3回続いた心拍消失―習慣流産の検査は「妊娠前にできること」で選ぶ
第119回医師国家試験 F問題 第37問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。挙児希望のため来院した。これまでに3回の妊娠歴があるが,いずれも胎児心拍確認後,妊娠6週,8週,7週で心拍が消失し流産した。不正性器出血はない。初経は13歳,月経周期28日型,整,持続5日間。内診で子宮は正常大で付属器を触知しない。 次回妊娠に向けた検査で適切でないのはどれか。
- a.甲状腺機能検査
- b.子宮頸管長測定
- c.子宮卵管造影検査
- d.抗リン脂質抗体測定
- e.カップルの染色体検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠は成立するのに流産・死産を繰り返す状態を不育症といい、連続3回以上の流産は習慣流産と呼ばれます。妊娠前に評価すべき代表的なリスク因子は、抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常(子宮卵管造影・超音波・MRI)、甲状腺機能異常などの内分泌異常、夫婦の均衡型転座などの染色体構造異常です。一方、子宮頸管長測定は妊娠中に頸管無力症や早産リスクを評価する検査であり、非妊娠時には意味がなく、妊娠初期の心拍消失による流産とも病態が異なります。系統的に調べても半数以上は原因不明ですが、次回妊娠の予後は比較的良好とされ、遺伝カウンセリングや心理的支援も重要です。流産の時期と検査を行う時期の両面から考える姿勢は、周産期医療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・35歳の女性、挙児希望:次の妊娠を考えて相談に来ている。 ・3回の妊娠歴があり、いずれも胎児心拍を確認した後、妊娠6週・8週・7週で心拍が消失して流産した:妊娠は成立しており妊孕性(妊娠する能力)には問題がない。一方、妊娠12週未満の早期流産を3回連続して起こしている。 ・不正性器出血なし、月経周期28日型で整、持続5日間:月経異常や排卵障害を疑わせる所見はない。 ・内診で子宮は正常大、付属器を触知しない:子宮筋腫や卵巣腫瘍などの明らかな腫瘤性病変はない。ただし、内診だけでは中隔子宮などの子宮奇形は否定できない。
診断に至るプロセス
妊娠は成立するものの流産・死産を繰り返して生児を得られない状態を不育症という。日本では流産・死産が2回以上あれば不育症として扱い、連続2回以上の流産を反復流産、連続3回以上の流産を習慣流産と呼ぶ。本症例は早期流産を3回繰り返しているので習慣流産であり、不育症の原因検索(リスク因子の評価)を妊娠前に行う必要がある。
設問の考え方
不育症のリスク因子として、子宮形態異常、内分泌異常(甲状腺機能異常、糖尿病など)、抗リン脂質抗体症候群、夫婦(カップル)の染色体構造異常、凝固異常などが知られており、これらは非妊娠時に評価できる。一方、子宮頸管長の測定は頸管無力症の評価として妊娠中、主に妊娠中期に行うもので、妊娠前に測定しても意味がない。また頸管無力症は主に妊娠中期の流産・早産の原因であり、本症例のような妊娠初期(胎児心拍消失による)流産とは病態が異なる。したがって「次回妊娠に向けた検査」として適切でないのは子宮頸管長測定である。
選択肢考察
- ×a. 甲状腺機能検査
甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症は流産リスクを高める内分泌異常であり、不育症の標準的な一次検査として甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離サイロキシン(FT4)を測定する。異常があれば妊娠前から治療・調整を行うことができるため、次回妊娠に向けた検査として適切である。
- ○b. 子宮頸管長測定
