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針はどこまで進めてよいか―腰椎穿刺で「貫いてはならない」唯一の構造

第120回医師国家試験 B問題 第20問

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第120回 B問題 第20問

腰椎穿刺において,穿刺針で貫くことを避けるべきなのはどれか。

  1. a.硬膜
  2. b.脊髄
  3. c.くも膜
  4. d.棘間靱帯
  5. e.皮下組織

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腰椎穿刺の解剖を問う問題だ。針が皮膚から目的地までどの層を通るのか、そして目的地の中に何があるのかを整理すれば、自然に答えが見えてくる。まず、腰椎穿刺で針先を届かせたい場所はどこかな。
医学生医学生
髄液を採るので、くも膜下腔です。
ドクタードクター
そう。くも膜と軟膜の間にある、脳脊髄液で満たされた空間だ。では体表からくも膜下腔までに通過する層を順に挙げてみよう。
医学生医学生
解剖実習の記憶だと、皮膚、皮下組織、棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯、そのあと硬膜外腔、硬膜、くも膜、の順だったと思います。
ドクタードクター
完璧だ。つまりこれらの層はすべて、くも膜下腔に届くために貫く必要がある構造なんだ。選択肢のうち硬膜、くも膜、棘間靱帯、皮下組織はすべてこの経路上にある。
医学生医学生
硬膜を破ると穿刺後頭痛が起こると聞いたので、硬膜は避けるべきなのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。確かに硬膜の穿刺孔から髄液が漏れることが頭痛の原因と考えられている。でも硬膜を貫かずにくも膜下腔へは入れない。だから避けるのではなく、細い針や先端が鈍な非外傷性針を使って頻度を下げる、という対策をとるんだ。
医学生医学生
くも膜も同じですね。硬膜の内側に密着しているので、ほぼ同時に貫くと習いました。
ドクタードクター
その通り。黄色靱帯を抜けた後、硬膜とくも膜を貫くとポンと抵抗が抜ける感触が得られることが多い。皮下組織や棘間靱帯も正中から刺せば必ず通る層で、皮下までは局所麻酔をしてから進める。では、残る脊髄はどうだろう。
医学生医学生
脊髄は中枢神経そのものなので、刺したら大変です。これが避けるべき構造ですね。でも、くも膜下腔の中に脊髄があるなら、どうやって避けるんですか。
ドクタードクター
そこが本質だ。脊髄は発生の過程で脊柱ほど長く伸びないので、成人では下端の脊髄円錐がおおむねL1〜L2の高さで終わる。それより下のくも膜下腔には、神経根の束である馬尾と終糸が髄液に浮かんでいるだけなんだ。だから穿刺はL3/L4間かL4/L5間で行う。
医学生医学生
馬尾なら針が当たっても大丈夫なんですか。
ドクタードクター
神経根は髄液の中で動けるので針から逃げやすく、重い損傷は起こりにくい。もちろん一過性の放散痛やしびれが出ることはある。一方、脊髄を傷つけると運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害が残るおそれがあり、回復しにくい。この差が、刺してよい高さを決めているんだ。
医学生医学生
穿刺部位はJacoby線を目安にすると、臨床実習の脳神経内科で教わりました。
ドクタードクター
左右の腸骨稜上縁を結ぶ線で、おおむねL4棘突起からL4/L5間の高さを通る。体位は側臥位で膝を抱え、頸部を前屈させて背中を丸めると、棘突起の間が広がって針を進めやすい。もう一つ、新生児や乳児では脊髄円錐が成人より低くL3付近にあるから、より下位の椎間を選ぶ配慮が必要だ。
医学生医学生
禁忌も確認させてください。頭蓋内圧亢進のときは脳ヘルニアの危険があるんでしたよね。
ドクタードクター
そう、特に頭蓋内占拠性病変や閉塞性水頭症では、髄液を抜くことで圧較差が生じて脳ヘルニアを誘発しうる。乳頭浮腫の確認や、必要に応じて頭部CTでの除外が先だ。ほかに、穿刺部位の皮膚感染は細菌を髄腔内に持ち込むおそれがあるし、出血傾向や抗凝固薬内服では硬膜外血腫が脊髄や馬尾を圧迫する危険がある。
医学生医学生
通る層を順に言えて、脊髄の下端の高さを知っていれば、どこに刺すかも何を避けるかも説明できるんですね。
ドクタードクター
その通り。最も多い合併症は穿刺後頭痛で、立位や座位で悪化し臥位で軽くなるのが特徴だ。解剖の理解が、安全な手技と合併症への対応の両方を支えていると覚えておこう。

