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消える反射、現れる反射―10か月児に残るのは「身を守る手」パラシュート反射

第120回医師国家試験 B問題 第21問

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第120回 B問題 第21問

10か月の健常な乳児に認める反射はどれか。

  1. a.物が手掌に触れると強く握る。
  2. b.仰臥位で頭を右側に回転すると同側の上下肢が伸展する。
  3. c.仰臥位で頭に手を添え落下させると上肢が外転・伸展する。
  4. d.両脇を支えて床に足をつけると歩行するような動きをする。
  5. e.懸垂位で頭を急に床に投げ出すように向けると両手を伸ばす。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳児の反射を月齢で整理する問題だ。ポイントは、反射を「原始反射」と「姿勢反射」の2グループに分けて考えること。前者は生まれつきあって消えていくもの、後者は成長とともに新しく現れるもの。10か月という月齢で、どちらが見られるはずかを考えよう。
医学生医学生
原始反射は脳幹や脊髄レベルの反射で、大脳が成熟すると抑えられて消えるんでしたよね。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。上位中枢が育ってくると、脳幹・脊髄レベルの反射回路にブレーキがかかって表に出なくなる。多くは生後2〜6か月ごろに消失するのが目安だ。では、物が手のひらに触れると強く握る反射はどうかな。
医学生医学生
手掌把握反射ですね。新生児に指を握らせるとぎゅっと握ってくれるので、10か月でも何かを握るのは普通な気がしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところ。10か月児が物をつかむのは、自分の意思で手を伸ばしてつかむ随意的な把握であって、反射ではない。手掌把握反射は生後3〜4か月ごろから弱まり、遅くとも6か月ごろまでに消えて、入れ替わるように随意的な把握が育ってくるんだ。
医学生医学生
なるほど、反射が消えるからこそ、意図して握ったり放したりできるようになるんですね。
ドクタードクター
いい理解だね。ちなみに足の裏を触ると足指が曲がる足底把握反射は消失が遅く、9〜10か月以降まで残ることがある。手と足を混同しないようにしよう。次に、頭を一方に向けると同じ側の手足が伸びる反射は?
医学生医学生
非対称性緊張性頸反射、いわゆるフェンシングの構えです。小児科の実習で新生児室に行ったときに見せてもらいました。
ドクタードクター
よく見ているね。顔を向けた側の上下肢が伸び、後頭側が曲がる。生後4〜6か月ごろに消失し、これが抑制されることで正中で両手を合わせたり寝返りをしたりできるようになる。10か月で明らかに残っていれば、脳性麻痺などを疑うサインだ。頭を落下させると腕を広げる反射はどうだろう。
医学生医学生
Moro反射ですね。腕を外転・伸展して手を開き、そのあと抱きつくように腕を閉じる2段階の動きだったと思います。
ドクタードクター
正確だね。首のすわりが完成する4か月ごろから消え始め、6か月ごろまでには見られなくなる。新生児期に左右差があれば、分娩麻痺による腕神経叢麻痺や鎖骨骨折を考える手がかりにもなるよ。両脇を支えて足を床につけると歩くように動く反射は?
医学生医学生
自動歩行です。でも10か月だとつかまり立ちや伝い歩きをし始める頃なので、足を踏み出す動きは見られそうです。
ドクタードクター
そこも反射と随意運動の区別が大事。自動歩行は生後1〜2か月ごろには消えてしまう原始反射で、10か月児の伝い歩きは新たに獲得した随意運動だ。見た目が似ていても中身はまったく別物なんだ。
医学生医学生
ということは、懸垂位で頭から床に向けると両手を伸ばす反応が、10か月で見られる反射ですね。パラシュート反射でしょうか。
ドクタードクター
正解。パラシュート反射は保護伸展反応とも呼ばれる姿勢反射で、腹臥位のまま空中に支えた児を頭から急に床へ向けると、両腕を前に伸ばして手を開き、体を支えようとする。転倒から頭を守る防御反応で、生後7〜9か月ごろに出現し、その後は生涯持続する。ひとり座りやつかまり立ちの時期とちょうど重なるんだ。
医学生医学生
転びやすくなる時期に、ちゃんと身を守る仕組みが備わってくるわけですね。消える反射と現れる反射を時期でセットにして覚えます。
ドクタードクター
それが一番の近道だね。臨床での注意点もまとめておこう。乳幼児健診では、月齢に見合った反射があるかと左右差の有無を確認する。原始反射がいつまでも残る、パラシュート反射の出現が遅れる、あるいは左右差がある場合は、脳性麻痺などの中枢神経障害や片麻痺を疑って精査につなげる。
医学生医学生
粗大運動のマイルストーンと一緒に見ると、発達の評価がしやすそうです。定頸が3〜4か月、ひとり座りが7か月ごろ、つかまり立ちが9〜10か月ごろでしたよね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも、腹臥位で水平に支えると頭と体幹を反らすLandau反射や、座位で横に倒すと手をつく側方の保護伸展反応なども姿勢反射の仲間だ。反射の時期は成書によって多少の幅があるから、細かい数字にこだわりすぎず「いつごろ消えて、いつごろ現れるか」の流れで押さえておこう。

