「減量だから脂質ゼロ」は誤り―食事摂取基準のバランスを数字で押さえる
第119回医師国家試験 F問題 第42問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。特定健康診査で肥満を指摘され来院した。仕事はデスクワークが主体で,運動はしていない。身長171cm,体重100kg。脈拍84/分,整。血圧146/94mmHg。呼吸数17/分。尿所見:蛋白1+,糖1+。血液生化学所見:総蛋白7.1g/dL,アルブミン3.9g/dL,AST 75U/L,ALT 26U/L,γ-GT 89U/L(基準13~64),尿素窒素21mg/dL,クレアチニン1.3mg/dL,尿酸8.9mg/dL,血糖148mg/dL,HbA1c 6.7%(基準4.9~6.0),トリグリセリド260mg/dL,HDLコレステロール41mg/dL,LDLコレステロール181mg/dL。体重の減量を目的とした食事指導を行った。 食事摂取基準に基づいた指導内容で適切なのはどれか。
- a.食塩相当量の摂取は15gとする。
- b.総摂取エネルギー量は4,500kcalとする。
- c.脂質の摂取は総摂取エネルギー量の20~30%とする。
- d.蛋白質の摂取は総摂取エネルギー量の5~10%とする。
- e.炭水化物の摂取は総摂取エネルギー量の30~40%とする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
日本人の食事摂取基準では、エネルギー産生栄養素バランスの目標量として蛋白質13〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%が示されています。脂質の上限は肥満や動脈硬化性疾患の予防、下限は必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの確保を目的としており、飽和脂肪酸は7%以下が目標です。食塩の目標量は成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満で、高血圧やCKDの重症化予防では6g/日未満とされます。推定エネルギー必要量は基礎代謝量×身体活動レベルで求め、肥満症の減量ではまず3〜6か月で3%以上の減量を目指し、目標体重×25kcal程度を目安にエネルギーを設定します。極端な制限ではなくバランスを整えるという考え方は、生活習慣病の予防と治療に共通する食事指導の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・40歳男性、デスクワーク中心で運動習慣なし → 身体活動量が少ない生活。 ・身長171cm、体重100kg → BMI=100÷(1.71×1.71)≒34.2kg/m²。日本肥満学会の判定で肥満(2度:30以上35未満)にあたる。 ・血圧146/94mmHg → 高血圧(診察室血圧140/90mmHg以上)。 ・尿糖1+、空腹時かどうかは不明だが血糖148mg/dL、HbA1c 6.7%(6.5%以上) → 糖尿病が強く疑われる。 ・トリグリセリド260mg/dL(150以上)、LDLコレステロール181mg/dL(140以上) → 脂質異常症。 ・尿酸8.9mg/dL(7.0超) → 高尿酸血症。 ・AST 75U/L、γ-GT 89U/Lの上昇(ALTは正常域でAST優位) → 飲酒歴の記載はないが、アルコール性肝障害や脂肪肝などの肝障害を考える。 ・尿蛋白1+、クレアチニン1.3mg/dL → 腎機能低下・腎障害が示唆される。高血圧、高血糖、高尿酸血症などが背景になりうる。
全体像
運動不足を背景とした肥満に、高血圧・糖尿病(疑い)・脂質異常症・高尿酸血症・肝障害・腎障害が重なっている。肥満に起因(または関連)する健康障害を伴うため、医学的に減量が必要な「肥満症」として扱う状態であり、内臓脂肪の蓄積を基盤とするメタボリックシンドロームの病態も考えられる。
設問の考え方
問われているのは「日本人の食事摂取基準」に示されている数値に沿った指導内容である。食事摂取基準は健康な人を中心に、生活習慣病の発症予防・重症化予防も視野に入れて策定されており、三大栄養素についてはエネルギー産生栄養素バランス(総エネルギーに占める割合の目標量)として、蛋白質13~20%、脂質20~30%、炭水化物50~65%が示されている。食塩は目標量として成人男性7.5g/日未満、高血圧やCKD(慢性腎臓病)の重症化予防では6g/日未満とされる。これらの数値と照合すれば、適切なのは脂質20~30%の選択肢のみである。
選択肢考察
- ×a. 食塩相当量の摂取は15gとする。
誤り。食事摂取基準での食塩相当量の目標量は、18歳以上の男性で7.5g/日未満(女性6.5g/日未満)である。さらに本例は高血圧があり、腎障害も示唆されるため、重症化予防の観点から6g/日未満を目指すのが妥当である。15g/日は日本人の平均摂取量(男性でおよそ10~11g/日)をも上回る過剰な量であり、血圧をさらに上昇させる。
