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IgMは胎盤を越えられない―生まれたての赤ちゃんの「正常」を読み解く

第99回医師国家試験 D問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第61問

正常早期新生児で誤っているのはどれか。

  1. a.臍帯脱落は生後1週ころに起こる。
  2. b.動脈管の閉鎖は酸素分圧に影響される。
  3. c.血中IgM濃度は母体と同一である。
  4. d.胎児ヘモグロビン〈HbF〉が存在する。
  5. e.体温は環境温度に影響されやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、出生直後から生後1週間ほどの早期新生児にみられる正常な生理について、誤っている記述を選ぶ問題だ。臍帯、循環、免疫、ヘモグロビン、体温と、新生児生理の代表的なテーマが並んでいる。カギになるのは「母体から胎盤を通って児に移行するものは何か」という視点だよ。
医学生医学生
免疫グロブリンの記述が気になります。お母さんから抗体をもらうので、赤ちゃんの抗体は母体と同じくらいある、という理解で合っていますか。
ドクタードクター
半分正解で、半分は落とし穴だ。胎盤を通過できる免疫グロブリンはIgGだけなんだ。胎盤のFcRnという受容体を介して能動的に運ばれる。だから新生児のIgGは母体とほぼ同じ、時にはやや高いこともある。一方でIgMはどうかな。
医学生医学生
IgMは五量体で分子量が大きいので、胎盤を通れない……ということは、母体と同じ濃度にはならないですね。
ドクタードクター
その通り。IgMは児自身がわずかに作る分しかなく、成人に比べて著しく低い。だから「血中IgM濃度は母体と同一」という記述が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
免疫学の講義でIgGとIgMの構造は習いましたが、胎盤通過性と結びつけて覚えていませんでした。
ドクタードクター
ここから臨床に直結する話がある。臍帯血や生後早期のIgMが高値、目安としておおむね20 mg/dLを超えていたら何を考える?
医学生医学生
母体から来ないはずのIgMが高いなら、赤ちゃん自身が作った……つまり子宮内で抗原にさらされた、先天性感染でしょうか。
ドクタードクター
素晴らしい。TORCH症候群などの子宮内感染を示唆する所見になる。IgMは抗原刺激に対して最初に作られる抗体でもあるからね。では、ほかの選択肢が正しいことも確認しよう。動脈管の閉鎖と酸素分圧の関係はどうかな。
医学生医学生
循環生理で、胎児期は動脈管が開いていて、生まれると閉じると習いました。酸素が関係するのは知りませんでした。
ドクタードクター
胎児期の動脈管は、低い酸素分圧と胎盤由来のプロスタグランジン、主にPGE2によって開いた状態に保たれている。出生して肺呼吸が始まると酸素分圧が上がり、胎盤もなくなってプロスタグランジンが減るから、動脈管の平滑筋が収縮して閉じていく。通常は生後数十時間から数日で機能的に閉鎖するんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、動脈管依存性の心疾患の赤ちゃんにPGE1製剤を使っていたのはそのためなんですね。
ドクタードクター
その通り。逆に未熟児動脈管開存症では、インドメタシンやイブプロフェンといったシクロオキシゲナーゼ阻害薬で閉鎖を促す。低酸素が続く場合や早産児では閉鎖が遅れやすいことも合わせて覚えておこう。次はヘモグロビンだ。
医学生医学生
胎児ヘモグロビンは酸素親和性が高いので、胎盤で母体から酸素を受け取りやすいんでしたよね。出生時にも残っているんですか。
ドクタードクター
残っているどころか、出生時はヘモグロビンの約70〜80%がHbFなんだ。HbFはα2γ2で、2,3-BPGと結合しにくいため酸素親和性が高い。生後はγ鎖からβ鎖への切り替えが進み、生後6か月から1歳ころまでにHbA主体になる。
医学生医学生
臍帯が生後1週ころに取れるのも正しいですね。体温が環境に左右されやすいのも、新生児室で保温を徹底していたのでイメージできます。
ドクタードクター
そうだね。臍帯は乾燥してミイラ化し、多くは生後5〜7日前後で脱落する。もし3〜4週以上取れなければ、臍の感染や白血球接着不全症のような好中球機能異常を疑うきっかけになる。体温については、新生児は体重あたりの体表面積が大きく皮下脂肪が薄い。しかも熱産生はふるえではなく褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生に頼っているから、低体温にも高体温にもなりやすいんだ。
医学生医学生
分娩直後にすぐ体を拭いていたのは、羊水で濡れた皮膚からの蒸散を防ぐためですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識を押さえておこう。母体由来のIgGは生後徐々に減って、児自身の産生が追いつくまでの生後3〜6か月ころに最低になる。これを生理的低γグロブリン血症という。しかもIgGの移行は妊娠後期に急増するから、早産児ほどIgGが低く感染に弱い。またIgAは胎盤を通らないけれど、初乳に分泌型IgAとして豊富に含まれて腸管粘膜を守ってくれる。母乳育児の意義の一つだね。

