StudyMed医師国家試験

赤く染まる小さな桿菌―Gram染色で見抜く急性腎盂腎炎の主犯

第120回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第18問

Gram染色標本(①~⑤)を下に示す。  急性腎盂腎炎の原因菌で最も多いのはどれか。

第120回 B問題 第18問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は5つのGram染色像から、急性腎盂腎炎の原因菌として最も多いものを選ぶ問題だ。考えるべきことは2つ。腎盂腎炎の最多の原因菌は何か、そしてそれがGram染色でどう見えるか。まずは病態から考えてみよう。
医学生医学生
腎盂腎炎は膀胱炎が上に広がるイメージなので、腸内細菌、特に大腸菌が多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。大部分は、腸管由来の細菌が尿道から膀胱に入り、尿管を上行して腎盂・腎実質に至る上行性感染だ。だから腸内細菌科のGram陰性桿菌、なかでも大腸菌が圧倒的に多く、基礎疾患のない単純性ではおよそ8〜9割を占める。
医学生医学生
女性に多いのも、尿道が短くて肛門に近いからでしたね。
ドクタードクター
そう。では次にGram染色の読み方だ。細胞壁のペプチドグリカン層が厚い菌は紫色の色素が残ってGram陽性、薄い菌は脱色されて赤〜ピンクに染まりGram陰性になる。そこに球菌か桿菌か、どう並んでいるか、白血球に食べられているかを組み合わせて菌を推定するんだ。
医学生医学生
微生物学の実習で口腔内の菌を染めたとき、脱色の加減が難しくて全部赤っぽくなってしまいました。
ドクタードクター
脱色しすぎるとGram陽性菌も赤く見えてしまうから、実際の判定でも注意が必要だね。さて、大腸菌を探すなら、赤く染まった小型の桿菌を選べばいい。5つの中では、赤い短い棒状の菌が多数散らばっている標本がそれにあたる。これが正解だ。
医学生医学生
ほかの標本も確認したいです。紫の球菌が数珠のように長く連なっているのは、連鎖球菌ですか。
ドクタードクター
そう、Gram陽性連鎖球菌だ。尿から出る連鎖球菌としてはB群溶血性レンサ球菌が代表で、妊婦や糖尿病患者の尿路感染の原因にはなるけれど、腎盂腎炎で最多ではない。
医学生医学生
紫の小さな菌が2個ずつ、あるいは短い鎖で並んでいるのは、肺炎球菌かと思ったのですが。
ドクタードクター
鑑別には挙がるね。ただ、肺炎球菌は先端のとがったランセット型の双球菌で、莢膜による周囲の抜けを伴うのが典型だ。尿路感染の文脈なら腸球菌をまず考えたい。腸球菌はカテーテル留置例や複雑性尿路感染症、抗菌薬投与後に増え、セフェム系に自然耐性をもつことが臨床的に重要なんだ。形態だけで菌種を確定するのは難しいけれど、いずれにせよ最多の原因菌ではない。
医学生医学生
好中球の中に赤い豆のような球菌が対になって食べられている像は、淋菌ですね。泌尿器科の実習で尿道分泌物の標本を見せてもらいました。
ドクタードクター
よく覚えているね。白血球内のGram陰性双球菌は淋菌を強く疑う所見だ。尿道炎や子宮頸管炎、精巣上体炎を起こす性感染症の原因菌で、腎盂腎炎の主な原因ではない。最後の、細菌よりずっと大きい紫色の楕円形の菌体が出芽して連なっている像はどうかな。
医学生医学生
大きさが全然違うので、酵母様真菌、カンジダでしょうか。
ドクタードクター
正解。長期のカテーテル留置や広域抗菌薬投与、糖尿病、免疫不全で尿から検出されることがあるけれど、急性腎盂腎炎の一般的な原因ではない。尿から出たときは、定着なのか本当の感染なのかを慎重に判断する必要がある。
医学生医学生
色、形、並び方、大きさ、貪食の有無を順に見れば、かなり絞れるんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床での注意点もまとめておこう。腎盂腎炎は悪寒戦慄を伴う高熱と腰背部痛、肋骨脊柱角の叩打痛が典型で、治療開始前に尿培養、重症なら血液培養を採ることが大切だ。尿のGram染色でGram陰性桿菌が見えれば、初期治療の方向性をその場で考えられる。一方、尿路結石や前立腺肥大症、カテーテル留置などを伴う複雑性では、大腸菌に加えてクレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌、さらにESBL産生菌のような耐性菌も増えるから、抗菌薬の選択はより慎重にしたい。

