胃液の「小さな泡」が語る肺の成熟―マイクロバブルテストと呼吸窮迫症候群
第116回医師国家試験 C問題 第6問
国試問題にチャレンジ
「新生児の出生直後の胃内容物を採取してピペットで吸排して泡立てる。その後4分間静置して,顕微鏡で1mm2あたりの直径15 μm未満の泡の数をカウントする」 上記の検査はどの疾患を診断するためのものか。
- a.先天性肺炎
- b.胎便吸引症候群
- c.呼吸窮迫症候群
- d.新生児一過性多呼吸
- e.Wilson-Mikity症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
マイクロバブルテストは、出生直後の胃液(または羊水)を泡立てて静置し、サーファクタントによって安定化した直径15μm未満の微小泡の数を数えることで肺の成熟度を評価する検査です。泡が少ない(胃液で10個/mm²未満)場合はサーファクタント欠乏が示唆され、在胎34週ごろより前の早産児に多い呼吸窮迫症候群の診断に用いられます。新生児一過性多呼吸は肺液吸収遅延、胎便吸引症候群は胎便の吸引、先天性肺炎は感染、Wilson-Mikity症候群は早産児の慢性肺疾患であり、いずれもサーファクタント量そのものを評価するこの検査で診断する疾患ではありません。呼吸窮迫症候群の治療は人工サーファクタント補充と呼吸管理、予防は母体へのステロイド投与が柱です。検査の原理を病態生理と結びつけて理解しておくと、新生児呼吸障害の鑑別と早期治療の判断に生かせます。
解答・解説
正解はcです
問題文に示された手順は、マイクロバブルテスト(安定マイクロバブルテスト:stable microbubble test)である。
検査の原理
肺サーファクタント(肺表面活性物質)は、Ⅱ型肺胞上皮細胞が分泌するリン脂質(主にジパルミトイルホスファチジルコリン)とタンパク質の複合体で、肺胞内面の表面張力を下げて呼気時に肺胞がつぶれないようにしている。胎児が肺で産生したサーファクタントは肺液とともに羊水中へ出て、胎児が羊水を飲み込むため、出生直後の胃内容物(胃液)にも含まれる。 サーファクタントには、ごく小さな泡の表面張力を下げて泡を安定させる性質がある。そこで胃液をピペットで吸ったり出したりして泡立て、一定時間(4分間)静置すると、サーファクタントが十分にあれば直径15μm未満の微小な泡(マイクロバブル)が多数残り、不足していれば小さな泡はすぐに消えてしまう。顕微鏡で1mm²あたりのマイクロバブルの数を数えることで、肺の成熟度、すなわちサーファクタントが足りているかを推定できる。一般に胃液で10個/mm²未満と少ない場合は、サーファクタント欠乏として呼吸窮迫症候群の可能性が高いと判断する。
問われていること
サーファクタントの欠乏が病態の本質である新生児の呼吸障害を選べばよい。それは呼吸窮迫症候群(RDS:respiratory distress syndrome)である。検査は数十分程度で結果が出るため、早産児の出生直後に行い、サーファクタント補充療法を早期に行うかどうかの判断に役立てられる。他の選択肢の疾患は、サーファクタントの量ではなく、感染、胎便の吸引、肺液の吸収遅延、未熟肺の慢性変化などが原因であり、この検査で診断するものではない。
選択肢考察
- ×a. 先天性肺炎
先天性肺炎は、子宮内や分娩時に病原体(B群溶血性レンサ球菌〈GBS〉、大腸菌など)に感染して起こる肺炎で、前期破水や絨毛膜羊膜炎が危険因子となる。診断は母体の感染徴候、新生児の血液検査(白血球数、CRPなど)、血液培養・気道分泌物の培養、胸部エックス線写真の浸潤影などで行う。サーファクタント量を評価するマイクロバブルテストで診断する疾患ではない。ただしGBS肺炎は胸部エックス線像が呼吸窮迫症候群と似ることがあり、鑑別に注意を要する。
- ×b. 胎便吸引症候群
胎便吸引症候群(MAS:meconium aspiration syndrome)は、子宮内や分娩時の低酸素などを契機に胎児が胎便を排出し、胎便で汚れた羊水を吸い込むことで起こる呼吸障害である。成熟児や過期産児に多い。気道の閉塞による無気肺と過膨張の混在、化学性肺炎、さらに胎便によるサーファクタントの不活化が生じ、気胸などのエアリークや新生児遷延性肺高血症(PPHN)を合併しやすい。診断は羊水混濁の既往と、胸部エックス線写真での粗い斑状・索状陰影や肺の過膨張による。サーファクタントの不活化は病態の一部だが、胎児期からのサーファクタント産生不足ではなく、マイクロバブルテストで診断するものではない。
- ○c. 呼吸窮迫症候群
