StudyMed医師国家試験

お茶とコーヒーは大丈夫?―胎盤を越える「小さな分子」が胎児の形を変える

第99回医師国家試験 D問題 第60問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第60問

胎児奇形発生に関連するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.緑茶
  2. b.コーヒー
  3. c.アルコール
  4. d.ワルファリン
  5. e.ペニシリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠中に摂るものの中で胎児の形態異常、つまり奇形の原因になりうるものを選ぶ問題だ。身近な嗜好品と薬が並んでいるけれど、ポイントは「胎盤を通過するか」と「その物質に催奇形性が確認されているか」の2点。まずは直感でいいから、どれが怪しいと思う?
医学生医学生
アルコールは胎児性アルコール症候群があるので確実だと思います。あとはカフェインも妊婦さんは控えるように言われるので、緑茶かコーヒーも入るのかなと迷っています。
ドクタードクター
そこが典型的な迷いどころだね。カフェインは確かに控えめにするよう指導されるけれど、それは過剰摂取で流産や低出生体重との関連が指摘されているからなんだ。通常の摂取量で形態異常を起こすという明らかな証拠はない。だから「控えるべきもの」と「奇形を起こすもの」は分けて考えよう。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦健診の保健指導を見学したとき「コーヒーは1日2〜3杯くらいまで」と説明していました。禁止ではなかったです。
ドクタードクター
そう、カフェインの目安はおおむね1日200〜300 mg以下とされることが多い。一方でアルコールについては安全な量が確立していないから、妊娠を計画する段階から妊娠中を通して禁酒を勧める。この指導の違いが、リスクの性質の違いを表しているんだ。
医学生医学生
胎児性アルコール症候群の特徴は、顔貌の異常でしたよね。
ドクタードクター
そうだね。短い眼瞼裂、人中の平坦化、薄い上口唇といった特徴的な顔貌、出生前後の発育障害、そして小頭症や知的障害・行動障害などの中枢神経障害が3本柱だ。心奇形を伴うこともある。エタノールは小さな分子で胎盤を容易に通過し、発生途中の脳などに直接作用するんだよ。
医学生医学生
もう一つはワルファリンでしょうか。薬理学の講義で「妊婦には禁忌」と習った記憶があります。
ドクタードクター
正解。ワルファリンはビタミンK拮抗薬で、分子量が小さく胎盤を通過する。妊娠初期、特に6〜12週ごろの曝露で胎児ワルファリン症候群を起こす。鼻の低形成による鞍鼻や、骨端の点状石灰化、いわゆる点状軟骨異形成といった骨・軟骨の形成異常が特徴だ。
医学生医学生
ビタミンKの働きが骨の形成にも関わっているから、骨に異常が出るんですね。中期以降なら安全なんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。中期以降でも安全とは言えない。胎児の頭蓋内出血などによって小頭症や視神経萎縮といった中枢神経の異常、胎児発育不全、新生児の出血傾向を起こしうる。だから妊娠中の抗凝固療法は、胎盤を通過しないヘパリンへの切り替えが原則なんだ。ただし機械弁置換後などでは、例外的にワルファリン継続が検討される場面もある。
医学生医学生
ヘパリンは分子が大きいから胎盤を通らない、という理屈ですね。残るペニシリンは抗菌薬なので、なんとなく心配になりますが……。
ドクタードクター
βラクタム系、つまりペニシリン系やセフェム系は長年の使用経験から明らかな催奇形性は認められておらず、妊娠中にも比較的安全に使える抗菌薬とされている。妊娠中の梅毒の治療や、分娩時のB群溶血性レンサ球菌感染予防にも使われるくらいだ。
医学生医学生
逆に、妊娠中に避けるべき抗菌薬はありますか。
ドクタードクター
テトラサイクリン系は中期以降で歯の着色や骨発育への影響、アミノグリコシド系は第8脳神経障害による難聴が知られている。抗菌薬だからとひとくくりにせず、系統ごとに覚えておこう。
医学生医学生
曝露の時期も大事なんですよね。発生学で「all or none」という言葉を習いました。
ドクタードクター
その通り。受精後2週、つまり妊娠4週未満までは、影響を受ければ流産に終わるか完全に修復されるかのどちらかになりやすい。妊娠4週から7週末ごろが主要器官の形成される絶対過敏期で、形態異常が最も起こりやすい。それ以降は形態異常のリスクは下がるけれど、発育不全や機能障害といった胎児毒性が問題になるんだ。
医学生医学生
ほかに代表的な催奇形因子も整理しておきたいです。
ドクタードクター
国試頻出なのは、サリドマイドのアザラシ肢症、バルプロ酸やカルバマゼピンの神経管閉鎖障害、フェニトインの胎児ヒダントイン症候群、リチウムのEbstein奇形、ビタミンA誘導体の頭蓋顔面や心臓の異常、ACE阻害薬やARBの中期以降の羊水過少・腎障害あたりだ。感染症では風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマも忘れずに。臨床では、妊娠に気づかず服薬していた女性から相談を受けることも多いから、薬の種類と曝露時期の両方から冷静にリスクを評価することが大切だよ。