まとめ

早期新生児の正常生理を理解するうえでは、胎盤を通じて母体から何が移行するかが重要です。免疫グロブリンのうち胎盤を通過するのはFcRnを介して運ばれるIgGのみで、五量体で大きなIgMは通過しないため、新生児のIgMは母体よりはるかに低く、IgM高値はTORCH症候群などの子宮内感染を示唆します。動脈管は出生後の酸素分圧上昇とプロスタグランジン低下で閉鎖し、出生時のヘモグロビンの大半はHbFで、臍帯は生後1週前後で脱落し、体温は体表面積の大きさや皮下脂肪の薄さから環境温度に左右されやすいというのが正常の姿です。さらに生理的低γグロブリン血症や早産児のIgG低値、初乳中の分泌型IgAなども関連知識として押さえておくと、新生児の感染症リスク評価や保温・授乳指導の理解につながります。

解答・解説

正解はcです

本問は、出生直後から生後1週間ほどの「早期新生児期」にみられる正常の生理を問う一般問題であり、誤っている記述を1つ選ぶ形式である。 選択肢はそれぞれ、臍帯の脱落時期、胎児循環から新生児循環への移行(動脈管の閉鎖)、免疫グロブリンの胎盤通過性、胎児ヘモグロビン、新生児の体温調節という、新生児生理の代表的なテーマに対応している。 判断の鍵は「胎盤を通って母体から児へ移行するものは何か」という点である。免疫グロブリンのうち胎盤を通過できるのはIgGだけで、IgMは五量体の大きな分子であり通過しない。そのため新生児のIgGは母体とほぼ同じ濃度になるが、IgMは児自身がつくる分しかなく非常に低い。IgGとIgMの性質を取り違えさせる記述が誤りとなる。ほかの4つは、いずれも正常新生児の生理として正しい内容である。

選択肢考察

  1. ×a.  臍帯脱落は生後1週ころに起こる。

    正しい記述である。出生後に結紮・切断された臍帯の残りは、血流が途絶えて乾燥・ミイラ化し、多くは生後5〜7日前後、おおむね1〜2週以内に自然に脱落する。脱落が著しく遅れる(目安として生後3〜4週以上)場合には、臍帯の感染のほか、白血球接着不全症などの好中球機能異常が隠れていることがあり、注意が必要である。

  2. ×b.  動脈管の閉鎖は酸素分圧に影響される。

    正しい記述である。胎児期の動脈管は、低い血中酸素分圧と胎盤由来のプロスタグランジン(主にPGE2)によって開いた状態に保たれている。出生後に肺呼吸が始まると動脈血酸素分圧が上昇し、同時に胎盤がなくなり肺でのプロスタグランジン分解が進むため、動脈管の平滑筋が収縮して閉鎖に向かう。通常は生後数十時間〜数日で機能的に閉鎖し、その後数週かけて器質的に閉鎖して動脈管索となる。逆に、低酸素状態が続く場合(呼吸障害など)やプロスタグランジン濃度が高い場合、早産児では閉鎖が遅れる。この性質を利用し、動脈管依存性の先天性心疾患ではPGE1製剤で開存を維持し、未熟児動脈管開存症ではシクロオキシゲナーゼ阻害薬(インドメタシン、イブプロフェン)で閉鎖を促す。

