「毎日量って」は逆効果―発達を心配する母親にかける言葉
第99回医師国家試験 C問題 第40問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,39と40の問いに答えよ。 1歳6か月の男児。全体的な成長発達の遅れを心配した母親に連れられて来院した。 現病歴:在胎34週,出生体重2,380g,経腟分娩で出生。頸定4か月,坐位8か月,ひとり歩き16か月であった。現在,「パパ,ママ」など2,3語が言える。母親の言うことは理解し,絵本の指差しはできる。1日に離乳食を3回と牛乳200mlとを摂取している。 既往歴:7か月時に突発性発疹に罹患した。他に特記すべきことはない。 現症:身長77.4cm,体重9,720g。大泉門は閉じている。胸部聴診で心雑音はなく,呼吸音に異常は認めない。腹部で右肋骨弓下に肝を2cm触知するが,脾は触知しない。生歯は12本。
診察後の母親への声かけとして適切でないのはどれか。
- a.何か聞き忘れたことはありませんか。
- b.次は6か月後に診せてください。
- c.よく抱っこしてあげてください。
- d.毎日体重を量ってください。
- e.心配しないで気をつけて帰ってください。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発育・発達が正常範囲の子どもを連れて不安を抱えて受診した保護者には、診察結果と基準を示して正常であることを具体的に説明し、安心させることが基本です。面接の最後に質問の機会を設けること、必要に応じて適切な時期の経過観察を示すこと、抱っこなどの自然な関わりを勧めることは、いずれも不安を和らげる適切な対応です。一方、1歳以降の体重増加は月100〜200g程度とわずかで、日々の測定値は生理的変動や体重計の誤差に埋もれるため、医学的必要のない毎日の体重測定はかえって不安を増大させます。幼児の成長は数か月単位で成長曲線を用いて評価するのが原則です。医学的に正しい判断を、相手の不安に配慮した言葉で伝える力は、小児診療に限らずあらゆる臨床現場で求められるコミュニケーションの基本です。
解答・解説
正解はdです
※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。
症例の評価のまとめ
1歳6か月の男児。在胎34週・出生体重2,380gの早産かつ低出生体重児で、母親は全体的な発育・発達の遅れを心配して受診している。 診察所見を年齢相当の基準と比べると、ひとり歩き16か月(1歳6か月までに獲得していれば正常範囲)、有意語2〜3語・言語理解・指差しあり(1歳6か月児として正常)、身長77.4cm・体重9,720g(平均の約80cm・約10〜11kgよりやや小柄だが正常範囲、カウプ指数約16.2で標準)であった。大泉門閉鎖、肝2cm触知、生歯12本も年齢相応である。さらに早産児であるため、出産予定日から数えた修正月齢(暦年齢より約1.5か月若い)で評価すれば、発育・発達はいずれも標準的といえる。つまり本児は「正常範囲の中でやや小柄・やや遅め」であり、病的な遅れはない。
設問の考え方
問われているのは、この診察結果を踏まえて、不安を抱えて来院した母親にどのような言葉をかけるのが適切かである。母親は「早く小さく産んでしまった」という自責の念を抱いていることも多く、育児不安が強いと子どもとの関わりにも影響しうる。医師の役割は、①正常であることを根拠をもって説明して安心させる、②疑問を残さないよう質問の機会を設ける、③必要に応じて適切な時期のフォローアップを示す、④親子の関わりを前向きに後押しする、ことである。 反対に、医学的に不要で、かえって母親の注意を細かな数値の変動に向けさせ、不安を強めるような指示は不適切である。この観点で各選択肢を検討すると、「毎日体重を量ってください」が適切でない声かけとなる。
採点上の扱い
本問は、問題としては適切であるが必修問題として出題するのは妥当でない、との理由で採点対象から除外された。医療面接・患者(家族)対応のコミュニケーションを問う内容が、必修問題の出題範囲・出題意図にそぐわないと判断されたものと考えられる。問題自体の正解(適切でない声かけ)は d である。