まとめ

腰椎穿刺では、針は皮膚、皮下組織、棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯、硬膜外腔、硬膜、くも膜を順に通ってくも膜下腔に達するため、これらはいずれも貫く必要がある構造です。一方、脊髄は損傷すると麻痺や膀胱直腸障害が残りうるため、貫いてはならない構造です。成人では脊髄円錐がL1〜L2で終わり、それより下には髄液中に浮かぶ馬尾しかないため、Jacoby線を目安にL3/L4間またはL4/L5間で穿刺します(乳幼児では脊髄下端が低い点に注意)。頭蓋内圧亢進、穿刺部位の感染、出血傾向は禁忌・注意事項であり、最も多い合併症は体位で増悪・軽快する穿刺後頭痛です。穿刺経路の解剖と脊髄下端の位置を理解することは、安全な手技と合併症予防の基本になります。

解答・解説

正解はbです

腰椎穿刺(lumbar puncture)は、腰部から針を刺してくも膜下腔(くも膜と軟膜の間の、脳脊髄液が満たされた空間)に到達させ、髄液の採取や髄液圧の測定、薬剤の注入(脊髄くも膜下麻酔など)を行う手技である。 目的地はくも膜下腔なので、それより体表側にある組織はすべて針が通過しなければならない。体表から順に並べると、皮膚 → 皮下組織 → 棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜外腔 → 硬膜 → くも膜 → くも膜下腔 となる。したがって、これらの層は「貫く必要がある構造」であり、避けるべきものではない。 一方、くも膜下腔の中には脊髄(中枢神経そのもの)が存在する部位がある。脊髄に針が刺さると、損傷は回復しにくく、下肢の麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害などの重い後遺症を残しうる。このため腰椎穿刺は、脊髄が存在しない高さ、すなわち脊髄下端(脊髄円錐)より尾側で行う。成人では脊髄円錐はおおむね第1〜第2腰椎(L1〜L2)の高さで終わるため、穿刺はL3/L4間またはL4/L5間で行うのが原則である。この高さのくも膜下腔には、脊髄から出た腰仙髄の神経根が束になって浮かぶ馬尾が存在するだけであり、針先が触れても神経根は髄液中で逃げやすく、重い損傷を生じにくい。 以上より、「貫くことを避けるべき構造」は脊髄である。

選択肢考察

  1. ×a.  硬膜

    硬膜は髄膜の最外層で、くも膜の外側にある厚く丈夫な膜である。くも膜下腔に到達するには必ず硬膜を貫かなければならないため、避けるべき構造ではない。黄色靱帯を抜けて硬膜外腔に入ったあと、硬膜とくも膜を貫くときに抵抗が抜ける感触(ポンと抜ける感じ)が得られることが多い。なお、硬膜に開いた穿刺孔から髄液が漏れることが、合併症である穿刺後頭痛の原因と考えられている。

  2. ○b.  脊髄

    脊髄は中枢神経であり、針で損傷すると神経細胞や伝導路の障害は回復しにくく、損傷部位以下の運動麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害を残すおそれがある。このため腰椎穿刺は、成人で脊髄円錐(脊髄下端)が位置するL1〜L2より尾側のL3/L4間またはL4/L5間で行い、脊髄そのものを貫かないようにする。目安として、左右の腸骨稜の上縁を結んだ線(Jacoby線)がおおむねL4棘突起またはL4/L5椎間の高さを通ることを利用して穿刺部位を決める。新生児・乳児では脊髄円錐が成人より低い位置(L3付近)にあるため、より下位の椎間を選ぶ配慮が必要である。

