IgMが語る胆管の破壊―原発性胆汁性胆管炎を自己免疫性肝炎・PSCと見分ける
第99回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
原発性胆汁性肝硬変〈原発性胆汁性胆管炎〉の特徴はどれか。
- a.好発年齢は30歳代である。
- b.血清IgMが高値である。
- c.抗平滑筋抗体が高率に陽性である。
- d.HLA-DR4が高頻度に陽性である。
- e.胆管細胞癌の合併が多い。
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝内の小葉間胆管が自己免疫的に破壊される慢性胆汁うっ滞性疾患で、中年以降の女性に多く、ALP・γ-GTP優位の上昇、抗ミトコンドリア抗体陽性、血清IgM高値が特徴です。抗平滑筋抗体・IgG高値・HLA-DR4は自己免疫性肝炎の特徴であり、日本人のPBCで関連するのはHLA-DR8です。胆管癌の合併が多いのはPSCや先天性胆道拡張症で、PBCでは進行例の肝細胞癌に注意します。臨床的には皮膚瘙痒感、脂質異常症や骨粗鬆症、Sjögren症候群などの合併に目を配り、治療はウルソデオキシコール酸が第一選択です。PBC・自己免疫性肝炎・PSCを好発年齢、自己抗体、免疫グロブリン、HLA、合併症の軸で対比して覚えることが、自己免疫性肝疾患の確実な理解につながります。
解答・解説
正解はbです
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)の疫学・検査所見・遺伝的背景・合併症を、ほかの自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎)と区別して理解しているかを問う問題である。 PBCは、肝内の小葉間胆管(小型の胆管)が自己免疫機序によって慢性的に破壊される疾患であり、胆汁うっ滞が徐々に進行して最終的に胆汁性肝硬変に至る。かつては「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていたが、診断時に肝硬変に至っていない症例が大部分であるため、2016年ごろから「原発性胆汁性胆管炎」へ名称が変更された。 PBCの特徴として押さえるべき点は次のとおりである。 ・疫学:中年以降(50歳代を中心とする)の女性に多い。 ・検査:胆道系酵素(ALP、γ-GTP)優位の上昇、抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性、血清IgM高値。 ・病理:慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis:CNSDC)。 ・遺伝的背景:日本人ではHLA-DR8との関連が知られる。 自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)では「抗核抗体・抗平滑筋抗体陽性、IgG高値、HLA-DR4」、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)では「潰瘍性大腸炎の合併、胆管癌の合併」が特徴であり、これらの対比から各選択肢を判断する。本問では「血清IgMが高値である」がPBCの特徴に当たる。
選択肢考察
- ×a. 好発年齢は30歳代である。
PBCは中年以降の女性に多く、診断時の年齢は50歳代を中心に分布する。男女比はおよそ1:7〜9と女性に著しく多い。30歳代が好発年齢とはいえないため誤りである。なお、若年者に多い肝胆道系疾患としては、原発性硬化性胆管炎(わが国では20歳代と60歳代の二峰性)などがある。
- ○b. 血清IgMが高値である。
PBCでは免疫グロブリンのうちIgMが高値となることが多く、診断の参考所見となる。これは、PBCの病態に関与する自己免疫応答(主にAMAの対応抗原であるミトコンドリアのピルビン酸脱水素酵素複合体E2成分に対する反応)に伴って、IgMを産生するB細胞が活性化されるためと考えられている。ほかの自己免疫性肝疾患との対比では、IgG高値が自己免疫性肝炎、IgG4高値がIgG4関連硬化性胆管炎の特徴であり、IgM高値はPBCに特徴的な所見として区別して覚えるとよい。
- ×c. 抗平滑筋抗体が高率に陽性である。
PBCで高率(約90%)に陽性となる自己抗体は抗ミトコンドリア抗体(AMA、特にM2抗体とよばれる抗PDC-E2抗体)である。抗平滑筋抗体(anti-smooth muscle antibody:ASMA)は、抗核抗体とともに自己免疫性肝炎で高率に陽性となる自己抗体である。したがって本選択肢は誤りである。なお、PBCでも抗核抗体(抗gp210抗体、抗セントロメア抗体など)が陽性となることがあり、予後予測に用いられる。
- ×d. HLA-DR4が高頻度に陽性である。
日本人のPBCで関連が知られているのはHLA-DR8(DRB1*08:03)である。HLA-DR4(日本人ではDRB1*04:05)は自己免疫性肝炎との関連が知られており、関節リウマチとの関連も有名である。したがって本選択肢は誤りである。
- ×e. 胆管細胞癌の合併が多い。
PBCで胆管細胞癌(肝内胆管癌)の合併が特に多いという事実はない。胆管癌の合併が多い肝胆道疾患は、原発性硬化性胆管炎、先天性胆道拡張症(膵・胆管合流異常)、肝内結石症などである。PBCで注意すべき悪性腫瘍は、肝硬変へ進行した段階での肝細胞癌(特に男性例)である。したがって本選択肢は誤りである。
PBCの臨床像
・初期は無症状のことが多く(無症候性PBC)、健康診断でのALP・γ-GTP上昇を契機に発見されることが多い。 ・症状を伴う例(症候性PBC)では皮膚瘙痒感が初発症状として多く、進行すると黄疸、腹水、食道静脈瘤などの肝硬変症状が出現する。 ・胆汁うっ滞に伴い、脂質異常症(高コレステロール血症)と眼瞼黄色腫、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収障害、骨粗鬆症がみられる。 ・合併しやすい自己免疫疾患として、Sjögren症候群、慢性甲状腺炎(橋本病)、全身性強皮症(とくに限局皮膚硬化型)、関節リウマチなどがある。
PBCの診断
次のいずれかで診断される。 ・組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの ・AMAが陽性で、組織学的にCNSDCは認めないがPBCに矛盾しない組織像を示すもの ・組織学的検索がなくても、AMAが陽性でPBCに特徴的な臨床像・経過を示すもの
PBCの治療
・第一選択はウルソデオキシコール酸(UDCA)。効果不十分例ではベザフィブラートの併用が行われる。 ・瘙痒感には対症療法、骨粗鬆症や脂溶性ビタミン欠乏への対策も行う。 ・非代償期(黄疸の進行、肝不全)では肝移植の適応となる。
自己免疫性肝疾患の比較
・PBC:中年以降の女性、小葉間胆管の破壊(CNSDC)、AMA陽性、IgM高値、HLA-DR8、治療はUDCA。 ・自己免疫性肝炎:中年以降の女性、肝細胞障害(AST・ALT優位の上昇)、抗核抗体・抗平滑筋抗体陽性、IgG高値、HLA-DR4、interface hepatitis・形質細胞浸潤、治療は副腎皮質ステロイド。 ・PSC:わが国では若年者と高齢者の二峰性、太い胆管も含む多発性狭窄(数珠状所見)、特異的な自己抗体なし、潰瘍性大腸炎の合併、胆管癌の合併、有効な薬物療法は乏しく肝移植が根本治療。
POINT
・PBC(原発性胆汁性胆管炎)は中年以降(50歳代中心)の女性に多い ・抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性、IgM高値、ALP・γ-GTP優位の上昇 ・病理は慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC) ・日本人ではHLA-DR8と関連(HLA-DR4は自己免疫性肝炎) ・抗平滑筋抗体・IgG高値は自己免疫性肝炎の特徴 ・胆管癌の合併が多いのはPSC・先天性胆道拡張症であり、PBCではない ・治療の第一選択はウルソデオキシコール酸
