StudyMed医師国家試験

元気に生まれたのに、なぜ肺が?―子宮内の炎症が赤ちゃんに残す爪あと

第99回医師国家試験 A問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第99回 A問題 第56問

28歳の初妊婦。妊娠35週に発熱と下腹部痛とを訴えて来院した。2日前に多量の水様性帯下を認めたが放置していた。意識は清明。身長158cm,体重58kg。体温38.5℃。呼吸数32/分。脈拍100/分,整。血圧130/80mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。子宮に圧痛を認める。内診所見:子宮口閉鎖,展退度50%,子宮口から膿性分泌液の流出を認める。血液所見:赤血球400万,Hb 11.3g/dL,白血球18,000。CRP 5.5mg/dL。超音波検査所見:頭位で羊水腔をほとんど認めない。胎児心拍数陣痛図所見:心拍数基線180bpm,一過性頻脈なし,一過性徐脈なし,基線細変動10bpm。帝王切開術を施行した。出生体重2,400g,Apgarスコア8点(1分),9点(5分)。 この児に最も起こりやすいのはどれか。

  1. a.胎便吸引症候群
  2. b.呼吸窮迫症候群
  3. c.新生児慢性肺疾患
  4. d.新生児溶血性疾患
  5. e.頭蓋内出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠後期の母体に起きたトラブルから、生まれた赤ちゃんに何が起こりやすいかを予測する問題だ。ポイントは2つ。母体側で何が起きていたのかを見抜くこと、そしてそれが児の在胎週数と組み合わさって、どんな新生児疾患につながるかを考えることだ。まず、数日前の多量の水様性帯下と、超音波で羊水腔がほとんどないことをどう読む?
医学生医学生
水様性帯下は羊水が漏れていたということで、陣痛前に破水した前期破水ですね。37週未満なのでpreterm PROMでしょうか。
ドクタードクター
その通り。破水したまま放置すると、腟の細菌が子宮内へ上がっていく。そのうえで、母体の発熱、頻脈、子宮の圧痛、子宮口からの膿性分泌液、白血球とCRPの上昇がそろっている。これは何を示しているかな。
医学生医学生
産婦人科の実習で習った絨毛膜羊膜炎ですね。胎児心拍の基線が180bpmなのも気になります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。正常の基線は110〜160bpmだから、これは胎児頻脈だ。母体の発熱や子宮内感染に反応して、胎児自身も炎症を起こしているサインと考えられる。一方で基線細変動は保たれ、一過性徐脈もないから、強い低酸素状態にはまだ陥っていない。だから分娩を急いで帝王切開となり、Apgarスコアも良好だったわけだ。
医学生医学生
出生時は元気なのに、この子に何が起こりやすいかを問われているんですね。35週で早産だから、まず呼吸窮迫症候群を考えてしまいました。
ドクタードクター
自然な発想だけれど、ここが落とし穴だ。呼吸窮迫症候群は肺サーファクタントの不足で肺胞が虚脱する病気で、主に34週未満の早産児の問題になる。サーファクタントは34週前後までにおおむね十分に作られるようになるから、35週では頻度が下がる。しかも前期破水や子宮内感染は胎児にとってストレスで、内因性ステロイドの増加などを介してむしろ肺成熟を促す方向に働くとされているんだ。
医学生医学生
感染があると肺が早く大人になる、というのは意外です。では正解はどれになるんですか。
ドクタードクター
答えは新生児慢性肺疾患だ。胎児が子宮内で炎症にさらされると、胎児炎症反応症候群、いわゆるFIRSが起こる。炎症性サイトカインは発達途中の肺の構造づくりを障害し、生後しばらくしてから酸素が手放せない慢性の肺障害を招く。この子宮内炎症を背景にした慢性肺疾患の代表がWilson-Mikity症候群だ。
医学生医学生
慢性肺疾患というと、人工呼吸を長く受けた超早産児の気管支肺異形成症のイメージしかありませんでした。
ドクタードクター
どちらも新生児慢性肺疾患に含まれる。定義は、先天奇形を除く肺の異常で生後28日を超えて酸素投与が必要な状態だ。気管支肺異形成症は呼吸窮迫症候群に対する人工換気や高濃度酸素による肺損傷が主因。それに対してWilson-Mikity症候群は、生まれた直後の呼吸障害は軽いかほとんどなく、生後1〜2週ごろから多呼吸や陥没呼吸、酸素需要がじわじわ出てくる。胸部X線では小さな嚢胞状の透亮像、いわゆるbubbly appearanceが特徴だ。
医学生医学生
Apgarが良いのに後から悪くなるというのは、今回の経過にぴったり合いますね。胎便吸引症候群はどうでしょう。
ドクタードクター
胎便吸引症候群は、低酸素ストレスで胎便を出した胎児が、胎便で汚れた羊水を吸い込んで起こる。腸の蠕動や排便反射が成熟する正期産、とくに過期産の児に多く、35週の早産児では胎便の排出自体が少ない。羊水混濁の記載もなく、心拍パターンも低酸素を示していないから考えにくい。
医学生医学生
頭蓋内出血は早産児の合併症として講義でよく出てきましたが。
ドクタードクター
新生児の頭蓋内出血で多いのは、脳室上衣下胚層からの脳室内出血で、脆弱な血管が残る32週未満・1,500g未満の児に多い。子宮内炎症は極低出生体重児では脳室内出血や脳室周囲白質軟化症のリスクになりうるけれど、35週・2,400gで、帝王切開で穏やかに娩出された今回の児では最も起こりやすいとはいえない。新生児溶血性疾患は血液型不適合で母体のIgG抗体が胎児赤血球を壊す病気だから、感染という今回の病歴とは結びつかないね。
医学生医学生
週数でRDSや頭蓋内出血、胎便吸引症候群の起こりやすさを整理して、そこに子宮内感染という背景を重ねると慢性肺疾患が浮かぶ、という流れですね。
ドクタードクター
そういうこと。正直に言うと、35週の児で慢性肺疾患が頻繁に起こるわけではない。ただ、選択肢の中で子宮内感染という背景と最も結びつくのはこれだ、という理解でいい。臨床的には、絨毛膜羊膜炎の母体から生まれた児は、出生時に元気でも新生児敗血症や先天性肺炎に注意し、呼吸状態を週単位で追っていくことが大切だ。臍帯炎や臍帯血IgMの上昇は子宮内感染があった手がかりになる。
医学生医学生
NICUの実習で、胎盤の病理結果を新生児科の先生が気にしていた理由がやっとわかりました。
ドクタードクター
胎盤や臍帯は、子宮内で何が起きていたかを語る大事な証拠だからね。それと、妊娠中期から長く破水が続いて羊水過少が長引いた場合は、肺低形成や四肢の拘縮を伴うこともある。破水の時期と期間も、児の肺を考えるうえで欠かせない情報だよ。

