4つの原則と1つの「やり方」―医療倫理の4原則と共同意思決定を区別する
第119回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
医療倫理の4原則に含まれないのはどれか。
- a.正義
- b.善行
- c.無危害
- d.自律尊重
- e.共同意思決定
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療倫理の4原則は、ビーチャムとチルドレスが1979年に提唱した自律尊重・無危害・善行・正義の4つで、善行は与益、正義は公正とも訳されます。共同意思決定(SDM)は、医療者と患者がエビデンスと価値観を共有して一緒に方針を決めるプロセスであり、4原則を実践するための方法であって原則そのものではありません。4原則には優先順位がなく、自律尊重と善行がぶつかるパターナリズムの問題や、善行と正義が対立する資源配分の問題など、事例ごとに比較衡量が求められます。臨床倫理の4分割表で情報を整理し、共同意思決定やアドバンス・ケア・プランニングで対話を進めるという流れを理解しておくと、倫理的に難しい場面でも筋道立てて判断できるようになります。
解答・解説
正解はeです
医療倫理の4原則は、米国の生命倫理学者ビーチャム(T. L. Beauchamp)とチルドレス(J. F. Childress)が1979年の著書『生物医学倫理の諸原則(Principles of Biomedical Ethics)』で提唱した枠組みである。臨床現場で倫理的に判断が難しい場面(治療の差し控え、患者の意向と医学的判断の対立、限られた資源の配分など)を整理するための共通の物差しとして、世界中で広く用いられている。 4原則は次のとおりである。 ・自律尊重(respect for autonomy): 判断能力のある患者の自己決定を尊重する。 ・無危害(non-maleficence): 患者に害を与えない、害を避ける。 ・善行(beneficence、与益とも訳される): 患者の利益のために最善を尽くす。 ・正義(justice、公正とも訳される): 利益と負担を公平に配分し、患者を平等に扱う。 選択肢のうち、正義・善行・無危害・自律尊重の4つはそのまま4原則であり、残る「共同意思決定」は、4原則(特に自律尊重と善行)を実践するための意思決定の方法・プロセスであって、原則そのものではない。この「原則」と「実践の手法」を区別できるかが本問のポイントである。
選択肢考察
- ×a. 正義
4原則の一つである。正義(justice)の原則は、医療上の利益と負担を公平・公正に配分することを求める。同じ状態の患者には同じ対応をし、社会的地位や経済力などで不当に差をつけないこと、また臓器移植の配分、集中治療室の病床、災害時のトリアージなど限られた医療資源をどう公平に分けるかといった問題がこの原則に関わる。
- ×b. 善行
4原則の一つである。善行(beneficence)の原則は、患者にとっての利益を最大化するよう積極的に行動することを求める。病気の治療、苦痛の緩和、予防などがこれにあたる。ただし、医師が患者のためと考えて患者の意思を無視して決めてしまうと、パターナリズム(父権主義)に陥り自律尊重の原則と衝突することがあるため、両者のバランスが重要になる。
- ×c. 無危害
4原則の一つである。無危害(non-maleficence)の原則は、患者に害を及ぼさない、あるいは害のリスクを避けることを求める。古くはヒポクラテスの「何よりもまず害をなすなかれ(first, do no harm)」に通じる考え方である。治療には必ず副作用や合併症のリスクがあるため、実際には善行の原則と合わせて、利益が害を上回るかどうかを比較衡量して判断する。
- ×d. 自律尊重
4原則の一つである。自律尊重(respect for autonomy)の原則は、判断能力のある患者が、十分な情報を得たうえで自分の価値観に基づいて行う決定を尊重することを求める。インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)、守秘義務、真実告知などはこの原則を具体化したものである。判断能力が低下した患者では、事前指示や推定意思、代理意思決定者の判断などを用いて本人の意思をできる限り尊重する。
- ○e. 共同意思決定
4原則には含まれず、これが正解である。共同意思決定(shared decision making:SDM)とは、医療者が医学的なエビデンスや選択肢ごとの利益・不利益を提示し、患者が自分の価値観や生活上の希望を伝え、両者が情報を共有しながら話し合って治療方針を一緒に決めていくプロセスである。医師がすべてを決めるパターナリズムでも、情報だけ渡して患者にすべて委ねる方法でもない中間的なモデルとして、近年重視されている。医療において求められる姿勢であることは確かだが、4原則(1979年提唱)を臨床で実践するための方法論であり、原則そのものではない。
4原則の対立と調整
4原則には優先順位が決められておらず、実際の場面ではしばしば原則同士が対立する。例えば、輸血を拒否する患者の意思(自律尊重)と救命のための輸血(善行)の対立や、高額な治療を一人の患者に行うか(善行)と社会全体での資源の公平な配分(正義)の対立などである。個々の事例で各原則の重みを比べ、最善の解決を探ることが求められる。
臨床倫理の4分割表(Jonsenら)
臨床の倫理的問題を、(1)医学的適応、(2)患者の意向、(3)QOL(生活の質)、(4)周囲の状況(家族・経済・法律・資源など)の4項目に分けて情報を整理する方法である。4原則と並んで臨床倫理の検討によく用いられる。
関連する概念
・インフォームド・コンセント: 十分な説明を受け理解したうえでの患者の同意。自律尊重の具体化。 ・共同意思決定(SDM): 医療者と患者が情報と価値観を共有し、一緒に方針を決めるプロセス。 ・アドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」): 将来の医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと前もって繰り返し話し合うプロセス。 ・パターナリズム: 医療者が患者の利益を理由に、本人の意思に反して、あるいは本人の意思を確かめずに決定すること。
POINT
・医療倫理の4原則(Beauchamp & Childress、1979年): 自律尊重、無危害、善行、正義。 ・善行は「与益」、正義は「公正」と訳されることもある。 ・共同意思決定(SDM)、インフォームド・コンセント、ACPなどは原則を実践するための方法・プロセスであり、4原則そのものではない。 ・4原則は互いに対立しうるため、事例ごとに比較衡量して判断する。
