のどの痛みが治っても終わらない―溶連菌が残す「2つの宿題」
第99回医師国家試験 A問題 第53問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。発熱と咽頭痛とを主訴に来院した。3日前から39℃ の発熱と咽頭痛とがあった。体温39.2℃。脈拍92/分,整。発疹はない。心雑音はない。関節腫脹を認めない。イチゴ舌を認める。咽頭粘膜は発赤し,点状出血斑がある。両側口蓋扁桃に黄白色の滲出物が付着している。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球480万,Hb 12.5g/dL,Ht 41%,白血球11,000(桿状核好中球16%,分葉核好中球56%,好酸球2%,リンパ球26%),血小板30万。CRP 6.5mg/dL。咽頭培養:Streptococcus pyogenes 2+。 この疾患に続発するのはどれか。2つ選べ。
- a.川崎病
- b.リウマチ熱
- c.急性糸球体腎炎
- d.若年性特発性関節炎〈JIA〉
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
学童の高熱と咽頭痛に扁桃滲出物、軟口蓋の点状出血、イチゴ舌を伴い、咽頭培養でA群溶連菌が検出されれば、溶連菌性咽頭・扁桃炎と診断できます。この感染に続発する非化膿性合併症の代表がリウマチ熱と急性糸球体腎炎で、前者は菌体成分と心臓・関節・脳との分子相同性による交差反応、後者は免疫複合体沈着と補体活性化(低補体血症)が機序です。潜伏期は急性糸球体腎炎が咽頭感染後1〜2週(皮膚感染後3〜6週)、リウマチ熱が2〜4週で、ペニシリン系抗菌薬の十分な投与はリウマチ熱の予防に有効とされる一方、腎炎の予防効果は明らかではありません。川崎病、若年性特発性関節炎、SLEは鑑別には挙がっても溶連菌の続発症ではありません。感染症を「治して終わり」にせず、その後の免疫学的合併症まで見通して経過観察する姿勢は、小児の日常診療で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
10歳の男児で、3日前から39℃台の高熱と咽頭痛が続いている。身体所見では、イチゴ舌(舌乳頭が赤く腫れて苺の表面のように見える状態)、咽頭粘膜の発赤と点状出血斑(軟口蓋の小さな出血点)、両側口蓋扁桃への黄白色滲出物がみられる。発疹・心雑音・関節腫脹はなく、尿所見も正常である。血液検査では白血球11,000/μLと増加し、好中球(桿状核16%+分葉核56%=72%)優位で核の左方移動を伴い、CRP 6.5mg/dLと上昇している。咽頭培養でStreptococcus pyogenes(A群β溶血性連鎖球菌、以下A群溶連菌)が検出されている。
診断へのプロセス
学童期の高熱・咽頭痛、扁桃の滲出物、軟口蓋の点状出血、イチゴ舌は、A群溶連菌による急性咽頭・扁桃炎の典型像である。扁桃に白苔を伴う発熱性咽頭炎の鑑別としては、EBウイルスによる伝染性単核球症(後頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増加が特徴)やアデノウイルス感染症(咽頭結膜熱)が挙がるが、本例は好中球優位の白血球増加で異型リンパ球の記載がなく、何より咽頭培養でA群溶連菌が証明されているため、A群溶連菌性咽頭・扁桃炎と診断できる。イチゴ舌は川崎病でもみられるが、眼球結膜充血・発疹・四肢末端の変化・頸部リンパ節腫脹など他の主要症状がそろっておらず、病原体も特定されていることから川崎病は考えにくい。
設問の考え方
問われているのは「この感染症の後に続いて起こる疾患」、すなわちA群溶連菌感染後の非化膿性合併症である。A群溶連菌の菌体成分に対する免疫応答が自己組織と交差反応したり(分子相同性)、免疫複合体が沈着したりすることで、感染から一定の潜伏期を経て発症する。代表はリウマチ熱と急性糸球体腎炎(溶連菌感染後急性糸球体腎炎)の2つであり、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 川崎病
川崎病は主に4歳以下の乳幼児に好発する全身性の中小血管炎で、原因はいまだ解明されていない。何らかの感染が引き金となって過剰な免疫反応が起こる可能性が議論されているが、A群溶連菌感染に続発する疾患としては位置づけられていない。発熱、両側眼球結膜充血、口唇紅潮・イチゴ舌、発疹、四肢末端の変化(急性期の硬性浮腫、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹が主要症状であり、イチゴ舌は溶連菌感染症と共通するため鑑別上は重要だが、続発症ではない。
- ○b. リウマチ熱
リウマチ熱はA群溶連菌による咽頭・扁桃炎の後、およそ2〜4週間(平均約3週間)の潜伏期を経て発症する非化膿性続発症である。菌のM蛋白などと、心筋・心臓弁・関節・脳(基底核)の構成成分との分子相同性による交差免疫反応が機序と考えられている。改訂Jones基準の主症状は心炎、多関節炎、舞踏病(Sydenham舞踏病)、輪状紅斑、皮下結節であり、先行する溶連菌感染の証拠(咽頭培養陽性、迅速抗原検査陽性、ASO上昇など)が診断に必要である。心炎が慢性化すると僧帽弁などの弁膜症(リウマチ性心疾患)を残す。なお、リウマチ熱は皮膚感染(膿痂疹)の後には起こりにくく、咽頭感染の後に起こるのが特徴である。
