少量で伸ばし、大量で止める―エストロゲンが描く女子思春期の設計図
第119回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
女子の思春期で正しいのはどれか。
- a.初経は排卵性の月経である。
- b.思春期まで卵胞数は増加する。
- c.初経前にゴナドトロピンは低下する。
- d.大量のエストロゲンは骨端線を閉鎖させる。
- e.二次性徴は陰毛発育,乳房発育,初経の順に進む。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
女子の思春期は、視床下部のGnRHパルス分泌の増加によりゴナドトロピンが上昇し、卵巣からのエストロゲン分泌が高まることで始まります。二次性徴は乳房発育→陰毛発生→身長急伸のピーク→初経の順に進み、初経はLHサージの仕組みが未熟なため無排卵性であることが多く、排卵性周期の確立には数年を要します。卵胞数は胎生期が最大で、その後は減少の一途をたどります。エストロゲンは少量では成長スパートを促し、大量では骨端線を閉鎖させて身長の伸びを止めるため、思春期早発症では最終身長が低くなりやすい点も重要です。思春期の正常な流れを理解しておくことは、思春期早発症・遅発症や月経異常を評価するうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
女子の思春期に起こる内分泌変化と身体変化の基本を問う問題である。視床下部-下垂体-卵巣系(HPO系)の活性化、卵胞数の推移、初経の性質、二次性徴の出現順序、エストロゲンの骨への作用を整理しておけば解ける。
思春期の内分泌の流れ
小児期には視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑えられているが、思春期になるとその抑制が外れてGnRHのパルス状分泌が増える。これを受けて下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)(両者をまとめてゴナドトロピンという)の分泌が増加し、卵巣で卵胞が発育してエストロゲンが産生されるようになる。 エストロゲンの増加により乳房が発育し、子宮内膜が増殖して、やがて初経に至る。ただし排卵を起こすにはエストロゲン上昇に反応してLHが大量に放出される仕組み(正のフィードバックによるLHサージ)が成熟する必要があり、これは初経より遅れて完成する。
エストロゲンと身長
エストロゲンは思春期前半には成長ホルモンの分泌を高めるなどして身長の伸びを加速させる(思春期成長スパート)。一方で、エストロゲンは成長軟骨板(骨端線)の軟骨細胞の成熟を進めるため、濃度が高まるにつれて骨端線が閉鎖し、最終的に身長の伸びが止まる。この「少量で伸ばし、多量で止める」という二面性が本問の正解につながる。
選択肢考察
- ×a. 初経は排卵性の月経である。
誤りである。初経の時点では、エストロゲン上昇に応じてLHサージを起こす正のフィードバック機構が未熟なため、排卵を伴わない無排卵性周期であることが多い。エストロゲンの作用で増殖した子宮内膜が、エストロゲンの変動に伴って剥がれ落ちる消退出血として初経が起こる。初経後しばらくは周期が不規則で、排卵性周期が安定して確立するまでには数年(おおむね2〜3年程度)を要する。
- ×b. 思春期まで卵胞数は増加する。
誤りである。卵子の元となる原始卵胞は胎児期にのみ作られ、胎生20週ごろに約600万〜700万個で最大となる。その後は閉鎖(退縮)によって減り続け、出生時には約100万〜200万個、思春期(初経のころ)には約30万個前後にまで減少する。出生後に新たに卵胞が作られることはなく、生涯を通じて増加することはない。性成熟期には1回の排卵のたびに多数の卵胞が発育を始めて大部分が閉鎖に陥るため、卵胞数は加齢とともにさらに減少し、ほぼ枯渇すると閉経を迎える。