選択肢考察
- ×a. 何か聞き忘れたことはありませんか。
診察や説明の最後に、相手が質問しそびれたことや言い出せなかった不安がないかを確認するのは、医療面接の基本的な締めくくり方である。緊張している母親は、帰宅後に「あれも聞けばよかった」と思うことが多く、この一言で疑問を解消し、納得して帰ってもらうことができる。適切な声かけである。
- ×b. 次は6か月後に診せてください。
現時点では正常範囲であるが、早産・低出生体重で生まれ、体格も発達も正常域の中ではやや小さめ・遅めであるため、一定期間後に成長曲線と発達の推移を確認しておく意義はある。6か月後はちょうど2歳の時点にあたり、二語文の出現など次の発達段階を確認するのにも適した時期である。定期的な経過観察の予定を示すことは母親の安心にもつながり、適切である。
- ×c. よく抱っこしてあげてください。
スキンシップは子どもの情緒の安定や親子の愛着形成に重要である。また、育児不安が強い母親は子どもの発達の「遅れ」にばかり目が向き、ゆとりをもって接することが難しくなりがちである。抱っこなどの自然な関わりを勧めることは、母親の気持ちを子どもとの関係に向け直し、不安を和らげる働きもあり、適切な声かけである。
- ○d. 毎日体重を量ってください。
本児の体重は正常範囲内であり、毎日体重を測定する医学的な必要性はない。1歳6か月児の体重増加は1か月あたり100〜200g程度とわずかで、日々の変化は食事・排泄・衣服による変動や家庭用体重計の誤差(多くは50〜100g、乳児用でない体重計ではそれ以上)に埋もれてしまう。毎日量っても「増えていない」「減った」という誤った印象を与えやすく、母親の不安をかえって強めることになる。成長の評価は、数か月単位で身長・体重を成長曲線にプロットして行うのが適切である。したがってこの声かけは適切でない。
- ×e. 心配しないで気をつけて帰ってください。
十分に診察したうえで発育・発達が正常範囲であることを説明し、「心配はいらない」と伝えて安心させることは、不安を抱えて受診した母親に対する医師の重要な役割である。根拠の説明とあわせて用いれば、適切な声かけである。
育児不安への対応
早産・低出生体重で出生した子どもの母親は、「自分のせいで早く小さく生まれた」という罪責感や、発育・発達への不安を抱きやすい。こうした不安が強いと、子どもへの関わりがぎこちなくなったり、他児との比較にとらわれたりする。医師は次の点を意識して対応する。 ・診察結果と基準を示し、正常範囲であることを具体的に説明する。 ・早産児では修正月齢で評価すること、それに基づけば標準的であることを伝える。 ・質問の機会を設け、不安を言葉にしてもらう。 ・必要な場合は適切な間隔での経過観察を約束する(過度に頻回な受診や測定は求めない)。 ・母親のこれまでの育児を肯定し、親子の自然な関わりを勧める。
乳幼児の体重増加の目安
・生後0〜3か月: 1日あたり約25〜30g ・3〜6か月: 1日あたり約15〜20g ・6〜12か月: 1日あたり約10g前後 ・1歳以降: 1か月あたり100〜200g程度(1年で約2kg) 1歳を過ぎると増加速度は大きく低下するため、日単位の測定は評価に適さない。数か月ごとに成長曲線上で推移を確認するのが原則である。
乳幼児健康診査
母子保健法に基づき、1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査は市町村に実施義務がある。そのほか乳児期にも複数回の健診が行われる。本児の場合、6か月後(2歳)での再評価は、二語文の出現や体格の推移を確認する意味で妥当である。
POINT
・発育・発達が正常範囲の児の母親には、根拠を示して「心配ない」と伝え、安心させることが基本。 ・医学的に不要な頻回の測定(毎日の体重測定など)は、誤差や生理的変動によってかえって不安を増大させるため勧めない。 ・幼児の成長評価は数か月単位で成長曲線を用いて行う。 ・面接の締めくくりに質問の機会を設け、必要に応じて適切な時期の経過観察を示す。 ・本問は必修問題としては妥当でないとして採点対象から除外された。