呼吸窮迫症候群は、肺の未熟性のためにサーファクタントが不足し、肺胞の表面張力が下がらず、呼気時に肺胞が虚脱することで起こる。サーファクタントの産生は在胎34週ごろに十分となるため、それ以前に生まれた早産児、特に在胎週数が短いほど起こりやすい。生後まもなくから多呼吸、陥没呼吸、呻吟(呼気時のうなり声)、チアノーゼが出現し、進行する。マイクロバブルテストは、胃液中のサーファクタントがマイクロバブルを安定させる性質を利用してその不足を直接評価する検査であり、本症の診断に用いられる。胸部エックス線写真では肺野の微細な網状顆粒状陰影、気管支透亮像(エアブロンコグラム)、肺容量の減少がみられ、重症になると肺野全体が白くなる(すりガラス状から white-out)。
- ×d. 新生児一過性多呼吸
新生児一過性多呼吸(TTN:transient tachypnea of the newborn)は、胎児期に肺胞を満たしていた肺液の吸収・排出が出生後に遅れるために起こる。陣痛を経ない選択的帝王切開で生まれた正期産児や、正期産に近い児に多い。生後早期から多呼吸がみられるが比較的軽症で、通常は数日以内(おおむね2〜3日)に自然に改善する。胸部エックス線写真では肺門部からの線状陰影、葉間裂の胸水などがみられる。サーファクタントは足りているため、マイクロバブルテストで診断する疾患ではなく、むしろ本検査で十分な数の泡が確認できれば呼吸窮迫症候群との鑑別に役立つ。
- ×e. Wilson-Mikity症候群
Wilson-Mikity症候群は、早産児(特に極低出生体重児)にみられる慢性肺疾患の一型で、生後早期には呼吸障害が軽いか無症状であるのに、生後1〜4週ごろから徐々に呼吸障害と酸素需要が増してくるのが特徴である。子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)との関連が指摘されている。胸部エックス線写真では、肺全体に小さな嚢胞状の透亮像が泡のように散在する泡沫状陰影(bubbly appearance)を示す。診断は経過と画像所見によるものであり、出生直後のマイクロバブルテストで診断するものではない。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS)
・病態:肺サーファクタントの欠乏による肺胞の虚脱。かつて肺胞内面に硝子膜がみられることから硝子膜症とも呼ばれた。 ・危険因子:早産(在胎週数が短いほど高頻度)、母体糖尿病(高インスリン血症がサーファクタント産生を抑える)、男児、新生児仮死、陣痛を経ない帝王切開など。 ・症状:生直後〜数時間以内に出現する多呼吸、陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼ。 ・胸部エックス線:網状顆粒状陰影、エアブロンコグラム、肺容量減少。重症度に応じてⅠ〜Ⅳ度に分類され、Ⅳ度では心陰影の境界も不明瞭な white-out となる。 ・治療:人工サーファクタントの気管内投与、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸管理。 ・予防:早産が予想される場合(おおむね在胎34週未満)、母体への副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)投与により胎児肺の成熟を促し、発症や重症化を減らせる。
肺成熟度(サーファクタント)の評価法
・マイクロバブルテスト:胃液(または羊水)を泡立てて静置し、直径15μm未満の安定な微小泡の数を数える。胃液で10個/mm²未満であればサーファクタント欠乏が疑われる。 ・シェイクテスト(泡沫安定試験):羊水や胃液にエタノールを加えて振り、泡が残るかで判定する。 ・L/S比:羊水中のレシチン(ホスファチジルコリン)とスフィンゴミエリンの比。2以上で肺成熟と判断する。
新生児の主な呼吸障害の鑑別
・呼吸窮迫症候群:早産児、サーファクタント欠乏、網状顆粒状陰影とエアブロンコグラム。 ・新生児一過性多呼吸:正期産近くの帝王切開児、肺液の吸収遅延、数日で改善。 ・胎便吸引症候群:成熟児・過期産児、羊水混濁、粗い斑状陰影と過膨張、エアリークや肺高血症の合併。 ・先天性肺炎:前期破水・母体感染、炎症反応上昇、培養陽性。 ・Wilson-Mikity症候群:早産児、生後1〜4週から悪化、泡沫状陰影。
POINT
・マイクロバブルテストは、出生直後の胃液(または羊水)中のサーファクタントが微小泡を安定させる性質を利用し、肺の成熟度を評価する検査である。 ・マイクロバブルが少ない(胃液で10個/mm²未満)とサーファクタント欠乏、すなわち呼吸窮迫症候群が示唆される。 ・呼吸窮迫症候群はサーファクタントが十分になる在胎34週ごろより前に生まれた早産児に多い。治療は人工サーファクタント補充、予防は母体へのステロイド投与。 ・新生児一過性多呼吸、胎便吸引症候群、先天性肺炎、Wilson-Mikity症候群との鑑別点(好発する児、経過、胸部エックス線像)を整理しておく。