まとめ

胎児奇形を起こしうる物質を考えるときは、胎盤を通過するかと、どの時期に曝露したかの2点が重要です。アルコールは胎盤を容易に通過して特徴的顔貌・発育障害・中枢神経障害からなる胎児性アルコール症候群を起こし、安全量がないため妊娠中は禁酒が原則です。ワルファリンも胎盤を通過し、鼻の低形成や点状軟骨異形成を特徴とする胎児ワルファリン症候群を起こすため、妊娠中の抗凝固療法は胎盤を通過しないヘパリンが原則となります。一方、緑茶やコーヒーのカフェインは過剰摂取を控えるよう指導されるものの明らかな催奇形性はなく、ペニシリン系抗菌薬も妊娠中に比較的安全に使用できます。妊娠4〜7週末ごろの絶対過敏期を意識しつつ、代表的な催奇形因子を薬剤・感染症ごとに整理しておくことは、妊娠可能年齢の女性への処方や服薬相談に直結する知識です。

解答・解説

正解はc, dです

胎児に形態異常(奇形)を起こしうる物質を催奇形因子という。催奇形性を考えるうえでは、次の2点が重要である。 【胎盤を通過するか】母体に摂取された物質のうち、分子量が小さいものや脂溶性の高いものは胎盤を通過しやすく、胎児に直接作用する。 【いつ曝露したか】受精後2週(妊娠4週未満)までは影響を受けると流産に終わるか、完全に修復されるかのどちらかになりやすい(all or none の時期)。妊娠4週から7週末ごろまでは主要な器官が形成される絶対過敏期で、形態異常が最も起こりやすい。その後は形態異常のリスクは下がるが、中枢神経の発達障害や胎児発育不全、機能障害(胎児毒性)が問題となる。 選択肢のうち、アルコールは胎盤を容易に通過して胎児性アルコール症候群を起こし、ワルファリンは胎盤を通過して胎児ワルファリン症候群(ワルファリン胎芽病)を起こす。いずれも代表的な催奇形因子として必ず覚えておくべきものである。一方、緑茶やコーヒーに含まれるカフェイン、およびペニシリン系抗菌薬には明らかな催奇形性は示されていない。

選択肢考察

  1. ×a.  緑茶

    緑茶にはカフェインが含まれるが、通常の摂取量でヒトに形態異常を起こすという明らかな証拠はない。ただしカフェインの過剰摂取は流産や低出生体重との関連が指摘されているため、妊娠中は1日あたりのカフェイン量を控えめにする(おおむね200〜300 mg以下、コーヒーで2〜3杯程度まで)よう指導されることが多い。催奇形因子とはいえない。

