胃液が語る肺の成熟度―早産児の多呼吸で「胃管」を手に取る理由
第120回医師国家試験 C問題 第68問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,67~69の問いに答えよ。 生後1時間の女児。早産児として出生し,手術室で蘇生された。 現病歴:母親は37歳,初産であり定期的な妊婦健康診査を受診しており,前置胎盤を認めていた。在胎36週1日に性器出血のため救急車で搬入され,緊急帝王切開にて出生した。Apgarスコア6点(1分),9点(5分)であった。新生児蘇生術が行われ,NICUに入院した。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:身長46cm,体重2,400g。体温36.8℃。心拍数160/分,整。血圧66/36mmHg。呼吸数70/分。SpO2 91%(room air)。大泉門は2cm×2cmで開大している。軽度のチアノーゼを手と足に認めるが,口唇には認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。腸雑音に異常を認めない。 検査所見:血液所見:赤血球570万,Hb 17.9g/dL,Ht 50%,白血球12,300,血小板25万。血液生化学所見:総蛋白6.2g/dL,総ビリルビン2.0mg/dL,AST 28U/L,ALT 16U/L,血糖88mg/dL,Na 133mEq/L,K 4.4mEq/L,Cl 97mEq/L。CRP 0.2mg/dL。静脈血ガス分析:pH 7.25,PCO2 68Torr,HCO3- 20mEq/L。
呼吸障害に対し,鑑別診断を行うこととした。 示す物品の写真(①~⑤)のうち,検体採取に用いるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
後期早産で陣痛発来前に帝王切開で生まれた児の呼吸障害では、肺水吸収の遅れによる新生児一過性多呼吸と、サーファクタント欠乏による呼吸窮迫症候群の鑑別が重要です。呼吸窮迫症候群の迅速診断には、出生直後の胃液を泡立てて小さな安定気泡の数を見るマイクロバブルテストが用いられ、その胃液は経管栄養チューブ(胃管)で採取します。胎児が羊水を飲み込んでいるため、胃液から肺の成熟度を推定できるという仕組みを理解しておくと、検体と器具の選択に迷いません。気管チューブ、胸腔ドレーン、尿道カテーテル、臍動脈カテーテルの用途もあわせて整理しておくことで、NICUでの処置や検査の意味が見えてくるはずです。
解答・解説
正解はbです
症例の整理
・在胎36週1日の後期早産児で、前置胎盤からの出血のため、陣痛を経ずに緊急帝王切開で娩出された。 ・Apgarスコア6点(1分)→9点(5分)と軽度の新生児仮死から回復している。 ・生後1時間で呼吸数70/分(60/分以上で多呼吸)、SpO2 91%(室内気)と、多呼吸と軽度の酸素化低下がある。 ・チアノーゼは手足のみで口唇にはなく、末梢性チアノーゼである。中心性チアノーゼ(口唇・口腔粘膜)がないこと、心音に異常がないことから、チアノーゼ性先天性心疾患の可能性は低く、呼吸器系の問題を先に考える。 ・静脈血ガスでpH 7.25、PCO2 68Torrと呼吸性アシドーシスがあり、換気が十分でない。 ・白血球12,300、CRP 0.2mg/dLと炎症所見は乏しく、感染(新生児肺炎・敗血症)を積極的に示唆する所見はない。
鑑別診断のプロセス
陣痛発来前の帝王切開では、産道通過時の胸郭圧迫や陣痛に伴うカテコラミン分泌による肺水吸収の促進が起こらないため、肺水の吸収が遅れて新生児一過性多呼吸(TTN)を生じやすい。一方で本児は早産児であり、肺サーファクタント(肺胞の表面張力を下げて肺胞の虚脱を防ぐ界面活性物質)の産生が不十分なことによる呼吸窮迫症候群(RDS)も否定できない。両者は生後早期の多呼吸という点で似ているが、RDSではサーファクタント補充療法が必要になるなど治療方針が大きく異なるため、早期の鑑別が重要である。
設問の考え方
RDSの迅速な診断に用いられるのが、胃液を用いたマイクロバブルテスト(安定微小気泡テスト)である。胎児は子宮内で羊水を飲み込んでおり、出生直後の胃液には肺から羊水中へ移行したサーファクタントが含まれる。そこで出生後早期に胃液を吸引採取し、ピペットで泡立てて顕微鏡で観察する。サーファクタントが十分にあれば直径の小さい安定した気泡が多数残り、不足していれば小気泡はほとんど形成されない。この胃液の採取には、経鼻または経口的に胃内へ挿入する経管栄養チューブ(胃管)を用いる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は気管チューブである。呼吸不全の児に気管挿管して人工換気を行うための器具で、必要時にはチューブ内に吸引カテーテルを通して気管吸引物を採取し、培養検査などに提出することもある。しかし、本症例は自発呼吸下で軽度の呼吸障害にとどまっており、挿管は現時点で必要ではない。また、RDSを鑑別するためのマイクロバブルテストに用いる検体は胃液であり、気管チューブでは採取しない。
