背中を叩けば腎が答える―腎盂腎炎を見抜くCVA叩打痛と「診察手技の目的」
第119回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
腎盂腎炎の診察に有用なのはどれか。
- a.振水音の聴診
- b.Traube三角の打診
- c.鼠径リンパ節の触診
- d.腹部血管雑音の聴診
- e.肋骨脊柱角の叩打診
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクターまとめ
腎盂腎炎は細菌が尿路を上行して腎盂・腎実質に感染する上部尿路感染症で、悪寒戦慄を伴う高熱、患側の腰背部痛、そして肋骨脊柱角(CVA)叩打痛が代表的な所見です。CVA叩打痛は腎の腫大による腎被膜の伸展で生じ、背側で腎が位置する第12肋骨と脊柱のなす角を左右差を比べながら叩打して評価します。振水音は消化管内の液体・ガス貯留、Traube三角の打診は脾腫、腹部血管雑音は腎動脈狭窄や腹部大動脈瘤の評価に用い、鼠径リンパ節は下肢・外陰部・肛門周囲の病変で腫大するため、いずれも腎盂腎炎の診察には役立ちません。CVA叩打痛は水腎症や腎膿瘍でも陽性となるため、尿検査・尿培養や超音波検査と組み合わせて判断し、特に閉塞性腎盂腎炎ではドレナージが必要になる点に注意します。各診察手技が何を評価するためのものかを解剖と病態に結び付けて理解することが、身体診察を臨床推論に生かす基本となります。
解答・解説
正解はeです
腎盂腎炎は、細菌が尿道から膀胱を経て上行し、腎盂および腎実質に感染を起こす上部尿路感染症である。起炎菌は大腸菌が最多である。
臨床像
典型的には、悪寒戦慄を伴う高熱、患側の腰背部痛(側腹部痛)、悪心・嘔吐がみられ、膀胱炎症状(頻尿、排尿時痛、残尿感)が先行・合併することも多い。
身体診察の要点
腎臓は後腹膜に位置し、背側では第12肋骨と脊柱が作る角(肋骨脊柱角:costovertebral angle、CVA)の深部にある。腎盂腎炎では炎症によって腎臓が腫大し、腎被膜が引き伸ばされるため、この部位を拳の尺側や手掌に置いた手の上から軽く叩くと響くような痛みが生じる。これが肋骨脊柱角叩打痛(CVA叩打痛)であり、腎盂腎炎を疑う代表的な身体所見である。 本問は各診察手技が何を評価するためのものかを問うており、腎臓の位置と腎盂腎炎の病態を結び付けて考えれば、肋骨脊柱角の叩打診を選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. 振水音の聴診
振水音(succussion splash)は、腹部に聴診器を当てたまま患者の体を左右に揺すったときに聴取される「ポチャポチャ」という音で、消化管内に液体と気体が多量に貯留していることを示す。食後長時間経っても聴取される場合は、幽門狭窄(胃出口部閉塞)や腸閉塞などを疑う。腎盂腎炎の評価には用いない。
- ×b. Traube三角の打診
Traube三角(Traubeの半月腔)は、左前胸部下部で左第6肋骨・左肋骨弓・左前腋窩線に囲まれた領域で、通常は胃泡のため鼓音を呈する。この部位が濁音になると脾腫を疑う(左胸水などでも濁音化しうる)。脾臓の評価に用いる手技であり、腎盂腎炎の診察とは関係がない。
- ×c. 鼠径リンパ節の触診
鼠径リンパ節は、下肢、外陰部(陰茎・陰嚢皮膚・外陰)、肛門周囲、下腹壁などからのリンパ流を受ける。陰茎癌・外陰癌・肛門管癌などの転移、性感染症(梅毒、鼠径リンパ肉芽腫、性器ヘルペスなど)、下肢の感染症などで腫大する。腎臓のリンパ流は腎門部から傍大動脈リンパ節へ向かうため、腎盂腎炎で鼠径リンパ節が腫大することはなく、診察上の有用性はない。
- ×d. 腹部血管雑音の聴診
腹部の血管雑音(bruit)は、動脈の狭窄部位を通る乱流によって生じる。臍の上方から側方で聴取される場合は腎動脈狭窄(腎血管性高血圧の原因となる線維筋性異形成や動脈硬化)を疑い、ほかに腹部大動脈瘤や腹腔動脈・上腸間膜動脈の狭窄でも聴取される。腎の血管病変の評価には役立つが、感染症である腎盂腎炎の診察には有用でない。
- ○e. 肋骨脊柱角の叩打診
肋骨脊柱角(第12肋骨と脊柱がなす角)は、背側から見て腎臓が位置する部位である。腎盂腎炎では炎症による腎腫大で腎被膜が伸展されるため、この部位を叩打すると患側に痛み(CVA叩打痛)が誘発される。左右差を比較しながら行い、陽性であれば腎盂腎炎を強く疑う根拠となる。ただし、尿管結石による水腎症、腎膿瘍、腎梗塞などの腎疾患でも陽性となり、また腰椎疾患や筋骨格系の痛みとの区別も必要なため、尿検査(膿尿・細菌尿)や画像検査と合わせて判断する。
腎盂腎炎の診断と治療の概要
・尿検査:膿尿(尿中白血球)、細菌尿、白血球円柱(腎実質の炎症を示唆し、膀胱炎との鑑別点となる)。 ・尿培養:治療開始前に採取し、起炎菌と薬剤感受性を確認する。重症例では血液培養も行う。 ・血液検査:白血球増多、CRP上昇。 ・画像検査:超音波検査やCTで水腎症(尿路閉塞)や腎膿瘍の有無を確認する。尿路閉塞を伴う場合(閉塞性腎盂腎炎)は敗血症に進展しやすく、尿管ステント留置や腎瘻造設によるドレナージが必要となる。 ・治療:抗菌薬投与(セフェム系、ニューキノロン系など。重症例は入院のうえ静注)。
単純性と複雑性
・単純性:基礎疾患のない若年〜中年女性に多い。女性は尿道が短く外尿道口が肛門に近いため、上行性感染を起こしやすい。 ・複雑性:尿路結石、前立腺肥大症、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、尿路カテーテル留置、糖尿病などの基礎疾患を伴うもので、再発・重症化しやすい。
腹部・背部の主な診察手技と目的
・肋骨脊柱角叩打痛:腎盂腎炎、尿管結石・水腎症など。 ・Traube三角の打診:脾腫。 ・振水音:幽門狭窄、腸閉塞など消化管内の液体・ガス貯留。 ・腹部血管雑音:腎動脈狭窄、腹部大動脈瘤。 ・McBurney点の圧痛、Blumberg徴候:急性虫垂炎・腹膜刺激症状。 ・Murphy徴候:急性胆囊炎。
POINT
・腎盂腎炎の三徴的な所見:高熱(悪寒戦慄)、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA)叩打痛。 ・CVA叩打痛は腎被膜の伸展による痛みであり、腎盂腎炎のほか水腎症・腎膿瘍などでも陽性となる。 ・Traube三角の打診は脾腫、振水音は消化管内の液体・ガス貯留、腹部血管雑音は腎動脈狭窄などの評価に用いる。 ・腎のリンパ流は傍大動脈リンパ節へ向かい、鼠径リンパ節は下肢・外陰部・肛門周囲の病変で腫大する。