  3. ○c.  血中IgM濃度は母体と同一である。

    誤った記述であり、本問の正解である。IgMは分子量が約90万の五量体で、胎盤を通過しない。胎盤のFc受容体(FcRn)を介して能動的に輸送されるのはIgGのみである。したがって新生児のIgGは母体とほぼ同等(むしろやや高いこともある)であるのに対し、IgMは児自身がわずかに産生する分しかなく、成人に比べて著しく低値である。臍帯血や生後早期のIgMが高値(目安として20 mg/dL程度を超える)であれば、児が子宮内で抗原刺激を受け自ら抗体を産生したこと、すなわち先天性感染(TORCH症候群など)を示唆する所見となる。

  4. ×d.  胎児ヘモグロビン〈HbF〉が存在する。

    正しい記述である。胎児ヘモグロビン(HbF、α2γ2)は成人型ヘモグロビン(HbA、α2β2)よりも酸素親和性が高く(2,3-BPGと結合しにくいため)、低酸素の子宮内環境で胎盤から効率よく酸素を受け取るのに適している。出生時にはヘモグロビンの大半(約70〜80%)がHbFであり、生後はγ鎖からβ鎖への合成の切り替えが進んで、生後6か月〜1歳ころまでにHbAが主体となる。

  5. ×e.  体温は環境温度に影響されやすい。

    正しい記述である。新生児は体重あたりの体表面積が大きく、皮下脂肪が薄いため断熱性に乏しく、熱を失いやすい。熱産生はふるえ(シバリング)ではなく褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生に頼っており、その能力にも限りがある。このため環境温度の影響を受けやすく、低体温にも高体温にもなりやすい。出生体重が小さいほど、また在胎週数が短いほどこの傾向は強く、低出生体重児では保育器による保温が必要となる。

胎盤通過性と免疫グロブリン

・IgG:胎盤を通過する唯一の免疫グロブリンである。移行は妊娠後期に急増するため、早産児ほどIgGが低い。母体由来IgGは生後徐々に減少し、児自身の産生が追いつくまでの生後3〜6か月ころに血中IgGが最低となる(生理的低γグロブリン血症)。 ・IgM:胎盤を通過しない。新生児で高値なら子宮内感染を考える。抗原刺激に対して児が最初に産生する抗体でもある。 ・IgA:胎盤は通過しないが、母乳(特に初乳)に分泌型IgAとして多く含まれ、児の腸管粘膜を守る。

胎児循環から新生児循環への移行

・出生後、肺が拡張して肺血管抵抗が下がり、肺血流が増える。左房圧が上がって卵円孔が機能的に閉じる。 ・酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの低下により動脈管が収縮・閉鎖する。 ・臍帯結紮により臍静脈・静脈管への血流が途絶え、それぞれ肝円索・静脈管索となる。

新生児の体温調節

・熱の喪失経路:輻射、伝導、対流、蒸散。出生直後は羊水で濡れた皮膚からの蒸散による喪失が大きく、速やかに体を拭いて保温することが重要である。 ・熱産生は褐色脂肪組織(肩甲骨間、腎周囲など)による非ふるえ熱産生が中心である。

その他の正常新生児の特徴

・生理的体重減少:生後3〜5日ころに出生体重の5〜10%程度減少し、1〜2週で出生体重に戻る。 ・生理的黄疸:生後2〜3日ころに出現し、4〜5日ころにピークとなって、1〜2週で消退する。

POINT

・胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみ。新生児のIgGは母体と同程度、IgMは低値。 ・新生児のIgM高値は子宮内(先天性)感染を示唆する。 ・出生時のヘモグロビンの大部分はHbFで、生後6か月〜1歳ころまでにHbA主体に置き換わる。 ・動脈管は酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの低下で閉鎖する(PGE1で開存維持、COX阻害薬で閉鎖促進)。 ・臍帯は生後1週前後で脱落する。 ・新生児は体表面積が大きく皮下脂肪が薄いため、体温が環境温度に左右されやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。