StudyMed医師国家試験

歯状線がすべてを決める―解剖から読み解く肛門管癌の症状と転移

第99回医師国家試験 E問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第33問

肛門(管)癌で誤っているのはどれか。

  1. a.痔瘻に合併する。
  2. b.扁平上皮癌も発生する。
  3. c.腸閉塞を起こしやすい。
  4. d.排便時に疼痛がみられる。
  5. e.鼠径リンパ節転移がみられる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肛門管癌の特徴を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので注意しよう。肛門管癌の性質は、ほとんどが肛門管の解剖、特に歯状線を境にした違いから説明できる。まず、歯状線の上と下で何が違うか覚えているかな。
医学生医学生
解剖学の実習で習いました。歯状線より口側は円柱上皮、肛門側は重層扁平上皮ですよね。
ドクタードクター
その通り。上皮だけでなく、神経支配とリンパ流も変わる。口側は自律神経支配で痛覚に乏しく、リンパは下腸間膜動脈や内腸骨動脈に沿って流れる。肛門側は体性神経である陰部神経の支配で痛覚が鋭敏、リンパは鼠径リンパ節へ向かう。この3つの違いを頭に置いて選択肢を見ていこう。
医学生医学生
上皮が扁平上皮なら、扁平上皮癌も発生するという記述は正しいですね。直腸癌はほぼ腺癌なのに、と思うと少し意外です。
ドクタードクター
そこが肛門管の面白いところだ。欧米では肛門管癌の大部分が扁平上皮癌で、ヒトパピローマウイルス感染との関連が強い。わが国では腺癌の割合が高いけれど、扁平上皮癌も一定の割合を占める。しかも扁平上皮癌は放射線感受性が高く、5-FUとマイトマイシンCなどを併用した化学放射線療法が第一選択になる。手術が基本の腺癌とは治療方針が大きく違うんだ。
医学生医学生
子宮頸癌と同じくHPVが関わるんですね。婦人科の講義とつながりました。
ドクタードクター
いい結び付け方だね。では次、排便時の疼痛はどうかな。
医学生医学生
肛門側は陰部神経支配で痛覚が鋭いので、そこに癌が浸潤すれば排便時に痛みが出る、正しい記述だと思います。
ドクタードクター
正解。痛みを感じにくい直腸癌との大きな違いだ。内痔核は通常無痛で、外痔核は痛いという違いもまったく同じ理屈で説明できる。ただ、出血や痛みがあると患者さんが「痔だろう」と自己判断して受診が遅れることがある。だから直腸指診や肛門鏡がとても大切なんだ。
医学生医学生
鼠径リンパ節転移も、肛門側のリンパ流が鼠径へ向かうからみられる、で正しいですね。
ドクタードクター
そう。特に歯状線より下の扁平上皮領域から発生した癌で起こりやすい。鼠径部に腫れたリンパ節を触れたら、下肢や外陰部だけでなく肛門管癌の可能性も考えるのが臨床的なポイントだ。では、痔瘻との関係はどうだろう。
医学生医学生
痔瘻に癌が合併するというのは、少し聞いたことがある程度です。慢性炎症が背景になるんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。痔瘻が一般に10年以上と長く続き、炎症を繰り返すと、瘻管から癌が発生することがある。これを痔瘻癌と呼び、組織型は粘液癌が多い。Crohn病に伴う難治性痔瘻も背景になる。症状が痔瘻そのものと区別しにくいので、分泌物がゼリー状に変わったり、硬結が大きくなったりしたら、癌を疑って生検することが大事だよ。
医学生医学生
そうすると残るのは、腸閉塞を起こしやすい、という記述ですね。肛門管は狭いので閉塞しそうな気もしたんですが。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だけど、ここは消化管の最末端だということを考えてみよう。肛門管に腫瘍ができると、出血、排便時痛、腫瘤の触知、排便困難といった局所症状が早くから現れる。便は出口直前で形を変えて通過しやすく、腸閉塞に至るのは相当進行して高度に狭窄した場合に限られるんだ。
医学生医学生
腸閉塞を起こしやすいのは、内腔が狭くて便が固くなっている左側結腸、特にS状結腸の癌でしたね。外科実習で、S状結腸癌の閉塞で緊急手術になった患者さんを見ました。
ドクタードクター
まさにそれ。だから誤っているのは、腸閉塞を起こしやすいという記述で、これが正解だ。最後に発展知識を整理しよう。肛門管癌の腺癌では腹会陰式直腸切断術、いわゆるMiles手術を中心とした手術が基本になる。扁平上皮癌は化学放射線療法が第一選択で、遺残や再発があれば手術を考える。危険因子としては長期の痔瘻、Crohn病、HPV感染、HIV感染などの免疫不全状態を押さえておこう。
医学生医学生
歯状線を境に、上皮、神経、静脈、リンパの流れが変わると覚えておけば、肛門の病気はかなり整理できそうです。
ドクタードクター
その通り。静脈も、口側は上直腸静脈から門脈系へ、肛門側は体循環系へ流れる。この解剖の知識は、痔核の分類から癌の転移様式、治療法の選択までを一本の線でつないでくれる。暗記ではなく、構造から考える習慣を大切にしよう。

