S字カーブの「立ち上がり」を探せ―用量-反応曲線から読み解く1日摂取許容量
第116回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
毒性物質の負荷量と毒性が発現する確率を示した図を下に示す。 1日摂取許容量の計算に必要な負荷量はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1日摂取許容量(ADI)は、ヒトが毎日一生涯摂取しても健康への悪影響がないと推定される量で、動物試験で求めた無毒性量(NOAEL)を安全係数(通常100=種差10×個人差10)で割って算出します。用量-反応曲線では、毒性発現確率が0%から立ち上がる直前の閾値が無毒性量にあたり、これがADIの計算に必要な負荷量です。曲線の50%点はLD50・TD50・ED50で急性毒性の比較に用いる指標であり、ADIの算出には使いません。ADIは食品添加物や農薬など意図的に使う物質、TDIはダイオキシン類など非意図的な汚染物質に用いられ、閾値のない遺伝毒性発がん物質は生涯リスクに基づいて評価されます。用量-反応曲線の読み方と安全基準の成り立ちを理解することは、化学物質の健康リスクを根拠をもって説明する力につながります。
解答・解説
正解はbです
図の読み方
図は横軸に毒性物質の負荷量(用量)、縦軸に毒性が発現する確率(反応する個体の割合)をとった用量-反応曲線である。曲線はS字状(シグモイド曲線)を描き、次のように読み取れる。 ・①〜②:負荷量を増やしても毒性発現確率は0%のままである。 ・②:曲線が立ち上がり始める点、すなわち「これ以下では毒性が観察されない」境目(閾値)である。 ・③:すでに一部の個体で毒性が出始めている量である。 ・④:毒性発現確率がちょうど50%となる量である。 ・⑤:ほぼ全例(100%)で毒性が発現する量である。
1日摂取許容量の考え方
1日摂取許容量(ADI:acceptable daily intake)とは、食品添加物や残留農薬など意図的に使用される化学物質について、ヒトが毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日あたりの量(通常は体重1kgあたりのmg/日で表す)である。 ADIは、動物を用いた毒性試験で得られた無毒性量(NOAEL:no observed adverse effect level、有害な影響が認められなかった最大の投与量)を、安全係数(不確実係数)で割って求める。 ADI = 無毒性量 ÷ 安全係数(通常100) 安全係数100は、動物とヒトの種差(10倍)と、ヒトの中での個人差(感受性の違い、10倍)を掛け合わせたものである。 したがって、ADIの計算に必要なのは「毒性が現れない上限の量」、つまり用量-反応曲線が0%から立ち上がる直前の閾値である②となる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は曲線の左端にあたる非常に少ない負荷量で、毒性は誰にも発現しない。しかし、①〜②の間はどこでも毒性発現確率が0%であり、①という点自体は任意に選んだ量にすぎず、毒性学的な意味をもつ指標ではない。ADIは毒性が出ない範囲の「上限」を基準にするため、①は用いない。
- ○b. ②
②は毒性発現確率が0%から上昇し始める直前の点で、これ以下の量では毒性が観察されない閾値、すなわち無毒性量(NOAEL)に相当する。ADIはこの無毒性量を安全係数(通常100=種差10×個人差10)で割って算出するので、ADIの計算に必要な負荷量は②である。
- ×c. ③
③は閾値②を超えており、一部の個体ではすでに毒性が発現している量である。曲線上で特定の指標として定義される点ではなく、ADIの算出の基準にはならない。ADIは毒性が全く現れない量を出発点とするため、毒性が出始めている③は不適切である。
- ×d. ④
④は毒性発現確率が50%となる量で、50%中毒量(TD50)や50%有効量(ED50)に相当する。致死を指標とすれば50%致死量(LD50)である。急性毒性の強さを比較する指標としては重要だが、半数の個体に毒性が出る量であり、ADIの計算には用いない。
- ×e. ⑤
⑤は毒性発現確率がほぼ100%に達する量、すなわちほぼすべての個体に毒性が現れる量である。安全な摂取量を定めるADIの計算とは関係しない。
用量-反応曲線と主な指標
・用量-反応曲線:横軸に用量(対数でとることが多い)、縦軸に反応した個体の割合をとると、一般にシグモイド曲線となる。 ・閾値:これ以下の量では影響が現れない境目の量。多くの化学物質の一般毒性には閾値があると考えられている。 ・無毒性量(NOAEL):動物試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。有害か否かを問わず何の影響もみられない最大量を無影響量(NOEL:no observed effect level)とよぶ。 ・最小毒性量(LOAEL:lowest observed adverse effect level):有害な影響が認められた最小の用量。 ・50%有効量(ED50)、50%中毒量(TD50)、50%致死量(LD50):試験動物の半数に効果・毒性・死亡が生じる用量。
ADIと関連する指標
・ADI(1日摂取許容量):食品添加物・残留農薬など、意図的に使用される物質に対して設定される。ADI=NOAEL÷安全係数(通常100)。 ・TDI(耐容1日摂取量:tolerable daily intake):ダイオキシン類や重金属など、意図せず混入する汚染物質に対して設定される「一生涯摂取しても健康影響がないと推定される量」。考え方はADIと同様である。 ・安全係数100の内訳:種差(動物→ヒト)10倍×個人差(ヒトの感受性のばらつき)10倍。
閾値のない物質
遺伝毒性をもつ発がん物質などは、理論上どんなに少量でもリスクがゼロにならない(閾値がない)と考えられ、ADIやTDIのような閾値に基づく基準ではなく、生涯の発がんリスク(例:10万人に1人)に基づく評価が行われる。
POINT
・ADI(1日摂取許容量)=無毒性量(NOAEL)÷安全係数(通常100)。 ・安全係数100=種差10×個人差10。 ・用量-反応曲線で毒性が0%から立ち上がる直前の閾値が無毒性量である。 ・曲線の50%点はED50/TD50/LD50であり、ADIの計算には用いない。 ・ADIは意図的に使う物質(食品添加物・農薬)、TDIは非意図的な汚染物質に用いる。