まとめ

乳児の反射は、出生時から存在し上位中枢の成熟とともに消失する原始反射と、成長とともに出現して運動発達を支える姿勢反射に分けて整理すると理解しやすくなります。手掌把握反射、非対称性緊張性頸反射、Moro反射、自動歩行はいずれも原始反射で、10か月の健常児ではすでに消失しています。一方、パラシュート反射は生後7〜9か月ごろに出現して生涯持続する保護伸展反応であり、10か月児で認められるのが正常です。原始反射の残存や左右差、姿勢反射の出現遅延は脳性麻痺などの中枢神経障害を疑う手がかりとなるため、粗大運動の発達とあわせて評価することが乳幼児健診の基本になります。

解答・解説

正解はeです

乳児の反射は大きく「原始反射」と「姿勢反射(立ち直り反射・保護伸展反応など)」に分けて考えると整理しやすい。 原始反射は、脳幹・脊髄レベルの反射回路で起こる反射で、出生時から認められる。大脳皮質をはじめとする上位中枢が成熟してくると、これらの反射は抑制されて見られなくなる(「消失」する)。消失時期はおおむね生後2〜6か月であり、時期を過ぎても残存する場合や、逆に新生児期に欠如・左右差がある場合は、脳性麻痺などの中枢神経障害や末梢神経障害を疑う手がかりとなる。 一方、姿勢反射(姿勢反応)は中枢神経の成熟とともに生後しばらくしてから出現し、寝返り・座位・立位・歩行といった粗大運動の獲得を支える。多くは一度出現すると生涯にわたって持続する。 本問は10か月の健常児に「認める」反射を問うている。10か月の時点では、新生児期の原始反射(手掌把握反射、非対称性緊張性頸反射、Moro反射、自動歩行)はすでに消失しているのが正常であり、生後7〜9か月ごろに出現する保護伸展反応であるパラシュート反射が認められるはずである。したがって、各選択肢の記述がどの反射を指すかを同定し、その出現・消失時期と照らし合わせれば正解が導ける。

選択肢考察

  1. ×a.  物が手掌に触れると強く握る。

    手掌把握反射の記述である。出生時から認められる原始反射で、生後3〜4か月ごろから弱まり、遅くとも6か月ごろまでには消失する。消失と入れ替わるように、自分の意思で物に手を伸ばしてつかむ随意的な把握が発達する。10か月の健常児では手掌把握反射は認めない。なお、足底に触れると足指が屈曲する足底把握反射は消失が遅く、つかまり立ち・歩行の準備が整う生後9〜10か月以降まで残ることがあるので、手掌と足底を区別して覚えておく。

  2. ×b.  仰臥位で頭を右側に回転すると同側の上下肢が伸展する。

    非対称性緊張性頸反射(asymmetrical tonic neck reflex:ATNR)の記述である。顔を向けた側の上下肢が伸展し、反対側(後頭側)の上下肢が屈曲する、いわゆる「フェンシングの構え」をとる。原始反射の一つで、生後4〜6か月ごろに消失する。この反射が抑制されることで、正中で両手を合わせる動作や寝返りが可能になる。10か月で明らかに残存していれば異常であり、脳性麻痺などを疑う。