まとめ

妊娠後期の水様性帯下と羊水過少は前期破水を示し、母体発熱、子宮圧痛、膿性分泌物、炎症反応上昇、胎児頻脈がそろえば絨毛膜羊膜炎と判断できます。子宮内感染にさらされた胎児では胎児炎症反応症候群(FIRS)が起こり、炎症性サイトカインが肺の発達を障害して、生後しばらくしてから酸素需要が続く新生児慢性肺疾患、とくにWilson-Mikity症候群を生じることがあります。新生児慢性肺疾患は生後28日を超えて酸素投与を要する状態と定義され、RDS後の人工換気などによる気管支肺異形成症とは成因が異なります。呼吸窮迫症候群は34週未満、脳室内出血は32週未満の未熟児、胎便吸引症候群は正期産〜過期産児に多いという週数の目安を押さえたうえで、母体の感染という背景を重ねて考えることが重要です。出生時に元気でも子宮内の出来事が児の予後に影響しうるという視点は、周産期医療で母と子を一体として診る基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・妊娠35週の初妊婦。2日前に多量の水様性帯下があり、そのまま放置していた。 ・超音波検査で羊水腔をほとんど認めない → 水様性帯下は羊水の流出であり、陣痛発来前に卵膜が破れる前期破水(PROM:premature rupture of the membranes)が起きていたと考えられる。37週未満の破水なので preterm PROM(pPROM)にあたる。 ・母体の発熱38.5℃、頻脈(100/分)、子宮圧痛、子宮口からの膿性分泌液、白血球18,000/μL、CRP 5.5mg/dL → 子宮内の感染と炎症を示す。 ・胎児心拍数陣痛図(CTG)で基線180bpm → 胎児頻脈(正常基線は110〜160bpm)。母体発熱と子宮内感染に伴って胎児も炎症反応を起こしている所見である。基線細変動は10bpmと保たれ、一過性徐脈もないため、この時点で高度の低酸素状態には至っていない。