まとめ

急性腎盂腎炎の多くは腸管由来の細菌による上行性感染で、原因菌はGram陰性桿菌の大腸菌が最多であり、Gram染色では赤〜ピンクに染まる小型の桿菌として観察されます。紫色の長い連鎖はレンサ球菌、紫色の双球菌〜短連鎖は腸球菌など、好中球に貪食された赤い双球菌は淋菌、大型で出芽する菌体はカンジダを示唆し、色・形・配列・大きさ・貪食の有無を組み合わせて菌を推定します。複雑性腎盂腎炎ではクレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌や耐性菌の頻度が高まり、腸球菌がセフェム系に自然耐性を示す点も重要です。治療前の培養採取とGram染色による原因菌の推定は、適切な初期抗菌薬選択につながる実践的な技能です。

解答・解説

正解はdです

Gram染色像から菌の種類を推定し、急性腎盂腎炎で最も頻度の高い原因菌を選ぶ問題である。

Gram染色の読み方

Gram染色では、細胞壁のペプチドグリカン層が厚い菌はクリスタルバイオレットの色素が残って紫~濃青色(Gram陽性)に、ペプチドグリカン層が薄く外膜をもつ菌は脱色されて対比染色のサフラニンにより赤~ピンク色(Gram陰性)に染まる。これに形態(球菌か桿菌か、連鎖・ブドウ状・双球菌などの配列)、大きさ、白血球に貪食されているかどうかを組み合わせて菌を推定する。

各標本の所見

①赤血球の間に、紫色の球菌が長く数珠状に連なっている:Gram陽性連鎖球菌 ②紫色に染まる小型の菌が2個ずつ、あるいは短い連鎖状に並んでいる:Gram陽性球菌(短連鎖・双球菌) ③好中球の細胞質内に、赤色の小さな対をなす球菌が多数貪食されている:Gram陰性双球菌 ④赤色に染まる小型の桿菌が多数散在している:Gram陰性桿菌 ⑤好中球の中に、細菌より明らかに大きい紫色の楕円形の菌体が出芽様に連なっている:酵母様真菌

急性腎盂腎炎の原因菌

急性腎盂腎炎の大部分は、腸管由来の細菌が尿道から膀胱へ侵入し、さらに尿管を上行して腎盂・腎実質に感染する上行性感染である。このため腸内細菌科のGram陰性桿菌、なかでも大腸菌(Escherichia coli)が圧倒的に多く、基礎疾患のない単純性腎盂腎炎ではおよそ8~9割を占める。尿路の通過障害や基礎疾患を伴う複雑性腎盂腎炎でも大腸菌が最多だが、クレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌などの割合が高まる。したがって、Gram陰性桿菌を示す標本を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    紫色に染まる球菌が長い鎖状に連なっており、Gram陽性連鎖球菌(Streptococcus属)である。背景に赤血球が多く、血液培養などからの標本と考えられる。尿から検出される連鎖球菌としてはB群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)が代表的で、妊婦や糖尿病患者などの尿路感染の原因となりうるが、急性腎盂腎炎の原因菌として最多ではない。

