StudyMed医師国家試験

S字カーブの「立ち上がり」を探せ―用量-反応曲線から読み解く1日摂取許容量

第116回医師国家試験 C問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第19問

毒性物質の負荷量と毒性が発現する確率を示した図を下に示す。  1日摂取許容量の計算に必要な負荷量はどれか。

第116回 C問題 第19問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、用量-反応曲線のどの点が1日摂取許容量(ADI)の計算に使われるかを問う公衆衛生の問題だ。ポイントは「ADIはどんな量を出発点にして決めるのか」を知っているかどうか。まずは図の曲線の形から確認しよう。
医学生医学生
横軸が負荷量で縦軸が毒性の出る確率、S字型のカーブですね。薬理学の講義で見たシグモイド曲線と同じ形だと思います。
ドクタードクター
その通り。用量を増やしていくと、最初はしばらく誰にも毒性が出ない区間が続き、ある量を超えたところで曲線が立ち上がる。そこから急に増えて、最後はほぼ全員に毒性が出る水準で頭打ちになる。この「立ち上がり」の点を閾値と呼ぶんだ。
医学生医学生
ADIって、安全な量を決める基準ですよね。それなら一番安全そうな、曲線の左端の少ない量を使うのかなと思いました。
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるよね。でも左端から立ち上がりの手前までは、どこをとっても毒性発現確率は0%で同じなんだ。左端の点は任意に選んだ量にすぎず、毒性学的な意味をもたない。基準にすべきなのは「毒性が出ない範囲の上限」、つまり立ち上がる直前の閾値の点なんだよ。
医学生医学生
ということは、正解は曲線が0%から上がり始める点ですね。これが無毒性量ということですか。
ドクタードクター
そう。動物試験で有害な影響が認められなかった最大の投与量を無毒性量、NOAELと呼ぶ。ADIはこの無毒性量を安全係数で割って求める。式にするとADI=無毒性量÷安全係数で、安全係数は通常100だ。
医学生医学生
100という数字はどこから来ているんでしょうか。CBTの勉強で覚えた気はするんですが、根拠があいまいです。
ドクタードクター
動物とヒトの種差で10倍、ヒトの中での感受性の個人差で10倍、掛け合わせて100という考え方だ。動物で安全だった量をそのままヒトに当てはめず、二重に余裕をもたせているわけだね。
医学生医学生
立ち上がりを少し越えた点はどうですか。まだ毒性が出る人はごくわずかなので、使えそうな気もします。
ドクタードクター
そこはすでに一部の個体で毒性が出ている量だから、ADIの出発点にはならない。ADIは「毒性がまったく観察されない量」から計算するのが原則だ。ちなみに有害な影響が認められた最小の量を最小毒性量、LOAELと呼ぶ。実務では無毒性量が得られないときにLOAELから追加の係数で評価することもあるけれど、この問題の図ではそういう指標として描かれているわけではないね。
医学生医学生
真ん中の、確率がちょうど50%の点はLD50ですよね。薬理の実習で出てきた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。致死を指標にすればLD50、毒性ならTD50、効果ならED50で、急性毒性の強さを比べるときの代表的な指標だ。ただ半数の個体に毒性が出る量だから、一生毎日摂っても安全な量を決めるADIには使わない。ほぼ100%に達する右端の点も同様に関係ないよ。
医学生医学生
整理すると、安全な摂取量の計算には「毒性が出ない最大量」、急性毒性の比較には「半数に出る量」を使う、という区別ですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここから発展知識をいくつか押さえよう。ADIは食品添加物や残留農薬のように意図的に使う物質に設定される。一方、ダイオキシン類や重金属のように意図せず混入する汚染物質には耐容1日摂取量、TDIが使われる。考え方はADIと同じで、無毒性量を不確実係数で割って求めるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、ダイオキシンの基準がTDIで示されていたのを思い出しました。では、閾値がない物質はどうなるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。遺伝毒性をもつ発がん物質は、理論上どんなに少量でもリスクがゼロにならない、つまり閾値がないと考えられている。そういう物質にはADIやTDIのような閾値に基づく基準を設けられないので、生涯の発がんリスクが例えば10万人に1人となる量、といった確率に基づく評価が行われるんだ。
医学生医学生
曲線に「立ち上がり」があるかどうかで、評価の方法そのものが変わるんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床の場でも、患者さんから食品添加物や農薬の安全性を聞かれることがある。基準値がどういう根拠で、どれだけの余裕をもって決められているのかを説明できると、根拠のある安心を伝えられるよ。

まとめ

1日摂取許容量(ADI)は、ヒトが毎日一生涯摂取しても健康への悪影響がないと推定される量で、動物試験で求めた無毒性量(NOAEL)を安全係数(通常100=種差10×個人差10)で割って算出します。用量-反応曲線では、毒性発現確率が0%から立ち上がる直前の閾値が無毒性量にあたり、これがADIの計算に必要な負荷量です。曲線の50%点はLD50・TD50・ED50で急性毒性の比較に用いる指標であり、ADIの算出には使いません。ADIは食品添加物や農薬など意図的に使う物質、TDIはダイオキシン類など非意図的な汚染物質に用いられ、閾値のない遺伝毒性発がん物質は生涯リスクに基づいて評価されます。用量-反応曲線の読み方と安全基準の成り立ちを理解することは、化学物質の健康リスクを根拠をもって説明する力につながります。

