胆管が数珠になるとき、大腸も燃えている―原発性硬化性胆管炎と潰瘍性大腸炎の深い縁
第118回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
原発性硬化性胆管炎に合併することが多いのはどれか。
- a.虚血性腸炎
- b.偽膜性腸炎
- c.大腸憩室炎
- d.潰瘍性大腸炎
- e.過敏性腸症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
原発性硬化性胆管炎(PSC)は肝内外の胆管に多発性の狭窄をきたす原因不明の慢性胆汁うっ滞性疾患で、MRCPでの数珠状変化やたまねぎの皮様線維化が特徴です。PSCは炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎を高率に合併し、逆に潰瘍性大腸炎の腸管外合併症としてもPSCは重要です。虚血性腸炎、偽膜性腸炎、大腸憩室炎、過敏性腸症候群はいずれも別の機序で生じ、PSCとの関連はありません。PSCでは胆管癌、潰瘍性大腸炎合併例では大腸癌に注意が必要で、ステロイドは通常無効、根治的治療は肝移植である点も、ステロイドが奏効するIgG4関連硬化性胆管炎との対比で押さえておきましょう。胆道系酵素の上昇と腸の症状を両方向から結びつけて考える習慣が、見逃しを防ぐ臨床力につながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
原発性硬化性胆管炎(PSC:primary sclerosing cholangitis)に高頻度で合併する腸疾患を選ぶ問題である。
PSCとは
PSCは、肝内外の胆管に原因不明の慢性炎症と線維化が起こり、胆管が多発的に狭窄して胆汁うっ滞をきたす疾患である。免疫学的機序の関与が考えられているが原因は不明で、指定難病に含まれる。病理では胆管周囲の同心円状の線維化(onion skin lesion、たまねぎの皮様線維化)が特徴的である。胆道造影(MRCPやERCP)では、狭窄と拡張が交互に並ぶ数珠状変化(beaded appearance)や、枯れ枝状変化を示す。血液検査ではALPやγ-GTPなど胆道系酵素が上昇し、p-ANCAが陽性となることがある。進行すると胆汁性肝硬変から門脈圧亢進症・肝不全に至り、根治的治療は肝移植である。
PSCと炎症性腸疾患
PSCの大きな特徴は炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)を高率に合併することである。欧米ではPSC患者の6〜8割、日本では約3〜4割にIBDを認め、その大部分が潰瘍性大腸炎である。逆に潰瘍性大腸炎の患者からみると、PSCは腸管外合併症の一つであり、合併率は数%程度である。PSCと潰瘍性大腸炎は互いに関連する疾患として、両方向から問われうる。 他の選択肢(虚血性腸炎、偽膜性腸炎、大腸憩室炎、過敏性腸症候群)は、それぞれ血流障害、抗菌薬に伴う菌交代、憩室の炎症、機能的障害という別の機序で起こる疾患であり、PSCとの関連はない。
選択肢考察
- ×a. 虚血性腸炎
虚血性腸炎は、動脈硬化などによる血流低下に、便秘による腸管内圧上昇などが加わって大腸粘膜に一過性の虚血が起こる疾患である。高齢者や便秘傾向の女性に多く、左側結腸(下行結腸〜S状結腸)に好発し、突然の腹痛に続く下血が典型である。若年者に起こることもある。PSCとの関連はない。誤り。
- ×b. 偽膜性腸炎
偽膜性腸炎は、抗菌薬の使用によって腸内細菌叢が乱れ(菌交代現象)、Clostridioides difficile が増殖して産生する毒素(トキシンA・B)により大腸粘膜が傷害される疾患である。内視鏡で黄白色の偽膜が多発するのが特徴である。PSCとの関連はない。なお、IBD患者ではC. difficile感染症のリスクが高いことが知られているが、PSCに合併しやすい疾患として問われるものではない。誤り。
- ×c. 大腸憩室炎
大腸憩室は、腸管内圧の上昇(慢性便秘や低食物繊維食など)と加齢による腸管壁の脆弱化を背景に、腸壁の一部が外へ袋状に突出したものである。その憩室に細菌感染や炎症が起こったものが憩室炎で、日本では右側結腸、高齢者では左側(S状結腸)にも多い。PSCとの関連はない。誤り。
- ○d. 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、主に大腸の粘膜から粘膜下層にかけてびらん・潰瘍を形成する原因不明の炎症性腸疾患で、直腸から連続性に口側へ広がる。PSCに合併するIBDの大部分は潰瘍性大腸炎であり、PSCの合併症として最も重要である。PSCに伴う潰瘍性大腸炎は、全大腸炎型が多い、直腸病変が軽い(rectal sparing)、回腸末端に炎症が及ぶ(backwash ileitis)、症状が軽いことが多い、大腸癌のリスクが高い、といった特徴がある。潰瘍性大腸炎の腸管外合併症としては、PSCのほか、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎(ぶどう膜炎)、関節炎(強直性脊椎炎を含む)などがある。正しい。
- ×e. 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、内視鏡などで器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛と便通異常(下痢・便秘、またはその混合)が慢性的に繰り返される機能性疾患である。心理的ストレス、腸管の運動異常や知覚過敏、腸内細菌叢の変化、感染性腸炎の既往などが関与すると考えられている。PSCとの関連はない。誤り。
PSCの疫学
欧米では若年〜中年男性に多い。日本では20歳代と60歳代に二峰性の発症ピークがあるとされ、若年発症例ではIBDの合併が多い。
PSCの症状と検査
初期は無症状で、健診などでの胆道系酵素(ALP、γ-GTP)上昇を契機に見つかることが多い。進行すると黄疸、皮膚瘙痒感、胆管炎による発熱・腹痛が出現する。画像診断はMRCPが第一選択で、多発する短い狭窄と拡張による数珠状変化、帯状狭窄、枯れ枝状変化が特徴である。
合併する悪性腫瘍
・胆管癌:PSCで最も重要な悪性合併症であり、狭窄との鑑別が難しいことがある。 ・大腸癌:PSCに潰瘍性大腸炎を合併した例では、潰瘍性大腸炎単独よりも大腸癌のリスクが高いため、定期的な大腸内視鏡検査が必要である。 ・胆嚢癌も増加する。
治療
ウルソデオキシコール酸(UDCA)で胆道系酵素は改善するが、生命予後の改善効果は確立していない。副腎皮質ステロイドは通常無効である。胆管の高度狭窄には内視鏡的バルーン拡張術などを行う。肝不全に至った例の根治的治療は肝移植であるが、移植後に再発することがある。
鑑別すべき疾患
・IgG4関連硬化性胆管炎:高齢男性に多く、血清IgG4高値、自己免疫性膵炎の合併が多い。ステロイドがよく効く点がPSCと大きく異なる。 ・続発性硬化性胆管炎:胆道手術後、胆管結石、虚血、AIDS関連など原因のある胆管の狭窄。 ・胆管癌。 ・原発性胆汁性胆管炎(PBC):中年女性に多く、抗ミトコンドリア抗体陽性。肝内の小葉間胆管が障害される疾患で、胆道造影では大きな胆管に異常を認めない点がPSCとの違いである。
POINT
・PSCは肝内外胆管の多発狭窄による慢性胆汁うっ滞性疾患で、胆道造影で数珠状変化を示す。 ・PSCは炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎を高率に合併する(日本で約3〜4割、欧米で6〜8割)。 ・PSCの悪性合併症は胆管癌、潰瘍性大腸炎合併例では大腸癌に注意する。 ・UDCAの予後改善効果は確立しておらず、根治的治療は肝移植。ステロイドが効くIgG4関連硬化性胆管炎との鑑別が重要。