  2. ×b.  ②

    紫色に染まる小型の菌が2個ずつ、あるいは短い鎖状に並んでおり、Gram陽性の双球菌~短連鎖球菌と読める。尿路感染との関連からは腸球菌(Enterococcus faecalis など)が考えやすい。腸球菌は尿道カテーテル留置例や複雑性尿路感染症、抗菌薬投与後の症例で検出が増え、セフェム系抗菌薬に自然耐性を示す点が臨床上重要である。なお、双球菌として肺炎球菌も鑑別にあがるが、肺炎球菌は先端のとがったランセット型の双球菌で莢膜による周囲の抜け(ハロー)を伴うのが典型である。いずれにせよ急性腎盂腎炎の原因菌として最多ではない。

  3. ×c.  ③

    好中球の細胞質内に赤色の小さな双球菌(そら豆形の球菌が向かい合って対をなす)が貪食されており、Gram陰性双球菌の像である。尿道分泌物などでこの所見がみられれば淋菌(Neisseria gonorrhoeae)を強く疑う。淋菌は尿道炎、子宮頸管炎、精巣上体炎などの原因となる性感染症の起炎菌であり、急性腎盂腎炎の主な原因菌ではない。

  4. ○d.  ④

    赤色に染まる小型の桿菌が多数みられ、Gram陰性桿菌の像である。急性腎盂腎炎の原因菌としては腸内細菌科のGram陰性桿菌、特に大腸菌が最も多い。大腸菌は線毛(P線毛など)により尿路上皮に付着する能力をもち、尿の流れに逆らって上行感染を起こしやすい。単純性腎盂腎炎の約8~9割、複雑性腎盂腎炎でも約半数以上を占めるとされ、本問で選ぶべき標本である。

  5. ×e.  ⑤

    細菌よりも明らかに大きい楕円形の菌体が紫色(Gram陽性)に染まり、出芽して連なっている。酵母様真菌であり、カンジダ(Candida属)が考えられる。菌糸(仮性菌糸)がみられないため Candida glabrata のような菌種も考えられるが、増殖初期には Candida albicans でも菌糸がみられないことがある。カンジダは長期の尿道カテーテル留置、広域抗菌薬投与、糖尿病、免疫不全などで尿から検出されることがあるが、急性腎盂腎炎の一般的な原因ではない。

急性腎盂腎炎の概要

・病態:主に膀胱からの上行性感染による腎盂・腎実質の細菌感染症。女性は尿道が短く外陰部・肛門に近いため罹患しやすい。 ・症状:発熱(しばしば悪寒戦慄を伴う高熱)、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA:costovertebral angle)の叩打痛。膀胱炎症状(頻尿、排尿時痛)を伴うことがある。 ・検査:膿尿、細菌尿、白血球増多、CRP上昇。治療開始前に尿培養(および重症例では血液培養)を採取し、尿のGram染色で原因菌の見当をつける。 ・分類:基礎疾患や尿路の異常がない「単純性」と、尿路結石・前立腺肥大症・神経因性膀胱・尿路カテーテル留置・糖尿病などを伴う「複雑性」に分ける。 ・原因菌:単純性では大腸菌が大半。複雑性では大腸菌に加え、クレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌など多彩で、薬剤耐性菌(ESBL産生菌など)の頻度も高まる。

Gram染色の主な所見と代表菌

・Gram陽性ブドウ状球菌:黄色ブドウ球菌など ・Gram陽性連鎖球菌:A群・B群溶血性レンサ球菌など ・Gram陽性双球菌(ランセット型、莢膜あり):肺炎球菌 ・Gram陽性短連鎖・双球菌:腸球菌 ・Gram陰性双球菌:淋菌、髄膜炎菌、モラクセラ ・Gram陰性桿菌:大腸菌、クレブシエラ、プロテウス、緑膿菌など ・大型で出芽する酵母様菌体:カンジダ

POINT

・急性腎盂腎炎の原因菌で最多は大腸菌(Gram陰性桿菌) ・Gram陰性菌は赤~ピンク、Gram陽性菌は紫~濃青に染まる ・好中球内のGram陰性双球菌は淋菌を示唆 ・複雑性尿路感染症では腸球菌、緑膿菌、クレブシエラ、プロテウスなども増える ・腸球菌はセフェム系に自然耐性

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。