- ×b. 総摂取エネルギー量は4,500kcalとする。
誤り。推定エネルギー必要量は基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベルで算出される。30~49歳男性で身体活動レベルが低い(デスクワーク中心、運動なし)場合の推定エネルギー必要量はおよそ2,300kcal/日で、身体活動レベルが「ふつう」としても2,700kcal/日程度である。4,500kcal/日はこれらを大きく超え、体重はむしろ増加する。減量目的であれば、目標とする体重(標準体重は1.71×1.71×22≒64kg)に25kcal程度を乗じた量を目安として、現在の摂取量より少ないエネルギー量を設定するのが一般的である。
- ○c. 脂質の摂取は総摂取エネルギー量の20~30%とする。
正しい。食事摂取基準のエネルギー産生栄養素バランスでは、1歳以上の脂質の目標量は総エネルギーの20~30%とされている。上限30%は、脂質過多による肥満・脂質異常症・動脈硬化性疾患の予防を目的としたもので、下限20%は必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの摂取を確保するために設定されている。さらに飽和脂肪酸は成人で7%以下が目標量とされ、LDLコレステロール高値の本例では飽和脂肪酸を控えることも重要である。減量中であっても極端に脂質を制限するのではなく、この範囲内に収めるよう指導する。
- ×d. 蛋白質の摂取は総摂取エネルギー量の5~10%とする。
誤り。蛋白質の目標量は総エネルギーの13~20%である(50~64歳では14~20%、65歳以上では15~20%と下限が引き上げられている)。5~10%では不足し、特に減量中にエネルギーを制限すると筋肉量が落ちやすくなるため、蛋白質は十分に確保する必要がある。なお、本例のように腎機能低下が進行した場合は、病期に応じて蛋白質制限を検討することがあるが、それは食事摂取基準ではなく腎疾患の治療指針に基づく判断である。
- ×e. 炭水化物の摂取は総摂取エネルギー量の30~40%とする。
誤り。炭水化物の目標量は総エネルギーの50~65%である。炭水化物(アルコールを含む)は蛋白質と脂質の残りを担う主たるエネルギー源と位置づけられている。30~40%では蛋白質と脂質の割合が相対的に過大になり、食事摂取基準の範囲から外れる。糖尿病がある場合も、炭水化物を極端に減らすのではなく、総エネルギー量を適正化し、食物繊維の多い食品を選ぶことが基本となる。
日本人の食事摂取基準の主な数値(成人)
・エネルギー産生栄養素バランス(目標量、総エネルギー比):蛋白質13~20%(50~64歳14~20%、65歳以上15~20%)、脂質20~30%(うち飽和脂肪酸7%以下)、炭水化物50~65%。 ・食塩相当量の目標量:男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満。高血圧・CKDの重症化予防では6g/日未満。 ・食物繊維の目標量:18~64歳男性で22g/日以上、女性で18g/日以上程度。 ・推定エネルギー必要量=基礎代謝量×身体活動レベル。身体活動レベルは低い(Ⅰ)・ふつう(Ⅱ)・高い(Ⅲ)の3区分で、成人ではそれぞれおよそ1.50、1.75、2.00である。 ・目標とするBMIの範囲:18~49歳18.5~24.9、50~64歳20.0~24.9、65歳以上21.5~24.9(kg/m²)。
肥満と肥満症
・BMI 25以上を肥満とし、25以上30未満を1度、30以上35未満を2度、35以上40未満を3度、40以上を4度とする。35以上は高度肥満と呼ぶ。 ・肥満に起因・関連する健康障害(耐糖能障害・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症・脂肪肝など)を合併するか、内臓脂肪型肥満がある場合、医学的に減量が必要な「肥満症」と診断する。 ・肥満症の減量目標は、まず3~6か月で現体重の3%以上(高度肥満症では5~10%)の減量を目指す。食事療法では、1日のエネルギー量の目安を「目標体重×25kcal以下」(高度肥満症では20~25kcal以下)とすることが多い。
特定健康診査
40~74歳を対象に、メタボリックシンドロームに着目して行われる健診である。腹囲・BMI、血圧、脂質、血糖などのリスクの数に応じて特定保健指導(動機付け支援・積極的支援)が行われる。
POINT
・食事摂取基準のエネルギー比:蛋白質13~20%、脂質20~30%、炭水化物50~65%。 ・食塩の目標量:男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満、高血圧・CKDでは6g/日未満。 ・推定エネルギー必要量=基礎代謝量×身体活動レベル。30~49歳男性・活動量低めで約2,300kcal/日。 ・BMI 25以上が肥満、健康障害を伴えば肥満症として減量の対象となる。