- ×c. 初経前にゴナドトロピンは低下する。
誤りである。思春期にはGnRHのパルス状分泌が活発になり、ゴナドトロピン(FSH・LH)の分泌は上昇する。まず夜間睡眠中のLH分泌増加として始まり、次第に日中にも広がる。このゴナドトロピン上昇が卵巣を刺激してエストロゲンを増やし、乳房発育や初経をもたらす。初経前にゴナドトロピンが低いままであれば、中枢性(低ゴナドトロピン性)性腺機能低下症による思春期遅発を考える状態である。
- ○d. 大量のエストロゲンは骨端線を閉鎖させる。
正しい。エストロゲンは骨端線の成長軟骨細胞の分化・成熟を促し、高濃度になると骨端線を閉鎖させて長管骨の長軸方向への成長を止める。思春期前半のエストロゲン増加は成長スパートを生むが、その後エストロゲンが十分に高まると骨端線が閉じ、身長の伸びは停止する。女子が男子より早く成長を終えるのは、思春期の開始が早く、エストロゲンの作用を早期から受けるためである。骨端線閉鎖にエストロゲンが必須であることは、男性でもエストロゲン受容体異常やアロマターゼ(男性ホルモンをエストロゲンに変える酵素)欠損があると骨端線が閉鎖せず高身長が続くことから確かめられている。思春期早発症で低身長に終わりやすいのも、早期のエストロゲン曝露で骨端線が早く閉じるためである。
- ×e. 二次性徴は陰毛発育,乳房発育,初経の順に進む。
誤りである。女子の二次性徴は通常、乳房発育(乳房腫大、thelarche)→陰毛発生(pubarche)→初経(menarche)の順に進む。乳房発育が卵巣由来のエストロゲンの作用で最初に現れるのに対し、陰毛は主に副腎由来のアンドロゲンの作用で少し遅れて出現する。最大身長増加速度は乳房発育の開始後、初経より前に迎え、初経は二次性徴の中でも後半の出来事である。なお男子では精巣容量の増大→陰毛発生→声変わりなどの順に進む。
女子思春期の標準的な流れ(日本人のおおよその目安)
1. 乳房発育の開始(およそ10歳前後):思春期の最初の徴候。 2. 陰毛の発生:乳房発育に続いて出現する。 3. 身長の急伸(思春期成長スパート):女子では11歳前後に最大身長増加速度を迎える。 4. 初経(平均およそ12歳):最大身長増加速度を過ぎた後に起こり、初経後の身長の伸びは数cm程度にとどまることが多い。 5. 骨端線閉鎖により身長の伸びが停止する。 二次性徴の進み具合はTanner分類(乳房・陰毛をそれぞれ1〜5段階に分ける)で評価する。
卵胞数の推移
胎生20週ごろ約600万〜700万個(最大)→出生時約100万〜200万個→思春期約30万個前後→閉経期にはほぼ枯渇。一生の間に実際に排卵されるのは約400〜500個にすぎず、大部分は閉鎖卵胞となって消失する。
思春期の異常との関連
・思春期早発症:二次性徴が通常より著しく早く出現する状態。日本の基準では、女子で7歳6か月未満の乳房発育、8歳未満の陰毛発生、10歳6か月未満の初経などが目安とされる。早期のエストロゲン作用で一時的に背が高くなるが、骨端線が早く閉じて最終身長は低くなりやすい。 ・思春期遅発症:乳房発育などが通常の時期を大きく過ぎても出現しない状態。ゴナドトロピンが低い中枢性(Kallmann症候群など)と、高い原発性卵巣性(Turner症候群など)に分けて考える。
エストロゲンの骨への作用
・思春期:成長スパートを起こし、高濃度では骨端線を閉鎖させる。 ・成人女性:骨吸収を抑えて骨量を保つ。閉経後のエストロゲン低下は骨粗鬆症の主要な原因となる。
POINT
・思春期にはGnRH分泌が増え、FSH・LHが上昇してエストロゲンが増加する。 ・初経は多くが無排卵性で、排卵性周期の確立には数年かかる。 ・卵胞数は胎生期(約600万〜700万個)が最大で、その後は減る一方である。 ・女子の二次性徴は乳房発育→陰毛→(身長急伸のピーク)→初経の順。 ・エストロゲンは少量で成長を促進し、大量では骨端線を閉鎖させて身長の伸びを止める。