  2. ×b.  コーヒー

    緑茶と同様、主成分として問題となるのはカフェインであるが、催奇形性は明らかでない。多量摂取を避けるよう指導はされるものの、胎児奇形の原因としては扱われない。

  3. ○c.  アルコール

    エタノールは胎盤を容易に通過し、胎児の脳などの発生を障害する。妊娠中の飲酒により胎児性アルコール症候群(fetal alcohol syndrome:FAS)が起こる。主な特徴は、①特徴的な顔貌(短い眼瞼裂、人中の平坦化、薄い上口唇など)、②出生前後の発育障害、③小頭症や知的障害・行動障害などの中枢神経系の障害であり、心奇形などを伴うこともある。安全な飲酒量は確立していないため、妊娠を計画する時期から妊娠期間中を通して禁酒を指導する。

  4. ○d.  ワルファリン

    ビタミンK拮抗薬であるワルファリンは分子量が小さく胎盤を通過する。妊娠初期(特に妊娠6〜12週ごろ)の曝露で胎児ワルファリン症候群(ワルファリン胎芽病)を生じ、鼻の低形成(鞍鼻)や骨端の点状石灰化(点状軟骨異形成)などの骨・軟骨の形成異常が特徴である。妊娠中期以降の曝露でも、胎児の頭蓋内出血などによる中枢神経系の異常(小頭症、視神経萎縮など)、胎児発育不全、新生児の出血傾向を起こしうる。このため妊娠中の抗凝固療法には、胎盤を通過しないヘパリン(未分画ヘパリンや低分子ヘパリン)への切り替えが原則とされる(機械弁置換後など例外的にワルファリンの継続が検討される場合もある)。

  5. ×e.  ペニシリン

    ペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系抗菌薬は、長年の使用経験から明らかな催奇形性は認められておらず、妊娠中にも比較的安全に使用できる抗菌薬とされる。妊娠中の梅毒や、分娩時のB群溶血性レンサ球菌(GBS)感染予防などにも用いられる。

主な催奇形性・胎児毒性をもつ薬物・物質(代表例)

・アルコール: 胎児性アルコール症候群 ・ワルファリン: 鼻の低形成、点状軟骨異形成、中枢神経系の異常 ・サリドマイド: アザラシ肢症(四肢の形成異常) ・バルプロ酸: 神経管閉鎖障害(二分脊椎など) ・フェニトイン: 胎児ヒダントイン症候群(顔貌異常、爪・指節の低形成など) ・カルバマゼピン: 神経管閉鎖障害など ・メトトレキサート: 頭蓋・顔面・四肢の形成異常 ・ビタミンA誘導体(エトレチナート、イソトレチノインなど): 頭蓋顔面・心臓・中枢神経の形成異常 ・リチウム: 心奇形(Ebstein奇形) ・ミソプロストール: Möbius症候群、四肢の欠損 ・ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(中期以降): 羊水過少、腎障害、頭蓋骨低形成 ・テトラサイクリン系(中期以降): 歯の着色、骨発育への影響 ・アミノグリコシド系: 第8脳神経障害(難聴) 【感染症による催奇形】風疹(先天性風疹症候群: 白内障、難聴、心奇形)、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなども胎児の形態異常や障害を起こす。 【喫煙】ニコチン・一酸化炭素による胎盤循環の障害から、胎児発育不全、早産、常位胎盤早期剝離などのリスクを高める。口唇口蓋裂との関連も指摘されている。

POINT

・アルコールは胎盤を通過し、胎児性アルコール症候群(顔貌異常・発育障害・中枢神経障害)を起こす。妊娠中は禁酒。 ・ワルファリンは胎盤を通過し、胎児ワルファリン症候群(鼻の低形成、点状軟骨異形成)を起こす。妊娠中の抗凝固療法はヘパリンが原則。 ・カフェイン(緑茶・コーヒー)、ペニシリン系抗菌薬に明らかな催奇形性はない。 ・形態異常の起こりやすい絶対過敏期は妊娠4週〜7週末ごろ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。