- ○c. 急性糸球体腎炎
小児の急性糸球体腎炎の大部分は溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)である。咽頭・扁桃炎の後では約1〜2週間(10日前後)、皮膚感染(膿痂疹)の後では約3〜6週間の潜伏期を経て発症する。溶連菌の抗原を含む免疫複合体が糸球体に沈着し、補体が活性化されて起こるⅢ型アレルギーの機序によると考えられている。血尿(肉眼的血尿を含む)、浮腫、高血圧が三主徴であり、検査では血清補体価(CH50)やC3の低下(多くは発症後6〜8週以内に正常化)、ASOの上昇がみられる。腎生検では管内増殖性糸球体腎炎と、電子顕微鏡で上皮下のhump(こぶ状沈着物)が特徴である。本例は現時点で尿所見が正常であるが、これは感染急性期だからであり、今後の発症に注意が必要である。
- ×d. 若年性特発性関節炎〈JIA〉
若年性特発性関節炎は16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称である。全身型では弛張熱、リウマトイド疹(発熱時に出現するサーモンピンク色の皮疹)、肝脾腫、漿膜炎などを伴い、発熱で発症するため感染症との鑑別が問題となることはあるが、A群溶連菌感染に続発する疾患ではない。溶連菌感染後に起こる関節炎としてはリウマチ熱の移動性多関節炎や、溶連菌感染後反応性関節炎があり、これらとは区別される。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
全身性エリテマトーデスは、抗核抗体・抗dsDNA抗体などの自己抗体が産生され、多臓器に炎症をきたす自己免疫疾患である。発症には遺伝的素因に、紫外線・性ホルモン・薬剤・ウイルス感染などの環境因子が加わることが関与すると考えられているが、A群溶連菌感染に続発する疾患ではない。若年女性に多く、10歳男児の溶連菌感染症との関連は乏しい。ループス腎炎も低補体血症を伴う糸球体腎炎であるため、溶連菌感染後急性糸球体腎炎との鑑別で問題となる点は押さえておきたい。
A群溶連菌感染症の概要
A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)は、学童期(5〜15歳)の細菌性咽頭・扁桃炎の最も重要な原因菌である。典型的には急な発熱と咽頭痛で発症し、咳や鼻汁は目立たない。扁桃の滲出物、軟口蓋の点状出血、前頸部リンパ節の圧痛を伴う腫脹、イチゴ舌がみられる。発赤毒素(発熱毒素)を産生する株では全身に細かい紅色丘疹が広がり、猩紅熱と呼ばれる。診断には迅速抗原検査や咽頭培養を用い、治療はペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間投与するのが基本である。
A群溶連菌による疾患の整理
1. 化膿性(局所の感染そのもの) ・咽頭・扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎、頸部リンパ節炎 ・伝染性膿痂疹、丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎 2. 毒素性 ・猩紅熱、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群) 3. 非化膿性続発症(感染後の免疫学的機序による) ・リウマチ熱:咽頭感染後2〜4週。心炎・多関節炎・舞踏病・輪状紅斑・皮下結節。 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎:咽頭感染後1〜2週、皮膚感染後3〜6週。血尿・浮腫・高血圧、低補体血症。 ・その他:溶連菌感染後反応性関節炎、PANDAS(溶連菌感染に関連する小児の自己免疫性精神神経疾患、強迫症状やチックなど、概念には議論がある)など。
抗菌薬治療と続発症の予防
咽頭炎に対して適切な期間ペニシリン系抗菌薬を投与すると、リウマチ熱の発症予防効果があることが示されている。一方、急性糸球体腎炎は抗菌薬治療によっても予防効果が明らかでない。そのため、溶連菌感染後は治療の有無にかかわらず、1〜2週後の尿検査で血尿・蛋白尿の有無を確認することがある。
ASOについて
ASO(抗ストレプトリジンO抗体)は溶連菌感染の約1〜2週後から上昇し、3〜5週でピークとなる。先行感染の証拠として続発症の診断に有用である。皮膚感染ではASOが上昇しにくく、抗DNase B抗体の方が有用とされる。
POINT
・学童の高熱+咽頭痛+扁桃滲出物+軟口蓋点状出血+イチゴ舌 → A群溶連菌性咽頭・扁桃炎。 ・A群溶連菌感染後の二大非化膿性続発症は、リウマチ熱と急性糸球体腎炎。 ・潜伏期:急性糸球体腎炎は咽頭感染後1〜2週(皮膚感染後3〜6週)、リウマチ熱は咽頭感染後2〜4週。 ・リウマチ熱は抗菌薬治療で予防できるが、急性糸球体腎炎は予防効果が明らかでない。 ・川崎病、JIA、SLEは原因不明あるいは自己免疫性の疾患で、溶連菌感染の続発症ではない。