子宮頸管長は、妊娠中に経腟超音波で測定し、頸管無力症や切迫早産の評価・早産リスクの予測に用いる指標である。頸管が短縮していくという変化は妊娠に伴って生じるものであり、非妊娠時に測っても将来の頸管無力症を予測できない。また頸管無力症は、陣痛を伴わずに子宮口が開大して起こる妊娠中期の流産・早産の原因であり、本症例のように妊娠6〜8週に胎児心拍が消失する早期流産の原因とはならない。したがって次回妊娠に向けた検査として適切でない。
- ×c. 子宮卵管造影検査
中隔子宮、双角子宮などの子宮形態異常は不育症のリスク因子であり、特に中隔子宮は流産との関連が強い。子宮卵管造影検査(hysterosalpingography:HSG)は子宮内腔の形状を評価でき、経腟超音波(3D超音波を含む)やソノヒステログラフィー、MRIとともに子宮形態異常のスクリーニングに用いられる。内診で正常大でも内腔の形態異常は否定できないため、適切な検査である。
- ×d. 抗リン脂質抗体測定
抗リン脂質抗体症候群は、胎盤の血栓形成などを介して流産・死産を繰り返す代表的な自己免疫疾患である。妊娠10週未満の原因不明の流産を3回以上連続して起こすことは、その臨床基準の一つに含まれる。ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体を測定し、陽性なら12週以上の間隔をあけて再検査して持続陽性を確認する。診断されれば次回妊娠時に低用量アスピリンとヘパリンによる治療が考慮されるため、妊娠前に行う意義が大きい。
- ×e. カップルの染色体検査
夫婦のどちらかが均衡型転座(相互転座やRobertson転座)などの染色体構造異常の保因者であると、本人は健康でも胎児に不均衡型の染色体異常が生じやすく、流産を繰り返す原因となる。そのため不育症の一次検査として夫婦双方の染色体検査が推奨される。結果の解釈や次回妊娠の選択肢(自然妊娠、着床前遺伝学的検査など)について、遺伝カウンセリングを併せて行う必要がある。
用語の整理
・流産:妊娠22週未満の妊娠中絶。妊娠12週未満を早期流産、12週以降22週未満を後期流産という。 ・不育症:妊娠は成立するが流産・死産を繰り返し生児が得られない状態。日本では流産・死産が2回以上で不育症として検査の対象とする。 ・反復流産:連続2回以上の流産。習慣流産:連続3回以上の流産。
不育症のリスク因子と主な検査
・子宮形態異常:経腟超音波(3D超音波を含む)、ソノヒステログラフィー、子宮卵管造影、MRI ・内分泌異常:甲状腺機能(TSH、FT4)、糖代謝(血糖、HbA1c) ・抗リン脂質抗体:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体 ・夫婦の染色体異常:夫婦双方の染色体検査(G分染法) ・凝固因子異常:プロテインS・プロテインC・第XII因子などは、施設によって選択的に検査される ・その他:流産した絨毛・胎児組織の染色体検査は、その流産が胎児の染色体の数の異常(偶発的な異常で、早期流産の原因として最も多い)によるものかを判断する助けとなる。 系統的に検査しても半数以上はリスク因子が見つからない(原因不明)とされるが、そのような場合でも、適切な支持的ケアのもとで次回妊娠の生児獲得率は比較的高い。
頸管無力症との違い
頸管無力症は、子宮収縮を伴わずに頸管が短縮・開大し、妊娠中期の流産や早産を繰り返す病態である。診断・評価は妊娠中の経腟超音波による頸管長測定や内診所見で行い、既往がある場合は予防的頸管縫縮術(Shirodkar法、McDonald法)が検討される。本症例のような妊娠初期の胎児心拍消失による流産とは区別して考える。
POINT
・不育症:流産・死産2回以上。反復流産=連続2回以上、習慣流産=連続3回以上。 ・不育症の妊娠前の一次検査:子宮形態(超音波、子宮卵管造影、MRIなど)、甲状腺機能、糖代謝、抗リン脂質抗体、夫婦の染色体。 ・子宮頸管長測定は妊娠中に頸管無力症・早産リスクを評価する検査であり、妊娠前の不育症検査には含まれない。 ・頸管無力症は妊娠中期の流早産の原因で、初期流産の原因ではない。