まとめ

肛門管癌の特徴は、歯状線を境にした解剖の違いから理解できます。歯状線より肛門側は重層扁平上皮で覆われ、陰部神経支配で痛覚が鋭敏、リンパは鼠径リンパ節へ流れるため、扁平上皮癌が発生し、排便時痛を伴い、鼠径リンパ節転移がみられます。また長期の痔瘻からは粘液癌を主体とする痔瘻癌が生じうるため、分泌物の性状変化や硬結の増大に注意が必要です。一方、肛門管は消化管の最末端で局所症状が早期から出やすく、腸閉塞はまれであり、閉塞を起こしやすいのは左側結腸癌です。扁平上皮癌は化学放射線療法、腺癌は手術が基本と治療方針も異なるため、組織型を意識した診断と、解剖に基づく病態理解が臨床判断の土台となります。

解答・解説

正解はcです

肛門管癌の特徴を、肛門管の解剖(上皮の種類・神経支配・リンパ流)と結び付けて理解しているかを問う問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式であることに注意する。 肛門管は、外科的には恥骨直腸筋付着部の上縁から肛門縁までの長さ約3〜4 cmの管であり、その途中に歯状線(櫛状線)がある。歯状線を境にして次のような違いがある。 ・上皮:歯状線より口側は直腸と同じ円柱上皮(移行帯を含む)、肛門側は重層扁平上皮である。そのため、直腸癌がほぼ腺癌であるのに対し、肛門管では腺癌に加えて扁平上皮癌も発生する。 ・神経支配:歯状線より口側は自律神経支配で痛覚に乏しいが、肛門側は体性神経(陰部神経)支配で痛覚が鋭敏である。このため肛門管の病変は疼痛を生じやすい。 ・リンパ流:歯状線より口側は下腸間膜動脈・内腸骨動脈に沿ったリンパ節へ、肛門側は鼠径リンパ節へ流れる。そのため肛門管癌では鼠径リンパ節転移がみられる。 さらに、長期間持続する痔瘻から癌(痔瘻癌)が発生することがある点も重要である。 一方、肛門管は消化管の最末端に位置し、腫瘍による狭窄が生じても便は形を変えて通過しやすく、症状は出血・疼痛・腫瘤触知・排便困難などとして早期から現れることが多い。腸閉塞を起こすのは相当に進行して高度狭窄に至った場合に限られ、「起こしやすい」とはいえない。したがって誤っている記述は「腸閉塞を起こしやすい」である。

選択肢考察

  1. ×a.  痔瘻に合併する。

    記述は正しい(本問は誤りを選ぶ問題のため、正解ではない)。痔瘻が長期間(一般に10年以上)持続し、慢性炎症を繰り返すと、瘻管の上皮から癌が発生することがある。これを痔瘻癌と呼び、組織型は粘液癌(粘液産生性の腺癌)が多い。Crohn病に伴う難治性痔瘻も発癌の背景となる。痔瘻の症状(排膿・疼痛・硬結)に隠れて発見が遅れやすいため、長い痔瘻の既往がある患者で分泌物がゼリー状・粘液状に変化したり硬結が増大したりした場合は癌を疑って生検を行う。