- ○b. ②
②は経管栄養チューブ(胃管)である。本来は経口哺乳が難しい児に胃内へ留置して栄養を与えるための細いチューブであるが、胃内容の吸引にも使える。出生後早期に胃管を胃内へ挿入してシリンジで胃液を吸引し、マイクロバブルテストに提出することで、肺サーファクタントの不足(RDS)の有無を迅速に評価できる。本症例のようにTTNとRDSの鑑別が必要な早産児の呼吸障害で、検体採取に用いる器具として最も適切である。
- ×c. ③
③は胸腔ドレナージチューブである。緊張性気胸を含む気胸での脱気や、胸水・膿胸・乳び胸などの排液のために胸腔内へ留置する。胸水の性状を調べる目的で検体を得ることはあるが、本症例は呼吸音に左右差や減弱がなく、気胸や胸水を疑う所見はない。胸腔穿刺は侵襲も大きく、呼吸障害の鑑別目的に行うものではない。
- ×d. ④
④は尿道カテーテルである。膀胱内に挿入・留置し、尿閉時の導尿、厳密な尿量測定、無菌的な尿検体の採取(尿路感染症の診断など)に用いる。尿検体は呼吸障害の原因、とくにサーファクタントの評価には役立たないため、本問の目的には用いない。
- ×e. ⑤
⑤は臍動脈カテーテルである。新生児では出生後しばらく臍帯血管にカテーテルを挿入でき、臍動脈に留置して観血的な動脈圧モニタリングや、反復する動脈血ガス分析のための採血に用いる。重症の呼吸障害で頻回の血液ガス評価が必要な場合には有用だが、得られるのは血液であり、TTNとRDSの鑑別の決め手となるサーファクタントの評価には使えない。
新生児一過性多呼吸(TTN)と呼吸窮迫症候群(RDS)の比較
・TTN:肺胞内の肺水の吸収遅延による。正期産〜後期早産児、陣痛発来前の帝王切開、母体糖尿病などがリスク因子。多呼吸が主体で、通常は数時間〜2、3日で自然に改善する。胸部X線で肺門部から広がる線状影、葉間胸水、過膨張などを示す。治療は酸素投与や経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)などの支持療法である。 ・RDS:肺サーファクタントの欠乏により肺胞が虚脱する。在胎週数が短いほど多く、母体糖尿病、男児、仮死、帝王切開などもリスクとなる。多呼吸、呻吟(呼気時のうなり声)、陥没呼吸、鼻翼呼吸、チアノーゼが出生直後から進行する。胸部X線で網状顆粒状陰影、気管支透亮像、重症例では肺野全体が白くなる像(すりガラス状〜white out)を示す。治療は人工肺サーファクタントの気管内投与と呼吸管理である。
マイクロバブルテスト(安定微小気泡テスト)
出生直後の胃液(または羊水・気管吸引液)をピペットで吸引・吐出して泡立て、しばらく置いたのち顕微鏡で一定面積あたりの小さな安定気泡の数を数える。小気泡が多ければ肺成熟は十分、少なければサーファクタント不足でRDSのリスクが高いと判定する。検体は、飲み込まれた羊水が胃内に残っている出生後早期(授乳開始前)に採取する必要がある。類似の検査として、胃液とエタノールを混ぜて振り、泡の環の形成を見るシェイクテスト(振盪試験)もある。出生前には羊水のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比)が肺成熟の指標として用いられてきた。
新生児の呼吸障害の主な鑑別
TTN、RDS、胎便吸引症候群(MAS:羊水混濁が手がかり)、新生児肺炎・敗血症(母体の発熱、破水からの時間、炎症反応)、気胸(呼吸音の左右差、急な悪化)、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)、チアノーゼ性先天性心疾患(中心性チアノーゼ、酸素投与への反応不良)などがある。
POINT
・早産児・帝王切開児の呼吸障害では、TTNとRDSの鑑別が重要である。 ・RDSの迅速診断:出生後早期に胃液を採取し、マイクロバブルテスト(シェイクテスト)でサーファクタントの有無を評価する。 ・胃液の採取には経管栄養チューブ(胃管)を用いる。 ・気管チューブ、胸腔ドレーン、尿道カテーテル、臍動脈カテーテルの用途もあわせて区別できるようにしておく。
