尾が圧迫される型(馬尾型)では、両下肢や会陰部(陰部)のしびれ・灼熱感、膀胱直腸障害を伴うことがある。特徴的な症状は神経性間欠性跛行で、立位や腰椎後屈で症状が増悪し、前かがみの姿勢や座位で軽快する。

神経性間欠性跛行と血管性間欠性跛行の鑑別

・神経性(腰部脊柱管狭窄症):腰椎の後屈で脊柱管がさらに狭くなるため、立ち止まるだけでは回復しにくく、前かがみや座位で症状が軽快する。前かがみで押す自転車や手押し車なら長く進める。足背動脈の拍動は保たれる。 ・血管性(閉塞性動脈硬化症など):筋の虚血が原因のため、姿勢に関係なく立ち止まるだけで軽快する。足背動脈・後脛骨動脈の拍動が減弱~消失し、足関節上腕血圧比(ABI)が0.9以下に低下する。

腰部脊柱管狭窄症の病型

・神経根型:片側の下肢の疼痛が主体。 ・馬尾型:両下肢・会陰部のしびれ、脱力、膀胱直腸障害。保存療法が効きにくい。 ・混合型:両者の特徴をもつ。

腰椎神経根と神経所見の対応(後外側型ヘルニアの場合)

・L3/4 → L4神経根:膝蓋腱反射低下、大腿四頭筋筋力低下、下腿内側の感覚障害。大腿神経伸展テスト陽性。 ・L4/5 → L5神経根:前脛骨筋・長母趾伸筋の筋力低下(母趾背屈困難)、下腿外側~足背の感覚障害。腱反射は比較的保たれる。 ・L5/S1 → S1神経根:アキレス腱反射低下、下腿三頭筋筋力低下、足部外側~足底の感覚障害。 L4/5・L5/S1のヘルニアではSLR(下肢伸展挙上)テストが陽性となる。

頸椎疾患の症状

・神経根症:一側上肢の放散痛・しびれ、該当する髄節の筋力低下と腱反射低下。Spurling試験・Jackson試験陽性。 ・脊髄症:両手のしびれ・巧緻運動障害(箸が使いにくい、ボタンをかけにくい)、myelopathy hand、下肢腱反射亢進、痙性歩行、膀胱直腸障害。

強直性脊椎炎の要点

若年男性、HLA-B27陽性、炎症性腰背部痛(安静で増悪し運動で軽快、朝のこわばり)、仙腸関節炎、竹様脊椎、胸郭拡張制限、ぶどう膜炎の合併。血清リウマトイド因子は陰性(血清反応陰性脊椎関節炎)。

POINT

・間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症(神経性)と閉塞性動脈硬化症(血管性)で生じ、頸椎椎間板ヘルニアの特徴ではない。 ・頸髄の圧迫(後縦靱帯骨化症など)→ 下肢腱反射亢進・病的反射・痙性歩行(上位運動ニューロン障害)。 ・神経根の圧迫 → 支配領域の腱反射低下。S1神経根(L5/S1ヘルニア)でアキレス腱反射、L4神経根(L3/4ヘルニア)で膝蓋腱反射が低下。 ・腰部脊柱管狭窄症:神経性間欠性跛行、前屈で軽快、馬尾型では下肢・会陰部のしびれや膀胱直腸障害。 ・強直性脊椎炎:HLA-B27、仙腸関節炎、竹様脊椎、腰椎可動域制限・胸郭拡張制限。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。