  2. ×b.  扁平上皮癌も発生する。

    記述は正しい(正解ではない)。肛門管の歯状線より肛門側は重層扁平上皮で覆われているため、扁平上皮癌が発生する。欧米では肛門管癌の大部分が扁平上皮癌であり、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連が強い。わが国では腺癌(痔瘻癌を含む)の割合が高いが、扁平上皮癌も一定の割合を占める。扁平上皮癌は放射線感受性が高く、放射線と化学療法(5-FU+マイトマイシンCなど)の併用療法が第一選択となる点が腺癌と大きく異なる。

  3. ○c.  腸閉塞を起こしやすい。

    記述は誤りであり、本問の正解である。肛門管は消化管の出口にあたり、腫瘍があっても出血、排便時痛、肛門部腫瘤・硬結、排便困難などの局所症状が早くから現れる。便は肛門直前まで達すると形を変えて排出されやすく、腸閉塞に至るのは腫瘍がかなり進行して内腔が高度に狭窄した場合に限られる。腸閉塞を起こしやすいのは、内腔が比較的狭く便が固形化している左側結腸(とくにS状結腸)などの、より口側の大腸癌である。

  4. ×d.  排便時に疼痛がみられる。

    記述は正しい(正解ではない)。歯状線より肛門側は体性神経である陰部神経の支配を受けて痛覚が鋭敏であり、ここに浸潤する肛門管癌では排便時痛が高頻度にみられる。これは痛みを感じにくい直腸癌との違いである。出血を伴うことも多く、痔核や裂肛と自己判断されて受診が遅れることがあるため、直腸指診や肛門鏡検査が重要となる。

  5. ×e.  鼠径リンパ節転移がみられる。

    記述は正しい(正解ではない)。歯状線より肛門側のリンパ流は鼠径リンパ節へ向かうため、肛門管癌、とくに歯状線以下の扁平上皮領域から発生した癌では鼠径リンパ節転移がみられる。歯状線より口側の病変では、直腸と同様に下腸間膜動脈根部や内腸骨動脈領域のリンパ節へ転移する。鼠径部の腫大したリンパ節を触れた場合は、下肢や外陰部の病変に加えて肛門管癌の可能性も考える。

肛門管の解剖と歯状線の意義

・歯状線より口側:円柱上皮(移行帯を含む)、自律神経支配(痛覚に乏しい)、静脈は上直腸静脈から門脈系へ、リンパは下腸間膜動脈・内腸骨動脈領域へ。 ・歯状線より肛門側:重層扁平上皮、体性神経(陰部神経)支配(痛覚鋭敏)、静脈は中・下直腸静脈から体循環系(下大静脈系)へ、リンパは鼠径リンパ節へ。 ・この違いは、内痔核(歯状線より口側、通常無痛)と外痔核(肛門側、疼痛あり)の症状の違いにも対応する。

肛門管癌の概要

・組織型:腺癌(直腸型腺癌、肛門腺由来の癌、痔瘻癌)と扁平上皮癌が主。ほかに類基底細胞癌、悪性黒色腫などもある。 ・危険因子:長期の痔瘻、Crohn病、HPV感染(扁平上皮癌)、免疫不全状態(HIV感染など)。 ・症状:出血、排便時痛、肛門部腫瘤・硬結、分泌物、排便習慣の変化。 ・診断:直腸指診、肛門鏡、生検、CT・MRI・PETによる進展・転移評価。 ・治療:腺癌は腹会陰式直腸切断術(Miles手術)を中心とした手術が基本。扁平上皮癌は化学放射線療法が第一選択で、再発・遺残例に手術を行う。

痔瘻癌の特徴

・10年以上の長い痔瘻歴をもつ患者に発生しやすい。 ・組織型は粘液癌が多い。 ・症状が痔瘻と区別しにくく、診断が遅れやすい。ゼリー状の分泌物、硬結の増大が手がかりとなる。

POINT

・歯状線より肛門側は扁平上皮、体性神経支配、鼠径リンパ節へのリンパ流 ・肛門管癌は扁平上皮癌も発生する(欧米では扁平上皮癌が主、HPV関連。治療は化学放射線療法) ・長期の痔瘻から痔瘻癌(粘液癌が多い)が発生しうる ・排便時痛、出血が多く、鼠径リンパ節転移を起こす ・腸閉塞は肛門管癌ではまれで、左側結腸癌などで起こりやすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。