解答・解説

正解はbです

図の読み方

図は横軸に毒性物質の負荷量(用量)、縦軸に毒性が発現する確率(反応する個体の割合)をとった用量-反応曲線である。曲線はS字状(シグモイド曲線)を描き、次のように読み取れる。 ・①〜②:負荷量を増やしても毒性発現確率は0%のままである。 ・②:曲線が立ち上がり始める点、すなわち「これ以下では毒性が観察されない」境目(閾値)である。 ・③:すでに一部の個体で毒性が出始めている量である。 ・④:毒性発現確率がちょうど50%となる量である。 ・⑤:ほぼ全例(100%)で毒性が発現する量である。

1日摂取許容量の考え方

1日摂取許容量(ADI:acceptable daily intake)とは、食品添加物や残留農薬など意図的に使用される化学物質について、ヒトが毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日あたりの量(通常は体重1kgあたりのmg/日で表す)である。 ADIは、動物を用いた毒性試験で得られた無毒性量(NOAEL:no observed adverse effect level、有害な影響が認められなかった最大の投与量)を、安全係数(不確実係数)で割って求める。  ADI = 無毒性量 ÷ 安全係数(通常100) 安全係数100は、動物とヒトの種差(10倍)と、ヒトの中での個人差(感受性の違い、10倍)を掛け合わせたものである。 したがって、ADIの計算に必要なのは「毒性が現れない上限の量」、つまり用量-反応曲線が0%から立ち上がる直前の閾値である②となる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は曲線の左端にあたる非常に少ない負荷量で、毒性は誰にも発現しない。しかし、①〜②の間はどこでも毒性発現確率が0%であり、①という点自体は任意に選んだ量にすぎず、毒性学的な意味をもつ指標ではない。ADIは毒性が出ない範囲の「上限」を基準にするため、①は用いない。

  2. ○b.  ②

    ②は毒性発現確率が0%から上昇し始める直前の点で、これ以下の量では毒性が観察されない閾値、すなわち無毒性量(NOAEL)に相当する。ADIはこの無毒性量を安全係数(通常100=種差10×個人差10)で割って算出するので、ADIの計算に必要な負荷量は②である。

  3. ×c.  ③

    ③は閾値②を超えており、一部の個体ではすでに毒性が発現している量である。曲線上で特定の指標として定義される点ではなく、ADIの算出の基準にはならない。ADIは毒性が全く現れない量を出発点とするため、毒性が出始めている③は不適切である。

  4. ×d.  ④

    ④は毒性発現確率が50%となる量で、50%中毒量(TD50)や50%有効量(ED50)に相当する。致死を指標とすれば50%致死量(LD50)である。急性毒性の強さを比較する指標としては重要だが、半数の個体に毒性が出る量であり、ADIの計算には用いない。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は毒性発現確率がほぼ100%に達する量、すなわちほぼすべての個体に毒性が現れる量である。安全な摂取量を定めるADIの計算とは関係しない。

用量-反応曲線と主な指標

・用量-反応曲線:横軸に用量(対数でとることが多い)、縦軸に反応した個体の割合をとると、一般にシグモイド曲線となる。 ・閾値:これ以下の量では影響が現れない境目の量。多くの化学物質の一般毒性には閾値があると考えられている。 ・無毒性量(NOAEL):動物試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。有害か否かを問わず何の影響もみられない最大量を無影響量(NOEL:no observed effect level)とよぶ。 ・最小毒性量(LOAEL:lowest observed adverse effect level):有害な影響が認められた最小の用量。 ・50%有効量(ED50)、50%中毒量(TD50)、50%致死量(LD50):試験動物の半数に効果・毒性・死亡が生じる用量。

ADIと関連する指標

・ADI(1日摂取許容量):食品添加物・残留農薬など、意図的に使用される物質に対して設定される。ADI=NOAEL÷安全係数(通常100)。 ・TDI(耐容1日摂取量:tolerable daily intake):ダイオキシン類や重金属など、意図せず混入する汚染物質に対して設定される「一生涯摂取しても健康影響がないと推定される量」。考え方はADIと同様である。 ・安全係数100の内訳:種差(動物→ヒト)10倍×個人差(ヒトの感受性のばらつき)10倍。

閾値のない物質

遺伝毒性をもつ発がん物質などは、理論上どんなに少量でもリスクがゼロにならない(閾値がない)と考えられ、ADIやTDIのような閾値に基づく基準ではなく、生涯の発がんリスク(例:10万人に1人)に基づく評価が行われる。

POINT

・ADI(1日摂取許容量)=無毒性量(NOAEL)÷安全係数(通常100)。 ・安全係数100=種差10×個人差10。 ・用量-反応曲線で毒性が0%から立ち上がる直前の閾値が無毒性量である。 ・曲線の50%点はED50/TD50/LD50であり、ADIの計算には用いない。 ・ADIは意図的に使う物質(食品添加物・農薬)、TDIは非意図的な汚染物質に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。