診断

破水後に上行性感染が起こった臨床的絨毛膜羊膜炎(CAM:chorioamnionitis)である。子宮内感染が進んでいるため、分娩を急ぐ目的で帝王切開が行われた。児は妊娠35週、出生体重2,400gの後期早産児・低出生体重児(2,500g未満)で、Apgarスコアは8点(1分)・9点(5分)と出生時の状態は良好である。

設問の考え方

問われているのは、子宮内感染にさらされた後期早産児に起こりやすい合併症である。胎児が子宮内で炎症に曝露されると、胎児全身の炎症反応(FIRS:fetal inflammatory response syndrome)が生じる。炎症性サイトカインは肺の構造形成を障害し、生後しばらくして酸素需要が続く慢性の肺障害を招く。こうした子宮内炎症を背景とする慢性肺疾患の代表が Wilson-Mikity 症候群であり、新生児慢性肺疾患(CLD)の一型として扱われる。したがって「胎内感染に続発する新生児の肺障害」として新生児慢性肺疾患を選ぶ。 一方、在胎週数(35週)と出生時の状態からは、未熟性そのものによる疾患(呼吸窮迫症候群、頭蓋内出血)や、過期産に多い胎便吸引症候群、血液型不適合による溶血性疾患は、本症例の病歴と結びつけにくい。

選択肢考察

  1. ×a.  胎便吸引症候群

    胎便吸引症候群(MAS:meconium aspiration syndrome)は、子宮内で低酸素ストレスを受けた胎児が胎便を排出し、胎便で汚染された羊水を出生前後に気道へ吸い込むことで起こる。胎児の腸管の蠕動と排便反射が成熟するのは妊娠後期であり、正期産児、とくに42週以降の過期産児に多い。35週の早産児では胎便排出自体が少なく、本症例でも羊水の混濁(胎便の混入)は記載されていない。またCTGでは細変動が保たれ一過性徐脈もなく、強い胎児低酸素を示す所見に乏しい。

  2. ×b.  呼吸窮迫症候群

    呼吸窮迫症候群(RDS:respiratory distress syndrome)は、肺サーファクタント(肺胞の表面張力を下げて虚脱を防ぐ物質)の不足により肺胞が膨らまなくなる疾患で、在胎週数が短いほど多く、主に34週未満の早産児が対象となる。サーファクタントの産生は34週前後までにおおむね十分となるため、35週の本児では頻度が低い。加えて、pPROMや子宮内感染は胎児にストレスを与え、内因性ステロイドの増加などを介して肺成熟をむしろ促進する方向に働くことが知られている。

  3. ○c.  新生児慢性肺疾患

    新生児慢性肺疾患(CLD:chronic lung disease)は、先天奇形を除く肺の異常により、生後28日を超えて酸素投与を必要とする呼吸障害が続く状態の総称である。代表的なものに、RDSに対する人工換気や高濃度酸素の後に起こる気管支肺異形成症(BPD)と、子宮内感染・炎症を背景に生じる Wilson-Mikity 症候群がある。Wilson-Mikity 症候群は、出生直後の呼吸障害は軽いか認めないことが多く、生後1〜2週ころから多呼吸や陥没呼吸、酸素需要が徐々に現れ、胸部X線で小さな嚢胞状の透亮像(bubbly appearance)と索状影が混在するのが特徴である。本症例は、pPROM後の絨毛膜羊膜炎、胎児頻脈(胎児炎症反応を示唆)という典型的な背景をもつため、選択肢の中で最も起こりやすいといえる。