  3. ×c.  仰臥位で頭に手を添え落下させると上肢が外転・伸展する。

    Moro反射の記述である。仰臥位で後頭部を支えて少し持ち上げ、急に支えを下げて頭部を落下させると、両上肢を外転・伸展させて手指を開き(第1相)、続いて上肢を内転・屈曲して抱きつくような動きをする(第2相)。原始反射で、定頸(首のすわり)が完成する生後4か月ごろから消失し始め、6か月ごろまでには見られなくなる。10か月の健常児では認めない。新生児期の左右差は分娩麻痺(腕神経叢麻痺)や鎖骨骨折の手がかりとなる。

  4. ×d.  両脇を支えて床に足をつけると歩行するような動きをする。

    自動歩行(歩行反射)の記述である。新生児の両脇を支えて体幹をやや前傾させ、足底を床につけると、交互に下肢を出して歩くような動きをする。原始反射の一つで、生後1〜2か月ごろに消失する。10か月の児がつかまり立ちや伝い歩きで足を踏み出すのは、随意運動として獲得された動作であり、この反射とは別物である。

  5. ○e.  懸垂位で頭を急に床に投げ出すように向けると両手を伸ばす。

    パラシュート反射(保護伸展反応)の記述である。児の体幹を両手で支えて腹臥位の姿勢で空中に保持し(懸垂位)、頭部を下にして急に床へ向けて降ろすと、両上肢を前方に伸ばし手指を開いて体を支えようとする。転倒時に頭部を守るための防御反応で、生後7〜9か月ごろに出現し、その後は生涯にわたって持続する。座位の安定やつかまり立ちの時期に一致して出現するため、10か月の健常児では認められるのが正常である。出現が遅れる場合や左右差がある場合は、発達の遅れや片麻痺を疑う。

主な原始反射と消失時期(おおよその目安)

・吸啜反射・探索反射(口唇周囲への刺激で顔を向け吸い付く):生後4〜6か月ごろ消失 ・手掌把握反射:生後3〜4か月ごろから消失(遅くとも6か月ごろまで) ・足底把握反射:生後9〜10か月以降に消失(原始反射の中で消失が最も遅い部類) ・Moro反射:生後4〜6か月ごろ消失 ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):生後4〜6か月ごろ消失 ・自動歩行・陽性支持反応:生後1〜2か月ごろ消失 ・Galant反射(背部脊柱傍の皮膚をこすると体幹が同側に弯曲):生後4か月前後で消失

主な姿勢反射(出現後は持続)

・Landau反射:腹臥位で水平に支えると頭部を挙上し体幹・下肢を伸展する。生後4〜6か月ごろ出現し、1歳以降は目立たなくなる。 ・パラシュート反射(前方):生後7〜9か月ごろ出現し、生涯持続する。 ・座位での側方保護伸展反応(横に倒されると手をつく):生後6〜7か月ごろ出現、後方は9〜10か月ごろ。 ・立ち直り反射(頸・体の立ち直りなど):生後数か月から順に出現。

10か月児の粗大運動の目安

定頸(3〜4か月)→寝返り(5〜6か月)→ひとり座り(7か月ごろ)→はいはい(8〜9か月)→つかまり立ち(9〜10か月)→伝い歩き(10〜11か月)→ひとり歩き(1歳〜1歳3か月ごろ)

臨床的意義

原始反射の消失遅延や、姿勢反射の出現遅延は、脳性麻痺などの中枢神経障害を示唆する。乳幼児健診では、月齢に見合った反射の有無と左右差を確認する。

POINT

・原始反射(手掌把握、Moro、ATNR、自動歩行など)は出生時からあり、多くは生後2〜6か月で消失する。 ・パラシュート反射は生後7〜9か月ごろに出現し、生涯持続する。10か月児で認めるのはこれ。 ・足底把握反射は消失が遅く、9〜10か月ごろまで残りうる(手掌把握反射と区別する)。 ・原始反射の残存や左右差、姿勢反射の出現遅延は中枢神経障害を疑う手がかりとなる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。