割り算か、引き算か―罹患率の「比」が語る相対危険度
第120回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
リスクファクターに曝露している群と曝露していない群の罹患率の比で計算できるのはどれか。
- a.感度
- b.特異度
- c.信頼区間
- d.寄与危険度
- e.相対危険度
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
曝露群と非曝露群の罹患率を比べる方法には、割り算と引き算の2通りがあります。割り算で求める相対危険度(リスク比)は曝露と疾病の関連の強さを、引き算で求める寄与危険度は曝露による上乗せ分、すなわち曝露を除いたときに減らせる患者の規模を表します。感度・特異度は検査の性能指標、信頼区間は推定値の精度を示す範囲であり、罹患率の比そのものではありません。罹患率を直接求められるのはコホート研究で、症例対照研究ではオッズ比を用い、まれな疾患ではオッズ比が相対危険度の近似となります。研究デザインと指標の対応を理解しておくことは、国家試験だけでなく臨床論文を正しく読み解く力の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
疫学で曝露(リスクファクター)と疾病発生の関連の強さを表す指標を問う問題である。 コホート研究(ある集団を曝露の有無で分け、将来に向かって追跡して疾病の発生を観察する研究)では、曝露群と非曝露群それぞれの罹患率(一定期間内に新たに疾病を発生した者の割合)を直接求めることができる。二つの罹患率を比べる方法には「比(割り算)」と「差(引き算)」の二通りがある。 ・比をとったもの:相対危険度(relative risk、RR)=曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率 ・差をとったもの:寄与危険度(attributable risk、AR)=曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率 設問は「罹患率の比」で計算するものを問うているので、相対危険度が該当する。選択肢には検査の性能を表す指標(感度・特異度)や統計的推定に関する概念(信頼区間)も混ざっており、それぞれ何を表す指標かを整理しておくことが大切である。
選択肢考察
- ×a. 感度
感度(sensitivity)は、検査の性能を表す指標で、実際にその疾患を持つ人のうち検査で陽性と判定される人の割合である。2×2表で真陽性をa、偽陰性をcとすると、感度=a/(a+c)となる。感度が高い検査は見逃し(偽陰性)が少なく、陰性であれば疾患を否定しやすい。曝露群と非曝露群の罹患率の比とは無関係である。
- ×b. 特異度
特異度(specificity)も検査の性能指標で、その疾患を持たない人のうち検査で陰性と判定される人の割合である。偽陽性をb、真陰性をdとすると、特異度=d/(b+d)となる。特異度が高い検査は偽陽性が少なく、陽性であれば疾患を確定しやすい。罹患率の比から求めるものではない。
- ×c. 信頼区間
信頼区間(confidence interval)は、標本から得た推定値をもとに、母集団の真の値が含まれると考えられる範囲を示したものである。通常は95%信頼区間が用いられ、同じ方法で標本抽出と推定を繰り返したとき、そのうち95%の区間が真の値を含むという意味をもつ。相対危険度などの推定値に付けて精度を示すのに使われる(例えば相対危険度の95%信頼区間が1をまたがなければ統計的に有意と判断できる)が、罹患率の比そのものではない。
- ×d. 寄与危険度
寄与危険度(attributable risk、リスク差)は、曝露群の罹患率から非曝露群の罹患率を引いた「差」である。曝露によって上乗せされた罹患率を表し、その曝露を取り除けばどれだけ患者を減らせるかという公衆衛生上の影響の大きさを評価するのに用いる。比ではなく差で計算するため、本問の答えにはならない。
- ○e. 相対危険度
相対危険度(relative risk、RR、リスク比)は、曝露群の罹患率を非曝露群の罹患率で割った「比」である。曝露群が非曝露群に比べて何倍疾病にかかりやすいかを示し、曝露と疾病の関連の強さ(因果関係の強さの目安)を表す。RR=1なら関連なし、1より大きければ曝露が危険因子、1より小さければ予防因子であることを示す。設問の定義そのものであり、正しい。
コホート研究の2×2表と各指標
曝露群:発症a、非発症b 非曝露群:発症c、非発症d とすると ・曝露群の罹患率 Ie=a/(a+b) ・非曝露群の罹患率 Iu=c/(c+d) ・相対危険度 RR=Ie/Iu(関連の強さ) ・寄与危険度 AR=Ie − Iu(曝露による上乗せ分) ・寄与危険度割合(曝露群寄与危険割合)=(Ie − Iu)/Ie=(RR − 1)/RR(曝露群の発症のうち曝露が原因と考えられる割合)
症例対照研究との違い
症例対照研究(疾患のある群とない群を選び、過去の曝露を比べる研究)では、研究者が症例数と対照数を決めるため罹患率を求められず、相対危険度は直接算出できない。代わりにオッズ比(ad/bc)を用いる。疾患がまれな場合、オッズ比は相対危険度の近似値となる。
検査指標の整理
・感度=有病者のうち陽性の割合、特異度=非有病者のうち陰性の割合 ・陽性反応的中度=陽性者のうち実際に有病の割合、陰性反応的中度=陰性者のうち実際に非有病の割合(的中度は有病率の影響を受ける)
罹患率と有病率
罹患率は一定期間内に新たに発生した患者の割合(発生の速さ)、有病率はある時点で疾病を有している者の割合(存在量)である。
POINT
・相対危険度=曝露群罹患率÷非曝露群罹患率(比):関連の強さ ・寄与危険度=曝露群罹患率−非曝露群罹患率(差):公衆衛生上の影響の大きさ ・罹患率を直接求められるのはコホート研究。症例対照研究ではオッズ比を用いる ・感度・特異度は検査の性能指標、信頼区間は推定の精度を示す範囲