  4. ×d.  新生児溶血性疾患

    新生児溶血性疾患は、母体の抗体(主に抗D抗体などのIgG)が胎盤を通過して胎児赤血球を破壊する、血液型不適合妊娠(Rh式、ABO式など)が主な原因である。重症例では胎児貧血、胎児水腫、生後早期の黄疸・高ビリルビン血症を呈する。本症例では血液型や不規則抗体についての記載はなく、子宮内感染という病歴とも関連しないため考えにくい。

  5. ×e.  頭蓋内出血

    新生児の頭蓋内出血で最も多いのは脳室上衣下胚層(germinal matrix)から起こる脳室内出血で、脆弱な血管が残る32週未満・1,500g未満の未熟児に多い。正期産児では分娩外傷による硬膜下出血などもあるが、本児は35週・2,400gで、帝王切開で娩出されており、Apgarスコアも良好である。子宮内炎症は極低出生体重児では脳室内出血や脳室周囲白質軟化症の危険因子となりうるが、本児の成熟度では最も起こりやすい合併症とはいえない。

前期破水(PROM)と絨毛膜羊膜炎(CAM)

・PROMは陣痛開始前の破水で、37週未満のものをpreterm PROMという。破水後は腟内の細菌が上行して子宮内感染(CAM)を起こしやすく、時間が経つほど危険が増す。 ・臨床的CAMの目安:母体発熱(38℃以上)に加え、母体頻脈、子宮圧痛、腟分泌物・羊水の悪臭や膿性化、母体白血球増多、胎児頻脈などを伴う。 ・CAMが明らかなら、週数にかかわらず妊娠継続は母児に不利であり、抗菌薬投与とともに分娩(経腟分娩または帝王切開)を急ぐ。 ・長期間の羊水過少(特に妊娠中期からの破水)では、肺低形成や四肢の拘縮(Potter様所見)を伴うことがある。本症例は破水からの期間が短く、その影響は大きくないと考えられる。

胎児炎症反応症候群(FIRS)

子宮内感染により胎児血中の炎症性サイトカイン(IL-6など)が上昇した状態。新生児の敗血症、慢性肺疾患、脳室周囲白質軟化症(PVL)、脳性麻痺などとの関連が指摘されている。臍帯炎や臍帯血IgMの上昇は、子宮内感染があったことの手がかりとなる。

新生児慢性肺疾患(CLD)

・定義:先天奇形を除く肺の異常により、生後28日を超えて酸素投与を必要とする状態(国際的には修正36週時点での酸素需要を重症度評価に用いる)。 ・わが国の病型分類では、出生前の子宮内感染(CAM)の有無、RDSの先行の有無、胸部X線での泡沫状・嚢胞状陰影(bubbly/cystic appearance)の有無で分類される。CAMを背景とし嚢胞状陰影を伴うものが Wilson-Mikity 症候群に相当する。 ・BPD:RDSなどに対する人工換気や高濃度酸素による肺損傷が主因。 ・治療:酸素投与、呼吸管理、水分制限・利尿薬、栄養管理、必要に応じてステロイドなど。

在胎週数と新生児の主な呼吸障害

・早産(特に34週未満):RDS ・正期産〜過期産:胎便吸引症候群、新生児一過性多呼吸(帝王切開児に多い) ・子宮内感染を背景とする早産児:CLD(Wilson-Mikity症候群)、先天性肺炎・敗血症

POINT

・水様性帯下+羊水過少 → 前期破水。発熱・子宮圧痛・膿性分泌物・白血球/CRP上昇・胎児頻脈 → 絨毛膜羊膜炎。 ・胎児頻脈(基線160bpm超)は母体発熱や子宮内感染のサイン。 ・子宮内感染・炎症(FIRS)は、新生児慢性肺疾患、とくに Wilson-Mikity 症候群の危険因子。 ・RDSは34週未満の早産児、胎便吸引症候群は正期産〜過期産児、脳室内出血は32週未満の未熟児に多い。 ・CLDは「生後28日を超えて酸素需要が続く状態」。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。