「病歴」だけが特別扱い―要配慮個人情報の線引きを法律の言葉で読み解く
第119回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
不当な差別,偏見その他の不利益が生じないように,その取扱いに特に配慮を要する個人情報はどれか。
- a.学歴
- b.国籍
- c.病歴
- d.肌の色
- e.職業的地位
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
「不当な差別,偏見その他の不利益が生じないように特に配慮を要する個人情報」とは、個人情報保護法の要配慮個人情報を指し、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実が法律で列挙され、障害の有無や健診結果、診療・調剤を受けた事実などが政令で追加されています。選択肢のうち該当するのは病歴のみで、肌の色は人種を推知させるにすぎず、国籍は法的地位、学歴や職業的地位は固着した社会的身分ではないため、ガイドライン上いずれも含まれません。要配慮個人情報は取得に原則本人同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供ができず、漏えい時には件数を問わず報告・通知が求められます。医療機関が扱う情報の多くはこれに該当するため、定義の線引きと取扱いのルールを正確に理解しておくことは、医療者としての信頼を守る基本になります。
解答・解説
正解はcです
設問の「不当な差別,偏見その他の不利益が生じないように,その取扱いに特に配慮を要する個人情報」とは、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第2条第3項で定められた「要配慮個人情報」のことである。 法律は要配慮個人情報として、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実を挙げ、さらに政令で、心身の機能の障害があること、健康診断などの結果、医師などによる指導・診療・調剤が行われたこと、刑事事件や少年保護事件の手続が行われたこと、などを追加している。これらは、知られることで差別や偏見を招くおそれが特に大きい情報として、通常の個人情報より厳しく扱われる。 本問の選択肢はいずれも差別につながりうる属性ではあるが、法律上の「要配慮個人情報」に該当するかどうかは、法令やガイドライン(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)の定義で判断する。選択肢のうちこの定義に直接含まれるのは「病歴」だけである。学歴・国籍・肌の色・職業的地位は、紛らわしいが、ガイドラインで要配慮個人情報(人種・社会的身分)には含まれないと明示されている点が出題の狙いである。
選択肢考察
- ×a. 学歴
要配慮個人情報には該当しない。要配慮個人情報に含まれる「社会的身分」とは、ある個人に境遇として固着していて、一生の間、自分の力で容易には抜け出せない地位(例: 被差別部落の出身であることなど)を意味する。ガイドラインでは、単なる学歴や職業的地位はこの社会的身分に含まれないとされている。学歴は通常の個人情報として適切に管理すべきだが、特別な取扱いが法的に義務づけられる情報ではない。
- ×b. 国籍
要配慮個人情報には該当しない。要配慮個人情報の「人種」は、人種・世系(家系)・民族的または種族的出身を広く指すが、ガイドラインでは、単純な国籍や「外国人である」という情報は法的地位にすぎず、それだけでは人種に含まれないとされている。国籍を理由とした差別があってはならないのは当然だが、法律上の分類としては通常の個人情報である。
- ○c. 病歴
病歴は個人情報保護法第2条第3項に明記された要配慮個人情報であり、正解である。病歴とは、病気にかかった経歴を指し、特定の病気(例: がん、精神疾患、HIV感染症などの感染症)に罹患した経歴がこれにあたる。病気の情報は就職・保険加入・人間関係などで偏見や不当な扱いを招きやすく、実際にハンセン病やHIV感染症の患者に対する深刻な差別の歴史もある。医療機関は日常的に病歴や診療情報を扱うため、要配慮個人情報は原則として本人の同意なしに取得してはならないこと、オプトアウト方式(本人が拒否しない限り提供できる方式)による第三者提供が認められないことなど、通常より厳しい規律を理解しておく必要がある。
- ×d. 肌の色
要配慮個人情報には該当しない。ガイドラインでは、肌の色は人種を推知させる(推測させる)情報にすぎないため、「人種」には含まれないとされている。人種そのものは要配慮個人情報であるが、肌の色という外見上の情報は直接これにあたらない、という区別が問われている。もちろん肌の色による差別は許されず、医療現場でも配慮は必要である。
- ×e. 職業的地位
要配慮個人情報には該当しない。aと同様に、要配慮個人情報の「社会的身分」は本人の努力では容易に変えられない固着した地位を意味し、職業的地位(役職や職種など)は転職や昇進などで変わりうるため、社会的身分には含まれないとされている。
要配慮個人情報(個人情報保護法第2条第3項・施行令)
法律に列挙されたもの: 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実。 政令で定めるもの: ・身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)などの心身の機能の障害があること ・健康診断その他の検査の結果 ・健康診断などの結果に基づき、または疾病・負傷その他の心身の変化を理由として、医師などにより指導・診療・調剤が行われたこと ・本人を被疑者または被告人として刑事事件に関する手続が行われたこと ・本人を少年またはその疑いのある者として少年の保護事件に関する手続が行われたこと (ほかにゲノム情報なども含まれる)
含まれないとされる紛らわしい情報(ガイドライン)
・国籍、「外国人」という情報: 法的地位であり人種に含まれない。 ・肌の色: 人種を推知させる情報にすぎず人種に含まれない。 ・学歴、職業的地位: 社会的身分に含まれない。 ・宗教に関する書籍の購買履歴など: 信条を推知させるにすぎず含まれない。
要配慮個人情報の取扱いのルール
・取得には原則として本人の同意が必要(法令に基づく場合、人の生命・身体・財産の保護に必要で同意取得が困難な場合、公衆衛生の向上に特に必要な場合などは例外)。 ・オプトアウト方式による第三者提供は禁止。 ・漏えいなどが発生した場合は、件数にかかわらず個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要。
医療機関と個人情報
医療機関が扱う診療録、検査結果、処方内容などの多くは要配慮個人情報にあたる。院内掲示などで利用目的を示しておけば、通常の診療のための利用や、他院への紹介などは黙示の同意があるものとして扱える場合がある。
POINT
・「不当な差別,偏見その他の不利益が生じないように特に配慮を要する個人情報」= 要配慮個人情報(個人情報保護法)。 ・法律で列挙: 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実。政令で障害、健診結果、診療・調剤を受けた事実などを追加。 ・国籍・肌の色・学歴・職業的地位は要配慮個人情報に含まれない(ガイドラインで明示)。 ・要配慮個人情報は取得に原則本人同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供はできない。