  3. ×c.  くも膜

    くも膜は硬膜の内側に接する薄い膜で、その内側(くも膜と軟膜の間)がくも膜下腔である。脳脊髄液はくも膜下腔に存在するので、髄液を得るにはくも膜を貫く必要がある。実際には硬膜とくも膜は密着しており、針は両者をほぼ同時に貫通する。したがって避けるべき構造ではない。

  4. ×d.  棘間靱帯

    棘間靱帯は上下に隣り合う椎骨の棘突起どうしを結ぶ靱帯である。正中から穿刺する通常の方法(正中法)では、棘上靱帯に続いて棘間靱帯を貫き、さらに黄色靱帯を抜けて硬膜外腔に達する。穿刺経路上に必ずある構造であり、避けるべきものではない。

  5. ×e.  皮下組織

    皮下組織は皮膚のすぐ深部にある脂肪を主体とする層で、穿刺経路の最初のほうで必ず通過する。避けることはできず、また避ける必要もない。穿刺前にはこの層までを含めて局所麻酔を行うのが一般的である。ただし、穿刺部位の皮膚・皮下組織に感染巣がある場合は、細菌を髄腔内に持ち込むおそれがあるため、その部位からの穿刺は禁忌となる。

腰椎穿刺の概要

・目的:髄液検査(髄膜炎・脳炎、CTで明らかでないくも膜下出血、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症などの診断)、髄液圧測定、薬剤の髄腔内投与、脊髄くも膜下麻酔など。 ・体位:側臥位で膝を抱え込み、頸部を前屈させて背中を丸める(棘突起の間隔が広がる)。座位で行うこともある。 ・部位:L3/L4間またはL4/L5間。Jacoby線(左右腸骨稜上縁を結ぶ線)を目安にする。

針の通過経路

皮膚 → 皮下組織 → 棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜外腔 → 硬膜 → くも膜 → くも膜下腔(髄液) 硬膜外麻酔では硬膜外腔で止め、脊髄くも膜下麻酔や腰椎穿刺ではくも膜下腔まで進める。

脊髄の下端

・脊髄は発生の過程で脊柱ほど長く伸びないため、成人では脊髄円錐がL1〜L2の高さで終わる。 ・それより下の脊柱管内には馬尾(腰仙髄から出る神経根の束)と終糸があるのみである。 ・新生児では脊髄下端がより低く(L3付近)、成長とともに上昇する。

禁忌・注意事項

・頭蓋内圧亢進(特に頭蓋内占拠性病変や閉塞性水頭症):髄液を抜くことで圧較差が生じ、脳ヘルニアを誘発するおそれがある。施行前に乳頭浮腫の有無を確認し、必要に応じて頭部CTで占拠性病変を除外する。 ・穿刺部位の皮膚・軟部組織感染。 ・出血傾向(血小板減少、抗凝固薬内服など):脊髄硬膜外血腫などを生じて脊髄・馬尾を圧迫する危険がある。

主な合併症

・穿刺後頭痛(低髄液圧性頭痛):最も頻度の高い合併症。立位・座位で増悪し臥位で軽快するのが特徴。細い針や先端が鈍な非外傷性針の使用で頻度を下げられる。 ・腰痛、神経根刺激による一過性の下肢の放散痛・しびれ。 ・感染(髄膜炎)、出血(硬膜外・くも膜下血腫)、脳ヘルニア。

POINT

・腰椎穿刺では脊髄を貫いてはならない。そのため脊髄円錐(成人でL1〜L2)より下のL3/L4間またはL4/L5間で穿刺する。 ・穿刺部位の目安はJacoby線(左右腸骨稜上縁を結ぶ線)で、L4棘突起〜L4/L5間の高さにあたる。 ・針は皮膚→皮下組織→棘上靱帯→棘間靱帯→黄色靱帯→硬膜外腔→硬膜→くも膜→くも膜下腔の順に進む。 ・頭蓋内圧亢進時(脳ヘルニアの危険)や穿刺部位の感染は禁忌。最も多い合併症は穿刺後頭痛(低髄液圧性頭痛)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。